■「バリューチェーンからバリュージャーニーへ」
「顧客接点データを多く持ち、それをエクスペリエンスの良さに還元する」という新たな改善ループをいかに高速で回せるか。これが新しい競争原理です。
■「平安グッドドクターアプリ」
・2018年1月時点で1億9700万人の利用者
・医師のネットワークと協力関係を結び、アプリ上で開業医に無料で問診できる機能
・アプリでの病院予約機能
・ユーザーが歩くだけでたまるポイントシステム
ユーザーは1日が終わる前に1度アプリを開き、「歩いた分を換金する」というボタンを押さないと、歩数がリセットされてしまうという仕組み。
■行動データは最強の営業ツール
・「顧客体験による価値提供でユーザーを集める場を作る」という新たな広告投資の姿が見えています。
・企業にとって、「営業ツール」になる
→デジタルと行動データを駆使して最適なタイミングで最適なコミュニケーションを取れるようになり、全体的な営業工数や負担はむしろ減り、効率化されます。
【ビフォアデジタル】リアル(店や人)でいつも会えるお客様が、たまにデジタルにも来てくれる。
【アフターデジタル】デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルを活用したリアル(店や人)にも来てくれる。
■OMO
オンラインとオフラインが融合し、一体のものとして捉えた上で、これをオンラインにおける戦い方や競争原理として捉える考え方
・4つの発生条件
①スマートフォンおよびモバイルネットワークの普及
②モバイル決済浸透率の上昇
③幅広い種類のセンサーが高品質で安価に手に入り、偏在する。
④自動化されたロボット、人工知能の普及。
「なぜ企業側がそこまでデータを収集しなくてはいけないのかというと、これからのビジネスはデータをできる限り集め、そのデータをフル活用し、プロダクトとUX(顧客体験、ユーザーエクスペリエンス)をいかに高速で改善できるかどうかが競争原理になるからです」
・重要な考え方
①「チャネルの自由な行き来」
②「データをUXとプロダクトに返すこと」
③「リアルも含めた高速改善」
・OMO型で成功しているビジネスの多くに存在する共通点として「ゲーム的にインセンティブ獲得が設計されている」という点が挙げられます。
※「デイデイ」
以下の3種類のデータを取得することで、タクシーの運転品質を評価
①早く配車リクエストに答えたか
②早く顧客をピックアップできたか
③適正なスピード、安全な運転、正しいルートで送り届けられたか
→
・都度スコアリングされて経験値がたまる
・グレードアップの昇格試験でレベルを上げる
・アプリ内のマップ情報には宿屋(ガソリンスタンド、EVスタンドやトイレ)が表示される
・運転中の出来事をシェアして他の人と盛り上がれる
※「Vitality」
歩数やランニングの距離など、ゲーム的にタスクが与えられ、それらを達成すると例えばスターバックスの1杯無料券がリワードとしてもらえたり、「健康になった」と評価されることで加入している保険の保険料が安くなったりします。
■UED大学のUXの5段階
第0段階(2006~2008):デザインシンキングチームがビジュアルデザインやUIなどといったデザイン分野しか担当していなかった
第1段階(2009~2010)ペネトレーション:デザインとテクノロジーとビジネスを等しくデザインシンキングが包括するような形に捉え直すようにした
第2段階(2012~2015)ディフュージョン:デザイン、ビジネス、テクノロジーにおける、ビジネスオペレーション側のエクスペリエンスデザインを磨きこんだ段階。
第3段階(2015~2017)エボリューション:ニューリテール。ECやオンラインサービスの方法論を、小売業のような既存ビジネスに応用して再構築して新たな価値を提供。オンラインを軸にすると近しいビジネスと連結可能。→エコシステム
第4段階(2015~2017)データドリブン:このようなエコシステムができると、リアル接点でのデータもたまるようになるので、膨大なデータが獲得できるようになる。これを社会貢献や新しい技術開発に活用し、さらなるデータエコシステムを作る。
第5段階(2015~2017)ホリスティック・エクスペリエンス:トレンド、オペレーション、パフォーマンス、データ、機能、競合優位性、世論において、バランスの取れた体験。各ステークホルダーのバランスが取れている。NPSをあらゆるステークホルダーの指標として活用。
「無人化」というとどんどんサービスが機械化していく印象がありますが、実際には従業員とよりコミュニケーションを取り、より人間的な温かいサービスを提供するプレイヤーが生き残っています。
■リッツカールトンのクレド
「ミスティーク」お客様自身も気づいていないようなニーズに対応するといった、感動体験の源泉
「機能性」ユーザーから見れば「とにかく便利で嫌な体験がまったくないこと」であり、ホテルから見れば「顧客データの保管と感動体験のベースになる情報(宿泊回数や誕生日、同行者の情報など)が活用できる状態にあること」
…顧客の体験を1回のみの単一接点で終わらせず、ずっと継続し、高速で改善できる時代になったのです。「顧客に接する」部署だけでなく、1回限りの接点を超えて、連携して顧客体験を生み出していくことが重要です。「モノからコトへ」ではなく、「モノから寄り添いへ」といった意識に変えたほうがよいのではないかと思います。
【要点のおさらい】
■アフターデジタルの到来
・デジタルが至るところに浸透し、常時接続が当たり前になると、これまでオフラインだった行動も含めて、すべての行動データがオンラインデータになり、IDにひも付けられるようになります。
・人々の感覚としても、デジタル世界に住んでいるような状態になり、オンラインとオフラインを区別しないようになります。
■ビジネス形態の変化
・大量にデータが出るようになりOMOで思考できるようになると、企業体のできることが変わってきます。
・小売りの場合、フーマーはその膨大な行動データから、主要な対象顧客が住んでいるのかどうかを把握した上で出店しています。オンラインの利便性と、 オフラインの「確かめられる安心」を連動させて顧客を魅了し、欲しいものが欲しい方法で、欲しい時に得られるようにしているのです。さらに、オンラインとオフラインの双方の購買および閲覧データを使って、予測を含めた在庫や仕入れを管理することも可能です。
・医療の場合、平安保険は、従来ほとんどユーザーとの接点がありませんでした。接点が無ければデータを得ることはできないので、スマホのアプリを開発し、そうした状況を変えました。医師による年中無休の無料問診や予約というキラーコンテンツと、ヘルスケア情報の閲覧および「歩くだけでたまるポイントプログラム」という頻度の高い機能をアプリ上で融合させ、顧客との接点を作ったのです。そして、顧客の利用履歴から把握した「属性、好み、状況」の情報を使って、営業員やマーケター、コールセンターと連動し、ベストなタイミングで顧客に新しい提案をすることが可能になりました。
・移動の場合、ディディは、運転と接客の品質をスコアで可視化し、さらにそのスコアをインセンティブにすることでより高い運転品質での移動体験を可能にしました。ユーザーとドライバーの相互評価にもなっているので、ユーザー側もキャンセルし続けたり態度を悪くしたりしにくく、かつ良いユーザー (および良い配車案件)と良いドライバーがマッチングされる構造になっています。
これらの事例を踏まえると、アフターデジタル時代のビジネス原理 は、次の2つにまとめることができます。
(1) 高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回すこと。
(2) ターゲットだけでなく、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション形態で提供すること。←行動データに基づいた「顧客理解」と「即時性」の重要性が高まる
平安保険がリアルタイムに個別化対応したサービスを提供できるのは、サービスを支える仕組みに秘訣があります。顧客との接触履歴を一元的に管理する社内用データプラットフォーム「LCCH(Life Customer Contact History)」があり、顧客ごとに過去に発生した様々なやり取りの記録を収集し、顧客一人ひとりのサービスカルテを作成しているのです。カルテの中では、これまで提供したサービス、まだ提供していないサービスを管理し、またその顧客がどのようなサービスを好むのかも予測されています。データを集めて顧客のニーズを深く理解できるようになったため、専門的かつ顧客の状況に寄り添ったサービスの提供を可能にしています。
「LTV型のビジネスにして、顧客IDとそのリアルタイムの行動が分かるようにしないと、デジタル起点の時代では生き残れない」…寄り添い続け、顧客を知り続けるからこそ、その顧客に良い体験が提供できるという意味で同じ考えを共有する同志と捉えています。
■モーメント分析
状況指向の時代、および「行動データ×エクスペリエンス」の時代において、分析や企画をする際には一人ひとりの「人」よりも、もっと細かい「モーメント」単位で見ていく必要があり、この分析を「モーメント分析」と読んでいます。
モーメントとは、「人々に特定の状況が発生し、そこから派生した行動が終わるまでのこと」を指しています。グーグルの提唱する「マイクロモーメント」よりも少し長い概念です。例えば「家の冷蔵庫にある牛乳が切れてしまって補充しなければいけない」という状況が発生したら、「どこで買おうかと考え、近くのコンビニでいいやと思い、その購買が終わるまで」を1つのモーメントとしています。
■UXイノベーション
UXイノベーションの本質は、人々がずっとその新たな接点を使ってくれるのかどうかにあります。つまりは「顧客の置かれた状況の発見と、それをより幸せにするようなコア体験をいかに作るか」にあります。
このコア体験を作り出すのは難易度の高い職人芸ですが、いくつか要点をあげると、以下のポイントがあげられます。
・体験の連続性
・行動観察
・デザインシンキング
「体験の連続性」とは、事業のドメイン選定とほぼ同義です。新しい顧客接点を作る場合、他の接点との連続性がないと顧客は使いません。突然カーメーカーがお酒を造り始めても、顧客から見たら血迷ったようにしか見えないでしょう。参考になるのは平安グッドドクター アプリです。「問診と病院予約」というコア体験を軸に、健康情報の発信、医薬品や健康食品の販売、歩くともらえるポイントによる健康習慣といった体験が隣接している領域をつなぎ合わせることで、ユーザーはこれらを使ってくれるのです。
「行動観察」は、ミルクシェイクの事例で説明したような「ユーザーの行動を観察して発見点を得ること」ですが、同時に「人の発言を信用してはならない」ということを意味しています。人は、嘘をつくつもりはなくても、自分のニーズや本当にやりたいこと、欲しいものを言葉にできるとは限りませんし、気を使ったり空気を読んだりして本心を話してくれないことも往々にしてあります。こうした属人的な問題を外して考えるには、「人の行動を観察し、そこから発見点を得る」方法が最も有効です。 これは、モーメントを見ることと実はほぼ同義なのですが、ことUXイノベーションにおいては「新しい状況」を発見する必要があるので、デジタル上ではなく、街に出たり現場に出たりして観察する手法が引き続き重視されています。
最後に「デザインシンキング」です。デザインシンキング自体は広い概念ですが、ここでは主に「プロトタイプを使った試行錯誤」を意味しています。人は自分のニーズを正しく話すことはできませんが、 目の前に商品やアプリを差し出されて、それを使ってみた結果「こんなものがあったらどう思いますか?」と聞かれると、よりリアルかつ正しいフィードバックを得ることができます。思いついたアイデアはなるべく早く、簡単でいいので具現化して、対象のユーザーに想定している状況で利用してもらうのです。そうすれば、サービスや商品が本当に使われ続け得るものかどうかが分かります。