坂野潤治のレビュー一覧
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幕末から昭和初期までを解説する一冊。
教科書の年表では1行で述べられる事件・出来事を有機的なものとして関係づけていることに価値がある。
たとえば、
板垣退助がうっかり(?)「納税者には政治参加の資格がある」と書いたことが、当時唯一の国税(地租)納税者であった地主層の政治意識を刺激し、開設された国会においては地主層の主張(地租軽減)が主流になり、「超然主義」を生んで膠着状態になったが、日清戦争の賠償金を地方振興に回すことで地租軽減の代わりとし(インフレによって絶対額であった地租の負担が相対的に低下したこともあって)、政府と結びついて利益誘導を図る自由民主党の源流が生まれた…
のような感じで、連 -
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桂園時代を明治国家体制の象徴的な到達点として見た後に、大正期にそれが崩れていく様子を丁寧に追う。
大変わかりやすく導入部で桂園期の政治状況が述べられる。
年表では一見不自然に繰り返す桂・西園寺・桂・西園寺・桂……
それは軍を中心とした藩閥や官僚閥の代表者と、有権者である農村地主の代表者が交互に政権を担う政治体制だった。
昭和期の政党内閣期と軍閥支配の時代を思えば、確かに教科書的には安定したという形容詞が付くのだろう。
しかし内実は日露戦から慢性的となった陸海軍の予算要求と地租の増税と財政状況の悪化が解決しない状況だった。
その中でおこる第一護憲運動や欧州大戦などが大きく日本政治の環境とプレイヤ -
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読み始めて少し不思議な内容だと感じた。それは本書が一部海外向けの論文であることに由来をするのだろうか。冒頭に第二次大戦以降の開発独裁の国と、日本の明治維新の比較を様々に行う。日本人の感覚では開発独裁と明治維新とでは明らかに異なる発展の仕方に見え、比較検討をしようとあまり思わないのではないか。しかし海外では一見すると似た傾向を持っていると捉えられていてもおかしくはない。そして、私も開発独裁と明治維新とに決定的な違いは何かと問われたときに、断定的に回答する自信がない。
本書はペリーの接触後たかが50年で列強に加わった明治維新という現象を解釈する。明治維新というタイトルであるが歴史的経過は追わない -
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タイトルの通り、1857年から1937年の80年間の日本近代史を、「改革の時代」、「革命の時代」、「建設の時代」、「運用の時代」、「再編の時代」、「危機の時代」の6つに区分して概観する本である。とにかく、史料を丁寧に読み解き、一般的に理解されている日本近代史の歴史的な理解をさらに迫っていく。
高校時代、日本史Aを習ったが、高校日本史の一般的な知識があると、教科書的な理解よりももっと深く、強いて言えば当時の政局判断・政策判断のウラの面がより分かって面白い。高校時代に習った日本史の内容がまさにドンピシャリだった。
特に大日本帝国憲法(明治憲法)制定後の帝国議会の政局について、教科書の一面的な -
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凄い本である。何があったのかを教えてくれる歴史書は数多くあるが、おきた歴史的事実の意味を政治風景まで理解しやすくつづった本として、本書は最高の本ではないだろうかと思えた。
本書は1857年(安政4年)から1937年(昭和12年)までの80年間を「改革期」「革命期」「建設期」「運用期」「再編期」「危機期」「崩壊期」の6段階に分けて考察している。
そのどれもが単に事実の羅列に終わることなく、どれもが興味深い指摘と考察を繰り広げている。
「革命期」において「江戸城総攻撃が行われ、旗本から会津藩までのすべての幕府勢力が降伏したとすればどのような事態になったであろう。江戸落城で形の上では官軍の圧 -
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明治維新から大政翼賛会までの怒涛の450ページ!近代は現代の先駆けであり、現代は近代の再構築であることという、歴史の連続と非連続がめくるめく。ちょっとEテレの「さかのぼり日本史」の1年目を見た時の「そうだったのか!」という納得感を思い出しました。きっと歴史という時計の針が進むのはそれ以前に針を進ませようとする人々の模索の積み重ねであることがテーマだからでしょう。とにかく個人という点が相乗作用しあって歴史という線になっていく。教科書的には「富国強兵」と四文字熟語でくくられてしまうスローガンも大久保の「富国」vs西郷の「強兵」というように対立し紆余曲折を経て生まれてきたもの、という事例のように数々
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日本史(歴史)嫌いで、高校の授業はほぼ昼寝でやり過ごした私ですが、この本を機に歴史への興味を取り戻せそうです。
明治維新から日中戦争までの近代を6つのフェーズで捉えなおし、それぞれにキーワードを与えて論じていますが、区分自体に大きな意味は無いように思えます。むしろ、これらのフェーズを通じ現れては消えるさまざまな対立軸(e.g.「公議輿論」-「富国強兵」、「積極財政」-「緊縮財政」、「政友会」-「憲政会」etc.)に焦点が当てられており、これらの対立軸が3次元的に重なり合いながら時代を織り成すさまが鮮やかに描かれています。
個人的には、二・二六事件直前の混乱期、宇垣一成(朝鮮総督だそうです -
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すでに評判が高くなっていますが、なかなかおすすめできる一冊です。題名は「日本近代史」ですが、「日本近代政治史」というほうが正確でしょう。80年位前までの歴史とはいえ、自国の政治史を誰もが納得できる様に客観的、実証的に記述することは、困難というより不可能だと私は考えています。この本にしても、引用している史料は、著者の提示する構図を補強するものばかりが選択されている可能性もあります。それを疑念を持って読むことも良いでしょうが、まずは著者の提示する歴史像を理解することでしょう。
随所に散りばめられている、著者の現代日本政治に対する危機意識にある程度共感できるなら、面白く読めると思います。 -
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東京大学名誉教授(日本近代政治史)の坂野潤治(1937-)による、近代日本における憲政史概説。
【構成】
第1章改革 1857-1863
1 「尊王攘夷」と「佐幕開国」
2 西郷隆盛の「合従連衡」論
3 単独出兵か合従連衡か
4 「尊王攘夷」の台頭と薩長対立
5 混迷の文久二年
第2章革命 1863-1871
1 西郷隆盛の復権
2 公議会
3 薩長同盟
4 「公議会」か「武力倒幕」か
5 革命の終焉
6 「官軍」の解散と再編
第3章建設 1871-1880
1 「建設」の青写真を求めて
2 「強兵」と「輿論」
3 「富国強兵」と「公議輿論」
4 「公議輿論」派 -
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二・二六事件からはや70年が経過しようとしている。
本書は、1936年の二・二六事件から1937年の盧溝橋事件のはざ間の1年半という時期を検討したものである。この時期は「準戦時体制」とも呼ばれるが、1936年・1937年の二つの総選挙から読み直すと、社会改革を主張し躍進する社会民主主義政党(社会大衆党)が軍拡に肯定的で、現状維持を志向する既成の保守政党(政友会・民政党)が軍拡に歯止めをかけようとしたというパラドックスが浮かび上がる。
分かりやすくするため、現在に置き換えていえば、社民党がイラク派兵を容認して、自民党がそれに歯止めをかけようとしているという構図(もちろん、たとえ話)になる。