乾石智子のレビュー一覧
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光とともにまた闇も生命に予め与えられたものである、という著者の観点がより鮮明になった1冊。
かつて己のうちに闇を封じ込めた魔道師の子孫イザーカト兄弟。闇に飲まれた長姉ナハティと、残された兄弟姉妹の争いを描くいわば復讐譚であり、これまでのシリーズ中いちばん血腥い展開をする。特にカサンドラの死に様があまりに酷く涙。
兄弟姉妹の争いについては、よくある緩いファンタジー的な兄弟喧嘩の風味はほぼ無く、闇に身を浸してまでの痛々しい生命のとりあいとなるので、序盤の温かな気配に騙されるなかれ。
とはいえ生命の力をもつ魔道師である主役のデイスと兄弟のイリアが、最後まで物語に灯りをともしてくれるので、読み口はよい -
Posted by ブクログ
とても楽しみに待っていた作品なのに、集中できていなかったのかなんなのか、どのように感想を書いたらいいのかわからずに戸惑っている。もしかしたら、これまで読んだシリーズのなかでいちばん地味と言えるかもしれない。ただ、地味だからおもしろくないわけではない。この物語を通して著者が提示して見せたものには、簡単には飲みこめない奥行きがあると感じられた。また、コンスル帝国の建国以前の話ということもあり、登場するひとびとの素朴さも際立つ。その無垢さ純粋さがこの小説の静けさを作り、祈りのような佇まいになったのかもしれない。
(冒頭に“戸惑っている”と書きはしたが、ぐわりと込み上げる衝動になんど涙目になったことか -
Posted by ブクログ
ここで闇と呼ばれているものは何だろうと考えると、生命力そのものではないか、と思った。
大地から生える黒い樹。太古の闇。無ではなくカオスをイメージする表現だ。何もないのではなく、すべてが混沌としている。
魔導師は闇を持たなければならないと作中では言われる。魔法とは、世界に干渉して世界をーー価値をーー変容させる、意志の力だ。生きることで必然的に抱える善悪の相克を見据え、とりもなおさず自分の座標を定める、その覚悟がなければ、モノの価値を変えることなどできない。
生きているものは生きなければならない。生き続けなければならない。
どんな存在もこの世に生じた瞬間から呪縛される。生命が持つ絶対的な指向の -
Posted by ブクログ
“オーリエラントの魔道師”シリーズと銘打たれていて、 前に読んだ「夜の写本師」と同じ歴史の流れと世界観に属するこの本、紐を様々に結ぶことで魔法をかけていく紐結びの魔道師リクエンシスの冒険譚。
冒険と書いたものの派手な活劇の場面は少なく、どちらかと言えば、悠久の時を生きる魔道師の人生と彼とともに生きた人に対する振り返りのお話。
後半に行くに従って内省の色が濃くなるが、300年もの生を受け、自分より後に生まれたものに先立たれ、人生を回顧し、その生の虚しさに倦んだエンスが、再び生への執念を燃やす『子孫』や『魔道師の憂鬱』が味わい深くて良かった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレディアスが国を離れてからの展開が
早すぎる気もしたが、この物語で
最も心惹かれたのは ファンズと
共に生きる北の民の限りない誠実さと
その暮らしの掛け値ない正しさ。
アラスカの原住民族から着想したのだと
思われるが それ以上の生命力と誠実さに
本当に心が洗われた。
ディアスとイェイルの交感の中で
このファンタジーを貫く生と死の思想が
幻想的に語られる。
…そんなこんなよりも気になったことを
やはりどうしても書きたくなった。
この物語に出てくる架空の食事たちが
やたらに美味しそうに見えるのですよ。
それからディアスが南に向かう時
イショーイが寄こしてくれた護衛の名は
タンダとい