この小説は、ウェルテルの手紙と、手紙をまとめた編者が調べた内容によって構成されている。
ウェルテルの手紙だけでは分からなかった事実が、編者によって明らかにされていく。
悟ったようなことを言ったかと思ったら、ロッテへの想いに浸り、欲望を押さえ込むのに必死でぐちゃぐちゃになってしまう。
そんなウェルテ
...続きを読むルのアンバランスさが良かった。
彼の手紙からは、ロッテへの強い気持ちが伝わってくる。
こんなにも気持ちを打ち明けられるなんて、手紙の相手・ウィルヘルムとは一体どんな人なのだろうと、そちらにも興味が湧いた。
手紙から感じ取れるウェルテルは、少々独りよがりのように思えた。
「(ロッテが)ぼくを愛していると感じている」と書かれていたときには、ウェルテルの気持ちが暴走しているのだろうと思ったが、編者の記録を読むと勘違いとは言えないような状況だった。
ロッテのウェルテルへの気持ちは、恋愛と言っていいのかは分からない。
しかし彼女にとって、彼が特別な存在であったことは確かだった。
心がぴったりと調和していて、ウェルテルがもし離れてしまったら、ぽっかりと穴が空いてしまう。
そんな存在に彼はなっていた。
夫がいるロッテへの想いを永遠のものとするには、死しかなかったのだろう。
それがウェルテルにとって、唯一の希望だったように思う。
ウェルテルが死の直前に綴ったとされる手紙はどれも素晴らしく、私のお気に入りだ。
目の前の自然や自分の存在に目を向け、死と向き合う彼の言葉には、心を絞り上げられるような心地がした。
とても好きな作品だった。
読めて良かったと思う。
◇
心の中には無数の計画や希望が狂いまわっていたけれど、とうとうしっかりと、はっきりと、最後のただ一つの考えがきまったのです。自殺です。——横になり、朝、眼をさましたときの、落ち着いた気持のときも、死のうという考えは、まだ小ゆるぎもせずしっかりとしています。——絶望じゃありません、がんばり通したぞという安心です、 あなたの犠牲になるのだという確信です。
(P183〜184)