ALS(筋萎縮性側索硬化症)をわずらい、懸命に死と戦いながらも自身が一代で築き上げた医療グループ「徳洲会」を隅々まで見通す男、徳田虎雄。本書は彼の本格的な評伝です。壮絶な生き様です。
本書はジャーナリスト・青木理氏が描く”不随の病院王”徳田虎雄の本格評伝です。 本書が出版されてから読もう読もうと思っておりましたがつい延び延びになって、先日 やっとのことで読み終わりました。
いやはや…。 一代で日本でも最大規模の医療法人を作った男の なんとも苛烈なる生き様に読み終えたすぐのころは 頭の中が朦朧としました。
何でも、作者のインタビューを受けたころの徳田虎雄はALS(筋萎縮性側索硬化症) の闘病真っ最中のことで、身体を動かす神経系が壊れ、 全身の筋肉が縮んでいく難病であり、ホーキング博士や 空手家の芦原英幸氏がこの病気を患ったといわれております。
全身が動かない中、なんと彼はそれでも眼球の動きで 文字盤を追いながら、部下に指示を与えるという離れ業で、 彼が率いる徳洲会すべてに目を光らせ、筆者へのインタビューにも
「これからがじんせいのしょうぶ」
とうそぶいてニヤリと笑って見せる。
そんな彼が自身の「野望」を掲げ、貧困にあえぐ奄美大島から大阪大学へと進み、「命だけは平等だ」というスローガンの下、自らの「あるべき姿」へどんな手段を使っても猪突猛進で突き進んでいく姿に本当に度肝を抜かれてしまいました。
中盤以降で描かれる日本医師会との激しい対立や、選挙における政治活動の乱れ飛ぶ札束攻勢や自身の部下に逮捕者が出るまでの壮絶な死闘を繰り広げたという話や、壮絶な闘病生活への密着、故郷・徳之島の現地ルポ、盟友・石原慎太郎氏へのインタビュー(ここで筆者は「石原新党」について言及しているが石原氏は明言を避けている)などの取材を通じて「人間・徳田虎雄」の姿を浮き彫りにしております。
最新の医療機器を駆使して命を永らえている彼が見据えている「理想の医療」。その姿は彼がいなくなってからも追求されると思われますが、願わくばあと少しだけ、彼の「忘れられた日本人」としての生き様を見せてくれればとそんなことを夢想しております。
※追記
本書は2023年11月6日、小学館から『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王 (小学館文庫 あ 29-1)』文庫化されました。徳田虎雄氏は2024年7月10日、入院先の神奈川県内の病院で死去しました。享年86歳でした。合掌。