斎藤美奈子のレビュー一覧

  • 出世と恋愛 近代文学で読む男と女

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    青春小説の王道は「告白できない男たち」で恋愛小説の王道は「死に急ぐ女たち」
    もうほんとにコレに尽きる!
    青空文庫で色々読めるのもありがたい。

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    2023年11月04日
  • 出世と恋愛 近代文学で読む男と女

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    べらぼうに面白い一冊。斎藤美奈子先生の本にハズレなし。『友情』とか『桜の実の熟する時』とか、スパッスパッと切っていく。ただし、通勤途中に読むのはおすすめしない。何度か吹き出しそうになった。
    『真珠夫人』が出ているのが新しいなあと思ったが、あの小説がテレビドラマになったのは、2002年のことだったと書かれていて、引きつってしまった。もう20年以上たっている・・・。瑠璃子も単なる悪女じゃなかったのね。
    『金色夜叉』の宮さんと、『或る女』の葉子が、どちらも音楽学校に通っていたというのも、意外な共通点。宮さんは明治音楽院、葉子は上野の音楽学校だから、同じ学校というわけではないが、普段から洋楽に接していたヒロインだったのだ。

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    2023年07月27日
  • 学校が教えないほんとうの政治の話

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    ネタバレ

    安倍晋三元首相の国葬の是非をめぐり、また北朝鮮拉致被害者の帰国から20年という節目を迎えるにあたり、「政治」に関心を集めたいと思って本を探している中で出会った一冊です。

    学校では特定の政党や政治スタンスについての授業(指導)ができない(教員個人の意見表明、という形であっても非常に神経質にならざるを得ない)という事情がある一方で、生徒に対しては「政治に関心を持つように」指導してゆかねばならないというジレンマがあります。

    なぜ、政治に関心が持てないのか、それは「自分のスタンス」と「推しが誰(何)か」が明確になっていないからだ、と筆者は主張します。
    そして「右派/左派」「保守/リベラル」「体制派/反体制派」などの対立軸を設定して社会問題を紹介し、「政治スタンスに”中立”はない」と繰り返し主張します。

    自分自身がどのような政治スタンスなのか、今の世の中に対して「このままでよい」と思っているのか「変えなければならない」と感じているのか。
    私憤や義憤を抱いたところから、人は政治的になる、という筆者の「あとがき」に共感しましたし、ぜひ生徒に紹介してみたいと思う本でした。

    文章は中学・高校生を意識したのか、少しフランクすぎる印象もありますが、「何をめぐって”対立”しているのか」ということがわかりやすく解説されていますし、自分がそれぞれの立場に「賛成」なのか「反対」なのかを考えるきっかけを与えてくれる本だと思います。

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    2022年09月23日
  • 学校が教えないほんとうの政治の話

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    わかりやすい文章を書く著者でした。
    政治を語る上で中立はあり得ないという切り口、ほんと、その通りだと思います。
    学校では政治的中立を守って授業しなければならないと学習指導要領に書いてあるので、社会の先生たちはよほど勇気がないかぎり、踏み込んだ授業ができないと思う。でも、こういう風に学校教育で政治的中立を掲げているから、みんな政治に無関心になっちゃうんじゃないの?って思ってしまいます。若者が投票行かないのは、馬鹿だ、じゃないよ、興味を持たせられるような授業がマニュアルで禁止されてる体制に問題があると思うよ。ほんとに。

    …脱線してしまいましたが、著者は結構リベラルな思想なので、右派の人が読むとイライラしてしまうのかもしれません。ですが、右派の人にも読んでほしいと思います。右派にとっては敵であるリベラルの考え方がわかる本になってますから。あと、右派の考え方も同時にわかるようにもなっているので、再確認ができるかもしれません。

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    2022年09月14日
  • 学校が教えないほんとうの政治の話

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    プリマー新書は取っつきやすくて良い。好みの著者だったり、興味のあるジャンルだったりするとなおさらのこと、良い。そんな自分的に、本書がプリマー新書の理想的なラインナップと思える。その道の専門家じゃないからこそ書ける、初心者に理解しやすい入門書。本書を読めば、『選挙権を持つ年齢にはなったけど…』っていう心理的ハードルを、大胆に下げてもらえること請け合い。何を判断基準にすれば良いのかってあたりも、すんなりと腑に落ちる。これ、中高生時代に読みたかったな。政治・経済や現代社会の教科書より、こっちをまずは当たった方が良いのでは、とすら思う。

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    2022年09月06日
  • 文庫解説ワンダーランド

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    『日本の国語教育は、文学教育というより道徳教育だとよくいわれる。「主人公の気持ちになって考えなさい(共感読み)」と「作者のいいたいことを五〇字でまとめなさい(教訓読み)」のような質問はいまも授業につきものだ。』(p.90)

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    2022年05月13日
  • この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた

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    どちらも好きな作家、評論家でそれぞれの書く文章も好きなのだが、対談となるとまた違った趣を呈する。「この30年」というのは平成の総括であり、最後に現在のコロナ禍の状況についても述べられている。元々は「SIGHT」に掲載されていたものだそうだが、休刊したらしい。これは私自身が高校時代に読み耽った「ロッキング・オン」の雑誌らしい。「SIGHT」を読んだこともないが休刊は残念である。本題に戻ると、共に職業柄か多読の著者で、しかも読み込みが深いというか、好みである。掲載された小説はほとんど読んでないが、このような物を読む事で読んだ気になるのは本当はいけないのだろうが。ただ、ここでも書かれているように小説は時代を移す鏡であると言われるが、それぞれ単独ではわからない。このように、まとめて書評をすることで見えてくる部分もある。本書は書評のようでありながら、社会評論と読めるものだと感じた。

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    2022年05月01日
  • 日本の同時代小説

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    小説は社会を映すことがよく分かった。社会風俗とその時代の代表作を結びつける筆致が巧み。これまで、小説は古典を優先してきたけど、今後は積極的に現代作家を読みたいという気持ちにさせられた。各論で言えば、私小説の系譜とポストモダン系は読む価値がないと思ったが、現代におけるプロレタリアートの系譜は読んでみたい。

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    2021年08月29日
  • 学校が教えないほんとうの政治の話

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     若者が政治に無関心なのは「ひいいきのチームがないから」と本質をずばりと突く。じゃあ決めよう、あなたは「体制派」「反体制派」か、どっち? 
    〈「体制派」とはいまの政治を支持し「このままのやり方でいい」と思っている人たち、「反体制派」は今の政治に不満があって「別のやり方に変えたい」と考えている人たちです〉
    〈どっちでもない? あ、そうですか。そんなあなたは「ゆる体制派」「ぷち体制派」「かくれ体制派」です。どっちでもない、つまり政治に無関心で、特にこれといった意見がない人は、消極支持とみなされて自動的に「体制派」に分類されます。〉
     ここを足がかりに、資本主義と社会主義、右翼と左翼、全体主義と個人主義、といった概念をわかりやすく解説していく。政治に「中立」はない、政治参加には「党派性」が必要だという、この気づきがすばらしい。

     すごいよこの本。名言の宝庫。
    〈いいですか。政治的な発想は反体制派的発想と結びついているのです。権力の側からいえば、みんなに政治音痴の「ゆる体制派」でいてもらうのが、いちばんいいわけ。〉
    〈自分は誰の味方でいたいのか。上半分の資本家や富裕層と、下半分の労働者や貧困層と、どちらの側につくのか。そして、あなたやあなたの家族はどの階級に属しているのか。それは政治を考えるときの大切な指標なのです。〉
    〈「国益優先派」は「全体主義」。「人権優先派」は「個人主義」です。〉
    〈国家権力は強大で、放っておくと必ず「全体主義」に近づいていく(中略)。個人主義は、国にとってはたいへん面倒で邪魔くさいものなのです。そして邪魔くさいからこそ、個人主義は社会全体にとっても有益だし、必要なんです。〉
     ほんと、学校の授業の副読本にしたいくらい。

     もっとも重要なのは、「戦後日本の体制派」はどちらだったのかという指摘だ。
    〈意外にも(?)左派、自由と権利を重んじる個人主義こそが「体制派」だった。それを私たちは「戦後民主主義」と呼んできたのです。〉
     だから日本会議は、安倍晋三は、「戦後民主主義」を目の敵にしてきたし、そのディスりが浸透してきているのだ。左派は自分たちをつい少数派ととらえたがるが、現在を正しく把握するためには、上記の「気づき」が必要なのだ。

     政治を考える最初の一歩というだけではなく、政治と自分とをつなぐ道しるべとして、すばらしい一冊だと思う。

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    2021年08月24日
  • ニッポン沈没(世の中ラボ2)

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    2000年代の直近史をオバマの「Promised Land」きっかけで辿り直しているのだがどうもこの震災以降2015年ほどまでが現在の日本の崩れていくきっかけのー最も顕著になる案件が目白押しだったことが確認される。
    著者も言っている通りこの5年間が最も暗澹たるもので底を打ってるかと思えば今現在までそれは一向に浮上していない。まさに川に落ちた犬に石を投げつけられるごときのコロナ禍であるなあ。
    せめてもの救いはアメリカで劇薬としてのトランプがあったおかげでモラルとしては加速主義的に回復が見れてそれが日本にも影響を与えていること。
    でもまあ日本で状況が回復するのはあと10年ばかりかかるとは確実に言える。あーあ

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    2021年07月04日
  • 忖度しません(世の中ラボ3)

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    斎藤美奈子の本の読み方は、私の手法とは全く違って面白い。そして、問題意識もいまの時代にフォーカスして、実に巧みな解説をする。
    6つのテーマの選定がうまい。時代の核心に触れる。とにかく、「忖度しません」と言う題名さえも素晴らしい。現在の官僚やマスコミも忖度しすぎの時代に、これまで言えるのはいい。
    6つのテーマは、①「バカが世の中を悪くする、とか言ってる場合じゃない」ー反知性主義とは何か?を追いかける。またなぜ反知性主義が台頭したのだろうか?
    ②「戦後日本の転換点はいつだったのか」ー60年安保。田中角栄をどう評価するか?1985年阪神タイガースが優勝。くつろいすぎの司馬史観。坂の上の雲はもう見終わった。ネットウヨのアイデンティティ。
    ③「わかったつもりになっちゃいけない、地方の現在地」ー観光でも基地でもない、沖縄の実像、沖縄の革新は琉大という階層の中で構築される。「オール沖縄」を育てた翁長雄志、沖縄の保守本流がなぜ辺野古基地反対を掲げるのか?長崎の隠れキリシタン。天皇が象徴であることから、なろうとした。君たちはどう生きるかが?なぜはやるのか?
    ④「文学はいつも現実の半歩先を行っている」ー認知症が文学になる。老人たちの玄冬小説。そもそも源氏物語って?
    ⑤「当事者が声を上げれば、やっぱり事態は変わるのだ」ー教授やジャーナリストのセクハラ。セクハラ当事者が自覚していない現実。フェミニズム、フェミニスト、LBGTと時代の変遷の中で、METOOと声を上げる。⑥「新型コロナが来た」ーペスト文学を読む。
    問題意識が鮮明だと、本のセレクションも鮮明だ。面白い本がたくさんあったけど、それより面白い本があるので、それを読もう。

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    2021年05月19日
  • 文庫解説ワンダーランド

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    論壇誌や新聞の書籍解説などとは違い文庫の解説は大抵は一人なわけで、そこにおそらく緩み、油断が生じてしまう。
    ある人は作品や作者に媚びへつらい、ある人はあくまでも自己顕示欲の発露として終始する。
    つまり、どうしてもイキったりカカったりしてしまうツッコミどころ満載の不思議な風習なのであった。
    こんないじりがいがある素材を見つけた斉藤先生の快刀乱麻は止まらない。三島由紀夫だろうが大江健三郎だろうが果てはおそらく精神的な師でもあろうと思われる小林秀雄までも。完膚なきまでにおちょくっている。本当に気持ちがいい。
    それでも最後の二篇、戦争題材のものに関してはしっかりと重くシリアス。戦争への同調圧力はもちろんだが平和や民主主義のそれも同等に警告しているのが感動的。

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    2021年03月28日
  • 文庫解説ワンダーランド

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    斎藤美奈子さんが岩波の小冊子『図書』に連載した文庫解説の批評集。著者らしい毒舌やユーモアに満ちていて、軽快に読める。本領発揮だなぁ。

    文庫解説はどうあるべきかに正解はない、というのが本書の最後に書かれているが、著者自身は、国語(文学の鑑賞)よりも社会科(地理的歴史的背景)を重んじている。本が書かれた時代的背景は、十数年もすれば忘れ去られてしまうからだ。実際、本書でも、『小公女』の背景にある階級差と植民地の問題や、1940年に書かれた『走れメロス』を日本の戦時体制のパロディとして読む視点など、後世の読者にとって有益な指摘がたくさんある。

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    2021年02月16日
  • 忖度しません(世の中ラボ3)

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    どこかで『災間の唄』と並び称されているのを読んで、同作に痛く感じ入った身としては、本作も是非と手に取ったもの。期待通り、存分に味わわせて頂きました。それにしても幅広く読んでいらっしゃって、小説、ノンフのみならず、新書やら専門書にまで、その読書対象は広がってるんですね。凄い。その上で提示される、現体制への危機感だけに、説得力もいや増すというもの。これを読みながら、またちょっと新書への読書欲が湧いてきました。という訳で、今手元にある中で、特に気になるものをピックアップして読み始めることになった訳です。

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    2021年02月15日
  • 忖度しません(世の中ラボ3)

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    政治の話からLGBT、反知性主義、現代進行中のコロナについてまで。時事について、三冊の本を読みながら考える。真面目に考え込むところと、クスっと笑えるところの振幅が魅力的。静かに淡々と説明したかと思うと、「でもさ」といきなり切り返す。そのあたりの動きになんかしびれるね。読んでいて楽しかった。楽しかったでおわるのではなく、あぁ自分にはもっとできること、やらなければいけないことがあったんじゃないかな、と振り返ることができるし、その元気が出てくるんだ。

    「忖度とは、コミュニケーションの回路を閉じて、腹のさぐりあいをすることです。ろくなもんじゃありません。「当事者が声を上げれば、やっぱり事態はかわるのだ」なんです。みんな、つまんない忖度はやめて、いいたいことはいったほうがいいんだよ。」

    あとがきのことばが、なんか、いろんなことへ背中を押してくれているような気がしたな。

    年末年始に読んでいたんだけど、2021年の読書を本書で始められたことは、良かったなぁと思う。

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    2021年01月02日
  • 忖度しません(世の中ラボ3)

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    ネタバレ

    斎藤美奈子の新刊は、本屋で見かけたら買うことにしている。
    で、数年放置してしまう。
    絶対読むのだから、今でなくてもいい。

    『月夜にランタン』も『ニッポン沈没』も数年放置した結果、第二次安倍政権が発足したタイミングで第一次安倍政権の突然の終焉と総括について読んだのだった。
    それはそれで面白かったけど。
    今回はひと月も寝かせず、すぐ読んだ。(当社比)

    テーマごとに3冊の本を紹介し、世相を斬る。
    私が彼女を好きな理由は、知識の(彼女の興味)の幅の広さと、上下左右どこにも忖度しない語り口の鋭さにある。
    今作も、目からうろこがドバドバ落ちた。

    「バカが世の中を悪くする、とか言ってる場合じゃない」
    「戦後日本の転換点はいつだったのか」
    「わかったつもりになっちゃいけない、地方の現在地」
    「文学はいつも現実の半歩先を行っている」
    「当事者が声を上げれば、やっぱり事態は変わるのだ」

    上記5つのテーマの他に、「新型コロナウイルスが来た!」を番外編として収録。

    「オール沖縄」についてとか、司馬史観やアイヌ民族についてなど、個別に語りだすとキリがないので、2つだけ。

    私は官僚が忖度をするようになったのは、安倍政権が「内閣人事局」を作ってからだと思う。
    それまで官僚と言われる人たちは、独善的なところはあったとしても、行政のプロとしてのプライドと自信があった。

    省の推薦を、「これで総理が納得すると思いますか」と突き返す菅官房長官。(当時)
    これを繰り返して、官僚は骨抜きにされた…というか、骨のない人しか上がっていけなくなった。
    結果、やる気と能力のある若手が大勢霞ヶ関を去った。(霞ヶ関ではないけれど、うちの職場も若手の流出が止まらない)
    今度は学問の世界を骨抜きにするつもりなんだ、とニュースを見て思っている。

    もうひとつは田中角栄について。
    「ロッキード事件で金をもらった悪いやつ」というイメージしかなかった田中角栄だけど、「小粒なタカ派」しかいない今の政治家の中で、「大物ハト派」という存在がどれだけ大きなものだったかと知った。
    そして、脱アメリカ依存、全世界を視野に置いた「資源外交」等が、キッシンジャーとCIAの逆鱗に触れて陥れられたという陰謀説は、どうも荒唐無稽とばかりは言えないらしいのだ、
    ちょっとそのあたりの本でも読んでみたくなる。

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    2020年10月20日
  • 日本の同時代小説

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    さながら近々の歴史をざっくりと見ながら、同時代の文学史をひも解いてくれるとてもわかりやすく面白い文学案内でした。確かにこういうのを待っていました!

    わたしの読書人生は1950年代の後半から始まっています。その頃は桑原武夫や伊藤整の読書入門や、もう少し詳しいのだと中村光夫の『日本の近代小説』、1960年代後半に出た同じく『日本の現代小説』が参考書でした。まさに斎藤美奈子さんが「まえがき」にそうお書きになってます。

    でも、そういう案内は1960年代までで終わっています。このようなわかりやすい案内は今現在2010年代までなぜか空白でした。もちろん専門書的なものはあったでしょうが。

    世界が多様性にばらけている今、文学のジャンルも増え、しかも、堺がわからなくなり渾然の様相、まるっと見渡してまとめるのは大変な作業でしょう。

    わたしとて情報に限りがあり、何をどう読めばいいのか?何か足りないようなもどかしさがありました。
    近代、現代、そして「同時代」とはうまいネーミングであります。

    斎藤美奈子さんもおしゃってますが、この新書を足掛かりにして、まだまだ埋もれている作家・作品を発掘しながら、読書人生を歩みたいと思いました。

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    2019年10月19日
  • 妊娠小説

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    ネタバレ

    通勤電車の中で読んでいたが、どうしてもニヤニヤしてしまい、困った。
    特にブックカバーもしていなかったので、このタイトルとニヤニヤオヤジの顔を見比べた乗客がいたら、さぞかし気味悪かったろう。

    もちろん斎藤美奈子の本には時々触れていたが。
    先日来春樹の作品群を拾い返す中で、春樹って結局中絶手術後自殺した女の子のことばかり思い返しているんだろうなあ、んで聞きかじったところによれば中絶手術ってここ数十年の話(脱線するが水子供養の歴史ってすごく短い)らしい、
    など考えるうち、石原千秋「謎とき村上春樹」で本書に言及されており、猛烈に読みたくなった次第。読んでよかった。
    気になっていた優生保護法の歴史と伴走するように文学史からピックアップされており、現在の興味にもきれいに合致していて、大変美味しかった。

    とはいえフェミニズムの系譜だけに置くのは、ひどくもったいない本。(ちなみにここ1年ほどで流行っているチョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」の訳者斎藤真理子さんは斎藤美奈子の妹らしい。)
    何よりも切れ味、皮肉、毒、軽妙さ、意地悪さ、つまり文体の芸でもあるのだ。

    本書で言及された小説の3分の1くらいは読んだことがあるので、余計面白い。
    鴎外ー川端ー三島ー大江ー春樹ー三田誠広ー辻仁成、と高校生前後に読んだ作家が、こんなふうに見えてくるとは。
    自分の読書歴そのものも違って見えてきて、それが清々しい。

     はじめに――妊娠小説とはなにか―― 望まない妊娠を搭載。妊娠を標準装備。定義は途中で変わるかもしれない。

     Ⅰ 妊娠小説のあゆみ
     妊娠小説のあけぼの 堕胎罪の時代。第一次妊娠小説ブーム。「舞姫」のイメージ戦略。「新生」の陰謀。操作されたテキスト。妊娠の発見。
     本格妊娠小説の出現 52年体制の成立。第2次妊娠小説ブーム。「太陽の季節」のバランス感覚。「ヒロイン殺し」の真相。堕胎の再編=妊娠中絶の発見。
     純妊娠小説の台頭 花開く妊娠小説文化。第3次妊娠小説ブーと性別役割分業の促進。「闇のなかの祝祭」の思わせぶり。赤ん坊の生まれない日」のストレートパンチ。外圧とミカドの家と60年優保。70年優保とウーマンリブ。妊娠イデオロギーの導入。僕小説の興隆。
     変わりゆく妊娠小説 80年優保と水子寺。「風の歌を聴け」のトリック。「テニスボーイの憂鬱」の余剰価値。批評的妊娠小説の時代。「桃尻娘」の教訓。

     Ⅱ 妊娠小説のしくみ
     受胎告知の様式 妊娠小説との出会い。メンズ系妊娠小説の受胎告知。レディス系妊娠小説の受胎告知。受胎告知シーンの役割。
     妊娠効果の基礎知識 マイナスの物語外妊娠効果。プラスの物語外妊娠効果。物語内妊娠効果。
     ゲームの展開 スコアボード化の方法。終盤一発ぶちかまし型。中盤盛り上げ型。序盤先制逃げきり型。全篇お祭り型。
     妊娠濃度による分類 妊娠濃度の測り方。妊娠濃度2=妊娠スパイス級。妊娠濃度3~5=妊娠ミート級。妊娠濃度3=妊娠シチュー級。妊娠濃度5=妊娠ステーキ級。妊娠濃度4=妊娠ハンバーグ級。妊娠濃度1=妊娠パセリ級。妊娠濃度?=妊娠オイル級。妊娠効果による等級分類。

     Ⅲ 妊娠小説のなかみ 
     妊娠物語の類型学 メンズ系妊娠小説の物語類型【青年打撃譚】【浮気男疲労譚】【恋愛挫折譚】【中絶疑惑譚】、レディス系妊娠小説の物語類型【おぼこ娘自立譚】【母子家庭創成譚】【妊娠無情譚】【妊娠誤謬譚】。妊娠物語の法則。
     愛と幻想の選択 生みたがる女たち【許可申請型】【出産宣言型】【責任押しつけ型】。生みたがらぬ女たち【親との確執型】【愛なき性交型】。生みたがる男・生みたがらぬ男【現状維持型】【目的達成型】【現状打破型】【意思不明瞭型】。語り手たちの誤解【信頼できない語り手その1】【信頼できない語り手その2】。「生みたがる女」の謎解き。
     アニミズムの帝国 恐怖と絶望の産婦人科医院【魔物のような医者】【とんでもない看護婦】【怪物のような女医】【墓場のごとき医院】【悶絶する女】。胎児のイリュージョン【映像的な胎児】【音響的な胎児】【文学的な嬰児】【カルトな隠喩】【ポップな隠喩】。進化論という呪術。
     避妊をめぐる冒険 避妊が存在しない世界だった(異界型)。避妊を実行しなかった(避妊非実行型)。正しい避妊の知識を持っていなかった(知識不足型)。正しく避妊を実行的なかった(運用失敗型)。避妊小説の避妊感覚。

     おわりに――妊娠小説はなぜ書かれるか―― 生産者の側に強い動機づけがあったこと。消費者の側に潜在的な需要があったこと。妊娠中絶にまつわるこの国固有の文化的土壌があったこと。

     本書で取り上げた主な「妊娠小説」合計45、プラスアルファ。
     ■戦前 森鴎外「舞姫」小栗風葉「青春」鈴木三重吉「子猫」長塚節「隣室の客」水野葉舟「石塊」島崎藤村「新生」
     ■1950年代 川端康成「虹いくたび」「山の音」石川達三「薔薇と荊の畦道」石原慎太郎「太陽の季節」三島由紀夫「美徳のよろめき」大江健三郎「死者の奢り」「われらの時代」
     ■1960年代 大江健三郎「見るまえに跳べ」倉橋由美子「パルタイ」吉行淳之介「闇のなかの祝祭」水上勉「越後つついし親不知」「越前竹人形」三島由紀夫「美しい星」柴田翔「されどわれらが日々――」開高健「青い月曜日」石川達三「青春の蹉跌」
     ■1970年代 吉行淳之介「暗室」渡辺淳一「野わけ」「北都物語」萩原葉子「蕁麻の家」三田誠広「赤ん坊の生まれない日」中沢けい「海を感じる時」津島佑子「寵児」村上春樹「風の歌を聴け」
     ■1980-90年代 川西蘭「はじまりは朝」村松友視「サイゴン・ティをもう一度」立松和平「春雷」橋本治「その後の仁義なき桃尻娘」「帰ってきた桃尻娘」森瑤子「一種、ハッピーエンド」林真理子「ビデオパーティー」村上龍「テニスボーイの憂鬱」五木寛之「哀しみの女」原田宗典「雑司ヶ谷へ」高橋三千綱「掠奪の初夏」小川洋子「揚羽蝶が壊れる時」佐藤正午「個人教授」辻仁成「クラウディ」丸谷才一「女ざかり」

     あとがき
     解説 金井景子

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    2019年06月28日
  • 学校が教えないほんとうの政治の話

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    大学の講義で用いられた新書でした。

    政治に無頓着な若い世代が、政治的教養や政治への関心を持つきっかけとして、とても有用だと思われます。

    基礎的な知識について具体的な時事問題を絡めながら、非常に簡潔にわかりやすく書かれていました。筆者が本書の中で述べていたように、「中立はない」というのは確かにそうかもしれないと考えさせられました。

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    2019年06月20日
  • 日本の同時代小説

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    世に出ている近世(明治)以降の文学の解説本の多くは、60年代の横光利一・石原慎太郎・開高健らで終わっている。著者はその後の文芸の歴史をきちんと解説した書が見当たらないとことに奮起し、筆を執る。カバーする範囲は1960年代〜2010年代までの約60年。我々が生きてきた“同時代”の「性格」を文学で探っていく。

    印象深かったのは、文芸評論家の蓮實重彦の考察。70年代半ば〜80年代を代表する小説の「羊をめぐる冒険」「コインロッカーベイビーズ」「枯木灘」「吉里吉里人」「裏声で歌え君が代」「同時代ゲーム」は全て同じプロットの物語である。「依頼」→「代行」→「出発」→「発見」という経過を辿る構成であると喝破。

    それを受けて著者は、近代文学と現代文学の差異を絵画を例に挙げ分析する。近代文学が、ミレーやコローのような写実画とすれば、現代文学はピカソやカンディンスキーのような抽象画に当たる。ピカソのデッサンを非難するが、それは旧来の写実的画法では描けないとピカソが考えたからにほかならない。

    かつて文芸界で飛び交った「人間が描けてない」という批判は80年代以降には効力を失った。現代文学はそもそもそれまでの小説の意味や技法に疑問を抱いたところから出発している。その代表格が、高橋源一郎・島田雅彦・田中康夫らである。確かに各氏の処女作は物議を醸した。

    この様に小説は時代を斬り、時代が小説を産んだと言える。本書には、約300篇もの小説を10年単位で区切り、当時の時代の空気をすくい取りながら、簡潔な解説の中に時に容赦のない筆誅を下す。

    すっかり廃れたと思っていたプロレタリア文学や私小説がその形を時代の器に合わせ変容し生き延びていたり…同時代の文学を鳥の眼と虫の眼のデュアルレンズでもって、昭和~平成の世相史が学べる副産物もある労作。

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    2019年05月29日