あらすじ
名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読み進めた編集者のわたしは激怒する。ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある? いったい何が起きているの? 勤務先の《クローヴァーリーフ・ブックス》の上司に連絡がとれずに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想もしない事態だった――。ミステリ界のトップ・ランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント。夢中になって読むこと間違いなし、これがミステリの面白さの原点!/解説=川出正樹
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Posted by ブクログ
入れ子式のミステリは何度か読みましたが、こんなに驚いたのは初めてかも。
まず、上巻を読み終えてすぐに下巻を開いたら「あれ?本を間違えた?カバーはカササギ殺人事件の下巻だけど、中身は別の本?」とカバーを外したこと。
そして、解説の川出正樹さんも書いていらっしゃるけれど、当に自分も同じ行動を起こして、作者のしてやったりに上手く嵌められたこと。
次にビックリしたのが、『羅紗の幕が上がるとき』と『死の踊る舞台』を読み比べたとき。
ホロヴィッツのプロ作家と素人の文章の書き分けもさることながら、翻訳の山田蘭さんが素晴らしい。
ドナルドの作品は素人の私が読んでも「読みづらい上に荒いなぁ」と思ったほど。
このまま『羅紗の幕が上がるとき』を読ませてくれよ!と思うだけでなく、アティカス・ピュントシリーズを全部読んでみたいと思いましたもん。
なんでここで聖書のカインが出てくる?と感じた違和感や散りばめられた伏線が回収されていく快感、ここに来てる方たちは皆さん味わったんですよね笑
こりゃ全世界でベストセラーになるわと帯を見て首肯するしかありませんでした。
Posted by ブクログ
ここまで心惹かれて一気に読んだ作品はほかにはないかも…。上下巻というボリュームをあっという間に読んでしまった…。小説の中に小説が入ってるなんて、だれが最初に気付けるだろう…。下巻を60ページほど読み返したこと、全然後悔してない!感想を書いている今も、また上巻を開いてしまいそうな気がしている。
Posted by ブクログ
ずっと読みたかったけど、なんだか海外ミステリーには読みにくい先入観があってなかなか手が出なかった。でもそんな食わず嫌いを一気に帳消しにしてしまうくらい面白かった。
上下巻で構成が違うので少し混乱したけど、最後までわくわくしながら読んだ。
もっと早くに読むんだったなー。
Posted by ブクログ
ーーーあらすじーーー
舞台はイギリスの小さな町。男爵の所有するパイ屋敷で、家政婦が階段から転落し死亡してしまう。鍵のかかったお屋敷でひとり、掃除機のコードに足を引っ掛けたのか、あるいは…。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。余命わずかな名探偵、アティカス•ピュントが謎を解き明かす。
ーーーーーーーーー
上巻では、いつものミステリを読む如く、探偵と肩を並べて真相に向かってずいずいと読み進めた。イギリスのジメジメした感じ、これがまたミステリに深みを加えてくれる。満足、まんぞく……
と思いきや、下巻!
真相が明らかにされるかと思いきや、寸止めのまま、現実の物語に引き戻される。読者としての心境としては、そわそわ、ざわざわ。じっくり一つの謎を解いていきたいのに、どうしてくれんねん!
でも最後まで読むと、このうずまく心理でさえ著者の思う壺だったのだとわかる。すごすぎです、このミステリ。再読必須。
>>p.259
ミステリとは、真実をめぐる物語であるーそれ以上でもないし、それ以下でもない。確実なことなど何もないこの世界で、きっちりとすべてのiに点が打たれ、全てのtに横棒の入っている本の最後のページにたどりつくのは、誰にとっても心の満たされる瞬間ではないだろうか。わたしたちの周囲には、つねに曖昧さ、どちらとも断じきれない危うさがあふれている。真実をはっきり見きわめようと努力するうち、人生の半分は過ぎていってしまうのだ。ようやくすべてが腑に落ちたと思えるのは、おそらくはもう死の床についているときだろう。そんな満ち足りた喜びを、ほとんどすべてのミステリは読者に与えてくれるのだ。それこそが存在意義といってもいい。だからこそ、『カササギ殺人事件』はこんなにも、わたしの苛立ちをつのらせる。
Posted by ブクログ
小説の中の結末の欠けたミステリ小説、そしてその作者の不審な死の2つ謎を追っていく
途中、主人公が頭の整理をするという名目で容疑者のリストやその人物が疑われる理由がまとめられており、読みながら一緒に推理をしたい方にはうってつけの作品
Posted by ブクログ
なんとも凝った作りの作品。
評価は上下巻を通したもの。
この下巻では現実世界での事件を女性編集者が謎解きをする。上巻の作中作のフーダニットと現実世界の事件のフーダニットが見事に解き明かされるのだが、その鮮やかな切れ味に私は見事に騙され翻弄された。
構成が複雑なので、ミステリーを読み慣れてないと戸惑いを感じる可能性もあるし、上下巻に分かれているのが、登場人物の確認をするのに不便な所でもどかしくもあった。それがリーダビリティを損なったのは残念である。が、それを補って余りある傑作であるのは間違いない。主人公の女性編集者の活躍は良質な冒険小説を読んでいる趣きもあった。
Posted by ブクログ
⭐︎オーディブルにて聴了
全く自分が想像していない人がそれぞれ犯人だったので、聴きながらうっかり「えっ!?」と言ってしまい恥ずかしかった。(外出中だった)
それくらい面白い作品だった。
スーザンの推理力と行動力と好奇心は素晴らしいなと思った。彼女のように正義感が強く懐疑心があり、積極的に物事を取り組むような人は、周りから少し嫌われやすいなと思ったので、自分も気をつけようと思った。(初めて登場人物から色々学んだ。)
最近、ミステリー小説を読むことから遠ざかっていたけどやっぱ面白いなぁと思ったのと、ミステリーはやはり英国じゃないと!と再認識させられた良い作品だった。
めちゃめちゃ面白い
もともと作者の方が脚本担当されていたドラマ(名探偵ポワロの初期と刑事フォイル)が面白くて大好きで、ミステリー小説を出されていたと知って早速購入したのですが、めちゃめちゃ面白かったです。味わってじっくり読むつもりが先が気になってあっという間に最後まで読んでしまいました。解決編の伏線の回収が気持ちいいです。また作中作のクリスティー愛溢れかえっている雰囲気もさすがでした(名探偵ポワロのドラマがもう一度観たくなりました笑)
一粒で2度美味しい
読み終えてビックリ
この本はミステリー好きなら出会えて良かったと思える作品です。
小説トリックと言えばいいのかな
下巻を読み始めたら誰もが「なに?なに?なにー?」となるのではないでしょうか。
最近は過激な内容で後味の悪いミステリーが多い中、宝石のような小説だと感じました
Posted by ブクログ
アティカス・ピュントシリーズ、一作目。
作中作という形式で描かれる斬新な構成。
上巻でアティカス・ピュントの物語にすっかり入り込んだ後、下巻を読み始めて思わずやきもきした人も多いだろう。
オールドミステリーの形式を取るアティカス・ピュントの物語と、それを取り巻くどろどろとした現実の物語。
チャールズが殺人を犯したのは果たしてお金のためだけだったんだろうか?物語を冒涜されることへの怒りだったのでは?
上巻は古典ミステリをゆっくりと楽しみ、下巻に入ってからは目まぐるしいストーリーを楽しむという一作で二度美味しい構成でした。
Posted by ブクログ
さて、下巻を読む段で私は一旦スローダウンしました。
劇中劇の外枠、アティカス・ピュントの最新作を扱う編集者の世界に戻って来ています。
早くアティカス・ピュントの事件の結末が知りたいのにとウズウズしていると、物語の展開は私の思いもよらない方向に展開していきます。
・・・
個人的には、結論はややしりすぼみ的に感じましたが、下巻の展開にはゾクゾクきました。この下巻の展開、まさか上巻と…という、ここですよ、ここ!!!
これは面白い。
・・・
ということで、2019年本屋大賞翻訳小説部門の第一位作品を堪能させて頂きました。
ちなみに、英語のオリジナルですが、分冊されておらず一冊です。翻訳に際して分冊したようですが、非常に良いアイディアであったと思います。
分量だけに限らず、入れ子構造が明示的になりますし、翻訳サイドの工夫を感じます。
推理小説好きは読むべき本ですね。分量的に数日、ひょっとすると一週間弱くらいかかるかもしれませんが、下巻の驚きを是非味わって欲しいなあと。
既読の方、下巻で驚きましたよね? ほかの方の意見も聞いてみたくなります。
Posted by ブクログ
7年ぶりに再読。
主人公の年齢に近くなった分、前より好きになったかも。
私の読み方もあるけど、スーザンに感情移入できるかで結構話の面白さが違うと思う。
たとえば、ライトノベルの挿絵にできるような「かわいい新人編集者」みたいな人だったらエンタメ性もあがっただろうけど。
そういうコテコテのエンタメ性は劇中劇の「カササギ殺人事件」にまかせて、外側の世界は現実を生きる。
嫌な奴も、いい人も。良いように思い込みたい人も。利害も、摩擦も、親愛も、いい意味で温かくも冷たくもあり、温度を感じる。
英語で読めたらアナグラムの楽しさや、アガサ・クリスティの世界との結びつきの楽しみも増しただろうし、執拗に言語に拘るアランの嫌らしさと高度な技術に唸っただろう。
わからなくても見事なパズルの快感と、謎ときのストレスから開放される、ため息をつくような読後感が最高だった。
Posted by ブクログ
下巻の初めの方で、カササギ殺人事件の主要人物についてスーザンが思考しながら整理してくれているのがとてもわかりやすくて良かった!
アランはカササギ殺人事件に何を隠したのか?アランは殺されたのか?事故か?カササギ殺人事件の犯人は?結末は?先が気になり一気読み。性格……ひねくれてる。。
この後ドラマも見ることで(アンソニーホロヴィッツ脚本)さらに原作の面白さが増した。
Posted by ブクログ
間違いなく初めて読んだ構成の小説。現実世界と、作品の中の世界、二重に事件が起きて、編集者のスーザンが探偵役となって現実世界の謎を探っていく。一つの作品を読んで2倍楽しめる。現実でも作中作でもたくさんの伏線が散りばめられていて、とにかく作者はすごいなぁと。構想から完成まで15年かかったのもうなずける。
Posted by ブクログ
約5年ほど積読してた本作。
ようやく読み終わりました!
上下巻の圧倒的なボリューム読み応えありです
登場人物の多さで頭がこんがらがるところもあったけど頑張って読み進めていくと
上巻のラストのあの展開のと下巻の掴みに
雷を打たれるような衝撃。
惹き込まれました
そしてラストまで夢中で読んでしまった
上巻を頑張って読んでくれたら下巻面白さが爆発してる作品だと思うのでこれから読む人は頑張って!!ボリュームがとにかくすごい作品。
そして現代のミステリーを語るなら外せない作品。
Posted by ブクログ
作中作の犯人も、本編の犯人も、どっちもはやく知りたくて一日中読んでしまった。おかげで休日がつぶれましたよ(幸)
この『カササギ殺人事件』という作品のなかでふたつのミステリが進行し、交錯しているという状態。しかも上巻をまるごと作中作にあてるという大胆な構成。いったいどうやって収拾がつくのかしらと思いながら読んでいたけど、ちゃんとつながった。感心しちゃった。さすがに登場人物がこんがらがって、「ン?」ってなる瞬間はあったけど、本作の構成を考えたらじゅうぶん読みやすかったと思う。続きが気になってどんどんページをめくってしまう読書はやっぱりたのしいな〜!
Posted by ブクログ
ハヤカワ ミステリ マガジンの
21世紀翻訳ミステリ ベスト!で
堂々の第1位。再読。
2016年、この作品で
ホロヴィッツは
ミステリ作家としての地位を確立し、
その後の躍進につながった。
それまではヤングアダルト向け小説や
サスペンスドラマの脚本家として
成功を収めていたベテランが
還暦を超え、この作品を著し、
さらに続々とヒット作を連発したのだから、
もう驚くほかない。
再読して改めて思うのは、
編集者スーザン・ライアンドの
新作ミステリ原稿の消えた結末を探す物語と、
そのミステリ原稿「カササギ荘殺人事件」の
見事すぎる入れ子構造の斬新さだ。
構想から完成まで20年近くかけたという本作は
この入れ子構造、伏線回収、驚くべきフーダニットで
これまでのミステリを完全に凌駕している。
そして、読みやすい文体と語り口で
グイグイ引っ張っていく。
確かに21世紀翻訳ミステリベスト!
間違いない傑作だ。
もちろん、21世紀ミステリなので、
いわゆる古典ミステリは入ってこない
ランキングであることはご承知おきを。
何度読んでも
その構成の見事さに
うならせられる。
Posted by ブクログ
ずっと読みたいと思っていた本。ようやく読めた。
作中作の殺人事件と現実の殺人事件の二重構造になっているのがミソ。上巻の冒頭で作中作であることは分かるが、それがどういう意味を持つのかは下巻でようやく明かされる。
多くのレッドヘリングに惑わされた。脅迫文の宛名に「サー」の尊称がおかしいということに気づけず悔しい。牧師の裸体信仰に気づくのは無理。
Posted by ブクログ
上巻とは打って変わってアティカス・ピュントシリーズを手がけたアラン・コンウェイが実際に死亡した事件を編集者が追っていく構成になっており、斬新な印象を受けました。物語を追っていくに従ってアラン・コンウェイの性格の悪さが目立ち、ある種尖った性格が作家として大成した理由でもあるのかなと感じた。こうした斬新な展開はあまりないと思うので新鮮さを味わえます。
Posted by ブクログ
下巻では物語の場面がすっかり変わっている。劇中劇をうまく使った素晴らしい攻勢で、いっぺんに二つの推理小説を楽しめたような気がする。お勧めできる本だった。
Posted by ブクログ
本を開いて登場人物のページを見た瞬間、驚いた。知った名前が全然ない、つまり上巻での登場人物と異なるのだ。本を間違えたと思った次の瞬間、上巻の冒頭に妙な前書きがあったのを思い出した。それを読んだとき、この小説はメタ構造になっているのかと思ってはいたのだが、その後の小説の面白さにすっかり忘れてしまっていた。読み進めるとやはり前書きの筆者が主人公となって、上巻は結末の失われた小説としての小道具となり、新たな殺人事件に挑むこととなる。今までに味わったことのない展開と上巻の物語の結末がおあずけ状態のせいで、暇があれば本を取り、ページをめくってしまう。巻末近くで上巻の真相が語られ、ようやく人心地つく。お腹いっぱい、ごちそうさまでした。上巻を読んで作者のサービス精神に感心したが、まだそれはこのコース料理の折り返し地点であって、下巻でまた前菜からメインまで出されてお腹ははちきれそうである。二つの物語の結末がどちらも後味の悪いものであること(特に下巻の殺人動機である”探偵の名にひそむ忌まわしい真実”が「たいした問題にならなかった」というオチは虚しさを増幅させる)と、下巻の主人公に主人公的な魅力が少ないことが私的な不満点だが、これだけのものを作りあげた作者には驚嘆と称賛を禁じ得ない。
Posted by ブクログ
久しぶりにすっごい面白い推理小説だった!
有名だからなんだかんだ読むの後回しにしてたけど、読んでよかった。
作中作も読みやすくて、構成としてすごく考えられてるなと感じた。
現実世界とリンクしてるところも惹きつけられたし、何より小説世界の登場人物も細かく心情が描かれていて、全員が怪しいところがあるのが良かった。
最後の展開まで予想できなかった〜
Posted by ブクログ
「この本は、わたしの人生を変えた。」
僕の感想ではない。
物語冒頭にて、出版社で働く主人公が自分のもとに届いた作品に対して言った台詞である。
(この後にこんな惹句はよく聞く云々と続くのだが、日本語に訳す際に惹句という日本語を選ぶセンスに唸った事も書いておきたい。)
その台詞の通り、一人の編集者が一作のミステリーに人生を大きく動かされる話。
その一作のミステリー小説が『カササギ殺人事件』というタイトルであり、その物語を巡って主人公が振り回されるというのがこの本の大筋。
少しややこしいが所謂二重構造の作品になっている。
作中作であるとはいえ、この『カササギ殺人事件』の完成度が素晴らしい。
登場人物の精神状態などの描写、あちこちに張られていく伏線、魅力的な主人公。
作中作という事を忘れかけている最中、現実に引き戻されるとんでもない事が。
ボリュームが多く、登場人物に曲者が多い為やや間延びしてしまう所もあったが、引き込まれて読んでしまう非常に面白い作品でした。
これはあくまで僕個人の好みの問題ですが、やっぱり日本人作家の日本語遊びが好きなのかな、とも思いました。
あ
面白かったです。ミステリーがふたつあって倍楽しめた気がします。始まりが不穏だったのでいろいろあったけど主人公の編集者さんがハッピーエンド?でよかったです。
Posted by ブクログ
〇 総合評価 ★★★★☆
〇 サプライズ ★★★☆☆
〇 熱中度 ★★★★☆
〇 インパクト ★★★☆☆
〇 キャラクター★★★★☆
〇 読後感 ★★★☆☆
〇 希少価値 ★☆☆☆☆
作中作『カササギ殺人事件』は、1950年代半ばのイギリスの田舎町を舞台とした本格ミステリ。アガサ・クリスティへのオマージュを感じさせる作風であり、登場人物の多くが何らかの「秘密」を隠し持っているために、真相が隠されるという構成。作中作だけを見ると、ややサプライズ感は薄いが、丁寧に作られた良作。ロバートが14年前に弟であるトムを殺害した事件がベースとなる。メアリが事故死をしたが、彼女が死亡したことで、残した手紙からロバートの秘密がマグナスに知られてしまう。そのため、ロバートがマグナスを殺害する。このシンプルな構成を隠すためにさまざまなミスディレクションが仕掛けられている。ロバートは手紙を探すためにマグナスの屋敷に侵入し、その事実を隠すために銀製品を盗む。その途中で落とした銀のバックルをブレントが拾い、ホワイトヘッドが経営する骨董屋に売る。そのことからピュントは湖に銀製品が沈んでいることを推理する。
クラリッサ・パイは本当はマグナス・パイより先に生まれていたが、エドガー・レナード医師がマグナスの母に脅され、マグナスが先に生まれたという嘘の出生証明書を書いた。このこともミスディレクションとして描かれる。エミリアとアーサーの教会の牧師夫妻はヌーディスト。二人で森で裸でいる写真をメアリに知られてしまう。これもミスディレクションとして描かれている。
最大のミスディレクションはロバートの弟のトムの存在。トムの死の原因がロバートにあり、メアリはロバートがこれ以上犯罪しないように目が届くところに置いていた。ロバートとジョイの結婚に反対したのも、ロバートからジョイの家族を守るため。これをメアリはロバートを溺愛していると誤信させるような書き方がされている。これら多数のミスディレクションと隠された秘密から、シンプルな真相――メアリは事故死、マグナス殺害はロバート――が示される。作中作だけを見ると傑作とまではいえないが、丁寧に書かれた良作。
これを、編集者であるスーザンが『カササギ殺人事件』の結末部分を探しながら、その作者アラン・コンウェイを殺害した犯人を捜すという話が覆う形の構成となる。作中で、『カササギ殺人事件』の登場人物は、スーザンが取り組むアラン殺害事件の関係人物をモデルとしていることが分かる。また、アラン・コンウェイが書いてきたという架空のシリーズ「アティカス・ピュント」シリーズには、さまざまなアナグラムや名前の遊びが隠されていることが分かる。作中作『カササギ殺人事件』の登場人物に被せる形で、現実世界の登場人物が描かれる。
アラン・コンウェイには素人のアイデアを盗んだという疑惑が出てくる。不治の病で、殺害する意味もなさそうだが、殺害されたとすると容疑者は多い。同性愛の恋人であり、アランが数日生き残れば遺産のほとんどを相続できなかったジェイムズ・テイラー(作中作のジェイムズ・フレイザーのモデル)、アランの姉クレア・ジェンキンズ(クラリッサ・パイのモデル)、ピュントシリーズの映像化を計画しアランのわがままに振り回されていたレドモンド、アランから学生時代にひどい目に遭わされたロブスン牧師(オズボーン牧師はそのアナグラム)などが挙げられる。
現実世界の主人公=探偵役のスーザンは、恋人アンドレアスから結婚を迫られ、仕事を辞めてほしいと言われる。作中作『カササギ殺人事件』の結末部分の所在を探しながら、駅で偶然ジェマイマと出会うことなどからチャールズが犯人という真相に気付く。
現実世界の真犯人もそこまでサプライズはない。アランを恨む人間ばかりで、誰が犯人でもおかしくない構成。それだけに誰が犯人でもそこまでの意外性はない。チャールズが犯人でも大きな驚きはなかった。彼の動機――アティカス・ピュントは "a stupid cunt" という英語圏で非常に下品な言葉のアナグラムであり、アランがそれをマスコミにばらしてシリーズを潰そうとしたことを阻止するため――には説得力がない。そんなことで本当に売れなくなるとは思えない。この点は英語圏との文化差かもしれない。
二つのミステリを読むような構成のため、下巻の導入部分ではやや没入感が削がれる。この点は熱中度を割引せざるを得ない。下巻は下巻で面白いが、作中作の真犯人が下巻のラストまで分からないのはやや引っ張りすぎか。それでも作中作は良作であり、現実世界との絡みも良い。総合的に見ると、現実世界も作中作も丁寧に描かれている。読む前の期待が高すぎた分、損したような気持ちもある。欠点はフェアすぎて意外性が少ないこと(期待値が高すぎたのもある)と、アラン殺害の動機の弱さ。丁寧な作品だが、強烈なインパクトには欠ける。★4の評価で。
〇 メモ
★ 全体
上巻は作中作『カササギ殺人事件』についての描写。最後のセリフは「(マシュー・ブラキストンを示し)自分の妻を殺したのだ」という描写で終わる。
下巻はピュントの謎解きから始まるのではなく、スーザンによる容疑者の推理。ブレントについて「謎解きミステリ第一の法則『もっともあやしい容疑者はけっして真犯人ではない』に引っかかる。したがってブレントは犯人ではないのだろう。」というメタ的な発言まである。
アラン・コンウェイは下巻の序盤で死亡する。「遺書」と思われる手紙が届いていたことが分かる。手紙は手書きだが、封筒はタイプされていた。
スーザンは『カササギ殺人事件』の結末部分の原稿を探す。スーザンはジェイムズ、カーン、クレアに会って話を聞くが、『カササギ殺人事件』の原稿は見つからない。
スーザンはアランの死が自殺ではなく、殺人ではないかと疑う。アイヴィー・クラブのウェイターであるドナルド・リーから、アランが自分の作品のアイデアを盗んだという話を聞く。ドナルドから、アランとチャールズの会話を聞いた可能性がある人物がマシュー(アガサ・クリスティの孫)だと聞き、マシューの話を聞く。アランは「私は決して受け入れないぞ。そんな――」と言っていたという。
スーザンとチャールズはアランの葬儀に参加。牧師のロブスンに出会う。また、ピュントシリーズをドラマ化しようとしていたプロデューサーであるレドモンドに会い、アランとドラマの配役などで揉めていたことを知る。アランの姉、クレアがアランについての文章を書き、スーザンに渡す。スーザンは牧師のトム・ロブスンとも話をし、トム・ロブスンがアランにぞっとするような写真を撮られ、恨んでいたことを知る。
スーザンはジェイムズと酒を飲みながら話をし、アランがピュントのシリーズにアナグラムなどの言葉遊びを隠していたということを知る。スーザンとホワイトの会話。アランは投資の失敗からホワイトを訴えると言っていた。
スーザンのもとに、ドナルド・リーから原稿が届く。アランがドナルドの着想を盗んでいたのは間違いない。スーザンに封書が届く。それはジョン・ホワイトがアランを殺害しようとしている場面を写した写真が入っていた。
スーザンはアラン殺害の容疑者の一人と考えている、アランの元妻メリッサに会いに行く。メリッサから、かつてメリッサとアンドレアスが付き合っていたことを知る。アンドレアスにはアランを殺害する動機があるのか。
メリッサの話を聞いて帰る途中、スーザンはアランの作品に隠された秘密に気付く。アランのこれまで出した作品の頭文字を繋げると「アナグラム解けるか」というメッセージになるのだ。
スーザンは駅で偶然にチャールズの元秘書、ジェマイマに出会う。ジェマイマは自ら退職したのではなく、チャールズに解雇されていた。そして『カササギ殺人事件』の原稿は、スーザンが聞いているより早く届いていたという。
スーザンはクローヴァーリーフ・ブックスに行き、チャールズの机から『カササギ殺人事件』の結末部分の原稿を見つける。この原稿はアラン殺害の手掛かりになるので、チャールズに隠されていたのだ。
真相が明らかになる。アランを殺害したのはチャールズ。アランは自身が不治の病であることを知り、自らが作り出したアティカス・ピュントに隠されたアナグラム(a stupid cunt)をラジオなどで明らかにし、どうせ死ぬならアティカス・ピュントを道連れにしようとしていた。チャールズはそれを阻止するために、アランを殺害した。チャールズはアランが送ってきた手紙の三枚目に、『カササギ殺人事件』にあるピュントの手記を挟み込み、遺書に偽装した。そのため、『カササギ殺人事件』の結末部分を隠した。
スーザンから自首するように勧められたチャールズは、スーザンを殺害しようとする。スーザンはアンドレアスに助けられる。
クローヴァーリーフ・ブックスは倒産。スーザンはアンドレアスと結婚し、クレタ島でホテルの仕事に携わる。
★ 作中作「カササギ殺人事件」について
サクスビー・オン・エイヴォンという村を舞台にした古風なミステリ。メアリが階段から落ちて死亡。メアリの葬式から物語が始まる。謎の人物が葬式の途中で退席する。ジョイがピュントに、メアリの死がロバートの仕業でないことを証明してほしいと依頼するが、ピュントはその依頼を受けない。
サー・マグナス・パイが殺害される。これをきっかけとしてピュントが捜査を始める。サクスビー・オン・エイヴォンでのピュントの捜査。この村の人間は何か「秘密」を隠している人物が多いと感じさせる描写が続く。
メアリが書いた日記が見つかる。メアリは村中の人のあら探しをしていたような日記であり、特にブレントとホワイトヘッドに対して悪印象を抱いていた。ジョイについても、ロバートとジョイの結婚に反対する記載がある。
ブレントは道で拾った銀のバックルを、ホワイトヘッドの骨董品屋に売る。これはパイ屋敷から盗まれたと思われる銀製品の一部だった。
オズボーン牧師夫妻の尋問。夫妻が何か秘密を隠しているような描写。
ピュントによるジョイとロバートの尋問。メアリが死亡したときの二人の様子や、ロバートの子どもの頃のエピソードが描写される。
アーサーが描いたフランシス・パイの肖像画が処分された理由は、サー・マグナス・パイがフランシス・パイと喧嘩した際に怒って絵を切り刻んだからということが分かる。
クラリッサ・パイが本当はサー・マグナス・パイより先に生まれていたが、レナード医師が嘘の出生証明書を書いていたことを知る。また、エミリアの病院から毒を盗んでいたのはクラリッサ・パイだった。
ウィーヴァー夫人がサー・マグナス・パイに脅迫状を出していたことが分かる。
湖から、サー・マグナス・パイ屋敷から盗まれたはずの銀食器が見つかる。犯人はなぜ、せっかく盗んだ銀製品を湖に捨てたのか?
ロバートの弟であるトム・ブラキストンは、少年時代にパイ屋敷の庭の湖に落ちて死亡していた。
上巻は、メアリの夫マシュー・ブラキストンを示し、「あの男こそは、この事件のきっかけを作った人物なのだからね」「自分の妻を殺したのだ」というピュントのセリフで終わる。
下巻の最後で結末部分が見つかり、真相が明らかになる。メアリは事故死。マグナス・パイを殺害したのはロバート。ロバートは14歳のときに弟のトムを殺害していた。メアリはそのことを知っており、「世間」からロバートを守るためにロバートを見守っていた。メアリは自分がロバートに殺害されたときのために、マグナスにロバートのことを書いた手紙を残していた。ロバートはその手紙を取り戻すためにパイ屋敷に侵入し、見つからなかったため、偽装のために銀製品を盗み、池に沈める。
★ 登場人物
○ スーザン・ライランド
物語のヒロイン。上巻のプロローグから登場するが、名前が判明するのは下巻の18ページ目。
○ アンドレアス
52歳。ギリシャ語の教師で、学校の休暇中はギリシャに帰省する。
○ アラン・コンウェイ
ミステリ『アティカス・ピュント』シリーズの作者。下巻の冒頭で死亡が明かされる。
○ チャールズ・クローヴァー
スーザンが勤める出版社「クローヴァーリーフ・ブックス」の社長
○ ケイティ
スーザンの妹。アランをスーザンに紹介する。
○ ジェマイマ・ハンフリーズ
クローヴァーリーフ・ブックスの従業員。すでに退社している。
○ ジェイムズ・テイラー
アランの交際相手だった男性。作中作のジェイムズ・フレイザーのモデル
○ クレア・ジェンキンズ
アランの姉
○ サジッド・カーン
アランの顧問弁護士
○ ジョン・ホワイト
ヘッジファンド・マネージャー
○ ドナルド・リー
アイヴィー・クラブのウェイター。スーザンに対し、『羅紗の幕が下りるとき』は自分のアイデアを盗まれたと話す。
○ マシュー・プリチャード
アガサ・クリスティの孫。アイヴィー・クラブでのアランとチャールズの会話をスーザンに語る。
○ トム・ロブスン
牧師。アランの葬儀に参加
○ レドモンド
ピュントシリーズをテレビドラマ化しようと計画しているプロデューサー
○ メリッサ・コンウェイ
アランの元妻。スーザンの恋人アンドレアスと過去に交際していた。
★ 作中作『カササギ殺人事件』の登場人物
○ メアリ・エリザベス・ブラキストン
階段から落ちて死亡する。村の多くの人物の秘密を知っていた人物。
○ ロバート・ブラキストン
メアリの息子。ジョイ・サンダーリングと婚約している。過去に弟トムを殺害していた。マグナスを殺害した犯人
○ トム・ブラキストン
ロバートの弟。少年時代、パイ屋敷の庭の湖に落ちて死亡した。
○ マシュー・ブラキストン
メアリの夫。メアリの死後、サー・マグナス・パイを訪ねてパイ屋敷を訪れる。
○ ジョイ・サンダーリング
レッドウィング医師の病院で働く従業員。ロバートの婚約者。ピュントに捜査を依頼するが断られる。村の掲示板に、メアリ殺害の時間にロバートと一緒にいたという声明文を出す。
○ サー・マグナス・パイ
屋敷で殺害される。メアリに宛てた手紙を保管していた。作中作で2人目の被害者
○ レディ・フランシス・パイ
サー・マグナス・パイの妻。不倫していた。
○ クラリッサ・パイ
マグナスの妹。実は兄より先に生まれていたが、出生証明書を偽装された。エミリアの病院から毒を盗んでいた。
○ エミリア・レッドウィング医師
医師。フィゾスチグミンという毒を紛失した(盗難された)。そのことをメアリに相談した直後、メアリが死亡する。
○ アーサー・レッドウィング
エミリアの夫。画家であり、フランシス・パイの肖像画を描いた。
○ ロビン・オズボーン牧師
村の牧師。ディングル・デルという森が宅地開発で売られることを憎み、サー・マグナス・パイに敵意を抱いていた。夫妻でヌーディスト。これはミスディレクションとして描かれる。
○ ヘンリエッタ・オズボーン
ロビン・オズボーンの妻。夫婦そろって秘密を抱えている。
○ ブレント
パイ屋敷の管理人。道に落ちていた銀のバックルを拾い、ホワイトヘッドの骨董品店に売る。
○ ジョニー・ホワイトヘッド
ロンドンから引っ越してきた骨董品店の店主。ブレントから銀のバックルを買い取る。
○ ジェマ・ホワイトヘッド
ジョニー・ホワイトヘッドの妻
○ ウィーヴァー夫人
エミリアの病院やクラリッサの家の清掃をしていた老人。エミリアの病院のタイプライターを使うことができた人物。サー・マグナス・パイに脅迫状を送っていた。
○ ジェフ・ウィーヴァー
教会の庭の手入れをしていた老人
○ ジャック・ダートフォード
フランシス・パイの不倫相手
○ エドガー・レナード医師
元医師。エミリア・レッドウィングの父。マグナスとクラリッサの出生時に、マグナスが先に生まれたという嘘の出生証明書を作成した。
○ アティカス・ピュント
探偵。ヒトラーの強制収容所を生き延びた人物。末期がんを患い、あと2~3か月の命とされている。最後はクラリッサが盗み出していた毒=フィゾスチグミンで自殺する。
○ ジェイムズ・フレイザー
ピュントの秘書。現実世界のジェイムズ・テイラーのモデル
○ レイモンド・チャブ警部補
ピュントと旧知の警部補。メアリとマグナスが死亡した事件の捜査を行う。
Posted by ブクログ
上巻のオールドミステリー感ある雰囲気はすごい好みだったんだけど、下巻での予想外の展開に若干失速してしまった...欲を言えばピュントの活躍をもうちょっと見たかったなぁ
Posted by ブクログ
上巻は冒頭以外は作中作のオールドファッションミステリで、アガサ・クリスティのポアロの世界観。
登場人物が多くてちょっと辟易してしまうけど、いかにもオールドファッションミステリらしいキャラクターで、それぞれに怪しくて、人間関係が絡み合っていて、少しずつベールを剥がすように真実が明るみになっていくのが面白い。
下巻に入ると、上巻の作中作が残るは結末のみという良いところで終わっていることが、それを読んでいた編集者の視点で明かされる。
その後に起きた事件と作中作に関連がありそうなことが判明してからは、とてもワクワクしながら読み進めた。
主人公は完全に読者目線で、事件について探偵のような調査を行うのが、とても新鮮でこれまでにない感じで面白かったが、作中作に比べて内容が薄いように感じた。
作中作のオールドファッションミステリと差を出すべく、書き分けているのだと思うけれど、とんとん拍子に調査が進んで、紆余曲折もなく犯人に辿り着くのは少し拍子抜けに感じた。
構成はとても面白いと感じたけれど、現代最高峰のミステリという謳い文句はいささか疑問を感じる。
Posted by ブクログ
むむむ確かに構成はスゴい、見事としか言いようがない。唯一無二ではあると思う。
だけどもだけど、おかげて上巻は地味でまじめなミステリーがひたすら進むんよな。まあ退屈ちゃ退屈。
ネタバレになるけど事件地味すぎん?
コードに足引っ掛けて死ぬとか…、天下のピュント最期の推理がコレで良いのか??
最期は遺灰を森に撒いてとか、異常に事件に愛着湧いてるし…。そんなたいそうな事件かね、この話…。
現代パートも原稿の隠し方甘くて人殴って火つけて逃げきろうって…。チャールズはん、そいつは犯罪としてあまりにもお粗末じゃないすかねえ…。
まあワタシがミステリーの教養不足でクリスティのオマージュなどさほど愉しめないのも悪いのだども。
二重構造の美しさに全フリした結果、肝心の事件やトリックが都合よいものになってしまった感が否めなーい、と感じてしまいました。
と云うわけで、総じて大作家の壮大なる挑戦作、といった感想です、はい。
Posted by ブクログ
上巻よりも好きだったけど、やっぱり無駄に長いと思う。
長いわりに、動機がイマイチと思ったのは私だけでしょうか・・・
”いったい、どうしていつも妹は、自分の尺度で私を測ろうとするのだろう?ケイティが持っているものが、わたしには必ずしも必要ない、わたしはいまのままで充分に幸せなのだと、どうしてわかってくれないのだろうか?こんな言い方が苛立っているように聞こえるのとしたら、それはわたしが、ひょっとしたらケイティが正しいのかもしれないと怯えているからだろう。"