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現代社会の富は「膨大な商品の集積」ではなく,「膨大なブランドの集積」として現れる.高級品から日用品まで,ブランドではない商品は見つけにくい.単なる商品名にすぎないブランドが,なぜ価値をもつのか.そして,究極のブランドとは何か.ブランドの誕生と成長のダイナミズムを解き明かす価値創造のマーケティング論.
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Posted by ブクログ
気鋭の学者が著したブランド価値論。岩井克人の「貨幣論」の考え方を汲んでいるところからして、個人的に非常にしっくりくるブランドのとらえ方だった。 特に、自分にとっては、 ・ブランドが静態的にとらえることはできず、商品とブランドが相互に影響しあう関係は動学的である ・消費者によって決まるのでもなく、...続きを読む制作者の思いで決まるのではない ・商品を識別するための名前=記号が、記号のメッセージを伝えるために商品を出していくようになることで、ブランド固有の価値が生まれる。 ・ブランドの剰余価値は、実際に売買の対象となる などが重要な洞察。 一方で、この書籍にある説明だけでは、考察にかける紙面が不十分で、現実の投資や事業運営において説明しきれない論点も多く残っている。例えば、 ー消費者の支持を受けるためにブランドが満たすべき要件は何か。 ーこうした支持を受けるためには、どれくらいの投資と時間がかかるのか、それは十分ROIがとれるものなのか など。 序 ブランドを支えるもの - 消費者の欲望か制作者の思いか 第一章 ブランドが支える企業の成長 第二章 ブランドだけがブランドの現実を説明できる 第三章 ブランドの創造的適応 第四章 ブランドの価値論 第五章 ブランドの命がけの跳躍 第六章 消費者とブランド価値 おわりに メディアとメッセージの交錯
読み返して涙した。単なるマーケ本ではない。ブランドという不思議な存在を題材に、資本主義ど真ん中で余剰価値を生まれるメカニズムを記した思想書である。 マルクスの唱えた「商品」と、今現在(99年当時)の「ブランド」との比較からはじまる、情熱を帯びた知の探索。
マーケティングの一分野であるブランド・マネジメントについて講学的に知ろうと読み始めましたが、説明のアプローチはかつての言語論や記号論そのままです。「ブランド」が製品の技術や使用機能の従属性から離れて生成発展していく説明は十分成功していると思いますが、言語論や記号論の知識がない読者はちょっと辛いかもし...続きを読むれません。ただし、こういった一連の概念に慣れると応用が利くので、知っておく価値は小さくないと思います。
経済学と文学を繋いでいる視線。この感性は石井氏の才能だと思う。 以下引用など ブランド自然説…消費者の選択が決着をつける。つまり、ブランド制作者の意志とは無関係に、消費者はブランドを選ぶのだということ。 ブランド・パワー説…消費者にいかに選ばれるかよりも、制作者がそのブランドに込めるところの...続きを読む価値を消費者にたいしていかに首尾一貫した形で伝え、啓蒙するかが重要だという意見。 (P10 →岩井克人『貨幣論』 差異と包括性によるブランドイメージの向上 ふつうの商品→「欲望が主で、商品は従」 ブランド→「ブランドが主で、欲望が従」(p179 「消費者は価値あるものを選択する」という理解は、価値がすでにして前提にあり、それがそのまま消費者に伝わることを想定してる。(p200 →しかし、ブランドはそれ自体が意味を変えていってしまうものである。 ブランドを定義したつもりでも、トカゲが尻尾を切って逃げるようにとらえどころの無さが露呈するだけ…
三田祭論文の参考になるかなあと軽い気持ちで読み始めた本書でしたが、内容が思ったよりもまともだったので、論文のことなど何処へやら、いつのまにか一読者として楽しんでいました。 なぜ「内容が思ったよりもまとも」ということをわざわざ明記したのかと言いますと、俺が「ブランド」という語そのものに対してちょっとし...続きを読むた嫌悪感を抱いている部分があったからでありました。 いわゆる「ブランド」という語には金持ちが○○の一つ覚えみたいに何も考えずに「ただ周りが持ってるから買ってる」っていうイメージが付きまとったり(なんて保守的な考え!)、また、ただ顕示したいがために買ってるんだろう・・とか、「ブランド」で売れるんだったら企業も苦労ないよなあとか、なんかそんなネガティブなイメージです。 まあ、僕も今たまたまグッチの財布使ってるんですが・・笑 だから、この本だって、もし「こうすればブランド戦略はうまくいくっす!」とかあるいは「グッチっていいよね~はあと」みたいな(失礼ながら僕からすれば)アレみたいなことばっかり書いてあったら、もうその時点で読むのやめよう・・と思ってました。 でもそんな本ではありませんでした。 本書の特徴としては、「ブランド価値の定義は、したがって、無限の循環となる自己言及のプロセスとなりそうだ」(p99)といった文章からもわかるように、ブランドそのものを記号論などの、経営学の範囲を超えた、学際的な視点から捉えている点が挙げられます(当たり前っちゃあ当たり前なのかもしれませんが)。 もちろん経営の視点もはずしていません。 全体として、身近な例を出しつつも、言いたいことはとても抽象的で学術的です。 まあ、でもそんなことよりも、何より著者の態度が終始一貫して誠実でかつクールだったところに好感を持ちました。 それは特に第5章の「ブランドの命がけの跳躍」に現れていると思います(5、6章は特に面白い)。 あと著者が妙なブランド信奉者じゃなくてよかったです。笑 ブランドってそもそも何なの?と普段から懐疑的に感じている人や、逆にブランドを無批判に受け入れている人など、多くの人がブランドを考える上で参考になる、とても良い本だと思いました。 (2007年09月11日)
かなり引き込まれた。著者が分かりやすく説明しようとしていることが文章から伝わってきて、好印象だった。ブランドというものは、消費者の欲望にも、そのブランドを創ろうと熟慮してデザインした経営者にも還元されない、独立した概念と化す。(中古)
『ブランド 価値の創造』は、ブランドがどのようにして価値を持ち、それが維持・発展していくのかというメカニズムを深く掘り下げた一冊です。本書では、ブランドを単なる商品の名前ではなく、企業経営において独特の重要性を持つ存在として捉え、その本質に迫ります。 --- ### ブランドとは何か? 著者は...続きを読む、ブランドに関する二つの主要な意見を提示しています。一つは「市場で消費者に選ばれた商品」という見方、もう一つは「制作者や経営者の思いや夢、世界観やビジョンが内在する」という、いわゆる**ブランド・パワー説**です。本書の核心的な問いは、「ブランドという名前が、どうして価値をもつようになるのか」という点にあります。この問いを解き明かすために、貨幣論における「貨幣商品説」と「貨幣法制説」を援用し、ブランドが単なる商品の価値を超えて、一種の資産として取引されるようになる過程を分析します。 --- ### ブランドの創生と成長 ブランドが偶然生まれるものではなく、明確な**商品定義**が重要であると述べられています。「ポッキー・オン・ザ・ロック」の事例のように、新しい消費者ニーズの開拓や商品バリエーションの拡大がブランド成長の鍵を握ります。また、ヒット商品が**ロングセラー商品**となるためには、新機軸の導入と、開発段階だけでなく営業努力による育成が不可欠です。ロングセラーには「やらなければいけないこと」と「やってはいけないこと」の両面があり、企業の「商品をどう定義するか」という意志が問われます。 --- ### ブランド・マネジメントの重要性 ブランド・マネージャーの成否は、どれだけ社内資源を自身のブランドに集められるかにかかっています。1960年代の「つくったものを売る」から「売れるものをつくる」というマーケティング中心への転換期において、ブランドと製品がビジネスの実践上で異なるものとして理解されるようになったことが強調されています。 ブランドを理解する上で、著者は「技術の軸」と「使用機能の軸」という二つの軸を提示します。特定の技術や製法に強く依存するブランドと、異質な技術を持つ製品群を横断するブランド(例:ペンタックス、松下電器のブランド群)が存在します。また、使用機能カテゴリーを横断するブランド(例:無印良品、ラルフ・ローレン、シャネル、ダンヒル)も存在し、これらは「共時的多様性」を持つとされます。さらに、「ベンツ」のように通時的な多様性を持つブランドも存在し、これらは「ブランド内グレードアップ」を伴います。 --- ### ブランド価値の不可視性 ブランド価値は、しばしば定義や実体化が難しいとされています。「無印良品」や「ベンツ」のように、具体的な指示対象が不明確でありながらも、他のいかなる言葉も代替できない「創造された意味」を持つという点が指摘されています。これは、「コカ・コーラ」が消費者の心の中にある財産であり、企業の意のままにならない財産であるという事例からも裏付けられます。ブランド価値を言葉で表現しようとすると、それは「仮の価値(仮面=メディア)」となってしまい、無限の循環が繰り返されるというパラドックスが存在します。ブランド価値とは、手の中につかんだと思った瞬間にこぼれ落ちてしまうような、捉えどころのないものなのです。 --- ### ブランドの成長とアイデンティティ ブランドは、単に消費者の欲望によって生まれるのではなく、マーケター側の「ブランドとして、それを育てる」という意識が重要です。しかし、制作者やマーケターの思いだけではブランドは成り立ちません。最初は製品の記述名から始まり、やがて名前と製品の一対一対応が崩れ、名前が製品の特定の属性と結びつくようになります。 ブランドの統一性には、「スタイル」レベルと「フィロソフィ」レベルがあります。スタイルに固執したブランドは流行とともに衰退しますが、より高次なフィロソフィ・レベルでの統一性は、スタイルの盛衰を超越すると述べられています。 ブランドの「重さ」(競争優位の力)、「長さ」(拡張性)、「広さ」(支配範囲)、「深さ」(顧客の思い)といった**ブランド・パワー**の概念が提示され、その測定が企業にとって焦眉の課題とされています。また、花王の事例に見るように、複数のブランドを管理する**ブランド・ポートフォリオ・マネジメント**の重要性も指摘されています。 --- ### ブランドと欲望の生成 ブランドは、識別効果や知名・理解効果だけでなく、そのブランドに固有の欲望を創出する「メッセージ効果」も持ちます。興味深いのが「争点効果(ディドロ効果)」で、ブランドが単なる製品の名前ではなく、逆に製品がブランドの価値を伝えるメディアとなるという視点です。製品の技術や使用機能が変わるとき、ブランドはその新しい価値を伝えるメディアとなり、この「メディア性」と「メッセージ性」の交錯のダイナミクスこそが、ブランド誕生の秘密であると結論づけられています。 --- 本書を通じて、ブランドが単なる記号や名称を超え、企業の重要な資産として、そして消費者の心の中で独自の意味を創造していく過程が鮮やかに描かれています。それは、企業と消費者の間の絶え間ないコミュニケーションと、ブランドを育てるという明確な意志によって形作られるものなのです。
ブランドについて論考。とりわけブランド拡張に焦点を当てているように読み取れる。それは、ブランド拡張が可能かどうかとブランド価値に密接な関係があるからである。 ブランド拡張については、親ブランドのイメージとかけ離れたカテゴリーへ拡張すると、ブレンド全体のイメージがぼやけてしまう、いわゆる希薄化すると...続きを読むいうことは過去の研究で言われている。しかし著者は、それは拡張してみた結果であってやってみてはじめて分かることだと指摘している。それだけブランドの理解は難しいということだろう。
マルクスは資本論にて、社会の富は「膨大な商品の集積」、個々の商品は富の基本形態と記載。現代なら、ブランドの集積と書いただろうかと始まる。この出発点は、なかなか痺れる。 ブランドとは買い手の期待を反映するものであると同時に、買い手自身の生活や歴史や人生の意味を形成するものとして存在している。だからこ...続きを読むそ他に何も変わりようがないものというのが根源的なブランドの価値である。コカコーラが新たな味に変更した時、その味は高く評価されたが、それ以前の低い評価の味を買い手は求めた。この事例と説明が非常にしっくり来た。 買い手と売り手には、情報量に差がある。買い手は、それを使ってみるまで、製品の性能を詳しく知り得ない。だから、想像で補う。この製品を背後にした「想像」こそが、ブランドだと思う。安心できる性能だとか、世の中に認められた実績だとか、その製品と共に過ごした記憶とか。だから、ブランドを形成するには、実績とコマーシャルによる、ある種の洗脳的アプローチが必要である。本著は、これを色んな言い方で解説しているような内容である。
神戸大学大学院教授によるブランド論。 ブランドとは、製品に従属するものではなく、製品がブランドに従属するものである、という主張は日本の電気製品メーカーの製品に対するネーミングを例に挙げられており、説得力がある。たとえば、松下電器はかつて、テレビに「画王」、「横綱」といった名前をつけたが、これは製品の...続きを読む特性をネーミングで説明しており、ブランド名が製品に従属している典型的な例である。こうした例は、電気製品に限らず日本のメーカーに多くあり、製品が入れ替わると自動的にそのブランドは消滅し、次の製品ブランドに入れ替わられる。たとえば、P&G社のIvoryという石鹸は誕生してから100年以上の歴史をもち、今尚、同社の中核ブランドとして存在しつづけている。日本のブランドにおいて、こうした長寿ブランドがなかなか存在しないのは、ロングセラーブランドを育てる意思をもったマネジメントが行われていないからであろう。著者は、「ヒット商品は偶然によって生まれうるが、ロングセラーは企業の積極的な意思をなくしては育たない」と主張しているが、まったくその通りだからこそブランドマネジメントが経営戦略の一端を担うのである。 序盤は、グリコのポッキーは当初、プリッツのライン拡張として「チョコテック」という名前で発売されたという。その名前が既に登録商標であったことから、「ポッキンポッキン新型チョコレート」というキャッチフレーズからポッキーという製品名が産まれたということである。当初は意図されていなかった偶然によって名づけれた商品がいまやグリコを代表するブランドとして数あるお菓子の商品群の中でも存在感を示しているのは、やはりグリコが意図的にそのごポッキーの新しい使用用途を提案しながら、あたらしい世界観を構築していったからに他ならない。こうした序盤のケーススタディは、欧米発のものが中心のブランド研究分野においては貴重である。 読む進むにつれ、内容はコンセプチュアルな領域へと入っていく。そもそもブランドとは何であるかという問いは、ブランドに関するどんな本にもかならず触れられており、さまざまな定義がなされているが、本書ではデカルトなどの哲学を織り交ぜながら、これまでのAakerやKellarといった定番による定義とはまったく異なった視点でそれを解説している。実務にかかわるものにとって、ブランドとは何かという問いに対して、こうした米国の研究者による定義がひとつの模範解答であり、業界においてもスタンダードとされてきているが、しっくりこない部分もすくなからずあった事かと思う。本書によるこうしたコンセプチュアルな記述は、そういった意味で、これまでの研究者がうまく説明できていなかった部分、たとえばブランドが時系列的に変化していく様は、本書の哲学を交えた説明により納得がいくような気がする。そもそも抽象的なブランドという存在を新鮮な観点から見ることができるという大きな意味と収穫があった。また、時間をおいて再度読んでみたい本である。
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