上岡伸雄のレビュー一覧
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ネタバレ元恋人の結婚式への出席を回避しようと、仕事で世界一周をしようとするゲイの作家の物語。コメディタッチで、明るい話だった。ただ、この物語の語り手とその結末にはラブストーリーとして感動するものがあった。個人的に気に入ったのはレスのある一面の真実であるところの、レスが恋をしているようなキスをし魔術的な魅力のある触れ方をする点が美しく描かれているところ。そしてひと頃のゲイ文学ではよくありそうな悲劇的な英雄像は排され、愛すべき、人並みなキャラクターとして描かれているのもよい。ゲイという存在がマジョリティの人々と肩を並べて歩いていくのはこのような感じなのかもしれない。
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ミステリーなのか判断が難しいが面白かった。
潜入スパイの割には、殺処分した人間の亡霊にいつまでも煩わされたり、潜入先の上官である将軍の娘とやってしまったりと、プロのスパイ像とは程遠い、地味で弱く人間臭い主人公。
「烏賊」のエピソードは笑うところだよね?今一つ、ユーモアなのかシリアスなのかわからないところがあるが...
過去の植民地時代から冷戦の代理戦争であるベトナム戦争を通し翻弄されるベトナムを、主人公と2名の友人の生き様を通して描いている。感動はないが読みごたえはあった。
後半の長期に渡る思想教育的な尋問の場面は、「1984」とかもそうだけど、きっとここがクライマックスな割には難解なんだよね -
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著者は、2012年9月から2013年3月まで米国ニュージャージーの大学に滞在した米文学者。そこでの研究テーマは「9.11テロ事件後の文学」。
映画化され、日本でも公開になった『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』をはじめ、9.11を扱った小説を取り上げて、テロに対して文学に何ができるかを検証している。かつてピカソが「芸術は飾りではない。武器だ」と語ったとされているが、著者のインタビューに応じた作家たちからはこの文学版とも言える言葉があふれ出る。「歴史において、人生において、われわれの時代を反映する最も強力な没入型の方法は今でも文学」「文学は他者の経験に共感するような形で関わる機会を与えて -
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新潮社の名作新訳コレクション「Star Classics」の一冊として刊行された本書は、19世紀後半から20世紀前半を生きたアメリカ人作家、シャーウッド・アンダーソンによる長編作品である。全く知らなかった作家及び作品であるが、これが大変素晴らしい。
20世紀のアメリカ文学を眺めたときに、我々は牧歌的なマーク・トウェインやO・ヘンリらの作風と、ヘミングウェイやその後のフォークナーに流れていく実存主義的な作風との間に断絶があることに気づく。シャーウッド・アンダーソンは、まさにその断絶を埋める世代の代表的作家である、というのがアメリカ文学史における位置づけなのだそうだ。
本書では、オハイオ州の架 -
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本書の上巻は、全体に抑揚のないストーリーで、ベトナム戦争について何らかの原体験がないと楽しめない本だと感じた。もう下巻は読むこともないと思っていたが、なぜか気になる存在ではあった。しばらくたって思い立ち、下巻を読み始めると、抑揚のないストーリーの中にも激しく迫るものを感じ、やめられなくなっていた。
北側の2重スパイの南ベトナム軍の情報将校として従軍し、サイゴン陥落以降はアメリカに逃れた。アメリカでもスパイ活動は続き、ラオス国境に舞い戻る。そこで捕らわれの身になった主人公は北側のスパイだったにかかわらず、抑留され半生を振り返る告白文を書かせられる。それが本書だ。
ベトナム戦争を戦い、同 -
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前作アラバマ物語では、保守的なアラバマの小さな町で黒人の被疑者が公正な裁判を受けられるように、偏見と戦う勇気ある信念ある弁護士だった父は、20年後には、黒人と白人は一緒に暮らせないし、白人至上主義者の集会にも顔を出す現実主義者になっていた。主人公の娘のめんどうをよく見てくれた家政婦だった黒人女性も離れていった。前作のイメージからすると幻滅の現実だけど、でも実態はそうかもしれないと思われる。
NOVAの講師とこの本の話をしていたら、リンカーンも黒人と白人を同等の人間としようとしたわけではなく、奴隷制に反対しただけだよ。とのこと確かにキング牧師らの公民権運動は、奴隷制廃止の100年近くあとだ。 -
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これって、早い話が人格形成小説(ビルドゥングスロマン)だよね?年若い青年が周囲の人々の影響を受けて、自己を作り上げてゆくことを主題とする。ヘッセやマンとちがうのは、これがたった一日の出来事を中心に書かれているってこと。雪混じりの感謝祭の日にテキサススタジアムで行われる、ダラス・カウボーイズとシカゴ・ベアーズのアメリカン・フットボールの試合会場が舞台。
で、なんで一日かというと、ビリーっていうんだけど、この主人公。陸軍の二等兵で、イラク戦争で手柄を立てて勲章を二つも貰い、ただいま仲間のブラボー分隊と一緒にご褒美の「勝利の凱旋」旅行中。二週間かけて、アメリカ各地を回ってきて、いよいよ今日が最終日 -
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人類史に残る大戦争犯罪、東京をはじめとする日本の大都市爆撃。
「無差別」ではなく民間人を狙った殺戮を陣頭指揮したカーティス・ルメイ。
航空自衛隊の設立、指導にあたって多大なる貢献をしたと、日本から勲章を贈られている。
米軍人が贈られたのは知っていたが、この方とは知らなかった。
その人物の一代を描く。
のだが新書判が薄すぎて、内容も薄い薄い。
翻訳者が本業らしいのだが、文章下手すぎて、構成下手で、スカスカの干し芋食ってるみたい。
何つて、航空自衛隊を指導するあたりのエピソードはガッツリ抜けている。構成をどこかに絞ったほうが良かったのではないかと思う。
米軍の理屈、本土決戦のための米軍人 -
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9.11後、姉の婚約者の車をボコボコにして、更に婚約者を追い回した19歳の青年ビリー・リン。彼は訴追を逃れるため軍に志願した。そしてイラク戦争の最前線で心の師とも言える友を目の前で失い、苛烈な戦場を7人の兵士たちと共に生き延びた。彼らはアメリカ合衆国の戦意を高揚させるヒーローとして一時帰国し、ハーフタイムショーに駆り出される。愛情、憐れみ、畏怖、蔑み、憧れ…あらゆる視線に晒され、愛国者達の慰みものとして、資産家に金の卵として利用される。そんな中、ビリーはチアリーダーのひとりと恋に落ちるが、イラクに戻る時間は刻一刻と迫っていて…
利用する者とされる者。半狂乱ともとれる群衆の熱量。強烈なコミュ -
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フィクション作家のアーサー・レスは、9年間付き合った元恋人フレディから結婚式の招待状を送られる。フレディとの関係を知っている共通の知人が多く出席する中で針の筵になりたくないアーサーは、これまでに届いていたフレディの結婚式以外の招待(著名な作家との対談や、知らない賞の授賞式、大学院の講師の仕事など)を受けて、海外にいることを口実に結婚式の招待を辞退することにした。ところが元恋人を忘れるために出た旅先で、彼は思いがけなくあらゆるトラブルに見舞われ、なぜか自分の過去と向き合うことになる。
映像化ができないタイプの作品である。その仕掛けが最後に明かされた時、物語が大きく姿を変える。息子としても恋人 -
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ネタバレゲイの50歳の小説家レス。別れた彼が結婚するということでパーティに呼ばれるが、どうしても参加したくない。そこで、国内にいないという理由で断って、実際に、ドイツ、イタリア、フランス、モロッコ、インド、京都へと旅をしていく。その旅の過程で、過去の彼氏や男との出会いと別れがあり、中年のおじさんたちの悲哀と輝きをなんとも喜劇的に、滑稽に表現していく。確かに、おじさんって、なんとも面白いし、なんともシュールだ。
実際の海外での出来事は、おそらく実際に行って取材した国とそうでない国で描写が全く異なるために、京都にはきっと行ったんではないかと想像した。物語の最後にたどり着いた京都で、自分を見つめ直し、そして