倉山氏による、嘘だらけ現代史シリーズの第四弾(2017.3現在の最新作)です。今回のテーマは英国で、本の中で片山氏曰く、一番書きたかった国だそうです。現在の覇権国は米国ですが、第二次世界大戦が始まるまでは英国と認識されていました。
この本では、英国が覇権国を事実上手放した時期について、私が知りたかった回答(米国の武器貸与・英国海軍基地の貸出)も提示してくれています。よく経済的な理由が提示されますが、そうではないと思っていた私はこの本に出会えて嬉しかったです。
また、サッカーのワールドカップで、なぜイギリスだけ、イングランドとスコットランドが別の国として参加するのかも、英国の歴史を知ることで少し理解できました。近年、スコットランドの独立を巡る国民投票もありましたが、やはりイギリスは連合国なのだと改めて認識しました。
以下は気になったポイントです。
・1202年、教皇は第四回十字軍を宣言するが、この十字軍はイスラム教徒が占領するエルサレムではなく、なんと同じキリスト教徒の東ローマ帝国に攻め込んで踏みつぶした(p26)
・西欧が東欧に勝ったのはローマ帝国の東西分裂以来、インノケンンティウス3世(1198年に教皇就任)が初めて。西欧が世界の中心になったのは18世紀半ば(p27)
・日本の関西地方では、京都>神戸>大阪>そのほか兵庫>奈良>和歌山、のヒエラルキーがあり、京都人は関西弁の発音で即座に相手の出身地(つまり階級)を見抜きランク付けする、これがイギリス貴族と同じ(p38)
・もともとイングランド王はフランスに広大な領地を持っていた、そのノルマンディー公というフランス貴族がイングランドを征服してイングランド王になった。欧州の百年戦争が、白村江の戦い、ばら戦争が、壬申の乱、にあたる(p38、41)
・1543年、ヘンリー8世王は首長令を発して、英国国教会を設立した。儀式、教義など中身はカトリックのままだが、バチカンのヒエラルキーから離脱したということで、イングランドはプロテスタントの国になる(p49)
・メアリは大国スペインと王太子フェリペと結婚して、カトリックが復活する。異端禁止法で火あぶりを連発し、国教会などプロテスタントを弾圧した。あまりの過酷さに「ブラッディー・メアリー」とあだ名される。トマトカクテルの語源。西仏戦争ではスペイン側として参戦するが大敗して、大陸に持っていた最後の領土(カレー)を失った(p53)
・アフリカ周りで世界に飛び出したポルトガル、アメリカ周りで世界に飛び出したスペイン、彼らはトルデシリヤス条約を結び、教皇が決めた子午線より東はポルトガル、西はスペインとした。これに異を唱えたのが、イングランド、独立前のネーデルランド(オランダ)(p62)
・1623年、インドネシアのアンボイナ島での英蘭衝突があった。この事件をきっかけに、イングランドは東アジアから撤退する(p63)
・1649年、チャールズ1世国王は、クロムウェルにより処刑された。ノルマン・コンクエスト以来続いてきたイングランド王家はここに断絶した(p70)
・17世紀の英蘭戦争は、1652年、1665-67年、1672-74年と三次まであるが、イングランドが勝ったわけではない。ただしオランダを疲弊させ没落させるには十分であった。クロムウェルは、1653年に統治章典(イギリス史上、唯一の統一的憲法典)を定めた。1787年のアメリカ憲法よりも古い(p71)
・名誉革命は、オランダ人(ウィリアム三世)によるイングランド王乗っ取りである。(p83)
・1702年、アン女王が即位し、イングランド・スコットランド・アイルランドの3つの国の女王を一人で兼ねることとなった。ウェールズはエドワード1世時代にイングランドに含まれている(p87)
・1703年、イングランドはポルトガルと自由貿易を旨とするメシュエン条約を結んだ。結果、ポルトガルからのワイン輸入激増、イングランドの毛織物の輸出が激増した。結果として、ポルトガル産業界が崩壊、そこにつけこんだイングランドはポルトガルの植民地を巻き上げた。形式上の主権は認めている、非公式帝国を有することになった(p89)
・1704年、スペインの南東端にある地中海の出口であるジブラルタルを占領した、第一次世界大戦で空爆という作戦が可能になって要塞の意味がなくなるまで、いかなる欧州艦隊もジブラルタルを抜けなかった、大英帝国は海上覇権をつかんだ(p89)
・1707年、アン女王は別の国だった、イングランド・スコットランド合邦条約を締結、二つの冠をかぶっていたのを一つにした、ここに連合王国が誕生、日本人のイメージするイギリスの誕生、アン女王はグレートブリテンの初代女王(p90)
・アン女王は、17回妊娠、6回流産、6回死産を経験、生まれた子供は全て夭折、彼女の崩御(1714年)でスチュアート朝は断絶、後継国王は、ドイツハノーバー公国から親戚のゲオルグ1世を連れてきて、イギリス王ジョージ一世となる。今に続くハノーバー朝の開祖(p91)
・ジョージ1世は英語をほとんど話さず、大陸に常駐していた。ブリテン島の政治は臣下の大臣たちが国王に代わって行う。国王の不在が、世界の模範となる責任内閣制のもとになる(p92)
・ヨーロッパ人は、大陸勢力に勝てないから海に出て大航海時代が始まった。ユーラシアの殆どを支配したモンゴルはもちろん、欧州が束になってもオスマントルコにはかなわなかった(p106)
・1814年、ナポレオン戦争後の国際秩序を取り決めるウィーン会議が開かれた、旧大国だったスペイン、オランダ、スウェーデンは大事な会合に招かれず、名実ともに小国に転落した。英露仏墺普が五大国となった。墺=オーストリア帝国は神聖ローマ帝国から名称変更(p141)
・ナポレオン戦争は、傭兵の存在意義を無くした。王様にカネで雇われた兵よりも、自国は自分で守るという気概に燃えた国民軍のほうが強いと分かった、各国ともに兵制改革を実施した(p143)
・蒸気機関の発明により海でも軍事革命が起きた、風や波と関係なく船が動かせる。また、海から陸地を攻撃する艦砲射撃が可能となり、英国戦力は圧倒的になる。我々がイメージする海軍は、この時代の発明品(p148)
・イギリス国王は、1688年の名誉革命で、司法権を裁判所に奪われた、次に「議会の中の国王」という原則の確立により、立法権を衆議院と貴族院に奪われた。1708年のアン女王のあとに拒否権を行使した国王はいない、19世紀初頭のジョージ3世の発狂により、行政権を内閣に奪われる、しかし君主は外交権を最後まで有していた(p159)
・1861年、対馬がロシアに占領されるという事件があり、英国に泣きついて追っ払ってもらった。当時のパーマストン首相は日本に関心がなく日本占領の訓令が下りずに救われた(p167)
・小笠原諸島は、イギリスが一度領有を宣言している、しかし領有権にこだわらなかったので放棄した(p176)
・5つの要塞(ドーバー、ジブラルタル、ケープタウン、シンガポール、スエズ)を押さえることで、人類人口の4分の1、表面積の4分の1を支配できた(p179)
・陸奥外相が英国公使に不平等条約の改正をもちかけたときの言葉「我々は文明国として戦時国際法を守る気がある。なので不平等条約を撤回してほしい、だめなら、我々は文明国ではないということになるので、文明の法である戦時国際法を守る必要はなくなるが、貴国の判断やいかに」、それで、日英通商航海条約が締結された(p192)
・大英帝国に迫る超大国のロシアと、新興の小国である日本、国力は、のちの日米戦などとは比較にならない大差(p198)
・日本が国際連盟を脱退するとき、リットン報告書を反日文書だと断じ、英国に遺恨を抱くことになるが、実際はカナダとともに、最後まで英国は日本を擁護してくれた(p254)
・19世紀まで、大英帝国に取って代わろうとする挑戦者は、1)共産主義という思想を広めようとしていたスターリン(ソ連)、2)冒険主義のヒトラー(ドイツ)、3)民主共和制の仮面を被っていたルーズベルト(アメリカ)である(p256)
・英国のチェンバレン大蔵大臣は、日英同盟を復活しようとしていた、不可侵条約を提起してきた。日本は、陸軍と外務省が強硬に反対した(p258)
・日中戦争の正式名称は支那事変、対米英開戦に合わせて宣戦布告するまで戦争ではない。なぜ我が国は中華民国に宣戦布告しなかったか。戦争では中立国が設定され、封鎖が可能になる。交戦当事国の一方に非軍事的でも支援を与えれば、その国も交戦当事国と同じ扱いを受ける。しかし事変では、双方の陣営に支援をするのが合法。アメリカは蒋介石に武器を与えながら、日本に石油を売っていた。死の商品ではあるが、国際法違反にはならない(p263)
・第二次世界大戦は、ソ連のスターリンと中国を建国した毛沢東以外は、全員が敗戦国である(p277)
・戦場となったアジアは、インドネシアとフィリピンこそはオランダとアメリカの植民地だが、それ以外(マレーシア、ブルネイ、シンガポール、ビルマ、インド)はすべて大英帝国の植民地、つまり「英国&華僑vs日本&被植民地アジア人」の対決が、大東亜戦争の本質であった(p280)
・当時の大英帝国は、他の英連邦との貿易はすべて赤字であったが、インドとの黒字で補っていた。インドを失えばその瞬間、大英帝国は消滅する(p282)
・ジンバブエは白人の土地を全部取り上げたので、第一次世界大戦後にしか起こらなかったハイパーインフレに見舞われた。1兆ジンバブエドルが登場したほど(p299)
・ヒトラーのユダヤ人ジェノサイドは悲惨だが未遂、イギリス人のジェノサイド(タスマニア)は完遂である(p299)
・財務省は天下り先として、アジア開発銀行(ADB)を持っている、歴代総裁は全員が財務省天下りであり、中国がAIIBの副総裁のポストを提示したのに、対抗融資の話をぶち上げて、ロシア、欧州、米国も見ていただけ(p303)
2016年3月13日作成