上岡伸雄のレビュー一覧
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「カーティス・ルメイ」をどのくらいの日本人が知っているだろうか?恥ずかしながら、私自身も日本本土空襲に関わった指揮官程度くらいの認識しかなかった。本書は、一夜で10万人の犠牲者を出した東京大空襲を始めてとする日本本土への焼夷弾・無差別爆撃を指揮した男であり、1945年末までに13万人の犠牲者を出した広島の原爆投下や7万人の犠牲者を出した長崎の原爆投下にも関与したカーティス・ルメイ。カーティス・ルメイ本人の自伝や英語文献を丹念に調査・研究した書籍である。空にあこがれた少年時代。勉学に励みながらも生活のために軍隊に属した青年時代。空軍の地位向上や改善に取り組み、ヨーロッパ戦線から日本本土への焼夷
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2018年に出た新訳版。橋本福夫の旧訳版に比べ、読みやすくなっている。
時代は1900年頃、舞台はオハイオ州、架空の町ワインズバーグ。その町で起こる小さな出来事をめぐる25篇。田舎の風景や季節の描写、人物の心理描写が秀逸。
それぞれの掌篇はしゃれた終わり方をするわけではないし、受ける印象も明るいものではない。でも、なにかしら心に残る。この作品にインスパイアされて、レイ・ブラッドベリは『火星年代記』を書いた。構成のしかたが似ているだけでなく、読後の印象も似ている。
(訳文は練られているが、多少気になる訳語もある。たとえば「哲学者」の章、パーシヴァル医師はさほど高齢でもないのに「わし」や「わしら」 -
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エリザベス・ストラウトが『オリーヴ・キタリッジの生活』において、クロズビーという架空の町での人々との交流を描いたり、レイ・ブラッドベリが『火星年代記』の冒頭で「こんなにすばらしくなくてもいい、これの半分だけすばらしい本でいいから……ぼくが書けたとしたら、どんなにすてきだろう!」と賛辞を送るほど影響を与えた本作。二作とも好きですが、これも読み進めるほど話に引き込まれて、読んで良かったと思いました。
本書は、ある老作家が見た夢「いびつな者たちの書」という物語から始まる連作短編の形を取っています。舞台は、オハイオ州の架空の町ワインズバーグ。どの短篇も新聞記者のジョージ・ウィラードを登場させて、一見 -
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差別をしないということは、悪口を言わない・暴力市内・見下さないということだけではない。人種が違うだけで、同情したり、自分の人種以上に優しく接したり、申し訳ない気持ちになることもまた、差別の一種だと思っている。
本書『ネイティブ・サン』では黒人の主人公ビッガーに対して、「仲良くなりたい」というスタンスで歩み寄ってきた2人の人物、ジャンとメアリーがいた。
ジャンは白人がこれまで黒人にやってきた歴史を申し訳ないと言い、黒人であるビッガーを特別扱いしようとしていた。日本人の我々にも、たくさん他国に迷惑をかけた歴史があるが、それは現在の我々のやったことではない。これに対して、私は申し訳なく思ったり、 -
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妻から『アラバマ物語』って知ってる?と聞かれたので、そのとき読んでた津村記久子著『やりなおし世界文学』に載ってるよと言うと、それはスルーされて、妻の通う英会話教室生徒の元高校英語教師のかたとアメリカ人講師のかたが「アラバマ物語はよかった」と話していたそうだ。
たしかにこの本はおもしろかった。通勤のとき、1回乗り過ごし、3回乗り過ごしかけた(たんに暑さ?でボケてるだけで指標として不適切説あり)。
何がおもしろかったのか?いちばんは主人公の女の子だと思う。
主人公のスカウトは、父アティカスと4歳年上の兄ジェムの3人家族だ。
物語は、スカウト6歳のころから始まる。母はスカウトが赤ちゃんの -
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(1940年発表)
読書会に参加しました。
みなさまありがとうございました。
アメリカ全土で黒人差別が当然だった1930年代のシカゴ。
黒人青年のビッガーは仕事もなく、仲間とたむろいながら窃盗や強盗をしていた。盗みの対象は黒人の店ばかり。黒人同士の事件は警察はまともに扱わないからだ。
そんな日々を送るビッガーだが、皮肉な巡り合わせが重なり人を殺してしまう。
この殺人に至るまでに、当時のアメリカの差別社会、ビッガーの性質、そして被害者側の軽々しさが書かれていく。
当時のアメリカで差別されていたのは黒人だけではなく、共産主義者、ユダヤ人達も対象だった。
一見黒人に理解を示す白人もいる。資産家 -
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19世紀アメリカ西部の田舎町、ワインズバーグ。新聞記者の若者ジョージ・ウィラードを中心に、町に住む「いびつな者たち」の物語を綴る連作短篇集。
この作品に描かれた「いびつな者たち」とは、大きく括って社会的なマイノリティーの人たちを指しているのだと思う。さまざまな理由ではぐれ者扱いを受けている人たち。「手」のビドルボームや狂言回し役のジョージが抱える葛藤から、〈男らしさが至上の世界からこぼれ落ちた人びと〉というテーマを受け取った。ヒーローにも不良にもなれず、世間から賞賛されるようなことはひとつも成し遂げられない苦しみ。〈落ちこぼれ〉のなかには当然〈女〉も入ってくる。
ジョージの母エリザベスを主 -
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ネタバレ人種差別は自由の国を喧伝するアメリカのあまりにもあからさまな矛盾で、それを外部からどのように語っても的外れにはなってしまうが、この本からはその世界の歴史的な面を少しだけ垣間見ることができる。
そしてこの本のテーマはそんな歴史の問題だけにとどまらず現代の個人の意志にまで広がっている。
キーポイントは記憶でありそこから紡ぎ出される物語。現実はもっと厳しいかもしれないけどそんな物語があるからこそ厳しい現実に立ち向かって地下鉄道を辿っていくことができたということかもしれない。
微温的なハッピーエンドは遥か昔に奴隷制度を克服しても問題は解決しない現実も示している。 -
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『レス』というのは主人公の名前である。最近では珍しくなったが、『デイヴィッド・コパフィールド』しかり、『トム・ジョウンズ』しかり、長篇小説の表題に主人公の名前をつけるのは常套手段だった。原題は<LESS>。これが「(量・程度が)より少ない」という意味を持っていることくらい、最近では小学生でもわかる。そういう名前の持ち主が主人公であり、それが表題や各章のタイトルになっているとしたら、初めから内容が想像できるというもの。
口の悪い評者がハリウッドの二流のロマコメのようだ、と評していたが、いいじゃないか。ロマコメは嫌いではない。スプラッターやホラーより、ずっと好きだ。でもこれはロマコメではない。男 -
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随分前に橋本福夫の訳で読んで、大好きだった本。上岡伸雄の新訳が出て、『リンカーンとさまよえる霊魂たち』の訳も良かったし、再読してみた。
とてもいい訳だと思ったが、福田訳を何度も読んでいたので、どうしても違和感があった。特に美しい「紙玉」(上岡訳では「紙の玉」)の「ひねこびたリンゴ」という言葉が心に残っていたので「ごつごつしたリンゴ」には物足りなさを感じてしまった。
しかし、全部読んでみると福田訳よりずっと分かりやすく、福田訳では読み飛ばしがちだった「狂信者」(福田訳では「信仰」)は思い込みを信仰に結びつける者の恐ろしさ、愚かさ、悲しさが伝わってきて、ラストのジェシーの哀れな姿は胸に迫るものがあ -
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必読書としてよく挙げられてはいるものの、なかなか読む機会を得なかった『ワインズバーグ、オハイオ』、新訳が出た、ということですぐに入手した。
で、読み始めたものの何やかやで途中でページが止まっていた、のだが、今朝、ふと再開したところ、とにかく止まらなくなってしまった。
無数の人たちが次々に現れては短い物語の主人公となったり、脇役となったりする。当初は、だれに心を寄せればよいのか掴み切れず物語に入り込むことを難しく感じたていた。それも途中で手が止まっていた要因かと思う。
ところが、なぜか、今日は読み始めたときに「これは、読める」と思った。そして案の定、一日をかけて、すべてを夢中で読んだ。読書には、 -
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ものすごく面白かった。
と言ってしまうと、あまりに平凡で身もふたもないのだが、それ以外に言葉が見つからないぐらい、面白かった。
全編「おふざけ」がちりばめられている。「ミリオンダラー・ベイビー」のオスカー女優、ヒラリー・スワンクとデスティニー・チャイルドなんて、いったい何度名前が登場しただろうか(彼女らは自分の名が使われることを承知したのかしら)?わたしにはわからなかった「あの人」もたくさんきっと出ているのだろう。そこに、いかにも若い男の子たちらしいお下品な会話がポンポン飛び交う。電車で読んでいると、時にほっぺの内側を噛んでにやけ防止をしたくらいだ。
…それなのに、行間のどこにも「死」のイメー