寺田寅彦のレビュー一覧
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岩波文庫の随筆集を持っているので、角川ソフィア文庫から寅彦が刊行されたときにどうしようか迷ったのだが、購入して良かったと今は思う。
戦後間もない時期に角川書店から寅彦の本が何冊も出版されていたことも、今回の文庫化で初めて知った。
元版の角川源義氏、文庫版に新たに付された若松英輔氏の懇篤な解説があるので、印象に残ったことを数点。
「案内者」〜案内者によって見ること、考えることが拘束されてしまう危険。
「一つの思考実験」、「ジャーナリズム雑感」〜かなり手厳しい見解が表明されている。
「レーリー卿」〜寡聞にしてこの人を知らなかったが、寅彦の親愛感が現れている。
「丸善と三越」〜寅彦らしい随想。 -
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I先生の追憶、II先生に集う人たち、III先生の俳諧の3部構成。
IIは正岡子規がテーマの作品が多く、I・IIIも漱石が僅かしか登場しない作品も結構ある。小宮豊隆や森田草平と比べると、寅彦が漱石について書き残した量は少なかったということだろう。もっとも、IIでも例えば『仰臥漫録』を漱石の「修善寺日記」と対比しつつ論じたものなど、鮮やかな作品が収録されている。
「『朝 ヌク飯三ワン 佃煮 梅干 牛乳一合ココア入 菓子パン 塩センベイ……』こういう記事が毎日毎日繰返される。それが少しも無駄にもうるさくも感ぜられない。読んでいる自分はその度ごとに一つ一つの新しき朝を体験し、ヌク飯のヌク味とその香を実感する。そして著者と共に貴重な残り少ない生の一日一日を迎えるのである。牛乳一合がココア入りであるか紅茶入りであるかが重大な問題である。それは政友会が内閣をとるか憲政会が内閣をとるかよりは遥かに重大な問題である。」(「仰臥漫録」1927年)
なお、中谷宇吉郎のエッセイ2本が解説代わりに付いている。うち1本は、『猫』の「首縊りの力学」と元ネタの英語論文とを比べるもので、なかなか面白かった。 -
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東日本大震災から2年を過ぎ、あのときのこわい思いを少しずつ忘れている。こわい思いを忘れることは、前を向いて歩いていくためにはよいことでもあるけれど、やはり忘れてはいけないこともある。
この本は大正~昭和に書かれたものであるのに、今なお、私たちに教訓を伝えてくれる。地震や津波だけではなく、火事についても示唆に富んでいる。マスコミのあり方も、当時も今も全く変わっていないようである。もともとは物理科学者だけあって、とても冷静で分析的な文章で、説得力に富む。個人的には、関東大震災について、当日から数日間の様子が書かれた「震災日記」が大変参考になった。やはり経験しなければ書くことができない内容だと思う。
一方で、解説については、もっと解説に徹するべきだと思った・・・解説を担当した畑村洋太郎氏の自説の量が多く、これでは解説にならないのでは?と思ってしまった。もちろん、畑村氏の自説は大変参考になるのだが、それならば畑村氏の本として読みたいわけで、あくまでも解説を担当しているわけだから、もっと解説に徹するべきなのではと感じてしまった。 -
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地震の研究もしていたし、文筆家としても名高い寺田寅彦の随筆から、地震をはじめとした天災に関したものを編纂した一冊。もちろん3・11を受けてのものだ。関東大震災時の日記から昭和10年くらいまでの折々の天災(主に地震と台風)に関して書かれたものが収録されている。少なくとも70年くらい前に書かれたものだが、昔から人が住んできた地区は大丈夫なのに新造成地ばかりが地震の被害に遭っているとか、地震のない西欧の建築をそのまま真似しているとか、天災のパニックからか尋常に考えればありえないデマ・風評を信じる人がいるとか、いま読んでも十分に納得できる。ただし、ということは、私たちはまた同じ轍を踏んだということでもあろう。
一方で、日本人は日本人なりに、天災とそれなりにうまくつき合ってきたとも述べている。あえて簡素で壊れやすいつくりの家屋文化や、天災に対するあきらめのよさなど。自然を征服するものでなく、謙虚につき合っていくことの大切さも説いている。
70年前から本書に述べられているような考えがあったというのに、3・11で同じ轍を踏んだというのは、一方では学習能力のなさ、備える意識の欠如であるとともに、もう一方では、このような被害は茶飯事と考える日本人なりの連綿と続いてきた天災との仲と考えてもいいのかもしれない。 -
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天災を『国防』という言葉で表現しているという、筆者の視点が面白い。かつて天災⇛国防、という捉え方ができるということを始めて知った。考えてみれば”定期的に”地震、台風、津波がやってくる日本。であれば、外的に備えて海岸線を防御するのと同様、天災に対しても自衛の手を持つべきなのかなと思う。このように認識を変えることで、自衛隊の存在も天災に対する国防と広く捉えられたりして。また、「天災は”愚直に”定期的にやってくる」と書いてあったが、この”愚直に”という表現がいい。人間は忘れる生き物。脆弱な人間の記憶と、天災をすごく対照的に比較している形容詞だ。
元々物理学者のはずなのに、エッセイが面白いのは意外。ところどころ物理学者的思考が見えるけど、非常にわかりやすい。天災は忘れた頃にやってくる、とはよく言われることだけど、本でも読んで面白かった、とかためになった、とかいう感情とその記憶をもっておくことで、リスクマネジメントの役割を果たしてくれればいいなと思う。