吉村昭のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
明治二十九年、昭和八年、そして昭和三十五年のチリ地震津波と三つの津波による三陸海岸の被害を生き残った人々へのインタビューをもとにつづったルポ。
2011年3月の東日本大震災以前にも三陸海岸はたびたび大津波の被害を受けていた。その度に人々は対策を施し、毎回被害は少なくなっていたのだが、今回の甚大な被害から予想を上回る津波だったことがわかる。
津波被害は何十年に一度なので、住民の意識が薄れてしまう。だからといって住民の意識を高め、地震のたびに高台に避難するといったことは社会生活に影響を及ぼす。地震をともなわない大津波もあるのだ。
潮位の監視など、システムを構築することが重要と感じた。
巻末に明治二十九年の大津波含め四つの大津波を経験した早野幸太郎氏の言葉「津波は、時世が変わってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにいないと思う」という言葉を読むと、今回の事があるだけに、やりきれない思いに襲われる。次の津波の時は早野さんの言葉通りであって欲しい。 -
Posted by ブクログ
鎖国時代に出入りが許されたオランダの船に乗り、オランダ人医師と偽って来日し、日本の研究調査をしたシーボルト。
外国にとって未知の国、日本の情報を貪欲に収集する一方で自分の持つ医学の知識を惜しみなく日本人蘭学者たちに与えた。
そんなシーボルトが長崎で出会った丸山の遊女其扇と結ばれ、生まれたお稲が物心つく前にシーボルトは日本を追放されてしまう。
お遍路で訪れる卯之町は、そのお稲が日本初の女医として学び暮らした土地。風情のあるいい土地だった。
花神に描かれているお稲とは、少し印象が違っているが、史実は小説よりも奇なり。波乱万丈の彼女の生涯は、どこまでも日本人であり家族を愛した一生だったのではないだろうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ胃カメラ開発の実話に基づいた小説。
取材の前に「胃の病気とピロリ菌」を読んでいて、
その中でこの本が紹介されていたので、早速読みました。
全体的に、かなり淡々とした印象。
物資も情報も少ない戦後に、世界で初めて、人間の体内を撮影する・・・
そんなカメラが、あっさりできてしまったのか、とも感じられるのですが。
ただ、実際に医師を取材してみると、
お医者さんって、知識も体験も豊富なのに、
本当に、起伏もなく、わかりやすくお話されるのだ、と
最近になって、ようやくわかりました。
医師は、たくさんの症例を経験した上で話をしているのだから
もう、当たり前のことになっているし、
研究結果が評価されるべきで、その過程は自明のこと、と
思われる方が多いように感じられます。
一般人にとっては、なるほど、すごい!と思うことばかりなのですが。
この小説も、「もっといろんなハプニングや苦労があったのだろう」と
読み終わった後にも勘ぐってしまうのですが
そうではなく、あくまで現場の雰囲気を大切に
まとめられているような印象で、そこに好感がもてます。
いずれにせよ、激動の時代に、ひとりの医師と、
日本が誇る、光学技術の技術者たちの想いがこもったストーリー。
それが書かれていること、知ることができたことで
知識欲はしっかりと満たされました。 -
Posted by ブクログ
親父から貰った本。
「太平洋戦争のことって、よく知らないんだよな~。」という思いが、
手に取った動機です。
本書にて描かれている時期は、
奇襲作戦等の機密情報を載せた日本民間機、「上海号」の失踪から、
マレー半島上陸/真珠湾攻撃に至るまで。
内容は、情報収集/作戦隠蔽に関わる人々の行動と事実、といったところでしょうか。
作戦隠蔽に苦心した、大本営の苦慮がヒシヒシと伝わる作品です。
「上海号」にて見つかった大量の中国政府の偽札。
「タイ軍人に変装して奇襲する」といった作戦。
それぞれのエピソードからは、なりふり構わず戦争に勝とうとする、
日本軍の必死さが伝わってきます。
敗戦という結末を知っているからでしょうか。
読んだ後には、虚しさだけが残りました。 -
Posted by ブクログ
なにかのはじまり、そういうトリヴィア的魅力に加えて、それを吉村昭が書いてくれてるとしたらこれは読むしかないでしょ、っていう。はじまりには二種類あって、外国で生まれたものがどのように日本に入ってきたかと、日本発のものがどのように誕生したか。前者は主に明治維新時の話で、とくにマッチに関してはとても日本人らしいというか。日本で初めてマッチを生産することに成功した清水誠という人が、さらにストックホルムのマッチを発明した会社に技術を盗みにいくのですが、怪しまれぬように工業視察員として関係ない会社もいくつも見学してから行くのです。工場に入ってからも、質問が専門的過ぎてバレそうになるものの、なんとか誤魔化す(笑) 維新のころの日本人の必死の真似根性を垣間見た気がしました。企業秘密を盗んでいるので、今の常識から言えば決して許されることではないですが、金にものを言わせて外国企業から秘密を引き出そうとする現在の中国政府よりはずっと微笑ましい。面白かったけど、まあ普通かな。