あらすじ
徳田虎雄氏の「正体」に迫る決定版評伝。
日本一の病院帝国を築いた徳洲会創設者・徳田虎雄氏がいま、己の「生」と向き合っている。ALSとは身体を動かす神経系が壊れ、全身の筋肉が縮んでいく難病だ。02年春に同病を患った徳田氏は、もはや全身の自由が利かない。
それでも眼球の動きで文字盤を追いながら、こう語るのだ。「これからがじんせいのしょうぶ」。
だがそんな徳田氏にも「運命の時」が近づいている。13年に徳洲会グループは、次男・毅氏の衆院選を巡る公選法違反容疑事件で東京地検特捜部の強制捜査を受ける。さらに徳田氏自身の病も進行し、眼の動きすらままならなくなる「完全なる閉じ込め状態」も、近く訪れるかもしれない。
窮地の徳田氏の「心奥」と徳洲会騒動の「核心」を気鋭のジャーナリスト・青木理氏が描く。
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Posted by ブクログ
ALS(筋萎縮性側索硬化症)をわずらい、懸命に死と戦いながらも自身が一代で築き上げた医療グループ「徳洲会」を隅々まで見通す男、徳田虎雄。本書は彼の本格的な評伝です。壮絶な生き様です。
本書はジャーナリスト・青木理氏が描く”不随の病院王”徳田虎雄の本格評伝です。 本書が出版されてから読もう読もうと思っておりましたがつい延び延びになって、先日 やっとのことで読み終わりました。
いやはや…。 一代で日本でも最大規模の医療法人を作った男の なんとも苛烈なる生き様に読み終えたすぐのころは 頭の中が朦朧としました。
何でも、作者のインタビューを受けたころの徳田虎雄はALS(筋萎縮性側索硬化症) の闘病真っ最中のことで、身体を動かす神経系が壊れ、 全身の筋肉が縮んでいく難病であり、ホーキング博士や 空手家の芦原英幸氏がこの病気を患ったといわれております。
全身が動かない中、なんと彼はそれでも眼球の動きで 文字盤を追いながら、部下に指示を与えるという離れ業で、 彼が率いる徳洲会すべてに目を光らせ、筆者へのインタビューにも
「これからがじんせいのしょうぶ」
とうそぶいてニヤリと笑って見せる。
そんな彼が自身の「野望」を掲げ、貧困にあえぐ奄美大島から大阪大学へと進み、「命だけは平等だ」というスローガンの下、自らの「あるべき姿」へどんな手段を使っても猪突猛進で突き進んでいく姿に本当に度肝を抜かれてしまいました。
中盤以降で描かれる日本医師会との激しい対立や、選挙における政治活動の乱れ飛ぶ札束攻勢や自身の部下に逮捕者が出るまでの壮絶な死闘を繰り広げたという話や、壮絶な闘病生活への密着、故郷・徳之島の現地ルポ、盟友・石原慎太郎氏へのインタビュー(ここで筆者は「石原新党」について言及しているが石原氏は明言を避けている)などの取材を通じて「人間・徳田虎雄」の姿を浮き彫りにしております。
最新の医療機器を駆使して命を永らえている彼が見据えている「理想の医療」。その姿は彼がいなくなってからも追求されると思われますが、願わくばあと少しだけ、彼の「忘れられた日本人」としての生き様を見せてくれればとそんなことを夢想しております。
※追記
本書は2023年11月6日、小学館から『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王 (小学館文庫 あ 29-1)』文庫化されました。徳田虎雄氏は2024年7月10日、入院先の神奈川県内の病院で死去しました。享年86歳でした。合掌。
Posted by ブクログ
ALSという病気、徳田虎雄さんという人、奄美諸島の歴史、医師会と徳洲会、選挙と政治のカネ、どれをとっても自分には知らなかったことばかりで、あっという間に読み終えてしまった。
自浄作用を持った組織としてこれからも存続して欲しいと思う。
Posted by ブクログ
トラオさん、近くにいると鬱陶しいと思うけど、こういう人がいるから革新はされていくんだろなと思わせる。
病気になってもとにかくエネルギッシュ。
まだご存命なので安心したけど、会の中でゴタゴタが起きてて今の時代やってくのはきついんだろうなと感じた。でも頑張って欲しいなあ。トップが夢を見させてくれるって組織の中にいる限りは居心地良いだろな。
Posted by ブクログ
徳洲会という病院を一代で築き上げた経営者の、壮絶な人生を振り返った話は、幼少時代の悔しい思いが、その後の医師になると言う方向を決めつけ、医師だけでは留まらず、政治に参戦したりと話題に欠ける事がない印象であるが、その志はぶれる事がなく、高尚な目的を果たす事に直向きに生きている姿が分かります。晩年、難病に罹ってもグループの指揮を執り続け、そのカリスマ性は誰も超える事が出来ない。
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異形の病院王、徳田虎雄の正体に迫るルポルタージュ。
幼少期に徳之島の貧しい一家で育ち弟を病気で亡くし、苦学の末に大阪大学医学部に入学する様子に始まり、徐々に病院を拡大させながら多額の金がばら撒かれた衆議院選挙当選を経て、鳩山政権時代の普天間飛行場の徳之島移設問題まで、徳田虎雄を巡る様々な出来事が語られていくが、そのどれもがすさまじく面白い。
文庫版終章では王国の終末として、2012年12月の衆議院選挙を巡る東京地検特捜部による徳洲会への捜査と、徳田虎雄の理事長退任の模様が追記されている。それから約5年が経った今、徳田虎雄が何をしているのかが気になるところではある。
Posted by ブクログ
徳田虎雄、全国に展開される徳州会の元理事長は、先般の公職選挙違反で一躍有名になったが、ALS (筋委縮性側索硬化症)に侵され寝たきりにながらも実験を握ってグループを率いていたという話も併せて広く知られるところとなった。本書は、公職選挙法違反により、徳州会の存在とその活動が世の中一般で広く知られるようにになる前に書かれたものだ。その事件の前後によって、おそらくは徳田に対する印象と評価がほとんど変わらないであろうということからもその稀有さがわかる。著者と同じく、自分もこの徳田虎雄を悪人だと断罪することができない。
「一般的には間違っているといわれるようなことでも、正しい目的を成し遂げるためなら、そのために使った手段もすべて正しくなってしまうんですよ(笑)」というグループ幹部の言葉が、徳田虎雄の選挙問題や医師会との軋轢に関するすべての論理であるように思える。
本書は、不治の業病であるALS罹患が結果として持つ意味と、そのALSに罹った上でいまだ強い意志を持って徳州会という団体に君臨する怪人徳田の物語だ。徳田がALSを患わなければ、またそれ以前に政治に出ていかなければ、どうなっていただろうか、と問うと同時にそんなことは無意味だと思う。当の徳田自身がそういった「たられば」とは最も遠いところで生きている。体の自由が奪われ、栄養の補給も人工的に行われ、いずれ呼吸も自律的にはできなくなり気管切開手術が必要となる。患者の意思の伝達は唯一残る目の動きで示す文字盤の位置によって行われるのみ。介護する家族にも、負担が重くのしかかる。徳田は、医師としてそこから逃れられないことを知りつつ、自らの思いに生きる。全身不随となってからも全国の病院の会議や数字を確認して、病室から指示を出すというのだから正直信じられない思いだ。それは、嫌われることを引き受けることで、自分の意志を通す、それができるのは自分しかいないという想いからの行動なのかもしれない。
「生命だけは平等だ」というスローガンを掲げ、「年中無休、24時間オープン」、「患者様からの贈り物は一切受け取らない」「困った人には健康保険の3割負担も免除する」というモットーを掲げ、幼き頃の弟の死から誓った離島医療の実現と、徳州会を世界へ拡げるという意志は衰えない。公職選挙法違反に問われたのは、自身の側近を切った意趣返しであったと言われているが、このように情報の入力経路が極端に限定された独裁者が全体をコントロールすることの危うさが伺える。
徳田が、ALSにかかる前に、死期がある程度わかるので、癌で死にたいと語っているが、その心性は理解できる。ALSに罹った上で戦う徳田の死生観として印象的な言葉ではある。
公職選挙法違反は間違いないが、そのことと徳州会が突き付ける医療問題、医師会の問題はないがしろにはしてはならないと思う。
Posted by ブクログ
ALSという難病にかかりながら、離島にも病院を、という理念を掲げ、大病院グループのトップを務め、政治に関わるバイタリティは、ほんとすごいと思う。
同じ病気にかかったら、、と想像してみたが、とてもやって行けないと思う。。
Posted by ブクログ
現在いろいろな方面から話題になっている徳洲会と徳田虎雄氏の現在、過去、未来を描いたルポ。次男の衆院選での公職選挙法違反、そして東京都知事猪瀬氏への5000万円など。
しかし、徳田虎雄にとって奄美の過酷な選挙を闘ってきた経験から、公選法違反など小さなもののようだ。ALS(筋委縮性側索硬化症)この難病と彼がいつまで戦えるのか?
Posted by ブクログ
著者はジャーナリストの青木理氏。
感想。私にとってはとても新鮮な世界。
備忘録。
・「生命だけは平等だ」
・「年中無休・24時間オープン」
・「急患は断らない」
・「患者からものは受け取らない」
・「保険の自己負担も困った人には免除」
・「冷暖房費無料」
・vs医師会
・医療改革→離島や過疎地にも充実した医療体制を
・政界進出
・保徳戦争
・自由連合、立候補者多数擁立→失敗
・石原新党
・小沢
・鳩山、徳之島移設
・バブル崩壊後RBSによる事業証券化で2000億円調達し邦銀借入を返済→リーマンショック後邦銀がリファイナンス
・2012年12月公職選挙法違反(職員の選挙応援=運動員買収)
・能宗
Posted by ブクログ
真似できないな。徳田虎雄という特異な人物像をみてそう思った。慣習にしたがっているようでは、飛び抜けることなんかできない。徹頭徹尾一貫した態度は作為的でないことの現れなんだろう。良し悪しは抜きで、真にイノベーティブな人物は我々一般人とは全く異なる動機から仕事をしているのだろうなと感じた。
そして何しろこの人の人生で一番スゴいのはルールなんか関係ない、俺が正しいと思ったら正しいんじゃい、と医者になってさえも貫き通した人生の終わりに、ALSという難病中の難病を煩い、病のルールに囚われていること。なんたる皮肉。