佐藤泰志のレビュー一覧
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第一部「そこのみにて光輝く」は息を張りつめたような若さがある。くっきりした登場人物像たちの描写がうまい。特に中心の「達夫」と「千夏」がいいなあ~暗さの中にキラキラしたものがある感じ。
「千夏」の弟「拓児」に誘われて「達夫」が訪ねた家は、開発に取り残されたようなちいさなバラック小屋だった。両親と姉弟が住んでいるその家は、生活・生きざままでもが壊れてすさんでいるようだった。しかし、そこには家族の強い矜持があったのだ、と思いいたる導入部に惹きつけられる。
若くてなにものかに飢えている「達夫」が「千夏」とそれからたどる恋の道筋はすごくいい感じだ!!
けれども、第二部「滴る陽のしずくにも」の二 -
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若いときを振り返るっていうのは恥ずかしいか、なんとなく盛ってしまうか、飾ってしまうか、照れくさいものだけれど、それも振り返る時期(年齢)にも関係してくるのだろう。
この『きみの鳥はうたえる』は佐藤泰志氏30代のデビュー作でおとなになりたくもなく、おとなになりきれず、でも、おとなになってしまわないといけない・・・という21歳の青春時代を私小説風に書いている。
なぜ私小説風と言うのかというと、
磊落で硬質な書店員の「僕」と書店員仲間の「佐知子」の恋人関係が、「僕」の友人「静雄」のナイーブな優しさにつつまれて、恋人関係が静雄と佐知子に何事もなく移るなんてあり得ないこと。三人の関係が壊れてしまうの -
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日本のどこにでもありそうな、しかしそれは架空の街。そこに住んでいる人々の暮らしと人生を物語る。一筋縄ではいかぬ人間を見つめる作者の目は張りつめている。(41歳の若さで自殺してしまった作者を想うとなおさら)
「まだ若い廃坑」「一滴のあこがれ」「夜の中の夜」など、ひとつひとつの短い物語のタイトルからして印象深い。(友人の書いた詩より拝借らしいが)何気ない普通の暮らし、あるいは切羽詰まった物語の淡々とした描写が光っている。
バブルもはじてけない時代1980年代に書かれたので、予言的だと解説にもある。つまりうまくいかない人生模様や人間の心は、すっかり現代にも通じるのだということ。
いえいえ、そ -
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著者と私は同年生まれ。同じ國學院大學卒。ただし著者は3年遅れて大学入学(哲学科だからただの浪人とは違う?)なので実際に大学生として被っているのは1年間。学科も違うので接触はなかったはず。まあ私はその後職員として勤めていたので学内ですれ違ったことぐらいはあったかも。芥川賞候補の小説家としても残念ながら知らなかった。名前を知ったのは再評価されて映画がつくられた10年前ぐらい。
この本は昨年末に所沢に行ったときに古本まつりで購入したもの。どうも最近は「純文学」系を読む気がしないのでしばらく放置(^^;)。今回巣ごもり期間でようやく読む気になったもの。連作短編集ということで何とか読み切った。発表時に読 -
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映画が良かったので、原作があるというので購入
初めて佐藤泰志という小説家を知った。
表題作は、時代背景が80年代始め?と古いのだけれど、
20代の刹那的考えと、未来への不安とで揺れ動く不安定さ、僕と静雄それぞれのうだつのあがらなさ、等の若者が漂わせてる雰囲気の書き方が良い。
怠惰感や、閉塞感、それらを隠すかのような表面上はサラっと見せよう感。が今読んでも古臭くない。
むしろ佐藤泰志は早すぎたのかもしれない。
ひと夏の物語で、夏の夜のように濃い日々が描かれてるけど、文章が暑苦しくないので、サラリと読める。
映画よりも、最後は重苦しい展開。
もう一つの短編は、作者の実体験からなのかな?ってぐ -
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(01)
現在形で描かれた現代の物語たちで、舞台は比較的大きな地方都市に一定している。18の物語たちには、それぞれ数人の人物が登場し、なぜいまこの舞台にいるのかという背景や、あるいは、この場所にどのように流れ着いたのかという履歴を自ら語るものたちでもあるが、彼女ら彼らへに対する作者の位置は、揺れ動いている。登場人物を通じて語ることもあり、人物を離れて語ることもある。
18の物語は正月から初夏までの連続的な約半年に設定されている。物語たちの間には10日間ほどの開きが予想される。作者は登場する物語の主体間を揺動しながら(*02)、時間をじわじわと、それでも次々と進めている。
起こることがあり、起こ -
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畳みかけるように短い文を連続させ、風景描写と重要描写を同列に並べ、独特な緊張感を生み出している。しかし静謐で柔らかくどこか優しい。
『きみの鳥はうたえる』は、『そこのみにて光輝く』の原型のような作品で、主人公「僕」と佐和子と静雄三人の素直で不器用な生き様が初々しい。刹那な彼らが僅かに未来を描き始めた矢先、静雄の事件が起こる。静雄が「僕」や佐和子と接することで捨てようとした自分の原型を揺り戻し、アイデンティティや拗れた愛情の結果だったのであろう。またそれも青春で感じる永遠であり刹那であったのかもしれない。
『草の響き』は著者自身の経験を基にしたものと思われる。生きることは脆く生き永らえること -
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「きみの鳥はうたえる」
映画との比較もたのしみながら読んだ。
21歳というどうでもいいようでいて実に繊細な年齢を、よく描いている。
全体として「不在」が物語の転換の鍵を握る。
「僕」がバイトをサボる→佐知子と関係もつ、
「僕」が海水浴をやすむ→佐知子と静雄がくっつく、
母の代わりに叔母の手紙→母の病気と死、など。
「僕」ははじめて佐知子とまともに話したときからセックスの感触を想像したり、殴ったり殴られたり、そういう身体の触れ合いが大切で、それ以外には無関心。
他者との接触を通じて自分を知るので、名前はいらないし、空気のような存在でいい(と信じている)。
しかし佐知子と静雄が「海」に出 -
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佐藤泰志作品、実は初めてで、すごく硬い文章の人だと勝手に思っていたのだけど穏やかで澄み渡った、けれどすぐ足元に生の気だるさを置いた文章だった。映画版は時代も街も変わっているのにたしかにこの小説から出てきたものだと思った。終わらないようでゆっくり死んでいく時間、常に破滅がちらついている、何か、確かな予感を秘めた時間。
気だるさはふと訪れる死の予感にとても敏感、だから未来を生きられず今の時間だけをさまよっている。破滅はふと、天気が変わるだけのこと。原作を読むと、映画版があれでもかなり「青春」に舵を切ったのだなあと思う、けど映画版もまごうことなくこの『きみの鳥はうたえる』だと思った。
映画版では -
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「海炭市」という架空の地方都市を舞台とした18の短編集。好景気に沸く「首都」の狂乱とは対象的に、主産業であった炭鉱と漁業が斜陽となった海炭市の叙情を18つの人間模様を添えて描く。閉塞感漂う街で人々が哀切を抱えながら日々を営む姿が印象的だ。各々の話に際立ったドラマめいたものも結論めいたものもない。息苦しさと諦めと縋る微かな希望がそこにある。端的に、詩的に、多少の粘度を含みつつ、ただただ淡々と時間が流れる。
本作品は秋冬をメインとした18編であるが、本当は春夏の季節を描いたものを含む全36編になるはずであった。次作を描く前に、著者の佐藤氏は自らの命を断ってしまった。本書を読むと非常に惜しい才能を -
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芥川賞の候補に5度選出されるもことごとく落選、三島由紀夫賞の候補に挙がるもこれまた受賞には至らず。20代の頃から自律神経失調症に悩まされ、1990年に41歳の若さで自ら命を絶った佐藤泰志。没後20年経ってから見直されるようになった不遇の作家。
「海炭市」は架空の町ですが、著者の故郷・函館市がモデル。やはり函館市をモデルにした『そこのみにて光輝く』と『黄金の服』に収載されている「オーバー・フェンス」、そしてこの『海炭市叙景』はそれぞれ映画化され、函館三部作と呼ばれるように。『海炭市叙景』は著者の遺作となった短編小説集です。第1章「物語のはじまった崖」、第2章「物語はなにも語らず」にそれぞれ9編 -
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時々この人の、逃げ場がないような胸が苦しくなるような作品を読みたくなる。
佐藤泰志の遺作にして、途中で途切れてしまっている短編集。
本来なら春夏秋冬4つの季節の作品群が出来上がる予定だったけれど、冬から始まって春を終えたところで途切れている。
舞台は“海炭市”という北海道にあるとされる架空の街。それが函館市なのだということは、この著者の作品をいくつか読んでいればすぐに分かる。
首都や都会とは違い、仕事も少なくどこか寂れている地方都市。海があり、雪が降り、冬は寒い。
文章を読んでいるだけなのにイメージはモノクロで、そこに住む様々な人間たちのリアルな生活が、痛々しいほどに描かれている。
首都か -
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表題作「移動動物園」他「空の青み」「水晶の腕」二篇。
数少ない労働を題材に描かれる青春小説。
いずれも主人公は20代前半から半ばほどと思われる。三者三様の仕事(動物の飼育と動物のお披露目、マンションの雇われ管理人、大きな工場での手作業)と、仕事を通しての人との繋がり、瞬間が息づいている。暑い夏の空の色や茂った雑草の匂いとか滴る汗の流れ方まで、描写が精緻。文学のテーマに暴力がブームの時代があった当時の残滓が香る。
解説では、作者と同じ時代に育った村上春樹との対比が記されており、なかなかに面白かった。彼は、主人公を汚さない、お洒落な描き方をしているのに対し、作者は、泥臭く、どこか陰気な、静観したと