佐藤泰志のレビュー一覧

  • きみの鳥はうたえる
    再読。本当に大好きな作品。
    ひと夏の幸福な時間を描いているはずなのに、最初からずっと暴力的な予感がある。

    「僕は率直な気持ちのいい、空気のような男になれそうな気がした」と言うように、「僕」は意識的に静雄や佐知子に自分の中を通り抜けさせているように思う。この話は「僕」から見た静雄や佐知子の物語なんじ...続きを読む
  • 大きなハードルと小さなハードル
    この時期に読めてよかった。暑すぎる夏にぴったりの作品集だ。
    IIに収録されている「鬼ガ島」と「夜、鳥たちが啼く」がとても好き。どちらも最後が良かった。最後の良い小説は、読んでいてうんと元気が出る。
  • きみの鳥はうたえる
    若者のはがゆさや生きづらさが
    淡々と描かれている様が印象的
    「草の響き」は
    生きることへの苦悩と希望の描写が繊細
  • そこのみにて光輝く
    三浦哲郎以外の作家をひさしぶりに読んだ。
    そのせいかはじめのほうは文章に澱みを感じた。
    作品世界に入り込む前だからというのももちろんある。

    ただ第二章から一気に駆け抜けるように読めた。出てくる人がとにかくいいな。全員いい。女性には甘美な魅力が詰まっており、男性には若さと実年齢の狭間で揺れているよう...続きを読む
  • そこのみにて光輝く
    海岸沿いの北方の小さな街での孤独な男が百円ライターがきっかけで出会う貧困と堕落した家族との物語

    この小説は2部構成になっており1部は造船会社でリストラに会って間もない孤独で無職の達夫と貧乏暮らしでバラック小屋に住んでいる拓児と姉千夏と母親、痴呆の父親の4人家族に出会って何故かこの家族に惹かれてゆく...続きを読む
  • 黄金の服
    輝いて乾いていた夏の思い出。

    夏の輝いて乾いた季節に友達と彼女で泳ぐ、酔っ払う、音楽を聴く、本を読む、手紙を書く。誰もが気にも留めない小さい自分の世界を綴る静かでゆっくりと時が過ぎる世界を堪能して下さい。
  • 海炭市叙景
    著者が生まれ育った函館市をモデルとした連作短編集。

     海炭市に居住する人々の小さな日々の物語で18編が交錯しそこに生活する人間の場面場面が海炭市を浮かび上がらせながら小さな存在で何でもない平凡な登場人物の心を映し出す柔らかくも愛しい至極の作品です。

     特に1編目の”まだ若い廃墟”は胸に響きます。...続きを読む
  • 海炭市叙景
    映画を見て興味を惹かれたので手に取った。映画の雰囲気ほど暗くはない、独特の淡々とした文体で進行する18の物語は、ワインズバーグ・オハイオを想起させる。
  • 大きなハードルと小さなハードル
    ​​​41歳で止まってしまった作者死後にまとめられた最後の作品集という。しかし、どうしてこんなにみずみずしいのだろうか。生前芥川賞候補に何回もなりながら受賞しなかったというが、これこそ芥川賞じゃないか!

    文章リズムの若々しさと、雰囲気がえもいわれぬ。そして何しろ登場人物たちの会話がいい。エスプリ...続きを読む
  • 海炭市叙景
    初めて読む佐藤泰志が、まさかの彼の遺作だった。
    函館市をモデルにした"海炭市"に暮らす人々の話。
    冷たくて灰色で、厳しい海炭市の冬。


    まだ若い廃墟について。

    「待った。ただひたすら兄の下山を待ち続けた。から始まる、冒頭のひと段落が、私は素晴らしいと思う。
    過去のことを話しているんだろうな、と思...続きを読む
  • 海炭市叙景
    著者の未完の遺作となった連作短編。ついこないだ同じ著者の『そこにみにて光輝く』を読み、すくいようがないくらい閉塞感がありながらもその眼差し=筆致のやさしさに引かれて2作目を読んでみた。やさしさに引かれてと前述したけれど、多分に著者が自死した人であることを意識しているであろう自分。自死してしまうほど考...続きを読む
  • そこのみにて光輝く
    やるせない、すくいようがないようでいながら不思議と清貧的なさわやかさがある小説だった。しっとりと読み応えのある小説らしい小説だった。
    特に第二部「滴る陽のしずくにも」のほうがよかった。それはたぶん、気だるく無頼に生きていた達夫が、結婚し子どもをもってそれなりに生きている様子が描かれていたから。独り身...続きを読む
  • 海炭市叙景
    著者の故郷である函館市をモデルにした「海炭市」に住む
    人々を描いた群像劇。

    連作短編集の形式で、海に囲まれた北国の街を舞台に静かに
    営まれる人々の生活を優しく淡々と描いている。

    登場する人々の大半は、いわゆる「負け組」というカテゴリー
    に分類されるだろう人々。その悲惨なところが客観的に冷静に
    ...続きを読む
  • きみの鳥はうたえる
    走ることを文章にするのは難しい。
    まして、それを軸に小説書くのも。
    単純化しない。
    曖昧なものを曖昧なままに表現する。
    因果関係なんてせせこましいことは言わない。
    ストーリー は、小説を遅延させる、のであれば、この人の話にももちろん小説はあるけど、この人の描く小説の中の今は遅延なし。
  • そこのみにて光輝く
    作家が表現したいことがどんなにいびつなものでも、情理を尽くして語ることで、小説を小説たらしめることができるのだなぁ、と思う。
    主人公のスカシ具合とか、読みづらい短文の連続とか、世界のとらえ方は私の知っている世界とは違うが、この小説には読ませる何かがある。
    それが何かが言えないところが、小説を小説たら...続きを読む
  • そこのみにて光輝く
    2.5年前に映画を見た。以下感想を引用。
     @
    はらわたが切り裂かれるように痛い映像だ。主人公の達夫は、自罰的にぼんくらな生活を送っている。やんちゃな拓児に出会い、貧困と介護(父のオナニー手伝いまで)に疲労する千夏と出逢う。体を売っている店もばれ、情夫がいることもばれ、それでも互いの傷に惹かれあい。...続きを読む
  • 海炭市叙景
    続編ありと予告されていながら、作者の自殺によって本前編だけしか読めなくなってしまった訳ですね。この中でも前半と後半で若干色合いが異なっていて、前半はゆるい繋がりのある連作短編で、後半はほぼ独立した短編たち。どこかに憂いを抱いた人たちがそれぞれの主人公で、結末までは語られないこともあり、読者の想像如何...続きを読む
  • 海炭市叙景
    やがて春となり夏の初めとなるわけだが冬から始まるためか、切々と暗く寒い。真夏から秋は作者がいなくなってしまうのでない。暗いが身近に感じ温かさもある18編。気づけば海炭市の地図が頭の中に出来上がり自分もその叙景の中にいる。一話目の妹が今どうしているだろうかと読み終わっても気になる。
  • 黄金の服
    この人の作品は主人公の性格を読み手が「この人はどんな人なんだろう」と必死で読み解こう読み解こうとさせる。
    現実社会のように、少しずつしか主人公たちの性格を知ることができない。最後にやっと、あぁこんな人だったのかとわかる。
    せりふ回しが独特(昭和?)。
    言い方に変な遠慮などがないからすがすがしい、けど...続きを読む
  • そこのみにて光輝く
    海炭市叙景で感じた文体の瑞々しさとは、
    また少し違った眩さ溢れる作品。

    一文の短さや、
    出来事の始まりを回想で蘇らせることで、
    特別な瞬間として装飾する方法や、
    限りなく内的な移り変わりなはずなのに、
    景色で語られるその心情やらが、
    すべて抑制的なのに、
    夏の光、冬の光、
    生々しい底に?
    もしくは...続きを読む