■超傑作
いや、面白すぎた。
今作は前作のような「葬儀屋に自らの葬儀を頼みに来た人がその日に死んだ」というそれだけで面白い設定や、「おばあちゃんが殺されたのはその息子をおびき寄せるためだけだった」といったシンプルかつ納得できるという意味でのインパクトがある作品ではないが、別ベクトルでまた極めて面白い作品だったと思う。
以下面白ポイントを列挙。
■面白さ①:多義的解釈
アンソニーが披露する推理も筋が通っているように見える。だがホーソーンに突っ込まれてみると、あれ、確かに、となる。そしてホーソーンが真相を話すという、同じ1つの出来事について別の見方がある、という点が面白い。
こういう作品は他にも多々あるし、それこそ『毒入りチョコレート事件』なんかはその皮肉だが、やっぱりこの形式は非常に好き。
■面白さ②:スカッと描写
アンソニーをさんざんいじめたクソむかつく警官に一泡吹かせる描写が気持ちいい。
■面白さ③:1つの要素の複数解釈
1)「182」という数字は「結婚記念日だ」「句集の182句目だ」「ネットスラングだ」という多重解釈。
2)ロックウッドとダヴィーナの密会は「2人のアリバイを成立させるものだ」「ロックウッドのアリバイを消すものだ」「ダヴィーナのアリバイを消すものだ」ときて「息子のアリバイをなくすものだ」という多重解釈。
ここらへんが面白すぎるし、凄すぎる。
■面白さ④:納得の犯人
なるほど確かに、犯人が子供であっちゃいけない理由はない。ただ勝手な先入観で「犯人は(大人のうち)誰だろう」と思ってしまい、まんまとやられた、という気持ちよさ。
■面白さ⑤:シャーロック・ホームズ
作中のアンソニーが自らの作品について語るのは前作も同じ。今作はホームズものの『絹の家』を書いた後、という設定で、作中の読書会では『緋色の研究』が取り上げられ、息子コリンはコナン・ドイルが好きであり、ホーソーンが言うホームズの伝説の名言「最後に残った物がどんなに信じられないことであっても真実」など、シャーロック・ホームズ関係の話題が相対的に多く登場。
前作でも別作者の有名著作がガンガン登場したので、まあそういう作風なんやな、と思うだけだったが、まさか今作では事件解決のキーになっているとは思わず、衝撃を受けたし、前作から読んでいる者としては、ここで使ってくるか!的な意味で見事だと思った。
それどころか、本作自体が『緋色の研究』や『四つの署名』に若干似せられているのも意図的だと思う。
『緋色の研究』や『四つの署名』、さらに『恐怖の谷』でも、コナン・ドイルの長編ホームズ作品は後半に「犯人の思い出エピソード」が挿入される(し、なんなら犯人は誰々、と明かされる前半より後半の思い出エピソードの方が好き)。
本作の最後に補遺としてグレゴリーの手紙が載せられているのも、グレゴリーは犯人ではないにしても、ホームズ作品に似せたのではないかな、と思った。