茂木健のレビュー一覧
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舞台は1954年のアメリカ。朝鮮戦争から帰ってきた黒人兵アティカス・ターナーは姿を消した父を追って伯父ジョージと幼馴染レティーシャと共に謎めいた都市アーダムに向かう。父は白人の若者と行動を共にしていたらしい。黒人差別がまだ激しかった時代に危ない目に遭いながら漸く辿り着いたアーダムで彼らは魔術師ブレイスホワイトが創設した秘密結社のディナーに招待される。アティカスはそこで自分が秘密結社にとって特別な存在であることを知る。
話は各章ごとに魔術をもって支配しようとするブレイスホワイトたちの争いに関わる主役が変わる。アティカスだけでなく父のモントローズ、伯父のジョージ、その妻ヒッポリタ、息子のホレス、幼馴染のレティーシャ、その姉ルビー。そして彼らが関わる事件は幽霊屋敷、悪魔人形、SF的異世界、白人女性になる変身薬などそれぞれに面白い。魔術に恐れ、また魅力に魅せられながら秘密結社の歪んだ権力闘争を行う白人たちと最終章でいよいよ戦う。これは魔法冒険ファンタジー小説である。
アティカスたちが魔法を自由に操るわけではない。
話のひとつひとつがホラーめいた恐怖感はまったくない。その意味ではハリーポッターレベルである。ドキドキするのは彼らが白人の差別意識に遭遇した時にリンチされるんじゃないかという恐怖感くらいだ。
なぜラヴクラフトカントリーという題名なのか。アーダムという街の名前や各章のタイトルはラヴクラフト作品のオマージュになっているが、クトゥルフの神々によるコズミックホラーの影は一切ない。
あとがきによれば、人種差別的考えを持っていたラヴクラフト=人種偏見という意味で使われているようだ。つまりこの題名は「人種偏見の国」という意味なのだ。特にアメリカでは黒人差別の時代に自由を求めて白人と闘うヒーロー、ヒロインの小説が今世紀に入って多く出版されているが、日本人の私にはどうしても他人事になる。それでも魔術やSF的な要素が入っているから黒人差別の背景を度外視しても面白いのだといえる。
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〈「わたしの話はここで終わります。わたしは地球に帰ってきました。ふり返ってみれば、わたしの人生に語るべきものなどありません。わたしはなにも生み出さなかったし、なにも残していないのですから。それでもわたしは、まだなにかやれるような気がしました。そこで、花を一輪だけ持ってあの砂漠に戻り、穴を掘りはじめたのです」〉
戦争の後について、ロボットが語り出すシーンが特に好きでした。戦闘用のロボットはそこで何を見たのか。色彩豊かな作り込まれた遠い未来を背景にして綴られる、美しい愛の寓話。遠く、自分のいる場所を求める少年の冒険譚としても楽しむことができました。その世界を私の拙い脳味噌が、しっかりと辿れることができるのか分からないのですが、読み終わった時、愛と想像力をもっと素直に信じてみたくなるような余韻がありました。短い物語ですが、充足感のある物語でした。 -
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『人類の知らない言葉』という題名と表紙の絵に衝撃をうけ読むことにしました。ロジ人というテレパシーでコミュニケーションをとる異星人がでてくるので当然SF小説といえるが、ロジ人が殺されて犯人探しをする推理小説要素も大きく、はでなカーチェイスがあったり題名の賢そうなイメージとはだいぶ違ったお得な小説といえます。
異星人とのファーストコンタクトその後の物語でロジ人と地球人との通訳が主人公です。未来が舞台ですがテクノロジーの進化にくらべて人類はあまり変わっていないように描かれています。ロジ人による経済的な侵略、ロジ人に対する排他的な言動、貧富の差による就学や就業の差、ネット上に拡散されるフェイクニュースや誹謗中傷など。そして地球人もロジ人も皆孤独なんです、音声かテレパシーか意志を伝える方法に関係なく他人に真意を伝えるのは難しいようです。主人公のリディアも例に漏れず孤独な人間です、彼女のことを表す印象的な表現がありました。「リディアは、思わず涙が出そうになる。たとえ死者であっても、この大都会で自分を心配してくれる人が、少なくともひとりいるのだ」これは死亡したロジ人からの〈わたしは君のことを心配している〉というテレパシーを受けてのリディアの心境を表しているのですが、物語が展開してからくりがわかるとずっこけてしまうことになります。
リディアは貧しい母子家庭に育っているので、エリートの多い通訳の中でも異端児として描かれています。母親がネットゲームに夢中になっていて、兄とは自動車の改造と走り屋をして遊んでいたことがそれを物語っています。母親のゲーム狂が事件解明に役立ち、兄と遊んで学んだドライブテクニックで警察から逃れるところは痛快です。
リディアと一緒に事件解明していくロジ大使館職員のマディスンは最初半目しているのですが、一緒に活動していくうちにお互いの隠し持っている正義感にひかれ友情が芽生えていくところは希望のある良い展開だと思いました。
原作がクセがない話なのもあるのかもしれないのですが、茂木健さんの翻訳がいいのですごく読みやすく良い作品です。 -
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#日本SF読者クラブ 原題を訳すと「時間旅行の心理学」となる。1967年の英国で、4人の女性科学者によってタイムマシンが発明された。そしてタイムトラベルを管理するため、国家からも独立した組織「コンクレーヴ」が設立された。そして、ある殺人事件が起こるというSFミステリー。
この架空の歴史が背景となり、過去と現在とが交互に語られる。タイムトラベルにつきものの、タイムパラドックスについては、本書では気にしなくて良い。というか作者もスルー状態。問題になるのは、タイムトラベルが人間に及ぼす心理的、精神的な作用だ。ここに注目したのは、とてもユニークだと思う。
「コンクレーヴ」には、いわゆるタイムパトロールと呼ばれる犯罪捜査部門もある。他のタイムトラベル物にあるような高尚な使命感とか高潔なイメージ(スーパージェッターとか)は無く、普通の警察っぽい。しかし警察は「警察」ということで。 -
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ネタバレ1967年、イギリスでバーバラ、マーガレット、ルシール、グレースの4人の科学者がタイムマシンの実用化に成功した。その後、マーガレットを代表として3人はタイムトラベル推進協議会(通称「コンクレーヴ」)を設立したが、バーバラは短期間に時間移動を繰り返したせいで精神に異常をきたしたため、プロジェクトから外されてしまった。時は流れて2017年。タイムトラベルとは無縁の後半生を送ったバーバラとその孫ルビーの元へ、半年後の日付が記された死因審問の通知書が届く。そして2018年初頭、おもちゃ博物館のボイラー室で身元不明の銃殺死体が発見され…。「時間が可逆ならば人の死生観はどう変化するのか」という心理学的な問いをテーマにした、ポップなタイムトラベルミステリー。
面白かった〜!原題はずばり「The Psychology of Time Travel」。タイムトラベラーは他人が死んでもその人が生存している時勢に飛んで簡単に再会できるため、他人の死に鈍感になっていく(必要がある)のではないかという仮説をはじめ、宇宙飛行士の例を使って説明される“時差ボケ”や、脳外科医から見たタイムトラベラーの脳、果ては神学的決定論に支配され心理学が無用になった22世紀の心理学者による精神分析など、タイムマシンがあるからこそ起きる人の心の変化を巧みに描いている。著者自身心理学者なのだそう。
この極めて具体的なディティールが本書を読む楽しさのキモだ。時間移動を使った脱税法、過去や未来の自分と肉体関係をもつ特殊プレイ、コンセプチュアル・アーティストとして名を馳せるタイムトラベラーなど、タイムマシンが実用化された世界にリアリティを感じさせる描写が魅力的。対して、コンクレーヴの入社試験や神明裁判のようすは、タイムトラベラーが我々とは別のルールで動いていることを教えてくれる。“ループしたタイムパラドックス時空のなかにしか存在しない本”という設定など、ハリー・ポッターやアリスの世界のようなのだ。
また、射殺事件解明のあいまに進行するルビーとグレースの恋のゆくえも大きな魅力。タイムトラベラーの恋愛模様は複雑で、まず出会いの瞬間に老グレースは死に、ルビーはグレースの死後の時間をタイムトラベルしてきた若きグレースと一緒に過ごす。グレースのふるまいは完全にファム・ファタルなのだが、後半に彼女の出自が明かされ、その謎のベールがはがれる。話のなかにイギリスの職業階級や人種問題を自然に取り込んでいて上手い。
タイムマシンの開発者をはじめ、活躍する登場人物のほとんどが女性キャラクターなのだが、そこに特別な理由づけはされておらず、科学者も医者も時間移動を司る大企業の社長も女性である世界としてフラットに描かれている。そういう意味では物語のスタート時点で本書は歴史改変された世界と言えるのかもしれない。フェミニズム的なメッセージや、LGBTについて声高に主張する作品ではないが、超超楽しいエンタメ小説のなかで彼女たちの姿が“当たり前”のものとして描写されることに力づけられる人も多いだろう。 -
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ネタバレ6人の乗員とAIのイアンの過去が明らかになっていく。自分たちの全世代のクローンを殺害した犯人捜しをするのだが、恒星間宇宙船の中の出来事なので、完全なクローズドサークルかと思う。ただそこはSFの自由度というか想像されたテクノロジーのおかげで厳密なクローズドサークルにはしてもらえない。事件の真相が徐々に明らかになっていくストーリーテリングの巧みさがあり、やはりミステリというよりはきっちりとしたSFというジャンルの中でエンタメを感じられる。一時はクローンを作成できない状況に陥ったが、解決方法が想像の斜め上で面白い。上下巻合わせてずっとドキドキしながら読み終えた。続編があっても面白そうだ。
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1957年、ニューヨーク。親から相続した絵「森のはずれにて」が贋作にすり替えられてしまった弁護士はマーティ。探偵に調べさせると贋作を描いたらしき女性の住居が分かった。コロンビア大の院生のエリー。オーストラリアから英国で絵画の修復をしていたが女性には肝心な仕事が任せてもらえず、美術史へ専攻を変えて、アメリカへとやって来て、贋作もしていた・・・1635年、オランダ。ギルドがプロの絵描きを牛耳っていた時代。自分の絵画を自由に売れなかった。サラ・デ・フォスは苦労しながら絵を描いていた・・・盗まれたサラの絵を取り戻そうとする過程で、マーティはエリーに出会い、恋してしまう・・・そして2000年。エリーはシドニー大で教授をしている。ここの美術館に、「森のはずれにて」が二枚やって来ることになった!まずい!自分の描いた贋作が・・・
うおー!小説を求めるものが全部詰まっていた大好物だった。
時間軸を大きく行ったり来たりする。そして16世紀オランダ絵画あり、贋作あり、恋愛あり。
何の小説かと問われるとちと困る。一見美術小説っぽいけれど、7割は恋愛小説ではないだろうか。 -
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地味に見えて、
ダイナミックな展開が待っている傑作
宇宙船の中でクローンとして目覚め、他のクローンも殺された状態で目覚めた六人。記憶がなく、宇宙船のAIや機器も制御不能、クローン再生も不可能なSF要素全開の中で本格ミステリーが展開する。
海外ドラマの「LOST」で登場人物が過去を思い出す場面の様に、この本も登場人物が過去にどんなことをして今宇宙船にいるのかが描かれながら点と点がつながっていく。
誰が?どうやって?何故?
(全員記憶なし)で引っ張ってくのですが、クローンが普及した世界で起こる犯罪や思想の対立の背景も描かれてなかなか濃い。
毎回クローンやゾンビとか、冒険小説の脇役で適当に殺されてしまう人々とか「死の重み」をどう描くかが読むとき気になってしまうのだが、死の形が変わり、感じ方も変わってる事や、謎に夢中になってたせいかそんなに気になる要素もなく面白いまま読み終えた。