紐解き始めると、頁を繰る手が停められなくなる。少し夢中になる雰囲気が在る。
色々と“シリーズ”の作品を送り出している作者の作品だが、本作はシリーズではない作品だ。或る刑事が主人公となる物語である。
北関東のとある県、架空の街である北嶺市を舞台に展開する物語である。“棘”とは、本作の主筋になる未解決事
...続きを読む案のことである、主人公にとっての様々な個人的事情や想いを「引っ掛かり、刺さる場合の在る何か」というようなことで、象徴的に表現した語句なのだと思った。
県警捜査一課で辣腕刑事として少し知られている上條は、或る事件の捜査へ参加することを強く希望していた。北嶺市で発生していた誘拐事件である。
北嶺市で高校2年生だった少年が帰宅していない様子であったのだが、「誘拐した」という強迫、そして「身代金要求」が在った。身代金の受渡の段階で“問題”が生じ、「取引は止める」という連絡が入る。少年は行方不明であったが、事件発生から十ヶ月程度を経て発見された遺体が、この誘拐された少年であると特定されたのだった。
上條刑事は、身代金受渡の際の“問題”に関わる羽目に陥り、捜査から外されてしまっていた。その後、事件の捜査が停滞してしまっていることに忸怩たるものを感じながら過ごしていた。そこで捜査への参加を強く希望しているのだが、希望が容れられない様子が続く。
この事件の解決に邁進する事を諦められない上條刑事は、手を尽くして「北嶺署に異動」ということにして、結局は「発生から1年」ということになってしまっていた誘拐事件の捜査に携わることとなるのだ。
上條刑事は北嶺市に深い所縁、そして複雑な想いを有していた。上條刑事は北嶺市出身であった。高校卒業後に街を離れ、警察官になっていた。それから20年程を経ている。現在は独身で、只管に仕事に打ち込んでいる。
本作はこの上條刑事の人生、周辺の人達との関係、意外な展開を見せる「誘拐事件」の真相が明かされる過程が描かれる。「そう来たか?」というような事件の展開と、概ね40年になるであろう職業生活の折り返し辺りで、来し方の様々な事柄を想い起し、その置き土産のような事柄にも出くわすという様子だ。
本作は2009年に文庫本が初めて登場していて、内容の中では2004年頃というような感じだ。上條刑事の「その後?」というようなことも、読後に少し気になった…
「手段を択ばず!」という感じで、グングンと事件に切り込む上條刑事の様子が痛快でもあるが、複雑な想いが過りながらの活動が少し切なくもある。なかなかに味わい深い物語だと思う。御薦め!