ジョージ・オーウェルの代表作のひとつにして、世界的に有名な小説。
1949年発表。
日本では村上春樹『1Q84』のオマージュ元としても知られる。
舞台は1984年のロンドン。イングランドはアメリカ、オーストラリア、アフリカ南部から成る超大国「オセアニア」に併合されている。
オセアニアは、同じく超大国のユーラシア、イースタシアと戦争状態にあり、ビッグ・ブラザーが率いる「党」が絶対的な権力を握る。
「党」は、党員をテレスクリーンによって常時監視し、家族を引き離し、あらゆる手段をもって思考を把握し、少しでも反抗意志を持つ人間を容赦なく粛正する。
主人公のウィンストン・スミスは、「真理省」の下級官吏として、過去を改竄する業務に従事する。
ウィンストンは、以前から「党」に不信感を持っており、過去が改竄されていることに気付いていた。
しかし、行動・思考が1日24時間監視される中においては、それを隠して生きるしかなかった。
ある日、ウィンストンは同じく下級官吏の若い女性ジュリアと出会う。やがて二人は恋に落ち、秘密の逢瀬を重ねるようになる。
しかし、男女の性愛すらタブーとされる世界において、それは破滅の道だった。
さらに、ウィンストンは「党」体制の転覆を目指して活動する「ブラザー同盟」と接触し、反抗の意志を更に強くしていくが、、、
上記があらすじ。
名作と語り繋がれるだけのことはあり、非常に濃厚な小説だった。
世界には、まだこんな素晴らしい作品があったのかと感動すら覚える。
作者のジョージ・オーウェルは、1903年に英領インドのベンガル地方(現バングラデシュ)生まれ。
名門イートン校で教育を受けた後、植民地警察としてビルマに赴任したが、帝国主義に幻滅し1927年に辞職。最底辺生活を体験するためパリやロンドンで放浪し、その後、作家に転身した。
彼の思想を体現するように、本作では全体主義国家への批判が終始描かれる。
独裁的寡頭政体が社会のすべてを握り、国民を監視し、恒常的戦争状態を創り出し、科学と技術の進歩を止め、貧困と不衛生に喘ぐ社会。まさにディストピアだ。
オーウェルは、この描写を通じて、いかに全体主義が悲劇をもたらすかを伝えようとする。
その狙い通り、小説でありながら、後世の政治学・監視社会論に多大な影響を与えている。
作中に登場し、「ブラザー同盟」が発行する「the book」は、人類史における階級闘争と過去の寡頭政体(ナチスドイツやスターリン体制など)を踏まえた上で、「党」を分析しており、示唆に満ちている。
「われわれはただ権力のみに関心がある。富や贅沢や長寿などは歯牙にも掛けない。われわれが過去のすべての寡頭政体と異なるのは、自分たちの行っていることに自覚的だという点だ。」といった具合に、政治、支配、自由、平等、思考、そして戦争を分析し、現状を描く。
このように、社会学的に興味深いだけではなく、エンタメとしての完成度も高い。
マッキンダー的世界観が現実となった社会が簡潔に描写され、抑鬱とそこからの解放、急落と絶望が読み応えのあるストーリーになっている。
拷問のシーンは凄惨だが、心理描写が上手いので、ある種の必然性を感じるようになっている。
また、主要キャラクターの設定も良い。
主人公のウィンストンは、平凡な人間だ。
飛び抜けて頭が良いわけでもなければ、体力があるわけでもない。意志の強さ、行動力も人並みだ。
そんな彼が、「党」への少しの反抗心によって悲惨な運命を辿ることになる。
この彼の凡庸さが普遍性、転じてこの世界の救いの無さを表現しているように感じた。
もう一人の主人公であるジュリアの方が、ウィンストンよりも頭が良くて、立ち回りが上手く、行動力も胆力もある。
しかし、彼女の「反抗」とは、自由奔放に生きることであり、それ以上でも以下でもない。体制を転覆させることなど夢にも考えないし、興味もない。
この女性特有のリアリズムというか、愚鈍さを上手く表現していると、個人的に感じた。
長くなったが、この小説がこれからも時代を超えて読み継がれる名著であることは疑いようがない。
一読の価値はある。