佐藤泰志のレビュー一覧

  • 海炭市叙景

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    架空の「海炭市」を舞台にした、その土地に住まう人々を16の物語で描く短編集。海があり、山があり、造船や炭鉱で盛り上がり、今は廃れていく一方の、地方都市を、自分は、作者の生まれ育った函館と見立てて読んだ。

    彼の存在を知ったのは、7月の連休、函館の親戚に会いに行くついでに旅行をした時のことだ。文学館へ入り、石川啄木がメインの構造を見物する隅の方で、「そこのみにて光輝く」の映画のパンフレットが置かれていた。そのすぐそばに、彼のブースはあった。生の原稿は全てカタカナで書かれており、他にも、内容は確か20代に芥川賞、40代にノーベル文学賞を取ることなどを目標と記したノートも飾られていた。印象としては十

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    2015年07月31日
  • きみの鳥はうたえる

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    映画海炭市叙景を見て、気になって作者を調べたら「きみの鳥は歌える(and your bird can sing)」、タイトルにグッときて読んでみた。最後まで読んでも、僕のことも静雄のことも佐知子のこともよく知らないままで。大人が若者を羨ましがって書いた小説かと。でもすごく分かる。

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    2016年09月19日
  • 大きなハードルと小さなハードル

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    「凄春」という表現を使ったのは五木寛之先生だったであろうか…だが敢えて私はこの言葉を佐藤氏の小説に冠したいと思う。
    今回は結婚、離婚を扱った中編1作と短編2作、当然ながら独特の視線で我々の日常では経験することのない設定がされていることは言うまでもない。その世界観が「受け入れられなかった作家」の理由なのでありやはり万人にお勧めすることは出来ないだろう。
    しかしどの作品にも描かれる闇は決してネガティブなものでなく光を求めて切り拓こうともがく凄春は常に前を見ている。そしてそこから「輝く」ことこそが佐藤氏の永遠に追い求めたテーマなのである

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    2014年05月20日
  • 黄金の服

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    若者の閉塞感やもどかしさ、息苦しさを描く場合において、他人の目を意識しすぎると村上春樹になり、自分に正直であろうとし過ぎると佐藤泰志になる、という極論。
    外部を意識しすぎた若者の年輪の行く末は、1Q84に表わされるようなファンタジーとなるが、佐藤さんが描く未来はどうだったんだろうと思わされる。ただ、あんまドラマにはならんだろうなー。良くも悪くも。

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    2014年03月13日
  • そこのみにて光輝く

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    ネタバレ

    時代は70年代頃か。舞台はおそらく函館。衰退する地方都市の陰鬱な空気が漂う。
    造船所を退職した達夫は、パチンコ屋で出会った拓児という男を介して、最底辺の暮らしを営む一家と出会う。認知症で動けないが性欲だけは衰えない父の相手をする長女の千夏と、達夫は恋に落ちる。千夏の元夫の暴力にも耐え、千夏と結婚する。拓児からは兄と慕われる。義父の死によって負担から解放された一家は、達夫と千夏の間に娘もでき、裕福ではないながらも、平穏で幸せを見据えられるようになる。

    水産加工場で退屈な日々を送る達夫は、拓児がつれてきた松本という男に誘われて、鉱山で働くことを決意する。半年は妻子の元を離れなければならない。拓児

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    2018年12月14日
  • 大きなハードルと小さなハードル

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    この作品、労働小説色が濃くなかったぶん、読みやすかった。
    あくまでも個人的に。


    特に後半の二作「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」がよかった。
    「夜、…」の方は、村上春樹「風の歌を聴け」を厭世的にではなく描いたら…という印象。
    あくまでも個人的に。

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    2011年10月08日
  • 黄金の服

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    今までに読んだ佐藤泰志の著作の中で、頁をめくる手の動きを最も忘れ去って読むことができた。


    特に表題作。

    正直、著者の他の作品では、仕事の描写、作業の描写が淡々と連なるあたり、読みが失速してしまうことがよくあった。
    たぶん、これは私自身、作中の仕事に対して特にこれといって予備知識も思い入れも持てていないことと、そもそも書かれた当時の時代の空気が全くわからないことに原因があると思う。

    一方、表題作は、汗水流して体を動かすといういつもの佐藤泰志らしさの一つが影を潜めているぶん、わたしにとってこれまでとは喉越しの違う一作だった。


    僕と修治、アキと文子、プールと海、海水浴場のブイ。
    対比と越

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    2011年08月08日
  • 移動動物園

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    久しぶりの純文学。
    重い話はどうかな、と思いましたが、意外にのめりこんでしまいました。

    しかし、何で純文学と言うやつは、閉塞感があってどこか虚無的なのだろう。この本を読みながら、そんな事を考えていたのですが、逆ですね。私が勝手に閉塞的で虚無的な作品を純文学に分類してるだけのようです。
    純文学の本当の定義ってなんでしょうね。おそらく「作者がやむに止まれぬ衝動に突き動かされて書かれる作品」なのでしょう。確かにこの作品にはその雰囲気があります。

    ちなみにこの本、3つの短編で出来てます。
    表題の「移動動物園」はかなり閉塞的ですが、最後の「水晶の腕」は先に灯りが見えるようで気持ち良い作品でした。

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    2016年07月30日
  • 海炭市叙景

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    昔の炭鉱町(モデルは函館)で暮らす市井の人々の暮らしをつづった連作短編です。
    殆どが、ごく普通の日常を描いています。登場人物の関連はありますが、全体で一つのストーリーを作るような構成ではありません。一つ一つは独立した短編で、海炭市の住人たちの生活が淡々と描かれます。深い絶望感のようなものがある訳ではないのですが、全体に暗調で静謐な感じです。
    ですから、途中で中断すると、少々沈んだ気分になりますし、再び手に取った時も、最初はちょっと気おくれのようなものがあります。
    ところが読んでいる最中は、周りが気にならないほど、しっかりと引き込まれてしまうのです。
    そういう意味で、不思議な感覚を味わった小説で

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    2016年07月30日
  • 海炭市叙景

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    函館をモデルにした海炭市を舞台に、そこで暮らす人々を描いていく短編集。色んな人が登場する文芸チックで作品でそこそこ良かった。

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    2025年10月29日
  • そこのみにて光輝く

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    海辺のその街で実際に登場人物たちが暮らしているかのように感じる。
    それは、こういう人で、という説明はないのに、いつの間にか登場人物たちがそれぞれの個性を持ってわたしの中に存在しているからかもしれない。
    そんなふうな描かれ方。

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    2025年08月02日
  • 海炭市叙景

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     海炭市という架空の街を舞台にした短編集。登場人物たちが同じ街に住んでいながら直接関係ある人達はほぼいない。道ですれ違った人のことを全く覚えていないが、ある時には誰よりも近くにいた、そんな関係あるようなないような人たちの話がつづく。
     前半はこれからその人たちはどう関係してくるのか、みたいな緊張感があり、後半は同じ街に住んでいながらこの人たちはこんなに関係ないのかという対比でもあった。

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    2025年07月09日
  • 移動動物園

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    好みの問題だけれど、わたしはすべてをリアルに表現することがほんとうのリアリズムとは思えず。
    汚いことや人間の醜さや裏の部分をちゃんと見なくちゃダメなことはわかるけど、押しつけがましいのは嫌い。

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    2025年01月09日
  • 移動動物園

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    短編三作品を収録しています。

    「移動動物園」は、幼稚園をバスでめぐり、動物との触れあいを子どもたちに体験させる動物園で働く青年の物語。「空の青み」は、マンションの管理人を務める青年が、トイレが詰まったというエジプト人の住人を相手に苦闘する話。「水晶の腕」は、機械梱包工場で働く青年と、個性的な同僚たちの物語です。

    わたくしは、いまでは著者の代表作となった『海炭市叙景』を先に読んでおり、そちらの作品のような静謐な世界観の物語を予想していたために、「移動動物園」で皮膚病になってしまったリスなどの動物を殺す描写に出会ったときには驚いてしまいました。「空の青み」には、トイレのなかに腕を突っ込みシーン

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    2024年11月26日
  • 海炭市叙景

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    ネタバレ

    函館に住んでいた時に文庫化・映画化され、当時函館の本屋ではすごく話題になっていた。その時に購入していたのだが積読になってしまっていたのをようやく読み終えた。
    私が知る函館になるまでこういう情景が実際にあったんだろうなと思いながら読んだ。出てくる地名も創作だが、ここだろうと推測できるところと全くピンとこないところがあった。後者に関しては昔は今よりも市電の路線がずっと多かったので、私の頭の中の路線図と一致しないせいかもしれない。映画も見て頭の中のイメージと一致させたいと思った。

    それにしても第一話の結末が衝撃すぎた。真冬とはいえ、日が出て登り慣れた函館山で遭難するのだろうか。徒歩で登ったことがな

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    2024年09月26日
  • きみの鳥はうたえる

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    短中編2作品収録
    青春小説で主人公に起こる出来事を
    たんたんと読んでいた感じです
    表題作はタイトルから謎です

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    2023年08月09日
  • 大きなハードルと小さなハードル

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    ”世間の眼などどうでもよかった。鳥は夜に眠り、啼かないものだ、と教えてくれる世間など。”

    作品の空気感みたいなもので言えば、一番クセになっている著者。
    今作も男女や家族の3つの短い物語から、カラッと晴れてはいないけど雨でもない、それでいてジトっとともしていないような、独特の空気を感じとれた。
    どの作品も明るく朗らかって感じてはないし、早々特別なことがあるわけでもないけど、日常生活の些細な機微がきっかけとなり、微かなこれからへの希望を見出していた。
    長い時間をかけて、この人の物語をできるだけ多く読んでいきたい。

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    2023年04月03日
  • 黄金の服

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    映画「オーバーフェンス」を観てからの読書。
    焦燥感は懐かしいが、私はこういう学生時代を過ごさなかった(夜学)ので、うらやましくもある。
    函館3部作はお薦めです。

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    2023年03月03日
  • 大きなハードルと小さなハードル

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    映画、きみの鳥はうたえるがとても良く
    同原作者が映画化されるという事なので読んだ

    父親もアルコール中毒だったし
    私も人の親になってもおかしくない齢にもなったので
    感慨深く読みました

    二編共に平穏とは呼べない日常が描かれているが
    その中でも希望を見い出し先へ歩む
    そんな結末だった

    やはり子どもは光

    きみの鳥はうたえる
    もう一度観てみよう
    原作も読んでみよう

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    2022年11月02日
  • きみの鳥はうたえる

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    きみの鳥はうたえる
    少し難しい。次々と男を乗り換える佐知子という女性の心の動きも、よくわからない。
    草の響き
    こちらの方がわかりやすい。走りたくなる。
    ストーリーは静かだが、主人公が聞く音楽がロカビリーで、それを想像するとまた違った印象になる。

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    2022年09月07日