佐藤泰志のレビュー一覧

  • そこのみにて光輝く

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    ネタバレ

    2.5年前に映画を見た。以下感想を引用。
     @
    はらわたが切り裂かれるように痛い映像だ。主人公の達夫は、自罰的にぼんくらな生活を送っている。やんちゃな拓児に出会い、貧困と介護(父のオナニー手伝いまで)に疲労する千夏と出逢う。体を売っている店もばれ、情夫がいることもばれ、それでも互いの傷に惹かれあい。生活を立て直そうとするのにこんなにも身動きがとれない。
    浜辺の朝日のシーンなど映像の美しさももちろんだが、脚本の鋭さも。「女の顔して」「もとから女ですけど」とか、発破の作業中に部下をひとり死なせてしまったと告白する達夫に、「だから自分みたいなのと付き合うんだね」と言ってしまう千夏とか。
    原作者は春樹

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    2018年06月22日
  • 海炭市叙景

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    続編ありと予告されていながら、作者の自殺によって本前編だけしか読めなくなってしまった訳ですね。この中でも前半と後半で若干色合いが異なっていて、前半はゆるい繋がりのある連作短編で、後半はほぼ独立した短編たち。どこかに憂いを抱いた人たちがそれぞれの主人公で、結末までは語られないこともあり、読者の想像如何で、物語が多彩な色合いを呈する仕様になっている。来ない荷物を寒い港で待つ話とか、子供と合える直前にガスボンベで怪我する話とか、休日の帰途に追い禁でつかまる話とか、そのあたりが印象に残りました。

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    2018年04月18日
  • 海炭市叙景

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    やがて春となり夏の初めとなるわけだが冬から始まるためか、切々と暗く寒い。真夏から秋は作者がいなくなってしまうのでない。暗いが身近に感じ温かさもある18編。気づけば海炭市の地図が頭の中に出来上がり自分もその叙景の中にいる。一話目の妹が今どうしているだろうかと読み終わっても気になる。

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    2018年01月22日
  • 黄金の服

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    ネタバレ

    この人の作品は主人公の性格を読み手が「この人はどんな人なんだろう」と必死で読み解こう読み解こうとさせる。
    現実社会のように、少しずつしか主人公たちの性格を知ることができない。最後にやっと、あぁこんな人だったのかとわかる。
    せりふ回しが独特(昭和?)。
    言い方に変な遠慮などがないからすがすがしい、けど実際こういう言われ方したら現代っ子は傷つくかもな~なんて。

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    2017年01月25日
  • そこのみにて光輝く

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    海炭市叙景で感じた文体の瑞々しさとは、
    また少し違った眩さ溢れる作品。

    一文の短さや、
    出来事の始まりを回想で蘇らせることで、
    特別な瞬間として装飾する方法や、
    限りなく内的な移り変わりなはずなのに、
    景色で語られるその心情やらが、
    すべて抑制的なのに、
    夏の光、冬の光、
    生々しい底に?
    もしくは底から?
    薄くても差し込むその光が、
    闇を浮かび上がらせながらも、
    やはりその先の希望を影絵のように映し出す。

    日常性と、非日常性。
    安定性と、不安定性。
    固定と、流動。
    光と、闇。
    そのなかに漂い続ける、
    あなたと、わたし。

    出会いに堕ちていくような一瞬が放つ、
    潮の香りと波音に、
    人間の本質

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    2016年07月28日
  • 海炭市叙景

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    文体の、何たる瑞々しさ。
    熟した葡萄の皮に、
    ぷちっと歯を立ててその果汁と果肉を味わった時の、
    酸味、甘み、渋みのコントラストのような、
    冷えた視線の中にある瑞々しい文体に、
    何度もはっとし、
    ひどく安易な言葉であるが、感動した。

    その場所で、その時を全力で、
    働きながら食べて、町を歩く人々に宿る、
    絶望と、密やかな狂気。
    いずれもが、私たちであり、
    また隣りにいるあなたであるという、
    果てない人間への愛が見える。



    BSで特集が組まれた時に、
    恥ずかしながら初めて知った作者。
    映画が大変素晴らしかったので手にした原作が、
    こんなにまでも秀逸な作品だったとは。

    翻って、熊切和嘉監督に

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    2015年10月26日
  • 黄金の服

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    このなかの「オーバー・フェンス」が来年2016年の夏に、映画になって公開されるそうです。

    そう、それは『海炭市叙景』そして『そこのみにて光輝く』に続いて、佐藤泰志の小説の映画化3作目になるのです。

    佐藤泰志は、中学生の頃から小説家を目指して高校時代は青少年文芸賞ほかに入賞して、村上春樹とも同時代作家と評価されながら、でも知名度の高い文学賞には候補どまり続きで、そのためついには精神に異常をきたし失意のうちに自死した不幸な小説家でした。

    この、彼が三十六歳のとき書いた作品「オーバー・フェンス」も、都合5回目の芥川賞候補となりましたが、残念ながら受賞しませんでした。



    ・・・白岩という主人

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    2015年09月18日
  • 大きなハードルと小さなハードル

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    第1部「美しい夏」「野栗鼠」「大きなハードルと小さなハードル」「納屋のように広い心」「裸者の夏」、第2部「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」。

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    2014年01月15日
  • もうひとつの朝 佐藤泰志初期作品集

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    「海炭市叙景」映画化から随分経ってしまってからようやく佐藤泰志を読破しようとまずはこちらから。
    大層好み。

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    2014年01月11日
  • もうひとつの朝 佐藤泰志初期作品集

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    『海炭市叙景』が佐藤泰志の集大成であるなら、これらは若芽や早苗に当たるのでしょう。 ほとんど古典のみに向いていた僕の興味を、現代の小説に向けてくれた作家の一人であり、故郷の誇れる先輩の作品集。とても思い入れの深い一冊になっています。

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    2013年03月31日
  • 黄金の服

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    初めて佐藤泰志の作品を読んだが、久々に良い読書だった。その上、夏の終わりに読むには。
    村上春樹だ、大江だ、中上だ、と言われているみたいだけれど(まぁ、確かに雰囲気は似ているところもあるけどさ)、彼の作品はそれ自身でググッとくる。全部好きだったが、表題作が一番好き。
    今とってもビールが飲みたい。

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    2012年09月11日
  • そこのみにて光輝く

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    纏わりつくような閉塞感と退廃的な空気を感じるのに、不思議と嫌な感じは受けなかった。そこにしか行き場がなかった人達が、そこで家族を作る。
    その気になれば、町を出ていくこともできたかもしれないのに。
    外に光を求めずに、自らの中に光を見いだしたかったのか、そうせざるを得なかったのか。生きることのひたむきさを感じた。
    2章での、とどまることを選んでも尚、新しいものを渇望し、揺れ動いている達夫の人間臭さも好きだった。

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    2025年07月08日
  • きみの鳥はうたえる

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    君の鳥はうたえる、は映画を見て、草の響きは映画を見ずに読んだ。
    2017年にオーバーフェンスの映画を見たころに読もうとした時はなんだか読みきれなかったのだけど、今回すらっと読めて良いのやら悪いのやら。
    君の鳥はうたえる、は行き場がないわけでないのにどこにも行かない若者や大人のお話。
    草の響き はやっぱ運動は大事なのかな、と思った。
    ストイックな人の方が辛くなるのよね、とか共感できるのはあんま良くないなあと思ったり、著者の死後にどんどん映画化されてるのも生きにくい人増えてるのかな?と思ったり。
    タイトルは静雄の持ってたビートルズのレコードの曲からなのね。

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    2025年06月10日
  • そこのみにて光輝く

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    始めは文体に馴染めなく読み進めるのに苦労したが、段々と焦点があってくる感じがあり、半分くらいから最後までは一気に読めた。慣れるとこの文体が心地よかった。終始ヒリついた内容だったけど、嫌いじゃない。水々しい生々しい表現が非常に良い。嫌いじゃないけど嫌いな人もいるだろうな。オーバーフェンスもきみの鳥はうたえるも映画は見たので原作を読んでみようとおもった。

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    2025年02月09日
  • きみの鳥はうたえる

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    佐藤泰志の初期の作品。
    他の作品に比べて登場人物が若い。
    主人公に名前が無い。
    「草の響き」は佐藤の職業経験や病気の経験が反映されているらしい。
    厳しい生活を送ってきたんだろうな。

    若い頃は何があってもやり直せるし、目の前に道はあるよな、と思う。
    もっと若い頃に読んでいれば違う感想を抱いたかも知れない。

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    2024年12月03日
  • きみの鳥はうたえる

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    きみの鳥はうたえる 60
     「黄金の服」をある意味での完成形だとすると、本作の立ち位置というか存在が相対的に見えてくるかも。
    となると逆に、本作を通してみると「黄金の服」がとても完成度の高い作品にも思えてきます。

    自分と他者との距離感の表現がとても興味深いです。
    主人公と静雄と佐和子(ソウルメイト)
    アラ(他人)
    専門書のあいつ、店長(ノイズ)
    静雄の兄貴(他人)

    手の届く自身のテリトリーの狭い世界の中に、ソウルメイトとノイズが同居しているようすが、21歳の若者のリアリティを浮き上がらせているようです。


    草の響き 80
    著者自身が統合失調症を患いランニングを始めた経験が基になってい

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    2024年11月28日
  • 海炭市叙景

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    海と炭鉱のある地方都市に暮らすさまざまな人びとの人生の断片を切りとって活写している連作短編集です。

    本作の舞台になっている海炭市は、著者の出身地である函館をモデルにしているようですが、日本のどこにでもある地方都市といえるように思います。えがかれているのは、人びとがいまだパソコンも携帯電話ももたない1980年代の後半で、いわゆるバブル経済に日本がわいていたころですが、本書の登場人物の多くはそうした時代の最前線からとりのこされた人びとです。炭鉱の閉鎖によって失業者が現われ、翳りを見せはじめた地方都市で、すこしずつ人生をすり減らすようにして日々の暮らしを送っている彼らのすがたがていねいに叙述されて

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    2024年11月26日
  • 海炭市叙景

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    函館〜。種々様々な行き当たりの遠景に炭鉱から観光都市に変わる町があって、地方の閉塞感が生々しい。でも書かれた時代のせいなのか、今よりはまだ世情に勢いがあるような。この間見た映画の原作だと思ったら違った…

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    2024年10月10日
  • そこのみにて光輝く

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    「とっつきにくい文章だなあ」というのが最初の印象。“文章が重い”とでも言えばいいか。
    しかし、読んでいるうち、慣れてくる。
    徐々に、心地よい温度に感じられてくる。

    決して個性のある文章、文体ではないが、情景描写が徹底されている。いや、風景描写といったほうが相応しいかもしれない。絵を見せるような描写である。
    この土地への作者の強い思いが、ここに表れていると思った。

    私にとっては、魅力的な人物は出てこなかった。ある程度小説を読んでいる人なら、みたことのあるような登場人物たちである。
    しかし、そんな人物同士が出逢ったときに生まれる物語は随一である。
    人ではない、人と人の出逢の物語を書いている。

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    2024年06月26日
  • きみの鳥はうたえる

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    ネタバレ

    自らのための備忘録

     2024年令和6年の今より、1980年前後の時代の方が好き!と思わず感じた小説でした。

     ここからネタバレします。

     表題の「きみの鳥はうたえる」の最後のところを読んで、なぜ、この結末を想像できなかったのかと自分がイヤになりました。もう最初から、伏線はこれでもかっていうほど張られていて、それに気づかない読者なんて、この本を読む資格はないんじゃないかと思ったほど。

     文庫本の解説のタイトルにもなっている「三人傘のゆくえ」は何より印象に残りました。
    《そのうち、佐知子のむこうに、彼女を通して新しく静雄を感じるだろう》のあと、《そのうち僕は佐知子をとおして新しく静雄を感

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    2024年06月06日