広瀬正のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
早世の天才広瀬正の名作時間SF。戦前と戦後、昭和の日本を舞台にしてタイムマシンに翻弄される主人公を描いた作品。1965年から連載され、初刊行が1970年。昭和前半年代の日本が描かれたりということでノスタルジックな雰囲気ではあるけれど古臭さはまったくない。そして起こる事態は深刻なはずなのに主人公をはじめとする登場人物たちの軽妙さもあってシリアスになり過ぎずに入り組んだ「時間」の構造をあれこれ考えながら楽しんで読み進めることができる(表紙絵の和田誠のイラストも雰囲気にばっちりあってる)。徐々に全体像の想像がついてくる頃にはもう完全に物語に引き込まれていて終盤は夢中で読み進めていた。とても楽しい読書
-
Posted by ブクログ
久しぶりにSFの面白い本に出会えた感がある。時代はこの物語でいう過去も未来も自分が生まれていない時代ではあるのだけれど、なぜだかノスタルジーに駆られてページを捲る手が止まらなかった。
巻末の星新一が昭和52年に書いたという解説があってそれによれば、この著者はその時点では既に亡くなられたようで、つまりはもっと読みたくてもそれが叶わなそうなのが残念だ。
自分が星新一に夢中になったのはこの52年の3,4年後だったから、リアルで知っていたとしても読めなかったのかもなのだけれど、本当にタイムマシンでもあれば、読める時代に遡ってみたかったなと。
もっとも、そんなことよりももっとやりたいことがあるだろうけど -
Posted by ブクログ
予測できそうでできない少しできる……ような………という、言うなれば真相の気配が輪郭を帯びないまま漂い続ける。それはレイコが"あの日"の前日に孔雀の本に書き走ったメモに具体化されるひっかかりとして私たちの脳内における。
なーんとなくうまいこと納得しちゃいそうだなぁという予感を捨て(きれ)ないままに読み進めていくと、最終章にて怒涛の──本当に怒涛の真相解明がある。それは私たちの納得の予感を裏切るわけではなく、むしろ過剰、ほとんどイビツというか、「マジで言ってんの?ヤバ!」と語彙がギャル化してしまうような世界の不思議な話。ほとんどメビウスの輪だ。マジで言ってんの?ヤバである。 -
Posted by ブクログ
タイムスリップ物。もう、タイムパラドックスしまくり。けど、細かなことはどうでもいいです。とても劇的に、情緒たっぷりに、ロマンチックに物語は展開します。
この小説のメインは昭和7年の、戦前の平和な風景です。とても詳細にリアルに描かれており、まさにタイムスリップした気分で没入するように読みました。当時の状況を知る貴重な史料とも言えるのではと考えます。
マイナスゼロ地点である昭和37年の状況ですら読み手の現代から見たら過去になるわけで、色々な年代の錯覚にめまいを起こしそうです。
未来から来たタイムマシンの設定が10進数ではない故、それを使う登場人物達を誤った年代に飛ばすアイディアも秀逸。意外だったの -
Posted by ブクログ
小さな鏡の中を覗き込むと、そこに広い世界が広がっているのが見えるけれど、鏡の中に世界なんかあるわけがないのだ。いったいいつ頃から「鏡の中の世界」についてのお話があったのか知らないが、当然、キャロルの『鏡の国のアリス』を挙げねばなるまい。しかしこれは広瀬正の『鏡の国のアリス』である。
『ミラーマン』は鏡の国からやってきたのだが、あまり不自由なくこっちの暮らしをしていたようだし、『仮面ライダー龍騎』では、鏡の世界にはいって戦うのだけど、鏡の世界にはいったからといって、左右が違って苦労するということはないようだった。
本書『鏡の国のアリス』の主人公は本来左利きなのにむりやり右利きに直して苦労し -
Posted by ブクログ
「死ね、死ね」という声が聞こえるという精神病患者が、神奈川県C市の病院に入っていくところから説き起こし、視点を精神科医・秋葉に移していくあたり、非常に映画的というか、見事な導入。そして象徴的でもある。聞こえるとか聞こえないとかがテーマの小説なのだから。
秋葉のかつての患者の娘がツィス、嬰ハ音あるいは♯ドの音が小さく持続的に聞こえていると彼に相談し、さあ話はもう止まらない。音に敏感そうな精神病の入院患者に訊くと彼らも聞こえるというので、音響学の専門家・日比野教授に相談。ツィス音測定器が製作され、C市での測定が始まる。話を聞きつけてやってくる新聞社。小さな記事。調査に動く市役所。テレビの取材 -
Posted by ブクログ
ネタバレ鮮やかだ。ジグソーパズルのピースが一枚一枚あわさっていって、そして最後の一枚がパチリと音を立ててはまる瞬間の、あの鮮かさだ。ラストが近付くにつれて震えが止まらなくなり、読み終わったときにはしばし茫然とした。
タイム・マシンに憑りつかれ、夭折した広瀬正の代表作。全体を貫くテーマは、「存在の環のパラドクス」だが、アイデア一発ではなく、的確な肉付けによって血が通い、活き活きと躍動する一遍の小説に仕上がっている。とくに戦後間もない銀座の描写は、解説の星新一ならずとも、感銘を受けるところだろう。そして、ずっと暗示されていた大きな環(ネタバレするので、詳細略)の存在が示されたとき、すべてのピースがおさま -
Posted by ブクログ
長編タイムトラベルものの楽しさは、タイムパラドックスをいかにしてうまく丸め込んで最後にパズルのピースをぴったりあわせるか、だと思う。「マイナス・ゼロ」も順調にパズルのピースが埋まっていくのがまさに快感。だがしかし先の見え透いた予定調和ではなく、予想外の事柄も起こりつつきっちり落ち着くところにまとまるのには参ったというしかない。特に終盤の展開は、まさかの連続。矛盾がないといえば嘘になるが、そんな重箱の隅をほじくるのが野暮に思えるほど全体構成の完成度が高い。
タイムマシンが跳んだ昭和初期を舞台に戦前日本の人々の暮らしが蘇って、昭和をあまり知らない私にとっては、二重の意味でタイムトラベルしたみた