佐藤泰志のレビュー一覧

  • そこのみにて光輝く
    作者である佐藤泰志の唯一の長編作品。
    30歳を間近に控える主人公が、観光しか取り柄の無い地方都市で、衰退していく会社に見切りを付け、ブラブラと無意味な日々を過ごす。物語の始まりは数奇なもので、その邂逅から、ダラダラと、怠惰に、それでもしっかりと、段々と、生きているという認識をさせられる。
    人物の行動...続きを読む
  • 海炭市叙景
    文体の、何たる瑞々しさ。
    熟した葡萄の皮に、
    ぷちっと歯を立ててその果汁と果肉を味わった時の、
    酸味、甘み、渋みのコントラストのような、
    冷えた視線の中にある瑞々しい文体に、
    何度もはっとし、
    ひどく安易な言葉であるが、感動した。

    その場所で、その時を全力で、
    働きながら食べて、町を歩く人々に宿る...続きを読む
  • 黄金の服
    このなかの「オーバー・フェンス」が来年2016年の夏に、映画になって公開されるそうです。

    そう、それは『海炭市叙景』そして『そこのみにて光輝く』に続いて、佐藤泰志の小説の映画化3作目になるのです。

    佐藤泰志は、中学生の頃から小説家を目指して高校時代は青少年文芸賞ほかに入賞して、村上春樹とも同時代...続きを読む
  • きみの鳥はうたえる
    いわゆる“ドリカム状態”の男女三人(表現が古い?)の青春を描いた表題作と、仕事のストレスから精神を患い医者に勧められたのがきっかけで走ることに夢中になった若者を描いた「草の響き」の二本収録。
    以前読んだ「そこのみにて光輝く」同様、若者たちの間に漂う閉塞感みたいなものの描き方秀逸で、1970年代後半か...続きを読む
  • そこのみにて光輝く
    1989年に書かれた小説とのことですが、今の時代に通じる閉塞感があって読んでいてメゲました。自分を突き放したような主人公の考え方にも共感というか「そうだよなぁ」と感じる部分があって重い気持ちになりました。
  • 海炭市叙景
    先に同名タイトルの映画を観ました。映画を先に観ることはあまりないのですが、この作品に関しては竹原ピストルさんが出演していたので我慢ならず。

    物語は「海炭市」という北海道にあるという設定の架空のまちが舞台です。かつては造船や炭鉱で活気づいていた海炭市に生きる人々の生活が描かれています。

    本作には第...続きを読む
  • きみの鳥はうたえる
    共に21歳の僕と静雄はふたり暮らし。そこに僕の彼女である佐知子が加わる。
    全体をとおして常に息が詰まってしまうような淡々と語られる青春小説。
    ほこり臭くて、じめっとしている。
    僕が彼女である佐知子を躊躇なく静雄に渡してしまうなど、僕の心情がなかなかつかめません。
    後半、静雄が気を違えてしまったり、文...続きを読む
  • 海炭市叙景
    [夢想的立上げ]三方を海に囲まれた架空の地方都市「海炭市」。その地を舞台に生きる老若男女18名をそれぞれに主人公にした短編連作です。地方都市の落着き・安らぎとの裏表の関係にある孤独と、なだらかな衰退感を総合的に立ち上げていくかのような作品。著者は、本書によって改めて評価が高まりつつあったものの、若く...続きを読む
  • 大きなハードルと小さなハードル
    第1部「美しい夏」「野栗鼠」「大きなハードルと小さなハードル」「納屋のように広い心」「裸者の夏」、第2部「鬼ガ島」「夜、鳥たちが啼く」。
  • もうひとつの朝 佐藤泰志初期作品集
    「海炭市叙景」映画化から随分経ってしまってからようやく佐藤泰志を読破しようとまずはこちらから。
    大層好み。
  • もうひとつの朝 佐藤泰志初期作品集
    『海炭市叙景』が佐藤泰志の集大成であるなら、これらは若芽や早苗に当たるのでしょう。 ほとんど古典のみに向いていた僕の興味を、現代の小説に向けてくれた作家の一人であり、故郷の誇れる先輩の作品集。とても思い入れの深い一冊になっています。
  • きみの鳥はうたえる
    多くを語らない主人公が、そのまま作者の繊細な誠実さをうつしているように思った。僕と静雄と佐知子の夏。その終幕には鳥肌が立った。言葉を失うとはこのことか。
    佐藤泰志が、詩人の方々の間で名前があがる理由がなんとなくわかったような。ぐるぐる語らない語り。露悪的にならないヒントがここにあると思う。
    とりあえ...続きを読む
  • 黄金の服
    初めて佐藤泰志の作品を読んだが、久々に良い読書だった。その上、夏の終わりに読むには。
    村上春樹だ、大江だ、中上だ、と言われているみたいだけれど(まぁ、確かに雰囲気は似ているところもあるけどさ)、彼の作品はそれ自身でググッとくる。全部好きだったが、表題作が一番好き。
    今とってもビールが飲みたい。
  • そこのみにて光輝く
     好きな世界だ。ヒリヒリする感じがいい。
     映画も公開当時観たが映画の方がリアリティがあってよかったな。

     佐藤泰志は好きな作家だ。
  • きみの鳥はうたえる
    『きみの鳥はうたえる』
    知らないはずの昭和の夏のにおいがする。(自分とは縁のないような)眩ゆいきらめきに満ちた日々の中に、ときおり恋愛・家族・生きることについての鈍い痛みがはしる。「僕」の捉えどころのなさ、佐知子の軽(やか)さ、静雄のナイーブさ…時に首を傾げる点もあったが、決して広くはない世界で、一...続きを読む
  • きみの鳥はうたえる
    原作が小説とは知らず先に映像を見てしまった(あまりやらないようにしてる)
    こんなに古い原作だったとは
    これからあの映画を作ったって考えるとあの映画は成功してる気がする(映画好きだった)
  • そこのみにて光輝く
    なかなかきつい境遇。
    でも、その中にも幸せはある。
    主人公がなんだか人を惹きつける魅力がある。
    ただし、浮気したのは残念だった。
  • 大きなハードルと小さなハードル
    佐藤泰志作品の映像化は欠かさず観てるので未読だった『夜、鳥たちが啼く』の制作が決まってこの文庫購入。
    まずこちらから先に読んでしまったけど、収蔵順に読んだほうがよかったかな?
    Ⅰ部の5編は連作で登場人物が繋がってます。
    Ⅱ部の2編は書かれた時期、掲載順などは全く関係ないのですが、通しで読むとこの順番...続きを読む
  • そこのみにて光輝く
    10年近く前に映画を観て、ずいぶん暗くて行き場の無い街と人々だな、と感じた。函館行きを前に佐藤泰志「海炭市叙景」を読み返したのに続き、こちらも読んだ。映画の物語は忘れていて千夏が魅力的だったことだけ覚えてる。小説の中でもおんなじだ。炭鉱、造船所、歓楽街、競輪場、刑務所、と楽しみにしている函館旅行がま...続きを読む
  • 海炭市叙景
    短編集ではあるが、同じ時代、同じ街で起こる出来事が、各ストーリーごとにすれ違ったり、遠まきに絡んでいるところがあり、一冊でひとつの物語という感覚もあった。1本目のまだ若い廃墟がとてもよかった。冒頭から引き込まれて、短編ならではの切れ味があって楽しめた。
    あとは、裂けた爪、猫を抱いた婆さん、昂った夜、...続きを読む