KINGDOM
紀元前229年、秦国の命運を賭けて挑む「趙完全攻略戦」がいよいよ本格化する第79巻。前巻までの張り詰めた前哨戦から一転、本巻では秦軍による全方位からの怒涛の総攻撃が開始され、戦場は未曾有の広域戦へと突入します。これまでの戦術眼の応酬から、大陸の命運を分かつ泥泥の総力戦へとシフトしていく高揚感と緊張感が、圧倒的な筆致で描かれています。
今巻の最大のハイライトであり、読者に強烈な緊迫感を与えるのが、中華十弓の一人「青華雲(せいかうん)」の参戦です。
戦端が開かれるや否や、圧倒的な武力を誇る山の民の王・楊端和(ようたんわ)と、獰猛な闘将・ダントが、姿なき長距離からの精密な矢に射抜かれるという最悪の波乱から物語は動き出します。百戦錬磨の将たちが初手で後手に回る描写は、趙国の底知れない防衛力と、李牧が張り巡らせた防衛網の恐ろしさを改めて見せつける形となりました。
この絶望的な状況下で、青華雲の次なる凶刃の標的となるのが、飛信隊の李信です。
前線が混乱に陥る中、見えない間合いから放たれる死の矢をどう防ぎ、そしてどう反撃へと転じるのか。今巻の後半は、息を呑むような隠密性とスピード感に満ちた攻防が繰り広げられます。かつて数々の死線をくぐり抜けてきた信と飛信隊ですが、今回の「遠距離からの超一流の狙撃」という異質の脅威に対して、泥臭く、しかし確実に活路を見出そうとする姿には、彼らの確かな成長と、戦場における高い適応力が凝縮されています。原泰久先生の描く、矢が一線を画して空を切り裂く見開きページの迫力は圧巻の一言に尽きます。
単なる兵力差のぶつかり合いではなく、個の異能(弓術)が戦局全体を揺るがすスリリングな展開は、長大な趙攻略戦のスタートダッシュとして完璧な構成です。楊端和らの負傷という痛撃を秦軍がどうリカバーし、この広大な盤面をひっくり返していくのか、次巻への期待が最高潮に達する一冊となっています。