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北の町に暮らす人々を描く悲運の作家の遺作
「海炭市叙景」は、90年に自死を遂げた作家、佐藤泰志(1949-90)の遺作となった短編連作です。海に囲まれた北の町、「海炭市」(佐藤の故郷である函館市がモデルです)に暮らすさまざまな人々の日常を淡々と描き、落ち着いた筆致の底から、「普通の人々」の悲しみと喜び、絶望と希望があざやかに浮かび上がってきます。この作品が執筆された当時はいわゆる「バブル」時代でしたが、地方都市の経済的逼迫はすでに始まっていました。20年の歳月を経て、佐藤泰志が描いたこの作品内の状況は、よりリアルに私たちに迫ってくると言えます。
函館市民たちが主導した映画(熊切和嘉監督・加瀬亮、谷村美月、小林薫、南果歩などが出演)の公開は2010年12月。映画化をきっかけに、心ある読者に愛されてきた幻の名作が、ついに電子書籍となって登場!
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Posted by ブクログ
著者が生まれ育った函館市をモデルとした連作短編集。
海炭市に居住する人々の小さな日々の物語で18編が交錯しそこに生活する人間の場面場面が海炭市を浮かび上がらせながら小さな存在で何でもない平凡な登場人物の心を映し出す柔らかくも愛しい至極の作品です。
特に1編目の”まだ若い廃墟”は胸に響きます。冒頭で妹と思われる女性が下山してくる兄をひたすら待ち続けるシーンで始まる、、、父親を亡くし母親は失踪し貧しい暮らしを続けていた兄妹が正月を迎える前に共に失業し希望のない暗い生活を送っている。そんな大晦日に兄は全財産の2千数百円を持って初日の出を拝みに妹を誘いに近所の小さな山へロープウエイで登り売店で1本のビールを分け合いながら兎に角今この時間のみに乾杯する。。。
希望のない人生・炭鉱を主力とした魅力のない地方都市・貧困・暗く陰鬱な生活にピリオドを打つのが目的だったのか寡黙で男らしい兄の行動は何だったのだろうか、、、
Posted by ブクログ
初めて読む佐藤泰志が、まさかの彼の遺作だった。
函館市をモデルにした"海炭市"に暮らす人々の話。
冷たくて灰色で、厳しい海炭市の冬。
まだ若い廃墟について。
「待った。ただひたすら兄の下山を待ち続けた。から始まる、冒頭のひと段落が、私は素晴らしいと思う。
過去のことを話しているんだろうな、と思いつつも、そのまま物語の中に入り込んでしまった。
もう全て決めてしまったから、あの態度だったのか。
ねぇ、なんで?どうして?と思ったが、そんなことしか思えないのは、私が未熟だからだろう。
「あやまらない。誰にもあやまらない。」と出てくるが、そこはもうロープウェイの待合室で1人待つ妹の姿を想像するだけで、何とも言い難い辛さが、少しずつ少しずつ近付いてくる。
ある時点で、もうとっくに妹も薄らではあるが、気付いていただろう。
そして兄も、そのことに気付いていただろう。
だけど、お互いに普段通りに振る舞うことの辛さよ。
そんな兄妹がとても悲しい。
その次の話で「あぁ、もう本当やめて」と思った。
Posted by ブクログ
著者の未完の遺作となった連作短編。ついこないだ同じ著者の『そこにみにて光輝く』を読み、すくいようがないくらい閉塞感がありながらもその眼差し=筆致のやさしさに引かれて2作目を読んでみた。やさしさに引かれてと前述したけれど、多分に著者が自死した人であることを意識しているであろう自分。自死してしまうほど考えてしまうとともにやさし過ぎる人だったのだろうと思っている。
『海炭市情景』も閉塞感が関係している。地方の斜陽化しつつある街の市井の人々それぞれが1編ごとに描かれる。ヤクザのやさしさを見たりシレっと児童虐待があったり、小説だから当然といえば当然なんだけど一辺倒でない人の姿が描かれる。
といいつつ、とりわけ普通で何も起こらない「週末」という1編がよかった。路面電車のロートル運転手が、孫を生まんとしている娘のことを思い、きょうは事故など起こしたくないと思う話。こんな何気ないことが心をつかむストーリーになる。
Posted by ブクログ
文体の、何たる瑞々しさ。
熟した葡萄の皮に、
ぷちっと歯を立ててその果汁と果肉を味わった時の、
酸味、甘み、渋みのコントラストのような、
冷えた視線の中にある瑞々しい文体に、
何度もはっとし、
ひどく安易な言葉であるが、感動した。
その場所で、その時を全力で、
働きながら食べて、町を歩く人々に宿る、
絶望と、密やかな狂気。
いずれもが、私たちであり、
また隣りにいるあなたであるという、
果てない人間への愛が見える。
*
BSで特集が組まれた時に、
恥ずかしながら初めて知った作者。
映画が大変素晴らしかったので手にした原作が、
こんなにまでも秀逸な作品だったとは。
翻って、熊切和嘉監督による映像化が、
いかに原作の世界観を守りつつ、
独自の空気と色を染み込ませたのかがよく分かる。
原作、映像化、いずれも大いにオススメ。
Posted by ブクログ
海と炭鉱のある地方都市に暮らすさまざまな人びとの人生の断片を切りとって活写している連作短編集です。
本作の舞台になっている海炭市は、著者の出身地である函館をモデルにしているようですが、日本のどこにでもある地方都市といえるように思います。えがかれているのは、人びとがいまだパソコンも携帯電話ももたない1980年代の後半で、いわゆるバブル経済に日本がわいていたころですが、本書の登場人物の多くはそうした時代の最前線からとりのこされた人びとです。炭鉱の閉鎖によって失業者が現われ、翳りを見せはじめた地方都市で、すこしずつ人生をすり減らすようにして日々の暮らしを送っている彼らのすがたがていねいに叙述されています。
そのことが、かえって現代の日本に暮らす人びとにも慣れ親しんだ日々の光景として受けとられたことが、本作が支持を得ることになった理由なのかもしれません。われわれもまた、おなじことのくり返しのような日々を送りながらも、ゆっくりと、けれども確実に活気をうしないつつある世界で、やがては終わりを迎える人生を一歩ずつあゆんでいるのだということを感じさせられます。
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