上岡伸雄のレビュー一覧

  • ネイティヴ・サン―アメリカの息子―(新潮文庫)

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    つらい。
    「黒人」と、差別され続ける人々の心のなかを垣間見せてもらったよう。
    起こしてしまった凶行だけど、根にあるのは白人社会への恐怖心。

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    2025年11月05日
  • 東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ

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     「カーティス・ルメイ」をどのくらいの日本人が知っているだろうか?恥ずかしながら、私自身も日本本土空襲に関わった指揮官程度くらいの認識しかなかった。本書は、一夜で10万人の犠牲者を出した東京大空襲を始めてとする日本本土への焼夷弾・無差別爆撃を指揮した男であり、1945年末までに13万人の犠牲者を出した広島の原爆投下や7万人の犠牲者を出した長崎の原爆投下にも関与したカーティス・ルメイ。カーティス・ルメイ本人の自伝や英語文献を丹念に調査・研究した書籍である。空にあこがれた少年時代。勉学に励みながらも生活のために軍隊に属した青年時代。空軍の地位向上や改善に取り組み、ヨーロッパ戦線から日本本土への焼夷

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    2025年07月09日
  • 東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ

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    東京大空襲の指揮官カーチス・ルメイ。
    名前は有名だが細かくは日本国内でも、あまり知られていなかった人物。
    その生涯はアメリカ空軍の創設の歴史と重なる。JFKの時代、キューバ危機からベトナム戦争にも深く関わっている。副大統領候補として大統領選に絡んだり、職業軍人としてだけでなく、アメリカ政治史にも微妙に絡んでいる。
    無差別爆撃から旭日一等章まで、戦後日本を語る上で実は避けて通れぬ人物。その生涯を日本人なら知っておいて損はないだろう。

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    2025年05月04日
  • ワインズバーグ、オハイオ(新潮文庫)

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    2018年に出た新訳版。橋本福夫の旧訳版に比べ、読みやすくなっている。
    時代は1900年頃、舞台はオハイオ州、架空の町ワインズバーグ。その町で起こる小さな出来事をめぐる25篇。田舎の風景や季節の描写、人物の心理描写が秀逸。
    それぞれの掌篇はしゃれた終わり方をするわけではないし、受ける印象も明るいものではない。でも、なにかしら心に残る。この作品にインスパイアされて、レイ・ブラッドベリは『火星年代記』を書いた。構成のしかたが似ているだけでなく、読後の印象も似ている。
    (訳文は練られているが、多少気になる訳語もある。たとえば「哲学者」の章、パーシヴァル医師はさほど高齢でもないのに「わし」や「わしら」

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    2025年05月04日
  • ワインズバーグ、オハイオ(新潮文庫)

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    エリザベス・ストラウトが『オリーヴ・キタリッジの生活』において、クロズビーという架空の町での人々との交流を描いたり、レイ・ブラッドベリが『火星年代記』の冒頭で「こんなにすばらしくなくてもいい、これの半分だけすばらしい本でいいから……ぼくが書けたとしたら、どんなにすてきだろう!」と賛辞を送るほど影響を与えた本作。二作とも好きですが、これも読み進めるほど話に引き込まれて、読んで良かったと思いました。

    本書は、ある老作家が見た夢「いびつな者たちの書」という物語から始まる連作短編の形を取っています。舞台は、オハイオ州の架空の町ワインズバーグ。どの短篇も新聞記者のジョージ・ウィラードを登場させて、一見

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    2024年09月25日
  • ネイティヴ・サン―アメリカの息子―(新潮文庫)

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    差別をしないということは、悪口を言わない・暴力市内・見下さないということだけではない。人種が違うだけで、同情したり、自分の人種以上に優しく接したり、申し訳ない気持ちになることもまた、差別の一種だと思っている。

    本書『ネイティブ・サン』では黒人の主人公ビッガーに対して、「仲良くなりたい」というスタンスで歩み寄ってきた2人の人物、ジャンとメアリーがいた。

    ジャンは白人がこれまで黒人にやってきた歴史を申し訳ないと言い、黒人であるビッガーを特別扱いしようとしていた。日本人の我々にも、たくさん他国に迷惑をかけた歴史があるが、それは現在の我々のやったことではない。これに対して、私は申し訳なく思ったり、

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    2024年09月06日
  • ものまね鳥を殺すのは アラバマ物語〔新訳版〕

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     妻から『アラバマ物語』って知ってる?と聞かれたので、そのとき読んでた津村記久子著『やりなおし世界文学』に載ってるよと言うと、それはスルーされて、妻の通う英会話教室生徒の元高校英語教師のかたとアメリカ人講師のかたが「アラバマ物語はよかった」と話していたそうだ。
     たしかにこの本はおもしろかった。通勤のとき、1回乗り過ごし、3回乗り過ごしかけた(たんに暑さ?でボケてるだけで指標として不適切説あり)。
     何がおもしろかったのか?いちばんは主人公の女の子だと思う。

     主人公のスカウトは、父アティカスと4歳年上の兄ジェムの3人家族だ。
     物語は、スカウト6歳のころから始まる。母はスカウトが赤ちゃんの

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    2024年07月24日
  • ものまね鳥を殺すのは アラバマ物語〔新訳版〕

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    改訳版ですが原本の自体の癖か、読みづらいです。
    が、2024年の正月現在、戦争をしている地域が複数あり、侵略のチャンスを狙っている政治家もいるような時、全ての人に読んで欲しい本。

    映画版もあるので、そちらでグレゴリーペッグに感動するのも悪く無いと思います。

    古い時代の話と思わず、人間の性だと受け止めるべきお話

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    2024年01月07日
  • ものまね鳥を殺すのは アラバマ物語〔新訳版〕

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    本書も映画も素晴らしく、涙が出た。
    父子の信頼関係、自分と違う人を理解しようとする姿勢、無償の愛など心に沁みた。
    間違いなく、今まで読んだ本の中で、ベスト3に入る。

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    2023年12月28日
  • ものまね鳥を殺すのは アラバマ物語〔新訳版〕

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    色々突っ込みたいところはあるのだけれど、星5つ。
    人種問題とか、簡単に矮小化されるテーマで括ってしまうと見えなくなるものがたくさんあるよね。

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    2023年08月16日
  • ネイティヴ・サン―アメリカの息子―(新潮文庫)

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    (1940年発表)
    読書会に参加しました。
    みなさまありがとうございました。


    アメリカ全土で黒人差別が当然だった1930年代のシカゴ。
    黒人青年のビッガーは仕事もなく、仲間とたむろいながら窃盗や強盗をしていた。盗みの対象は黒人の店ばかり。黒人同士の事件は警察はまともに扱わないからだ。
    そんな日々を送るビッガーだが、皮肉な巡り合わせが重なり人を殺してしまう。

    この殺人に至るまでに、当時のアメリカの差別社会、ビッガーの性質、そして被害者側の軽々しさが書かれていく。
    当時のアメリカで差別されていたのは黒人だけではなく、共産主義者、ユダヤ人達も対象だった。
    一見黒人に理解を示す白人もいる。資産家

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    2023年06月22日
  • ウォーターダンサー

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    黒人奴隷を解放するためにハイラムに備わった「導引」という能力。でもその能力を行使するには「水」そして「記憶」と「物語」が不可欠で、そのきっかけを起こす何か象徴も必要だ。それが起こる時、青い霧が立ちのぼる。こんな風に書くと何かSF小説のようだけど全くそんな感じがなく、静謐な筆致で丁寧な描写がされているので、とてもリアルな風景が見える。なのでじっくりと読み込んでしまうのだ。ウォーターダンスをする母親が青い霧の向こうに垣間見える失われた記憶が切ない。

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    2023年05月28日
  • ワインズバーグ、オハイオ(新潮文庫)

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    19世紀アメリカ西部の田舎町、ワインズバーグ。新聞記者の若者ジョージ・ウィラードを中心に、町に住む「いびつな者たち」の物語を綴る連作短篇集。


    この作品に描かれた「いびつな者たち」とは、大きく括って社会的なマイノリティーの人たちを指しているのだと思う。さまざまな理由ではぐれ者扱いを受けている人たち。「手」のビドルボームや狂言回し役のジョージが抱える葛藤から、〈男らしさが至上の世界からこぼれ落ちた人びと〉というテーマを受け取った。ヒーローにも不良にもなれず、世間から賞賛されるようなことはひとつも成し遂げられない苦しみ。〈落ちこぼれ〉のなかには当然〈女〉も入ってくる。
    ジョージの母エリザベスを主

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    2022年12月31日
  • ウォーターダンサー

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    ネタバレ

    人種差別は自由の国を喧伝するアメリカのあまりにもあからさまな矛盾で、それを外部からどのように語っても的外れにはなってしまうが、この本からはその世界の歴史的な面を少しだけ垣間見ることができる。
    そしてこの本のテーマはそんな歴史の問題だけにとどまらず現代の個人の意志にまで広がっている。
    キーポイントは記憶でありそこから紡ぎ出される物語。現実はもっと厳しいかもしれないけどそんな物語があるからこそ厳しい現実に立ち向かって地下鉄道を辿っていくことができたということかもしれない。
    微温的なハッピーエンドは遥か昔に奴隷制度を克服しても問題は解決しない現実も示している。

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    2022年01月04日
  • レス

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    ネタバレ

    ジャケ買いしたら大当たりだった!LGBTQならではの、「どこにも馴染めない感」が主人公の”LESS”という名前に表れているように、随所にLGBTQならではのドライな視点があって、笑えたし自然と共感して一気読み。主人公に親近感がわきすぎて一緒に旅してる気分になって楽しめた。
    それに、本当に好きな相手って、条件や見た目とか全てとっぱらって無条件で愛おしい唯一無二の存在だよね、としみじみ。ラストが優しく心に沁みた。

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    2021年05月31日
  • レス

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    『レス』というのは主人公の名前である。最近では珍しくなったが、『デイヴィッド・コパフィールド』しかり、『トム・ジョウンズ』しかり、長篇小説の表題に主人公の名前をつけるのは常套手段だった。原題は<LESS>。これが「(量・程度が)より少ない」という意味を持っていることくらい、最近では小学生でもわかる。そういう名前の持ち主が主人公であり、それが表題や各章のタイトルになっているとしたら、初めから内容が想像できるというもの。

    口の悪い評者がハリウッドの二流のロマコメのようだ、と評していたが、いいじゃないか。ロマコメは嫌いではない。スプラッターやホラーより、ずっと好きだ。でもこれはロマコメではない。男

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    2019年10月02日
  • ワインズバーグ、オハイオ(新潮文庫)

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    随分前に橋本福夫の訳で読んで、大好きだった本。上岡伸雄の新訳が出て、『リンカーンとさまよえる霊魂たち』の訳も良かったし、再読してみた。
    とてもいい訳だと思ったが、福田訳を何度も読んでいたので、どうしても違和感があった。特に美しい「紙玉」(上岡訳では「紙の玉」)の「ひねこびたリンゴ」という言葉が心に残っていたので「ごつごつしたリンゴ」には物足りなさを感じてしまった。
    しかし、全部読んでみると福田訳よりずっと分かりやすく、福田訳では読み飛ばしがちだった「狂信者」(福田訳では「信仰」)は思い込みを信仰に結びつける者の恐ろしさ、愚かさ、悲しさが伝わってきて、ラストのジェシーの哀れな姿は胸に迫るものがあ

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    2019年01月02日
  • ワインズバーグ、オハイオ(新潮文庫)

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    必読書としてよく挙げられてはいるものの、なかなか読む機会を得なかった『ワインズバーグ、オハイオ』、新訳が出た、ということですぐに入手した。
    で、読み始めたものの何やかやで途中でページが止まっていた、のだが、今朝、ふと再開したところ、とにかく止まらなくなってしまった。
    無数の人たちが次々に現れては短い物語の主人公となったり、脇役となったりする。当初は、だれに心を寄せればよいのか掴み切れず物語に入り込むことを難しく感じたていた。それも途中で手が止まっていた要因かと思う。
    ところが、なぜか、今日は読み始めたときに「これは、読める」と思った。そして案の定、一日をかけて、すべてを夢中で読んだ。読書には、

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    2018年09月17日
  • ビリー・リンの永遠の一日

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    ものすごく面白かった。
    と言ってしまうと、あまりに平凡で身もふたもないのだが、それ以外に言葉が見つからないぐらい、面白かった。
    全編「おふざけ」がちりばめられている。「ミリオンダラー・ベイビー」のオスカー女優、ヒラリー・スワンクとデスティニー・チャイルドなんて、いったい何度名前が登場しただろうか(彼女らは自分の名が使われることを承知したのかしら)?わたしにはわからなかった「あの人」もたくさんきっと出ているのだろう。そこに、いかにも若い男の子たちらしいお下品な会話がポンポン飛び交う。電車で読んでいると、時にほっぺの内側を噛んでにやけ防止をしたくらいだ。
    …それなのに、行間のどこにも「死」のイメー

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    2017年02月14日
  • テロと文学 9.11後のアメリカと世界

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    日本を代表する米文学者・上岡伸雄先生の名著。複雑化しているアメリカと中東との関係性やテロの問題を、文学という切り口で多角的に論じている。第1章から終章まで、一分の隙もない緻密な論理展開で構成されており、一冊の本として非常に完成度が高い。本書の結論に当たる部分は、文学の力を切々と訴える名文である。

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    2016年03月23日