石井淳蔵のレビュー一覧
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ブランド 価値の創造
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試し読み
Posted by ブクログ
気鋭の学者が著したブランド価値論。岩井克人の「貨幣論」の考え方を汲んでいるところからして、個人的に非常にしっくりくるブランドのとらえ方だった。
特に、自分にとっては、
・ブランドが静態的にとらえることはできず、商品とブランドが相互に影響しあう関係は動学的である
・消費者によって決まるのでもなく、制作者の思いで決まるのではない
・商品を識別するための名前=記号が、記号のメッセージを伝えるために商品を出していくようになることで、ブランド固有の価値が生まれる。
・ブランドの剰余価値は、実際に売買の対象となる
などが重要な洞察。
一方で、この書籍にある説明だけでは、考察にかける紙面が不十分で、現実の投資や事業運営において説明しきれない論点も多く残っている。例えば、
ー消費者の支持を受けるためにブランドが満たすべき要件は何か。
ーこうした支持を受けるためには、どれくらいの投資と時間がかかるのか、それは十分ROIがとれるものなのか
など。
序 ブランドを支えるもの - 消費者の欲望か制作者の思いか
第一章 ブランドが支える企業の成長
第二章 ブランドだけがブランドの現実を説明できる
第三章 ブランドの創造的適応
第四章 ブランドの価値論
第五章 ブランドの命がけの跳躍
第六章 消費者とブランド価値
おわりに メディアとメッセージの交錯 -
ブランド 価値の創造
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Posted by ブクログ
わたしのようなマーケティング初学者からすると、マーケティングとはいかにモノを売らせるための技術である、なんていうひどく雑でひねくれた見方をしてしまうが、「本書では、企業の生活者・顧客との接点を、どうデザインするかに焦点を絞り検討してきた」(P301)とあるように、本書の目的にあるのは「生活者」といかに「接点」をみつけ、それを構築(「デザイン」)するかというのがマーケティングであると示され、曚を啓かされた。
こんな始まり方をすると堅苦しいように感じるかもしれないが、誰もが知る企業の、成功例も失敗例もふくめた豊富な事例(ソニー、パナソニック、サントリー、伊藤園、P&G、花王、JTB、アート引越センターetc.)が紹介され、新書にしては厚めの300ページ超だが、読んでいて飽きなかった。また細かく章が分かれているので、拾い読みもできると思うし、デスクの脇にでも置いて都度振り返っておきたくなる本だと感じた。
本書の結論は、現代の低成長・低収益の時代には、たんなる技術のイノベーションではなく、商品・ブランドと生活者との新しい接点を見つけ、意味や価値を創造する「コマーシャル・イノベーション」が求められるのだ、ということだ(「終章 コマーシャルイノベーションに向かって」)。いいかえれば現代は、ハードパワー〈機能/効能/性能〉の時代から、ソフトパワー〈経験/意味/価値〉の時代へのマーケティング転換期なのだ。
たとえば、P&Gは二十世紀末に、「世界の【消費者のニーズに最も適した】、秀でた品質と価値をもつ製品を提供する」、という宣言を、「世界の【消費者の生活を向上させる】、優れた品質と価値をもつ宣言へと変えているという(P173、【】は本書内傍点)。その意味するところは、既存のニーズに向けて商品を提供するのではなく、生活を向上するという切り口で商品価値を創造するという転換なのだ。
技術から生活価値への転換を果たした事例として、ウォークマンやiPodなどのほか、キットカットを挙げている。キットカットはかつて安いチョコ菓子というポジションだったが、ひとつのキャンペーンを打ったことで、ほかのチョコ菓子とは違った生活者との接点を得てポジショニングを達成した。それは「キットカット→きっと勝つ」の語呂合わせから出た受験のゲン担ぎをしている、という受験生のキットカットとの関係から発想を得ている。商品の中身は変わっていないが、生活者との関係が変わることで価値創造した好事例だ。
個人的に気になったところは、ブランドやリサーチということを考えるなかで、企業/組織の強さをいかに高めるか、という視点を強調していた点だ。自分の過去の仕事を考えると、組織というより個人を重きにおいた仕事内容だったので、たいへん勉強になった。
ニーズが細分化されている現代において、大企業ほど動きが遅くキャッチアップできない、と「大企業病」などと非難がちだが、これを読んでると大企業だからこそ、細やかなニーズをキャッチアップできるマネジメントができるのではないかと感じた(第Ⅳ部など)。そう思わせたほど事例が大企業が多いので、リソースのない中小企業が市場という複雑性にどう対処するか、という事例も多くほしい気もした。
とはいえ、そのなかでも第1章で例示された、地方の地場産業による障がい者スプーンの例は、生活者に向き合うことでニーズを発見するという好事例で印象に残った。
また「指標化」(P255)という概念は、わたしとしては学ぶものが多かった。「指標化」とはマーケティングの接点を考える際に、「あらかじめみずからの可能性・選択肢を限定」し、「自分たちの力に見合った形で処理可能な状態にする(架け橋を架ける)という作業」を指す(第Ⅲ部結論~第Ⅳ部あたり)。
なぜ「あらかじめみずからの可能性・選択肢を限定」する必要があるのか。それは、市場環境は無限に複雑なので、それをすべて処理できず成り行きでこなしてしまっては、マーケティングを長期に渡りマネジメントできず、成長もしない。「組織が存続するためには、自分たちの処理可能な状態に、できれば意識的に環境を作り替えておくことである」(P244)。
マーケティングとは話はずれるが、個人的に仕事の優先順位がつかないことが多く、苦労することが多かったので、「指標化」の概念はマーケティング以外にも役立つのではないかと思った。本書のなかで、そんなカオス状態のとき組織の指示として重要になるのは、「いろいろ起こっていて、気になることも多いだろうが、とりあえず『店頭品質』の諸要素に注目するだけでよし。他のいろいろある出来事は、無視してもかまわない」(P244)と書かれていて、なにか思わずほっとさせられるものがあった。
読み応えがありつつかつ読みやすいので、マーケティングの入門書をさがしているひとは、ぜひ本書を手にとってほしい。わたしの場合、本書を読む前に著者のべつの本『マーケティングの神話』(岩波現代文庫)を読み、たいへん面白かったので、他にないかと探したところ本書に出会った。『神話』のほうは、文化人類学や哲学、記号論など人文系の知識を用いて、マーケティングの本質に迫っている名著だと感じた。興味がある人はこちらも一読を。 -
Posted by ブクログ
ポジショニング、組織論、ブランドマネジメント、情報リテラシーなど、マーケティングに関する幅広いトピックスが網羅されている。構成も非常に体系的で、自分のような門外漢がマーケティングを学ぶには大いに参考になった。
特に、組織形態のありようで経営判断が大きく変わりうることが具体的な事例(サッポロ・ドラフトワンなど)で示されており、新しい発見となった。ウチの会社の経営陣は伝統的に組織に手を入れるのが大好きでしょっちゅう組織変更があるが、どこまでその影響を認識しているのだろうかと考えさせられる。どう見ても気まぐれとしか思えない組織改編も多く、ある意味恐ろしくなった。 -
Posted by ブクログ
マーケティングの大御所、石井淳蔵の本。”経営者は跳ばなければならない”として、これまでの延長で事業を進めるのではなく、創造的に事業を創りだすビジネス・インサイトが必要なのである。前書きから惹き付けられることが多く、マーケティングにおける定性的研究の重要性が感じさせられる一冊だった。
①実証主義の限界(第1章 実証主義の経営を検証する/第2章 ビジネスインサイトとは何か)
それまでは既に存在している市場を分析すること、つまり実証主義の経営が主流とされてきた。だが、それは裏を返せば既存のニーズを中心に分析しているため、自社にとって新しいニーズであっても市場では馴染みのあるものになりやすい。
そこで、市場志向ではなく、「消費者の経験の中で生まれる価値」に焦点を置くことが重要となる。消費者にとってその製品はどういった存在なのかから問い直し、新しい市場を生み出すのである。それを見つけ出すためには、インサイト(成功を見通す構図)を発見しなければならない。
②ケース教育の意義(第4章 ビジネス・インサイトをケースで学ぶ/第5章 ケース・リサーチの可能性)
インサイトや、そこに隠された暗黙知を発見するためには、消費者をより深く理解すること、つまり消費者への棲み込みが必要である。棲み込みを学ぶ一つとして、ケースは優れているという。
ケース教育で大切なことはいくつかあるが、特に「当事者の視点に立つ」ことは重要である。対象を理解するためには、外側を見つめるだけでなく、内側に入り込む(=棲み込む)ことを行わなければならない。現在時点でケースを眺め、50年前よりも進んだ世界を自分が知っているように理解してはいけない。そうではなく、歴史や経緯を入念にたどりながら、当事者になったことを意識する。このようにケースを追うことは、因果関係だけでケースを理解することなく、プロセスやその変化などを解明していくことであり、重要である。
③これからの経営、マーケティング(第6章 経営における偶有性)
なぜケースにおいて、原因や結果だけでなく、プロセスを理解する必要があるのか。それは、マーケティングは、誤解のようなコミュニケーションを繰り返す過程に含まれており、その帰結が偶有性(偶然のたまもの)なのである。そのため、企業と市場や消費者の中で行われる対話の中で、ニーズは生まれてくる。
これまでの市場調査から消費行為の意味を理解する「消費者理解」が重要となり、対象への棲み込み、そしてそれを通じて得た共感的理解から経営が始まるだろう。
ニーズはあるようで、存在していない。それを学術的に説明した非常に示唆に富んだ本だった。消費者への棲み込みから出てきたニーズを考えていくことは、今の日本企業には重要なことである。これからケースを読むときにも視点を変え、インサイトを見つけ出せるように丹念に読んでいきたい。 -
Posted by ブクログ
野中郁次郎のSECIモデルで言っている暗黙知と、M. ポランニーの暗黙知は違うという話を聞いて興味を持って買った本です。
野中郁次郎の暗黙知は、たとえば、杜氏が上手にお酒を造る技術のことを言っていますが、SECIモデルはそれを形式知化することの重要性を述べており、つまりは、時間や手間はかかるかもしれないけれど形式知化可能な暗黙知を含んでいます。
一方、M. ポランニーの暗黙知は決して形式知化することができないものを指しています。M. ポランニーは科学者なので、アインシュタインの例を使って説明していましたが、相対性理論が生まれる瞬間に使った知恵がそれにあたります。
簡単に言うと、閃きであり、書名のインサイト(insight)にあたります。
本書は、この、M. ポランニーの暗黙知を経営に応用し「ビジネス・インサイト」という概念にまとめたものです。
仮説検証型の経営には限界があり、どこかで、ビジネス・インサイトを用いて飛躍しているという話から始まります。
後半では、ビジネス・インサイトを習得するにはどうしたらよいかという議論が展開され、対象に棲み込む(内在化する)ことの重要さが語られます。
形式知化できない暗黙知を伝えていく方法としても興味深く勉強になる本です。
今年読んだ中で一番脳を刺激した本でした。 -
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この本を読む前は、マーケティングという言葉をなんとなくイメージで理解し、マーケティングはなんとなく大切なんだろうなぁという理解だったが、読んだあととなっては、マーケティングなしに商品を売り続けていられる企業は単に運がいいだけなんだと思うようになった。
いまの自分の職場から見て、いまの会社はあまりマーケティングをしているように思えないのが残念。ただ、これからマーケティングを行おうとがんばってはいるのかな。
ちょっと話を変えて、文系・理系の話。
自分は今まで文系・理系という言葉を思い浮かべるときに、なんとなく、感性的・論理的といったようなイメージで対比させていたのだが、このマーケティングの話をする上でもそうだが、文系では論理がさほど重要ではないというイメージは大きく間違っている。むしろ、理系よりも文系こそ、論理を重視せねばならない。理系の学問においては、論理を組み立てる根拠が比較的確固としている場合が多いように思うが、文系の学問においては、論理を組み立てる根拠が理系ほど客観に確固としていない場合が多いように思う(確率的にある程度の憶測や主観を含む)。よって、根拠の、その、ときに不十分な確からしさを補って余りある論理立てが必要なのだと思う。
マーケティングを行う上での根拠も十分確からしいと言えない場合が少なからずあるのではないかと思う。よって、それを補う明確な論理立てが必要なのだ。 -
ブランド 価値の創造
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Posted by ブクログ
経済学と文学を繋いでいる視線。この感性は石井氏の才能だと思う。
以下引用など
ブランド自然説…消費者の選択が決着をつける。つまり、ブランド制作者の意志とは無関係に、消費者はブランドを選ぶのだということ。
ブランド・パワー説…消費者にいかに選ばれるかよりも、制作者がそのブランドに込めるところの価値を消費者にたいしていかに首尾一貫した形で伝え、啓蒙するかが重要だという意見。
(P10
→岩井克人『貨幣論』
差異と包括性によるブランドイメージの向上
ふつうの商品→「欲望が主で、商品は従」
ブランド→「ブランドが主で、欲望が従」(p179
「消費者は価値あるものを選択する」という理解は、価値がすでにして前提にあり、それがそのまま消費者に伝わることを想定してる。(p200
→しかし、ブランドはそれ自体が意味を変えていってしまうものである。
ブランドを定義したつもりでも、トカゲが尻尾を切って逃げるようにとらえどころの無さが露呈するだけ… -
ブランド 価値の創造
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Posted by ブクログ
三田祭論文の参考になるかなあと軽い気持ちで読み始めた本書でしたが、内容が思ったよりもまともだったので、論文のことなど何処へやら、いつのまにか一読者として楽しんでいました。
なぜ「内容が思ったよりもまとも」ということをわざわざ明記したのかと言いますと、俺が「ブランド」という語そのものに対してちょっとした嫌悪感を抱いている部分があったからでありました。
いわゆる「ブランド」という語には金持ちが○○の一つ覚えみたいに何も考えずに「ただ周りが持ってるから買ってる」っていうイメージが付きまとったり(なんて保守的な考え!)、また、ただ顕示したいがために買ってるんだろう・・とか、「ブランド」で売れるんだったら企業も苦労ないよなあとか、なんかそんなネガティブなイメージです。
まあ、僕も今たまたまグッチの財布使ってるんですが・・笑
だから、この本だって、もし「こうすればブランド戦略はうまくいくっす!」とかあるいは「グッチっていいよね~はあと」みたいな(失礼ながら僕からすれば)アレみたいなことばっかり書いてあったら、もうその時点で読むのやめよう・・と思ってました。
でもそんな本ではありませんでした。
本書の特徴としては、「ブランド価値の定義は、したがって、無限の循環となる自己言及のプロセスとなりそうだ」(p99)といった文章からもわかるように、ブランドそのものを記号論などの、経営学の範囲を超えた、学際的な視点から捉えている点が挙げられます(当たり前っちゃあ当たり前なのかもしれませんが)。
もちろん経営の視点もはずしていません。
全体として、身近な例を出しつつも、言いたいことはとても抽象的で学術的です。
まあ、でもそんなことよりも、何より著者の態度が終始一貫して誠実でかつクールだったところに好感を持ちました。
それは特に第5章の「ブランドの命がけの跳躍」に現れていると思います(5、6章は特に面白い)。
あと著者が妙なブランド信奉者じゃなくてよかったです。笑
ブランドってそもそも何なの?と普段から懐疑的に感じている人や、逆にブランドを無批判に受け入れている人など、多くの人がブランドを考える上で参考になる、とても良い本だと思いました。
(2007年09月11日) -
ブランド 価値の創造
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