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嶋津良智(しまづ よしのり)
教育コンサルタント、一般社団法人日本リーダーズ学会代表理事、リーダーズアカデミー学長、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事、早稲田大学講師。大学卒業後、IT 系ベンチャー企業に入社。同期100名のなかでトップセールスマンとして活躍、その功績が認められ24歳の若さで最年少営業部長に抜擢。就任3か月で担当部門の成績が全国ナンバー1になる。その後28歳で独立・起業し代表取締役に就任。翌年、縁あって知り合った2人の経営者と新会社を設立。その3年後、出資会社3社を吸収合併、実質5 年で52億円の会社まで育て、2004年5月株式上場(IPO)を果たす。2005年、「教える側がよくならないと『人』も『企業』も『社会』もよくならない」と、次世代を担うリーダーを育成することを目的 とした教育機関、リーダーズアカデミーを設立。講演・研修などを通して、教える側(上司・親・教師など)の人たちにアドバイスを行う。2007年シンガポールに拠点を開設し、グローバルリーダーの育成にも取り組む。2012年から始めた「感情マネジメントが、どう人生や仕事の成果に影響を及ぼすのか」をテーマにした、「怒らない技術〜人生・仕事の成果を劇的に変えるアンガーマネジメントのススメ」や、親子関係の改善により、自信を持って自分の才能を伸ばせる子どもの育成を目的としたセミナー「おこらない子育て」が好評を博し、日本、シンガポール、タイ、インドネシアなどアジア主要都市で開催する。2013年、日本へ拠点を戻し、一般社団法人日本リーダーズ学会を設立。リーダーを、感情面とスキル面から支える世界で活躍するための日本人的グローバルリーダーの育成に取り組む。主な著書としてシリーズ90万部を突破しベストセラーにもなった『怒らない技術』『怒らない技術2』『子どもが変わる 怒らない子育て』をはじめ、『あたりまえだけどなかなかできない 上司のルール』『目標を「達成する人」と「達成しない人」の習慣』『だから、部下がついてこない! 』などがあり、著書は累計122万部を超える。
そして、小さな自分自身に聴診器を当てています。 サッカーの本田 圭 佑 選手がACミランへの入団会見で、自問自答することを「リトル本田に聞いた」と表現していましたが、あなたも自分で、小さな自分の状態を検査するのです。 するといろいろなことがわかるでしょう。 「もやもやを感じているんだね」 「おなかのあたりに少し重いような感覚があるんだね」 「胸のあたりがきゅんとするような感覚があるね」 などと思います。 まずは思うだけでいいですよ。 あるがままを感じ、もやもやしていることを認めます。 口に出して言ってみるのもいいでしょう。 「首のあたりが重苦しいんだね」 などと、小さな自分に思いやりをもって語りかけます。
不安という影は実態以上に大きく見えます。 夕日に照らされたあなたの影が、巨人の影のように大きく見えることがあるでしょう。あれと同じです。1つか2つ不安になることがあるだけでも、それが大きく感じられて、不安だらけに感じます。 不安ログを書くと、何が不安なのかはっきりします。 不安の実際の大きさもわかります。確かに不安はあるのですが、それ以上は広がりません。
まとめ □不安は見まいとすると余計鮮明に見えてくる。 □何に対して不安を感じるのか書き出し、まずは不安の大きさと形を把握しよう。
不安に向き合い、不安の正体は何だろう、どうすれば解決できるだろうかと考えます。 これはとても大切なことですが、一方で 考えている時間が長過ぎると、かえってよくない結果になる ことがあります。 じっくり考えて何もしないのと、さっと考えてぱっと動くのとでは、どちらが不安を解消しやすいでしょう。 ジョセフ・マーフィー(アメリカで活動したアイルランド出身の宗教家・作家)がこんなことを言っています。 「『うまくできるだろうか』という不安が頭をよぎったらとにかく、行動を起こしてしまいなさい。不安はほどなく解消されます」 もつれてからまりあった糸のように見える不安が、行動することによってほどけていくことがあります。
不安なとき身体は動いていません。 心はうねうねと動いているのですが、何もしていないことが多いのです。 そこで身体を動かします。 行動することが安定に向かいます。 コマが勢いよく回っているところをイメージしてください。 一本足という不安定な形なのに、軸がぶれることもなく静かに回転しています。 とても静かで安定しています。 でも、実際には高速で回転しています。 これと同じことで、私たちも 動くことで安定することができます。 不安はなくしても、また生まれてきます。 不安が次々と発生する世の中を、安定した気持ちで生きていくには行動を起こすのがいちばんです。 勢いよく回転するコマをめざしましょう。
私たちは毎日さまざまな不安を抱えます。 お金の不安、将来の不安、結婚できるのかという不安など、さまざまです。 不安は、適切に対処することで解消します。 私はそのことを、「 不安を心配に変える」と呼んでいます(詳しくは3章でお話しします)。 不安は行動につながりませんが、心配は行動につながります。 そして行動することで不安は消えていきます。 たとえば、お金のない不安を感じていたら、少しずつ貯金をはじめます。 すると「自分の人生に対処できている」という安心感が生まれ、不安は少しずつ減っていきます。 行動することで自分への信頼が生まれ、自信につながります。 不安を放置しないという姿勢で一歩を踏み出す ことで、「不安に流される人生」を変えることができます。
私の知り合いの女性は、毎日不安に悩まされていました。 不安だと悩んではいましたが、家でじっとしているだけでした。 あるとき私はこう尋ねました。 「あなたはずっと今のように不安に悩まされていたのですか?」 「いえ、結婚前はとても元気で、活発な毎日を過ごしていたのです」 「そのころは、どんなことをしていましたか?」 「渋谷に買い物に行ったり、友だちとカラオケに行ったり、英会話教室に通ったり……」 「だったら、そのうちの1つをやってみてはいかがでしょう」 彼女は結婚前を思い出し、月に1度、渋谷に買い物に出かけるようになりました。すると、だいぶ元気になりました。
そこで走りながら考えるという気持ちでチャレンジしました。 私にとっては大きなアタックでした。 同じ研修が続いたこともあり、やる度に研修内容も参加者とのコミュニケーションも研ぎ澄まされていきました。企業研修担当から「やる度によくなる」「最初と最後では別人のよう」と褒められました。 これは私にとってブレークスルーとなりました。 もし 研修の依頼を断っていたら不安を抱え続けていた ことでしょう。 オファーを受けることが不安の解消につながるとは正直思っていませんでしたが、行動したことがよかったのです。 自分の枠を超える経験をしたことで自信が 蘇ってきました。やることなすことうまくいかず自信をもてない自分がいたのですが、場数をこなし、何とかなるという気持ちになりました。 ブレークスルーにつながらなくても、何もやらなければチャンスは生まれません。方向が間違っていなければ、 行動することで不安の解消につながります。少なくとも不安の正体が少しずつわかっていきます。
▼「やらないより、やったほうがいい。どうせやるなら……」 何かの選択に迫られたとき、私はいつも「 やらないより、やったほうがいい」とつぶやきます。 これは私自身を行動させるための、魔法の言葉です。 自分で自分に魔法をかけるのです。 面倒くさいと思ったときも、「やらないより、やったほうがいい」、ある場所へ行くか行かないかで迷ったときも、「行かないより、行ったほうがいい」、人に対して照れくさいキザな言葉でも「言わないより、言ったほうがいい」とつぶやくのです。 人は、「何かをした記憶」よりも、「何かをしなかった記憶」のほうが残ります。人は亡くなるとき、なぜあのとき行動を起こさなかったのか、という後悔を誰しも感じると言います。
「何かをしているときは、何かをしていないとき」と言われるように、新たな行動を起こすとき、同時に別の行動を捨てることもあります。 私は「 今あるものを捨てる勇気をもとう」と自分に言い聞かせています。 「守られた水は腐る」という言葉があるように、物事には必ず賞味期限があります。 それは仕事のやり方でも、会社でも、個人でも同じです。 現状はうまくいっているからといって、その方法にしがみついて、新たな取り組みや改善を行わなかったら、いずれ問題が発生し、崩壊していってしまうということです。
不安から脱出する唯一の方法は行動 です。 そして、行動を起こすと自信がつきます。 心配し、行動すると、自信という資産が増えていきます。行動しないままでいると、自信という資産は増えません。 ですから、 自信を得るために、あえて不安をつくっている 人もいます。 サッカー日本代表の本田圭佑選手は、あえて不安になるような場所に飛び込んでいるように見えます。
一方で「不安する」とは言いません。似た言葉に「不安になる」はあります。つまり、不安は主体的な行動ではなく、いつのまにかなるものなのです。ふと気がつくと不安になっているのです。 不安とは行動のともなわない静的なものです。
一方で、これを心配事ととらえて、できることをやっておくこともできます。 たとえば、日本経済が破綻してもなるべく影響を受けないように、個人の資産をドルやユーロに分散しておく、海外に不動産をもつ、経済が破綻しても食べ物が確保できるように自給自足の生活をはじめる、などです。
私の元同僚の話です。彼は 39 歳のときに肺ガンになりました。 部下とカラオケに行った日に、風呂で 血痰 が出ました。最初は歌い過ぎだと思ったそうですが、2週間経っても止まりません。彼は病院に行きました。血痰を調べたり、肺のレントゲンを撮ったりしましたが、結果は「大丈夫」とのことでした。 しかし、彼は直感的に「おかしい」と感じ2つ目の病院に行きました。ここでも「大丈夫」と言われました。 3つ目の病院では、「この血痰がどこから出るのか」と尋ねると、「わからない」と言われました。わからないのに「大丈夫」と言う医師に不信感を覚えました。 彼は昔から 喘息 の症状があり、かかりつけの医者がありました。定期的に通院するように言われていたものの、仕事が忙しくて数年間足が遠のいていましたが、意を決して飛び込みました。 レントゲンの結果を見て、医師の態度が変わり、すぐにCT検査をしました。医師の口から出た言葉は恐ろしいものでした。 「肺の上部の動脈付近にガンができている。うちでは手術ができない」 彼は大きな病院に緊急入院することになりました。
1つは心配事がわかっていても、解決策を見通せない迷い。 「A案を実行したら解決するんじゃないか」 「いや、B案を実行したらいいんじゃないか」 「いや、C案では……」 いくつもの選択肢が思い浮かぶのに1つに絞り込めない。 「求婚者の多い娘はしばしば最悪の男を選ぶ」 という言葉があります。 「より好みする者は最も悪いものをつかむ」 とも言います。 どんなものや人にもよい点もあれば悪い点もあります。 それを悪い点だけを見てこれもだめ、あれもだめとより好みをしていると、 いつの間にか結局いちばんつまらないものを取らざるを得なくなります。
私たちはまだ見ぬ未来に向かって生きている以上、不安がなくなることはありません。 不安をなくしても、新たな不安が 湧き出してきます。 あなたが気づいていなくても、ホコリのような小さな不安が心のなかにたまっていくものです。 そこで 定期的に、《心のホコリ》を書き出して みましょう。 たとえば、次のようになります。
不安にとらわれていると、頭が固くなってしまいます。 1つの考えや感情にとらわれ、それにばかりに気を取られて頭がいっぱいになります。 すると、その考えや感情を吟味する余裕がなくなります。 大切なのは不安と少し離れること。 私は「不安を自分の外に出そう」と言っています。 不安が自分の外に出れば、自分の置かれている状況を客観的に眺めることができます。 そのための方法が、 湧き上がってきた不安に名前をつける こと。
この本のなかでは不安のことを「ざわざわ」とか「ぞわぞわ」とか「もやもや」と呼んでいます。 私の知人には「不安くん」と呼んでいる人もいます。 「あっ、心のなかに『ぞわぞわ』が広がってきたぞ」 「おっ、おなかのあたりで『不安くん』が暴れ出したな」 などと考えます。 心のなかの得体の知れないものを、不気味でわけのわからないものと考えていると、それは少しずつ大きくなります。でも、名前をつけたとたんに、客観的に見られるようになるのです。
刺激的な情報が余計な不安を増やす ことがあります。 たとえば、ネットを見ているときにたまたま新型ウイルスに関する情報が目に入り、心に響いてしまうことがあります。 不安になっていろいろな情報を調べはじめます。 不安が暴走する瞬間があります。 調べ出すと止まらないのです。 自分とは関係ないことに夢中になります。 どうでもいいニュースをクリックしたがために不安が広がります。それはまるで隣の家の蜂の巣をつついてしまったようなものです。自分とはまったく関係なかったはずなのに、まきこまれてしまうのです。 ですから 不必要な情報に近づかない ことも大切です。
私はどちらかというと、「考えてから走るタイプ」でした。 それについてはよかったと思うし、その結果として今の自分があります。 ところが 40 歳を過ぎ、気力、体力、知力がともに落ちてきているなかで、保守的になってきている自分に気づきました。 どこかで若いころのようにバリバリ働く必要がないと感じるようになり、サボれる状況も出てきます。 嫌な仕事、面倒な仕事は断ろうと思えば断れてしまいます。 実際、一時期そうしてしまった時期もあり、「これはよくない」と思うようになりました。 そこで日本に戻ってからは、あまりに的外れなものでなければ、すべての仕事を受けようと考えています。
何でも受けるとはいえ、直感的なものが働きます。 もし会社の財務に関するセミナーをやってほしいと言われたら、絶対に受けないでしょう。なぜなら、迷うまでもなく、そのテーマでは話せないと思うからです。 「できるかな」と迷うことは、たいていできるのです。うまくいくかどうかは別にして、少し背伸びすれば手の届く範囲にあります。そのことをあなたの直感がわかっているから、迷うのです。できないものは最初から迷わずに、できないと判断できると思います。
「社会が不安定で就職も厳しい。子どもには安定した暮らしをしてほしい。だから安定した会社に長く勤めてほしい」 と考えるのです。 子どもたちは、親からの教えも参考にしているのかもしれません。 ただ、ここには「会社はずっと安定している」「終身雇用される」という前提があるような気がします。 けれども実際には、安定していると思った会社がいつ不安定になるかわからない時代です。自然災害によって一瞬にして窮地に追い込まれることもあります。 今後、会社が 生き残っていくためには「変化が必要」 です。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」 とチャールズ・ダーウィン(イギリスの自然科学者)も言っています。