【感想・ネタバレ】ツィス(広瀬正小説全集2)のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2016年02月05日

 「死ね、死ね」という声が聞こえるという精神病患者が、神奈川県C市の病院に入っていくところから説き起こし、視点を精神科医・秋葉に移していくあたり、非常に映画的というか、見事な導入。そして象徴的でもある。聞こえるとか聞こえないとかがテーマの小説なのだから。

 秋葉のかつての患者の娘がツィス、嬰ハ音あ...続きを読むるいは♯ドの音が小さく持続的に聞こえていると彼に相談し、さあ話はもう止まらない。音に敏感そうな精神病の入院患者に訊くと彼らも聞こえるというので、音響学の専門家・日比野教授に相談。ツィス音測定器が製作され、C市での測定が始まる。話を聞きつけてやってくる新聞社。小さな記事。調査に動く市役所。テレビの取材。そして徐々に大きくなって首都圏を巻き込んでいくツィス音。

 『ツィス』が発表されたのは1971年。『ゴジラ対ヘドラ』公開の年、社会的に公害がクローズアップされていた。『ツィス』で猛威を振るうのはヘドロでも怪獣でもなく、音である。ミュージシャンでもあった広瀬正ならではというべきか、主役はある意味でツィス音なのである。中盤では、“耳が不自由”とか“聴力を失った”という遠回しな表現が大嫌いな、つんぼの絵描き・榊が主人公格になるのだが、ツィス音の増大で都民は耳栓なく生活できなくなり、にわかつんぼの中で榊は健常者になってしまう。聞こえるとか聞こえないとかどうでもよくなってしまうのだ。「パニック小説」と謳われているが、実はツィス音によってパニックは生じず、人々は耳栓をして整然と行動する。しかしながら、「パニック小説」のフォーマットを用いていることも確か。他方、ツィス音の猛威の中、そんな音は聞こえないと言い張るおかしな人たちもおり、やはり話は聞こえるとか聞こえないとかいう点を巡る。

 ツィス音がどのような顛末をたどるかはネタバレに属するので伏せるが、純音公害という一つのアイディアをもとに論理的にストーリーを組み立てていくいかにもSFらしい小説ながら、人物描写に下町人情話的な肌合いが残るのがまたいい。この本もまたほとんど一気に読んでしまった。

0

Posted by ブクログ 2011年08月15日

大好きな広瀬正、中でも一番好きなのがこの「ツィス」。

「どうなるの?」とドキドキしながら読み進め、最後の落ちにまんまとやられました。

この時代にこの内容を書いた先見性に脱帽。

0

Posted by ブクログ 2010年12月19日

理系の方にはおすすめしたい本。

ジャンルとしては「SF・パニック小説」となるんだろうけれど、非常によくできた思考実験のよう。

「日本中でツィス(C#)が聴こえる」

という条件の下に起こりえる状況を非常に細かい所まで考えている。

他の人のレビューを見てみるとオチにがっかり、という人が多い気がし...続きを読むますが、個人的には「なるほど」と思いました。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2015年08月06日

東京近郊で聴こえだした謎の音、ツィス。次第に音は大きくなり、首都圏での平穏な日常は脅かされていく。
パニック小説だけど、「マイナスゼロ」「エロス」と同じように日常がリアルに描かれているので、ハラハラするというよりは淡々と、でもユーモアを織り交ぜながら話は展開する。
エンディングには唸らされます。さす...続きを読むが。
この三部作、手元に置いておきたい。

解説が司馬遼太郎というのも嬉しい。おもしろかった!

0

Posted by ブクログ 2012年01月18日

東京近郊の海辺の町で発生した謎の騒音公害。ツィス音=二点嬰ハ音が絶え間なく、至るところで聴こえるというのだ。この不快な音は徐々に拡大してゆき、やがて……。
謎の騒音が人間や社会に及ぼす影響が事細かに描写されるパニック小説の傑作。豊富な情報と緻密なディティールを基にした精緻なシミュレーションに圧倒され...続きを読むる。ラストの一捻りが示す社会批判も素晴らしい。

0

Posted by ブクログ 2011年11月11日

集団パニック物。とはいってもハリウッド映画のようなスペクタクルな展開はない。現実の日本にこんなことが起きたらこんな風に淡々と事が運ぶんだろうなと、3・11以降のネットを見て感じた。映像化するとしたらモチーフを「音」から「におい」に変えるといいと思う。

0

Posted by ブクログ 2011年11月02日

ラストがやはり秀逸。
ツィス音のレベル1が、「一部の非常に耳のいい人だけに聞こえる。」
としているのに、表現の妙があるなと思った。

「目に見えないもの」への集団心理なんて、30年経ってもあまり変わって
ないように感じる。情報の取捨選択をしっかりできるようになりたい。

0

Posted by ブクログ 2010年01月24日

音が聞こえる。それからはじまるパニック小説。
そして、やっぱり、「マイナス・ゼロ」と同じく、地味だ。

以下、ネタバレありです。

0

Posted by ブクログ 2011年07月18日

広瀬正のツィスを読みなおしました。この本は昔読んで面白いと思った本だったので、文庫が再販されたこともあり、読み直しました。ある女性から奇妙な音が聞こえるという申告があり、それがだんだんエスカレートして首都圏に大打撃を与えてしまうという物語でした。物語としては、読みやすく面白く読みました。SFなので、...続きを読むちょっと無理な設定があっても仕方がないのですが、読み直してみると現実的にこの設定でこの状況は発生しないだろう、と考えてしまいます。しかし、インターネットで常時情報過多になりつつある現在では、別の意味でこのような事態が起きる可能性もあるなあ、と振り返って考えてしまいました。

0

Posted by ブクログ 2019年01月12日

SFとしてはなぜか解説している司馬遼せんせのおっしゃるように
奇妙な味わいある作品だが
ミステリとして書かれている構成と描写に違和感ありまくりな
気持ち悪い作品
神奈川県民の扱いが適当過ぎでは
耳が聞こえなくても自分の口笛が聴こえないということはない

0

Posted by ブクログ 2017年08月28日

年齢とともに可聴域が狭まるために聞こえづらい「モスキート音」というものがあるのを何年か前に知りましたが、それよりもずっと前にこのような作品が書かれていたことに驚き、SF作家の想像力にまたもやうっとりするわけでした。

0

Posted by ブクログ 2012年04月24日

耳鳴りのような音がずっと聞こえる、だんだん音が大きくなってみんなに聞こえて…
最終的にはちょっと疑問を持たせる終わり方。映画みたい。

0

Posted by ブクログ 2011年07月17日

読んでる途中結末はどう迎えるんだ?と不安に思ってしまったが、まんまと騙されました。豊富な知識と情報量、緻密な構成が成せる技ですね。ツィス音が神奈川県C市(湘南の某市のことでしょうか?)から東京都へと騒音被害が拡大していくパニック小説。所々昭和を感じさせる演出もいいですね。T型フォードの実物は見たこと...続きを読むないな~。ツィス音が題材として扱われたが、振り返ってみるとメディアを通しては数多くこのような現象が起きていましたね。

0

Posted by ブクログ 2011年06月11日

こんなこと起きたらどうしよう。
簡単に騙される側に居る自分が容易く想像出来るんだが…。
集団疎開ってどうなのかな。難しそう。
簡単には移動出来ない財産持ってる人っているし。

0

Posted by ブクログ 2010年01月22日

神奈川県のある市で聞こえ出した小さな音。ドイツ音名でツィスの音階だったため、『ツィス音』と名づけられた。音響学の権威である教授が調査するも、原因の特定には至らず、音は徐々に大きくなり、東京でも聞こえるようになる。

その後、原因も、対処法も見つからず、音のレベルはもはや、音を遮断せねばならないほどに...続きを読む達し、都では、一部の留守部隊を残し、全都民の疎開計画を実行する。


突如なり始めた正体不明の音によって、生活をするのが困難になる。この太枠の話に、色々な要素が絡みあって、物語は進んでいきます。精神異常に、公害、聴覚障害者などなど・・いったい、どの方向に進んでいくのか、見等がつきません。

そして、あれほど人を悩ませてきた音は、ある日唐突に消えているのです。
ラストで、精神科医が、『ツィス音』は、存在しなかったのではないか?教授が富と名声を得る手段として利用したのではないか?と・・その一番の証拠として「僕には一度も聞こえなかった」と言います。ぬお!となったところで、教授ともめて、精神分裂症とされ、入院させられていたテレビディレクターが、「聞こえなかったと言うのは、証拠にはならない」とひっくり返します。さらに違う陰謀をほのめかして終わります。結局、『ツィス音』の正体は分からずじまいで・・

あったのか、なかったのかもわからぬまま・・けれど、人々、特に東京の住民の生活を大きく変えてしまったなにかがあったのは事実。私としては、東京再生をかけた陰謀説をとろうかな。

0

Posted by ブクログ 2014年10月05日

序盤の登場人物が入れ替わり「あれ?」と思っていたが
あまりのあっけなさに終盤に向けて再登場するあたりで
「やっぱり」と感じたが、謎解きを経てラストシーンを考えると
何気ない仕草も意味深。

0

Posted by ブクログ 2009年10月04日

ツィス音(二点嬰ハ音)が聞こえる、と訴える一人の女性。そこから大騒動が始まります。徐々に騒ぎが拡大し様々なところに影響を及ぼしていく、その過程は面白いし興味深いです。こんなところにも関係してくるのか、と。国や世界を巻き込んでのパニック作品は多々あれど、音による災害というのは聞いたことないですし。けど...続きを読む途中でラストがうっすら分かってしまい、分かってしまうと気抜けしてしまうんです。分からないで読めればそのほうが楽しいと思います。

0

Posted by ブクログ 2009年10月04日

 レベル3到達が報じられた,十一月のはじめ,Sテレビ“ツィス情報”の視聴率は四〇パーセント台にはね上がった。
 そして,ふつうだと六時五十五分ごろのセット・イン・ユース(総視聴率)は六〇パーセント程度なのだが,そのセット・イン・ユースが八二パーセントに達していた。ということは,つまり,いままでその時...続きを読む間にテレビを見ていなかった人が大勢“ツィス情報”を見るためにスイッチを入れているのである。
 Sテレビとしては“ツィス情報”を独占しているのが,なによりも強みだった。
(本文p.159)

0

Posted by ブクログ 2016年08月07日

う〜〜ん、やっぱりピンと来ません。
ストーリはすっかり忘れていて、ほぼ初読と言っても良い状態。最後のドンデン返しもすっかり忘れていました。

不満なのは視点の狭さなのでしょうね。
多くの優れた海外SFは様々な視点から描かれる事が多い。それに対し、この本では視点が集団の狭い人間に限られている。ツィス音...続きを読むの原因追求もおざなりにしか触れて無いし(現実に首都圏一斉疎開なんて事態になるのなら、物凄い体制で原因追及が図られるはず)、それが最後のドンデン返しに繋がって行く。
どうも、そうした無理な設定にばかり目が行ってしまいます。
音に冒された世界の描写なんてなかなかのものなのですが。

0

「SF・ファンタジー」ランキング