佐藤泰志のレビュー一覧
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『きみの鳥はうたえる』
知らないはずの昭和の夏のにおいがする。(自分とは縁のないような)眩ゆいきらめきに満ちた日々の中に、ときおり恋愛・家族・生きることについての鈍い痛みがはしる。「僕」の捉えどころのなさ、佐知子の軽(やか)さ、静雄のナイーブさ…時に首を傾げる点もあったが、決して広くはない世界で、一見飄々と生きているようでも実は各々抱えたものがあるという物語は、時の流れによって色褪せることのない普遍的な題材だと思う。夏の入り口のこの時期に読んで非常に心がヒリついた一編だった。
『草の響き』
映画のビジュアルを見ていて、てっきり妻が出てくるものだと思っていたから意外だった。走ることを通じて内省 -
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佐藤泰志作品の映像化は欠かさず観てるので未読だった『夜、鳥たちが啼く』の制作が決まってこの文庫購入。
まずこちらから先に読んでしまったけど、収蔵順に読んだほうがよかったかな?
Ⅰ部の5編は連作で登場人物が繋がってます。
Ⅱ部の2編は書かれた時期、掲載順などは全く関係ないのですが、通しで読むとこの順番の妙がわかりました。編集者ってやはり凄い!
(ちなみに映画は「夜、鳥たちが啼く」の一編からだけでなく、この一冊の中からいくつかのエピソードを入れ込んでいます。ですから一冊丸ごと読んだ方が映画は更に面白くなるのではないかと。)
小説は独特の〝視点〟の取り方に初めは混乱しましたが、そういう事ならそ -
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『きみの鳥はうたえる』に集録されている「草の響き」を先に読み上げた。
同タイトルの映画を先に観たところ、今の自分の状況と重なるところがあり、原作を読んでみたいと思い購入したもの。
個人的な感覚では、スラスラ読めて情景が目に浮かびやすい、というものではないが、ところどころで立ち止まりながらゆっくり読むと良いように感じた。一度ざっと読んで、今は2周目を、今度はじっくり読んでいる。
また、主人公と同じように、走り、心臓が張り裂けるくらいの体験をすると、また違った感想が持てるかもしれない。
2周目を読み終えたとき、どういう感想が持てるのか、楽しみだ。 -
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ネタバレ20210917
海炭市叙景を読んで
函館の文学館の吉田さんの紹介で佐藤泰志の小説を読みたいと思って入りやすいと紹介された海炭市叙景を買った。
最初の章で出てくる函館山、あまり自分が見た光景が舞台になっている様子を見た事がなかったのでそれだけで感動した。不思議な感じだった。
吉田さんが佐藤ひさしの中高の1つ下という話も他の小説と比べて特別な感じがした。筆者が近いというか。
そんな特別な小説として読み始めて、1~18章を読んだ。
吉田さんは最初の話が暗くて辛いといったことを仰っていたが、私はそんなに暗く感じなかった。
何でだろう。
救いようがない兄妹であることは確かだけれど、その前に思いやりや -
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ネタバレ海炭市という北方の架空の街を舞台にした群像劇、となっている。
語り手は次々と変わっていき、それぞれの視線で街とそこに住む自分という存在が語られていくのだが、ぜんぶを読み終えてふと誰にも寄り添えきれなかったような気がしている。街という絶対的な共通項はあるのだけれど、転々ばらばらな感情であり、街を統合するひとつの感情としてこの登場人物たちをまとめることができなかった。
第一章の話にとても好きなのがいくつもある。ひとつひとつの掌編のクオリティがめちゃめちゃ高いなと思う。思えば先生に薦められたのもこの小説のいちばんはじめに書かれている「まだ若い廃墟」だった。前半の話のほうが、廃れていく街がすぐそこ -
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ネタバレ読んでいるときの感覚は「黄金の服」がいちばん好きなのだけれど、たぶん「オーバー・フェンス」のほうが書こうとしていることの確固さはあるのだろうなと思う。佐藤泰志の描く北方の街はそれだけ人物の思いが反映されやすい場所のようだ。
「黄金の服」の舞台は東京で、そこにいる若者たちはふわふわとどこか浮ついている。
「泳いで、酔っ払って、泳いで、酔っ払って、そして、と僕は思っていた。木曜日にはサーカスへ行く。日曜日までには本を一冊読み終る。」
主人公はこう語る。24歳の時間の流れ方としてはあまりにも緩やかで、こんな生活をしていいのかと彼はすこし思っている。彼と関わる幾人かの若者のその後はというと、道雄は大学 -
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ずっと読みたかった佐藤泰志作品。終始暗鬱としているけど、ねばついていない独特な雰囲気。結末がまったく読めず、読み進めたい気持ちと読み進めるのが怖い気持ちがずっと介在していた。
達夫も拓児も千夏も、妹も松本も、全員が人に愛される要素がある人柄なのに、どうしてこうも一筋縄ではいかない世の中なんだろう。血の繋がりがなくても、家族、友人というのは一生をかけて大切にしたい、すべき存在だと改めて教わりました。
作中で、若さに対するこだわりみたいなのがちょくちょく垣間見れた気がするけど、著者の思想なのかな。年老いたこの家族の姿というはどうなるのか、想像したい。 -
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ネタバレ『きみの鳥はうたえる』と『草の響き』という話が入っていた。
きみの鳥はうたえるの作中に流れている雰囲気は好き。限りなく透明に近いブルーかな、雰囲気が近いと思ったのは。たぶんいい場面なんだろうなという場面がおおかった。(傘を差して三人くっつき合って歩くところなど)だがそれをじっくり感じる間もなく次に流れていったところが少なからずあった。
もう一編の草の響きがとにかく好きだった。これはまた誰かに薦めたいほど。文章もひたすら体のうちに入ってきたし、主人公の思いの馳せかたが好きだ。墓地にいる暴走族とのかかわりが優しく、そして愛おしい。
それでもなんでこの本の題名がきみの鳥はうたえるなのか読み終わってか -
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21歳の男女三人を描いた作品。
こういう純文学の主人公はどうしてもきっちりとした日常生活に耐えられない人になってしまうのか。
書店でバイトをする主人公・僕。しばしば無断欠勤、刹那的、時に暴力的。
同居人の静雄に至っては職も無く、人の好意にたかって生きている。
そして主人公の彼女になった同い年の佐知子は、静雄に惹かれて行く。
作者・佐藤泰志は私より少し上だけど近い世代。
(私とはかなり違う生き方だけど)若い時はこんなだったよなと振り返らされる。
閉塞感の中、もがいているのか?流されているのか?
「自由に生きる」と思いながらも、それを謳歌している訳でもなく、どこか苦しんでいる。
時代は変わったけ