周木律の作品一覧
「周木律」の「数学者十和田只人」「楽園のアダム」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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小説・文芸
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Posted by ブクログ
感染症ともテロとも断定できない謎の大量死が四国で発生し、その原因を追う人々が巨大な危機に巻き込まれていくパニックサスペンスです。
コロナ禍を経験する前に出版されたということで、そのクオリティの高さに驚きながらも、想像しやすく軽やかにページが進んでいきました。
読んでいてまず感じたのは、“見えない恐怖ほど人間を簡単に追い詰めるんだな”ということでした。
犯人がいるわけでもなく、何と戦えばいいのかも分からない状況が続くため、事件そのものより社会全体が少しずつ壊れていく過程のほうが印象に残ります。
特に印象的だったのは、災厄が広がるたびに人間の本性が少しずつ露わになっていくところで、冷静さを失う人、責任を押し付ける人、それでも目の前の命を救おうとする人がいて、極限状態の中で人間の強さと弱さが同時に描かれていました。
先が気になって一気に読まされる力は強く、“災厄とは何か”という問い以上に、“非常時に人はどこまで理性的でいられるのか”という不安が最後まで残る一冊でした。
Posted by ブクログ
非常に素晴らしい一冊でした。
いつ以来だろうと思うくらい、読書している間、久しぶりにワクワクしっぱなしでした。
この一冊で、推理小説はこんなに面白いんだと再発見できる方が多く生まれることを祈るばかりです。
なぜ面白さを再発見できるか、と言いますところ、やはり構造学の観点で物事を見ようとする描写が随所に表れている点に尽きます。
構造学と聞くと建築のお話かな、と初めは受け取っていたのですが、それは数学の公理や物理芸術政治の要素に見立てた話にも置き換えられると(劇中で具体的に言葉にされずとも自ずと)考えられるように誘導され、その文脈のまま読み進めると、この殺人事件の構造、延いては推理小説の構造にも及ぶと気付くこともできます。
それは結果的に、これまで無意識のうちに楽しんでいた、いわゆる〝推理小説の造詣〟の類を巧みに言語化してもらえた気がしており、自分がどんな未知にワクワクしてきたか、どんな裏切りに驚いてきたか、を改めて味わうことができたと思います。
この気付きをもらえただけでも、読んだ甲斐があったというものです。
さて、個人的にさらに面白いと思ったのは、その推理小説の構造についてです。
具体的に強烈な描写がされているわけではなかったですが、推理好きなら一度は聞いたことのある〈フーダニット〉〈ホワイダニット〉〈ハウダニット〉という要素に分解して、劇中の殺人事件を捉えてみましょうと十和田は思考します。
普段から意識的に考えているわけではありませんが、この中でどれか一つ重要なものを選べと言われたら、自分であれば〈フーダニット〉を選びそうです。
次点で動機を慮って〈ホワイダニット〉、そしてあとは、きっと犯行上手くやったんでしょうと最も優先度の低い要素として〈ハウダニット〉を挙げそうな気がします。
ところが、この作品ではこの〈ハウダニット〉こそ至上命題として掲示し、あまつさえ〈フーダニット〉〈ホワイダニット〉は後回しでよい、なぜなら〈ハウダニット〉が強烈なので自ずと絞られてくるからだ、としているのです。
正直、目からウロコでした。しかし読書中、「誰が? なぜ?」という疑問を追いかける気持ちよりも「どうやって?」という疑問を追いかける気持ちのほうがずっと強まっていったのも事実でした。
突き抜けて面白い〈ハウダニット〉は、〈フーダニット〉〈ホワイダニット〉を征服する。この一冊は見事にそれを証明した一冊とも言えるでしょう。
そういえば、粗雑に扱われた〈ホワイダニット〉に対し、むしろそれこそ推理小説としての潔さだと妙に感じたのは印象的でした。まさに「殺したい人が殺したんだから動機なんて理解不能で結構だし、そこに頭のリソース割かなくていい」という、トリック色の強い推理小説らしさとも言えそうですね。個人的には、その方面で尖っているものは好きです。
今後の推理小説の読書体験に影響を与えそうな一冊で、とってもオススメです。