あらすじ
少年審判、開廷…裁きの行方は!?
高台で向き合った従兄弟の”しげる”は、
かつてママに高台から突き落とされた”自分”だったーー
僕が消えることが正しいこと…そう思った瞬間、静一は”自分”を葬るため
しげるを突き落とし、殺めた。
それは、己の中のママとの決別の儀式。
罪悪感を一切感じることなく、静一は鑑別所に収監される。
そこで静一を待ち受けていたのは「内省」の日々。
深淵に意識が向かうなか、心の隙間にスルリと入って来たのは
しげるを殺してまで決別を試みた「ママ」だったーー!!
若く美しい母・静子から溺愛されている中学2年生の静一。
クラスの女子・吹石に淡い思いを寄せたり、従兄弟のしげると遊んだり
ごく普通の中学生として暮らしていた彼の日常は
夏休み中に両親としげる一家との登山中に起きた事故から明確に壊れ始めます。
事故当時に母が取った行動が信じられず、彼女の一挙手一投足に過敏になる静一。
静一の心境を知ってか知らずか、吹石と静一の関係の進展を露骨に阻み、抑圧する静子。
抑え込んでいた苦しみと狂気を解き放ち始めた母と、静一はどう闘っていくのでしょうか?
事故の真相が明らかになるかどうか、というサスペンス要素もあり、
とにかく緊張感がすさまじい一作です。
感情タグBEST3
怪物
審判の場での母親の独白。p196で最強の恐怖を味わった。
毒親、や狂気などという言葉では表せず、人間の種類から違うモノなのしれない、と思わされる。
あっそう。は静一の行動そのものに対してか、それとも最後まで力を込められなかったことに対してなのか。
無関心、無頓着に見えていた一郎は、怪物と渡り合うには普通でありすぎた、ということなのか。
大きな絵が多くてあっという間に読めてしまったが、圧巻のクライマックスだったと思う。
鑑別所での心理描写など、取材などでは難しいように思える。どうやって可能にしたのか。
内面へ向かう描写が増えてからはちょっと方向性が変わった印象であったが、次からは30代の静一を描く新章とのこと。
まだ作者に描きたいことがあるのだろうか、を知りたい気持ちはあるが、あまりに救いの無い展開で重い。
壊れていく静一
聴取や面会をしながら過ぎていく日々。。
この巻の始まりと終わりとで、静一の風貌が違う。どんどんやつれていくのが、怖い
静子はどこまでも、自分が大事な静子なんだなと
裁判のシーンで、あんなに静一は苦しみや憎しみを露にしてそれが描かれていたけど、
静子はキラキラした少女のような目をしている
カオス、違いすぎて怖い
静子に殴りかかり、そのあと引き剥がされるが、もう静一に周りは見えていない。。
これまでどれほど静子が静一にとって恐ろしい、子どもに背負わせるには大きすぎる、重い存在であったか…
Posted by ブクログ
さすがにちょっとアレですね、誠一君が可哀想に思いますよ! お母さん!
ヽ(・ω・)/ズコー
結局、「自分のために」産んだということでしょうかねぇ…これが女の自意識というのか、自尊心というのかまあ、女性って怖いナーって思いましたね…
しかもこれを描いているのが男性作家だというのが驚きですね! 何かしらトラウマになるような過去でもあったのでしょうか、作者には…
さようなら…。
ヽ(・ω・)/ズコー
Posted by ブクログ
押見さん、表現力が素晴らしいと感じました。
「こう見せてくるか」というような書き方。
特にママに「ばいばい」と言われ、静一が退室してからの静一視点の世界の見え方が、体験したことはないんだけど、自分の世界までもが歪んで見えてきそうになるくらい、引き込まれました。
ここまできたら静一はどうしたら良いんでしょうね。
血の轍を「僕の思春期の苦しみや孤独をもとにした自伝のような存在」とおっしゃっていた押見先生、どの程度ご自身のことが反映されているのか、気になるところでもあります。
少しでも静一が希望を見出せればいいけど、どうなるんでしょう。最後の方に吹石さんがまた出てくるのかなと期待していたりもします。
母という存在
私は大事な娘がいるが、心の底から大事に想っているけど、ふと傷つけたくなるときもある。子どもが育つにつれ母親としても変わっていく。すごく欲しかった物が急にどうでもよくなったり、日によって考えることが真逆になったりする。誰しもそういう心は持っていると思う。
主人公の母はそのような性質を強く持っているように見える。静のことを愛おしく大事に想った瞬間もあれば無価値な存在に感じられたり。
Posted by ブクログ
わあ、ええ、そんな…と一人で声をあげながら読んだ。本はいつも無言で読むので、自分にとってかなり珍しいことで、それだけ心が動かされたのだと思う。
ママの短い前髪や幼い口調が年齢に似合わず子どもじみていて、本当に生まれ直したみたいに可愛くキラキラ目を輝かせて、グロテスクだった。
母の一挙一動が全部ものすごい殺傷力。刃物でザクザク切り刻み続けているようで、静一の気持ちに寄り添って読んでいたから痛くて痛くて仕方なかった。
・私は子供を作るべきじゃなかった。産まないほうがよかった=あなたは存在しないほうがよかった。
・産んだ後もずっと産まない方がよかったんかなって思ってた=実際に産まれて一緒に十余年過ごした上でも、やっぱりあなたは存在しない方がよかった。
・産んだのは自分を救うため。=あなたのためのことはひとつもなかった。
・ひとごろしになってくれてありがとう=幸せは願っていないどころか、地獄のような思いをしているあなたを見て嬉しく思う。
・もう捨てます。捨てていいですよね?=あなたは不要。そもそもひとりの人間とすら思っていない。
・首を絞められても無表情で「あっそう」=あなたが何をしても、私には何の影響も及ぼすことはできない。何も変えられない。あなたのすることは無意味。
・私の人生がはじまる。もう帰っていいですかぁ。最後まで静一をちらりとも見ない=あなたのことなど本当に心の底からどうでもいい。文字通り、眼中にない。
今までの苦しみも努力も我慢も全部母の愛をもらうためだったのに、全部全部ムダになった感覚だろう。あなたが産まれたことも生きてきたことさえも全部間違いでした、と言われて、これってつまり、「自分の存在すべてがムダになった」とほぼ同一だ。しかも他の人をどうでもいいと捨てさせられてしまった上で、唯一影響力がある人から言われるのだ。こんなのってない。むごい。
「しげちゃんが死んだのは、ムダでした。意味なく死にました。」も ものすごくひどい言葉だけど、彼にとっては完全にそうで、唸った。自分を殺そうと思ったけど殺せなかったわけだし、しげちゃんの死によって何の変化ももたらされていないんだから。
その後にこういう流れがきて、「静一の心が死んだのは、ムダでした。意味なく死にました。」と誰かに言われているような感じだった。
最後の、周りの人がだんだん歪んで消えていって、最後に自分も消えてしまう場面は、すごく恐ろしくて秀逸だった。無だ。残された「救護院に送致します。」という言葉は、ああこれが唯一残っている未来なんだ、という感じがした。
どうなるんだろう。こういうところから立ち直るのって、すごくすごく難しいことだ。ここまで辿り着くまでの流れは、足掻いても抵抗しようがないくらいの激流で、流されざるをえなかったんですって言っても過言じゃないくらいなのに。
Posted by ブクログ
究極の”内省”エンタメ、というキャッチコピー。
前の巻までの停滞がいっきにこの巻で……。
「なんなん」のリフレイン。
母親の顔……ひとつひとつの顔……。
静一はまだしも想定内だが、母親の描写は突き抜きすぎて、しかもありがちでなく。
萩尾望都「残酷な神が支配する」を先日再読したところだが、同じフォルダに入れてみたい。
しかしこの話、いつまでも終わらないか、無理に断ち切るようにしなければ、終わらないぞ……。
原理的に終わりがない話だからこその絶望。