佐藤泰志のレビュー一覧
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ネタバレオーバー・フェンス 85
過去に傷を負い、故郷に帰り職業訓練校に通ってはいるものの、未来に進めずにいる主人公白岩の苛立ちや不安、人付き合いなどの熱量が絶妙だと思いました。
苛立ちを爆発させる森がこの小説の隠れ主人公かな。
その他訓練生、教官などがおりなす群像劇も面白いです。
撃つ夏 50
入院生活を余儀なくされた淳一。入れ替わる患者達や、訪れる友人、隣室の患者たちを通して不快感をなんとなく消化していく。ちょっと物足りなかった。
黄金の服 75
〜10代憎しみと愛入り混じった目で世間を罵り〜
〜20代悲しみを知って、目を背けたくって町を彷徨い歩き〜
エレファントカシマシの「俺たちの明日」に出 -
Posted by ブクログ
ネタバレ解説より
みなが前がかりになっているときに、下を向くだけでなく後ろを向かなければならない自分を、あるいは、流れに逆らって後戻りしなければならない自分を見据えてみた者の焦りや怒りが、文章単位では明るく小気味のいいリズムのなかから、ふつふつとわき出してくる。
まさに、わたしが感じていた佐藤泰志の小説でした。
最初に読んだ佐藤泰志の小説は「美しい夏」でした。
秀雄シリーズと言われるものの最初の作品だったんですね。
本著にはこの秀雄シリーズが時系列に収められており、その他、表題の他「夜、鳥たちが啼く」があります。
佐藤泰志は奇妙な三角関係、奇妙な疑似家族関係が良く出てくる設定なのでしょうか?あと -
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ネタバレ自らのための備忘録
函館市文学館の佐藤泰志コーナーに展示されていた、彼の中学生の時に書いた作文を見て、是非とも読んでみたい!と思ったら、「そこのみにて光輝く」に聞き覚えがあって、そういえば家のアマプラで見たマサキッスの出ていた映画だったと思いました。そこで映画をもう一度見直して、それから本書を読みました。
映画と原作の違いについては、映画のところでも書きましたが、拓司のイメージは菅田将暉とはかけ離れている人物のはずなのに、どうしても映画を先に見てしまったので、人物のイメージが映画の配役に引っ張られてしまいました。また、千夏も原作を読むと池脇千鶴というよりは、もう少し大人びた女性のイメー -
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再読。本当に大好きな作品。
ひと夏の幸福な時間を描いているはずなのに、最初からずっと暴力的な予感がある。
「僕は率直な気持ちのいい、空気のような男になれそうな気がした」と言うように、「僕」は意識的に静雄や佐知子に自分の中を通り抜けさせているように思う。これは「僕」の話ではなく、「僕」から見た静雄や佐知子の物語なんじゃないかと思うくらい。
「僕」はバイト先の誰とも関わろうとせず、バーの飲み仲間ともつるまず、自分にも全然興味を持っていないのに、静雄にだけは心を開いている。
オールナイトの映画に連れ出されるシーンや、カンダタのくだりに見られるように、「僕」は生活の中で静雄に引っ張られたり影響を受 -
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海岸沿いの北方の小さな街での孤独な男が百円ライターがきっかけで出会う貧困と堕落した家族との物語
この小説は2部構成になっており1部は造船会社でリストラに会って間もない孤独で無職の達夫と貧乏暮らしでバラック小屋に住んでいる拓児と姉千夏と母親、痴呆の父親の4人家族に出会って何故かこの家族に惹かれてゆく達夫、特に娼婦である千夏に愛情を抱き初める、千夏は離婚暦があり夜の仕事で疲れ果て家族だけの為に生きていると割り切っているが達夫の事が気になり始める。
そんな二人の心からの遣り取りが夏の海岸と相まって実に鮮やかに描かれている。まさに”そこのみにて輝く”のは社会的にはちっぽけな存在である千夏と達夫の小 -
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著者が生まれ育った函館市をモデルとした連作短編集。
海炭市に居住する人々の小さな日々の物語で18編が交錯しそこに生活する人間の場面場面が海炭市を浮かび上がらせながら小さな存在で何でもない平凡な登場人物の心を映し出す柔らかくも愛しい至極の作品です。
特に1編目の”まだ若い廃墟”は胸に響きます。冒頭で妹と思われる女性が下山してくる兄をひたすら待ち続けるシーンで始まる、、、父親を亡くし母親は失踪し貧しい暮らしを続けていた兄妹が正月を迎える前に共に失業し希望のない暗い生活を送っている。そんな大晦日に兄は全財産の2千数百円を持って初日の出を拝みに妹を誘いに近所の小さな山へロープウエイで登り売店で -
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41歳で止まってしまった作者死後にまとめられた最後の作品集という。しかし、どうしてこんなにみずみずしいのだろうか。生前芥川賞候補に何回もなりながら受賞しなかったというが、これこそ芥川賞じゃないか!
文章リズムの若々しさと、雰囲気がえもいわれぬ。そして何しろ登場人物たちの会話がいい。エスプリとはこういうものを言うので。
例えば「夜、鳥たちが鳴く」の一節
(浮気をされた友人の妻が、主人公の借家に飛び込んできて同居する羽目になったのだが、友人妻のやけくそ行動に心穏やかならず、ついになるべくしてなってしまったその後に・・・)
・・・・・・・
「なんだ」
「あたし、どこかおかしい?」
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初めて読む佐藤泰志が、まさかの彼の遺作だった。
函館市をモデルにした"海炭市"に暮らす人々の話。
冷たくて灰色で、厳しい海炭市の冬。
まだ若い廃墟について。
「待った。ただひたすら兄の下山を待ち続けた。から始まる、冒頭のひと段落が、私は素晴らしいと思う。
過去のことを話しているんだろうな、と思いつつも、そのまま物語の中に入り込んでしまった。
もう全て決めてしまったから、あの態度だったのか。
ねぇ、なんで?どうして?と思ったが、そんなことしか思えないのは、私が未熟だからだろう。
「あやまらない。誰にもあやまらない。」と出てくるが、そこはもうロープウェイの待合室で1人待 -
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著者の未完の遺作となった連作短編。ついこないだ同じ著者の『そこにみにて光輝く』を読み、すくいようがないくらい閉塞感がありながらもその眼差し=筆致のやさしさに引かれて2作目を読んでみた。やさしさに引かれてと前述したけれど、多分に著者が自死した人であることを意識しているであろう自分。自死してしまうほど考えてしまうとともにやさし過ぎる人だったのだろうと思っている。
『海炭市情景』も閉塞感が関係している。地方の斜陽化しつつある街の市井の人々それぞれが1編ごとに描かれる。ヤクザのやさしさを見たりシレっと児童虐待があったり、小説だから当然といえば当然なんだけど一辺倒でない人の姿が描かれる。
といいつつ、と -
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やるせない、すくいようがないようでいながら不思議と清貧的なさわやかさがある小説だった。しっとりと読み応えのある小説らしい小説だった。
特に第二部「滴る陽のしずくにも」のほうがよかった。それはたぶん、気だるく無頼に生きていた達夫が、結婚し子どもをもってそれなりに生きている様子が描かれていたから。独り身が好き勝手に生きることなど簡単で、結婚したりして守るものができても守りながら自分を捨てずに生きている達夫の姿がよかった。
義弟の拓児を介して出会った松本と達夫のやりとりがなおよかった。どちらも世のなかがどういうものかを感覚的に知っている男どうしという感じで。そう、男のなかには若いうちから実体験がなく