安岡治子のレビュー一覧
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ドストエフスキーで笑える作品があるとは・・・そこにまずは驚きました。
主人公はモノローグという中年の元役人で、コイツが一癖も二癖もある大問題児です。妬み、嫉み、僻みといった人間の鬱屈とした闇の部分を全て兼ね揃えていて、それを惜しみもなく全開放した本当にどうしようもない奴が主人公として物語が展開されていきます。
そんな彼が、自らの人生論や哲学に関して80ページにもわたり語り出す前半は難解なこともあり、もはや苦痛でした(笑)
ただ、2部からは学生時代の友人や娼婦との恋に関するエピソードに入り、面白くなります。主人公のどうしようもない屑っぷりが、どんどんとクセになっていって、途中からはもはや愛おしく -
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ネタバレ面白かったし心を動かされた。これがデビュー作とのことだが、もう完全に仕上がっている!という印象だった。
若い女性と中年男性の文通というだけなのに、飽きることなくふたりのやり取りを楽しめた。慎み深く、多くを望まず、教養を感じさせるワルワーラの文体が好みだ。
それとは対照的に、刹那に感情的に生きている雰囲気のマカールだが、ページが進むにつれだんだん整った文章になっていく。この変化や成長を見ていると、技巧的に書かれた小説だということがわかってくる。
長い手紙での交流は、友人の枠を超えたものに感じられた。ワルワーラの結婚が決まってからの文章は、なぜだか胸に迫るものがあり涙してしまった。こんなに別れを悲 -
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主人公は、なんとまあ面倒くさい人でしょう。リアルでは関わり合いたくない人ですが、意外と共感できる人も多いのではと思ったり。
第一部『地下室』は、とち狂った男の黒歴史を語る妄言の数々がひたすら書かれていますが、人間の内面に潜む自意識をひたすら省みる内容には、意外にも知見に満ちた珠玉の言葉(一部笑いを誘う言葉)に溢れていて読み応えがあります。なんとまあ、人間の内面の愚かしいこと…。
第二部『ぼた雪に寄せて』は、第一部で語っていた自意識について、それを実際に言葉や行動として表象されたとき、自らはどのような結末を迎えるのかが書かれています。つまり、一見退屈とも難しくも感じられる第一部を読み切ると、 -
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主人公に、まるで未来の自分が書いたような強い共感を感じた。肥大化したプライドで他者を見下し、同時に自己が矮小で卑劣な存在だと認識していながらも、それを変える為に前向きな、つまり現実と対峙することから逃げ続ける。高すぎる理想で、他人を嘲笑するが、それは自分自身にも適用される。
自己嫌悪、自意識過剰、低い肯定感と高い自尊心、全て共感できた。
主人公が語る事柄も、経験があることばかりだった。物語自体、何も解決せず、循環する陰鬱を記して終わる。救いはないし、読み終わった後に何が変わるでもないが、100数十年前に自分と似たような人間がいて、それを描いた小説が古典的名作として世界中で受け入れられている事 -
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ロシアの文豪、ドストエフスキーの処女作。
その日暮らしで貧乏から抜け出せない初老の小役人と、病弱で幸薄い生い立ちの少女による往復書簡…
と、話しはこれだけなのですが、手紙という性質を意識しながら読み進めると、会話と違い、文章で語られる熱い言葉の勢いに、自然と引き込まれて行きます。典型的なのは、結びの言葉が内容によって変化するところ。小役人は「〜の友である マカール・ジェーヴシキン」が多く、少女は単にイニシャルで「V.D」が多いのですが、一ヶ所だけお互いに「愛する」と言う言葉とフルネームで書かれているところなど、凝った書き方をしていて驚きました。
小役人の書く文章も、途中プーシキン『ベールキ -
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「俺は病んでいる・・・ねじけた根性の男だ」で始まる非常に暗い小説。小説は2部に分かれ、Ⅰ部の「地下室」はモノローグで主人公のねじれた人生観がくどく語られ、Ⅱ部の「ぼた雪に寄せて」では主人公を「ひどく苦し」めている思い出が語られます。
Ⅰ部は難解で矛盾だらけ(ただ、注意深く読むと論理的一貫性があるのかもしれません)の一見戯言ですが、Ⅱ部で描かれるのは、一転、ほとんどコメディのようなねじれた男の3つの思い出。261ページの中編小説ですが、Ⅱ部に不思議な面白さがあり、一気読みでした。
主人公は40歳の元小役人。遠い親戚から6,000ルーブルの遺産が入ったため、退職して地下室に引き篭もっています。
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ネタバレマゾヒスト、と呼べば良いのだろうか。氏曰く、自意識自尊心が極めて強い、人並外れて賢い人たちは、 それ故に悩み苦しむ機会が多く、気づくとそこから快楽を感じるようになってしまうらしい。 氏は冒頭でそういう人間がp0「我々の社会に存在する可能性は大いにある」と述べているが、 私自身がこういう感情に一定の覚えがあるから、それはそういうことなのだろう。
氏が若い時分の愚かな行動を振り返った、2章ぼた雪に寄せてでは時折、マゾヒズム(私)の深淵が描かれる。 それらは深淵と言うだけあって、現実フィクション問わず他では見ることのできない描写が続く。 具体的にはまずズヴェルコフの晩餐会への参加に氏が名乗りを上げ -
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娼婦を感動させたのに...
娼婦に気持ちが伝わったのは感動だ。
でも、主人公は分裂した感情を持つ。
単純でないのはつらいことだ。
だが、読者が
アンビバレンツを直視するなら
何かが見えるかもしれない。
娼婦ではないが汚れた状況下の女性である
『ブギーポップは笑わない』の織機綺、
『青春の門・筑豊篇』の牧織江、
また、同時期の作家トルストイの描く、
厳しい状況下にいた
『戦争と平和』のナターシャ
たちには、理解ある彼が現れて、
筋が単純だが、この手記では
誰も救われなくてつらい。
でも、矛盾や苦悩の中で
とにかく生きていると思う。
出世とかの土俵違いのところで
戦っている役人には
知識 -
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初めてドストエフスキー作品を読むにあたって、とりあえずページ数も少ないデビュー作を選びました。
正直、度肝を抜かれました。
デビュー作にして、人生のあらゆる智慧と苦悩が散りばめられています。
登場人物による往復書簡のやり取りは見ていて微笑ましいものから悲痛なものまで実に多彩でした。
この150年で人類の生活は劇的に豊かになったのでしょうが、それは量的な意味であって質的にはどうなのかと問いかけられている気がします。
強い自意識が心の渇きを生み出す。
死刑宣告を受ける前の若きドストエフスキーのデビュー作。
本当の豊かさとは何か
忘れそうになった時に読みたい1冊です。 -
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白夜: とある内気で空想家な青年が、橋で泣いている少女に出会う。彼はすぐに彼女を愛するが、彼女には一年前に別れ、再開を誓った人がいて、その人が現れないがために泣いていたのであった。
恋の初々しさを感じるストーリー。
おかしな人間の夢: 自殺をしようとしていた男が、夢で別世界へ行き、互いに愛し合い真の幸福で満たされている人々に出会う。しかし、彼が地球から堕落を持ち込み、その世界は変わり、地球上と同じ状態になっていく。
彼は夢から醒めたとき、自分は真実を発見したと確信し、伝道を始める。己を愛するように他者を愛せよ、と。
幸福状態の描写が美しい。が、堕落を人々は喜んで受け入れていく。
「生を意識 -
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ロシアの文豪、ドフトエフスキーの処女作。
貧しい47歳の小役人と同じく貧しい10代後半の少女との文通形式の小説。
この小説が書かれたのは1846年ということは日本で言えば江戸時代の後期ということになる。
江戸時代に書かれた小説の登場人物の心情がこれほど豊かに描写されているということを今の時代に普通に読めるということがまず奇跡的。
主人公の小役人マカールが少女ワルワーラを自分の娘のようにあるいは孫のように、しかし実は本当に女性として真に愛している状況が読み取れ、それが涙をさそう。
最終的には悲恋となるが、この小説は「人を本当に思いやる」ということがどのようなことなのかを教えてくれる。
どんな時代 -
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自意識過剰と書いているけど、実際は人の悪意を正面から受け止め過ぎた悲しい主人公だと思いました。人間は脳髄で考えているのではなく手足からつま先に至るまで、それぞれ別々に考えている。頭も尻もない下等動物の連中が暑い寒いを正確に判断したり、喰い物の選り好みをするのはまだしも、人間の脳髄なんぞが寄っても附けない鋭敏な天気予報までもはっきり表しているのだから。主人公は言動だけでなく人間の態度や、ささいな行動からも人の悪意を感じ取ってしまうのではないだろうか。
この主人公の考え方は狂っているように見えるが、それは他の人より目立っただけだと思う。