【感想・ネタバレ】街道をゆく 14のレビュー

あらすじ

伊予は愛比売で、文字どおりいい女という意味である。ずいぶん粋な言葉を県名にしたものだと思うが、おそらく松山の教養人が『古事記』を披いて、その判断資料にしたのではないか……大洲から宇和島、そして土佐との国境を越えて山岳地帯を辿り、四万十川沿いの土地を歩く。

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再会がテーマの「街道をゆく」

 二十年来の知己である宇和島市立図書館長をしていた渡辺喜一郎と「久濶を叙した」という場面に見るように、「街道をゆく」のなかで「南伊予・西土佐の道」は、再会がテーマであるかのようである。
 それほどに司馬は旧知と先々で出会っていく。司馬にとって大阪外国語学校の先輩で、満州・長春に訪ねたことのある森和氏、司馬夫人の友人の夫、石丸良久氏、産経新聞社の同僚であった松浦幸男氏など。渡辺氏とともに十年以上前から宇和島周辺を取材して知った人々などを入れるさらに多くなる。
 その外に赤尾兜子の兄、赤尾龍治は盤珪禅師の研究者として紹介される。
 「街道をゆく」では旧作が話題になることも少なくないが、それにしても数が多い。「花神」、「歳月」、「竜馬がゆく」、「坂の上の雲」などは長編で、煩雑を避けたのか、題名までは挙げていないが内容から関連する短編はいくつも思いつくだろう。
 つまり、「南伊予・西土佐の道」を読むことで、それらの作品と再会できることが司馬ファンの楽しみである。
 二宮敬作は、司馬のお気に入りの人物らしく、「花神」ではシーボルトの娘、イネの庇護者、好人物として描かれる。ところが、その知られるところの経歴は、志賀重昂が見た「ドイツ人名事典」の記述より大して詳しくならないという。司馬はいくつかの伝承に触れるが、それでむしろ小説のなかの二宮敬作の肉付けが司馬の想像であることが分かる。
 これも裏話といえるが、佐賀の乱から逃亡中の江藤新平が、宇和島で芸者を呼んで、江戸で覚えたはやり唄をうたったという伝承を知ったが、あいまいな話と思い、小説(「歳月」)には使わなかったとある。
 以上は司馬ファンのための紹介であるが、こうしたこととは関係なく、江戸時代の蘭学の淵叢として知られた宇和島について知ることで得るものは多い。

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2017年10月31日

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