佐藤泰志のレビュー一覧
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架空の「海炭市」を舞台にした、その土地に住まう人々を16の物語で描く短編集。海があり、山があり、造船や炭鉱で盛り上がり、今は廃れていく一方の、地方都市を、自分は、作者の生まれ育った函館と見立てて読んだ。
彼の存在を知ったのは、7月の連休、函館の親戚に会いに行くついでに旅行をした時のことだ。文学館へ入り、石川啄木がメインの構造を見物する隅の方で、「そこのみにて光輝く」の映画のパンフレットが置かれていた。そのすぐそばに、彼のブースはあった。生の原稿は全てカタカナで書かれており、他にも、内容は確か20代に芥川賞、40代にノーベル文学賞を取ることなどを目標と記したノートも飾られていた。印象としては十 -
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ネタバレ時代は70年代頃か。舞台はおそらく函館。衰退する地方都市の陰鬱な空気が漂う。
造船所を退職した達夫は、パチンコ屋で出会った拓児という男を介して、最底辺の暮らしを営む一家と出会う。認知症で動けないが性欲だけは衰えない父の相手をする長女の千夏と、達夫は恋に落ちる。千夏の元夫の暴力にも耐え、千夏と結婚する。拓児からは兄と慕われる。義父の死によって負担から解放された一家は、達夫と千夏の間に娘もでき、裕福ではないながらも、平穏で幸せを見据えられるようになる。
水産加工場で退屈な日々を送る達夫は、拓児がつれてきた松本という男に誘われて、鉱山で働くことを決意する。半年は妻子の元を離れなければならない。拓児 -
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今までに読んだ佐藤泰志の著作の中で、頁をめくる手の動きを最も忘れ去って読むことができた。
特に表題作。
正直、著者の他の作品では、仕事の描写、作業の描写が淡々と連なるあたり、読みが失速してしまうことがよくあった。
たぶん、これは私自身、作中の仕事に対して特にこれといって予備知識も思い入れも持てていないことと、そもそも書かれた当時の時代の空気が全くわからないことに原因があると思う。
一方、表題作は、汗水流して体を動かすといういつもの佐藤泰志らしさの一つが影を潜めているぶん、わたしにとってこれまでとは喉越しの違う一作だった。
僕と修治、アキと文子、プールと海、海水浴場のブイ。
対比と越 -
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久しぶりの純文学。
重い話はどうかな、と思いましたが、意外にのめりこんでしまいました。
しかし、何で純文学と言うやつは、閉塞感があってどこか虚無的なのだろう。この本を読みながら、そんな事を考えていたのですが、逆ですね。私が勝手に閉塞的で虚無的な作品を純文学に分類してるだけのようです。
純文学の本当の定義ってなんでしょうね。おそらく「作者がやむに止まれぬ衝動に突き動かされて書かれる作品」なのでしょう。確かにこの作品にはその雰囲気があります。
ちなみにこの本、3つの短編で出来てます。
表題の「移動動物園」はかなり閉塞的ですが、最後の「水晶の腕」は先に灯りが見えるようで気持ち良い作品でした。 -
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昔の炭鉱町(モデルは函館)で暮らす市井の人々の暮らしをつづった連作短編です。
殆どが、ごく普通の日常を描いています。登場人物の関連はありますが、全体で一つのストーリーを作るような構成ではありません。一つ一つは独立した短編で、海炭市の住人たちの生活が淡々と描かれます。深い絶望感のようなものがある訳ではないのですが、全体に暗調で静謐な感じです。
ですから、途中で中断すると、少々沈んだ気分になりますし、再び手に取った時も、最初はちょっと気おくれのようなものがあります。
ところが読んでいる最中は、周りが気にならないほど、しっかりと引き込まれてしまうのです。
そういう意味で、不思議な感覚を味わった小説で -
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短編三作品を収録しています。
「移動動物園」は、幼稚園をバスでめぐり、動物との触れあいを子どもたちに体験させる動物園で働く青年の物語。「空の青み」は、マンションの管理人を務める青年が、トイレが詰まったというエジプト人の住人を相手に苦闘する話。「水晶の腕」は、機械梱包工場で働く青年と、個性的な同僚たちの物語です。
わたくしは、いまでは著者の代表作となった『海炭市叙景』を先に読んでおり、そちらの作品のような静謐な世界観の物語を予想していたために、「移動動物園」で皮膚病になってしまったリスなどの動物を殺す描写に出会ったときには驚いてしまいました。「空の青み」には、トイレのなかに腕を突っ込みシーン -
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ネタバレ函館に住んでいた時に文庫化・映画化され、当時函館の本屋ではすごく話題になっていた。その時に購入していたのだが積読になってしまっていたのをようやく読み終えた。
私が知る函館になるまでこういう情景が実際にあったんだろうなと思いながら読んだ。出てくる地名も創作だが、ここだろうと推測できるところと全くピンとこないところがあった。後者に関しては昔は今よりも市電の路線がずっと多かったので、私の頭の中の路線図と一致しないせいかもしれない。映画も見て頭の中のイメージと一致させたいと思った。
それにしても第一話の結末が衝撃すぎた。真冬とはいえ、日が出て登り慣れた函館山で遭難するのだろうか。徒歩で登ったことがな