新田次郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレR4.2.26~3.5
(きっかけ)
・新田次郎はすでに数冊読んでいて好み。
・以前何かのレビューで気になっていた。
・古本屋で100円で購入。
(感想)
とても面白かった。
どれもよいのですが、あえて好き嫌いをつけるとこのような感じでしょうか。(最高★5)
・強力伝(★4)
180kgの巨石を背負って白馬山に上った強力の物語。
・八甲田山(★3)
面白かったが、もともと「八甲田山死の彷徨」を読んでいたので物足りなかった。
・凍傷(★3)
面白かったけど少し淡々としていたように感じた。
・おとし穴(★3)
面白かったが…何か物足りない。
・山犬物語(★4)
山犬に娘を殺された恨みを果たす男の物語。
・孤島(★5)
所長の苦悩がとても良い。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」の山岳短篇小説集『冬山の掟』を読みました。
「新田次郎」作品は、今年の10月に読んだ『チンネの裁き』以来ですね。
-----story-------------
遭難をめぐり、人間の本質を深くえぐった初期短編集
冬山では午後になって新しい行動を起こすな―山で発熱した者のためにこのルールに背いて、吹雪の中を彷徨う一行と、その身を案じる家族の懊悩を描く表題作の他、『地獄への滑降』 『霧迷い』 『雪崩』など、遭難を材にとった全十編を収録。
峻厳な山を前に表出する人間の本質を鋭く抉り出した迫真の山岳短編集。
-----------------------
1957年(昭和32年)から1971年(昭和46年)にかけて発表された作品が収録された短篇集… どの作品にも、山での遭難事故が織り込まれ、男女関係の変な意識や、男の面子などの愚にもつかない要素が入り込むことにより、合理的な判断ができなくなる人間の悲しい性が描かれていました、、、
感情と理性の葛藤の中で、感情が勝ってしまい、理性的な考え方を抑え込んでしまい判断を誤る姿を反面教師的に描いたヒューマンドラマ… という感じでした。
■地獄への滑走
■霧の中で灯が揺れた
■遭難者
■冬山の掟
■遺書
■おかしな遭難
■霧迷い
■蔵王越え
■愛鷹山
■雪崩
■解説 角幡唯介
スキー場で偶然出会った妻の元カレを陥れることにより自分の家庭を失ったり(『地獄への滑降』 )、
男女4人ずつのパーティーの男性4人が遭難し、自意識過剰な女性たちが自分を悲劇のヒロインに仕立て上げ、遭難は自分のせいだと主張したり(『霧の中で灯が揺れた』 )、
鼻持ちならないスキーヤーが遭難し、イヤイヤ救助に向かい、救助したあとも遭難者に辛くあたったり(『遭難者』 )、
発熱した仲間のために、冬山でのセオリーを破ったことで遭難したり(『冬山の掟』 )、
冬山で遭難し、死の間際に遺書を遺そうとするが、内容が言い訳がましいことに気付き、生死の境でそれを処分しようとしたり(『遺書』 )、
身勝手な女性のために、吹雪での遭難後に男性だけが亡くなってしまったり(『おかしな遭難』 )、
富士山で仲間とはぐれて遭難しかけ、仲間は遭難したと思い込んでいたが、無事だった仲間からは自分が遭難したと思われ大騒ぎになっていたり(『霧迷い』 )、
虚しい意地の張り合いにより遭難しかけたり(『蔵王越え』 )、
姉が山で死んだことが原因で、結婚に怯える女性が、彼女に求婚した男性と山へ行き悲劇に遭ったり(『愛鷹山(あしたかやま)』 )、
三人のパーティーのうち二人が雪崩により亡くなり、残った一人がその後の人生で大きなハンディを負ったり(『雪崩』 )、
と、男女関係における変な意識や嫉妬や男の下らないプライドという、命の重さと比べると、なんとも下らない理由で山での判断を狂わせて、そして遭難に至る展開が多かったですね… 感情と理性のバランスって難しいですね。
あと、なんだか「新田次郎」作品って、とんでもなくイヤな女性が登場することが多い感じがします… 山で何かトラウマになるような体験があったのかもなぁ。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」の長編山岳小説『縦走路』を読みました。
『芙蓉の人』、『富士山頂』に続き「新田次郎」作品です。
-----story-------------
美貌の登山家と山男二人。
その恋には恐るべき罠が仕掛けられていた。
人間の本質を見据えた「新田文学」の真骨頂。
北アルプス、冬の八ヶ岳で二人の山男は、「女流登山家に美人なし」と言う通念をくつがえす、美貌のアルピニスト「千穂」に夢中になる。
彼女の旧友でライバルの「美根子」を交えた四人の間に恋愛感情のもつれが起こるが、命がけの北岳胸壁攻撃の後、「千穂」は……。
きびしい冬山と氷壁を舞台に、“自然対人間”そして“男対女”を通して緊迫したドラマをみごとに描く傑作長編山岳小説。
-----------------------
文芸雑誌『新潮』の昭和33年(1958年)7月号から11月号に連載された作品… 当時としては新鮮な魅力に溢れ、連作中から世評を得た作品だったようですね。
登山仲間である「蜂屋道太郎」と「木暮英作」は、針ノ木峠から立山へと縦走へ出かけた際に、女性登山家「川原田千穂」と知り合った、、、
彼女は「女流登山家に美人なし」と言う通念を打ち破るような美人アルピニストだった… 足が達者で、リーダー然とした「千穂」に反発を感じつつも、2人は彼女に惹かれていく。
「蜂屋」と「木暮」は大学の同級生で、「木暮」の勤める協進精器に「蜂屋」の勤務する天宮電気が機械を納入するという仕事上の関係もあった… 天宮電気で秘書を努める「香野峰子」は「千穂」と高校の同級生で、その縁で4人は再会、、、
「蜂屋」と「木暮」が「千穂」に惚れていることに気付いた「峰子」は、「蜂屋」と「木暮」に理由をつけて、それぞれアパートに誘い込むが2人から愛を得ることはできなかった… 「蜂屋」は「千穂」と2人で冬の八ヶ岳に出かけ、彼女と結婚する決心を固める、一方、「木暮」も「千穂」との結婚を心に秘めていた。
お互いの気持ちを知った「蜂屋」と「木暮」は、「千穂」の気持ちを決めさせるために北岳にロッククライミングに誘った、、、
3人が出発するとき、「峰子」から北岳山頂で開くようにと差し入れを渡された… 北岳山頂で「峰子」から渡された差し入れを開くと、それは「峰子」のアパートに「蜂屋」と「木暮」が忘れたザイルとマフラーだった!!
いやぁ、恐ろしい差し入れでしたね… きっと、これで「千穂」の気持ちは2人から離れていくんでしょうね、、、
山岳小説と恋愛小説の要素を絡めた、当時としては野心的な作品だったようですが… 「新田次郎」ですからね、本書の魅力は、針ノ木から立山という北アルプス、八ヶ岳、そして北岳と短い中にも主要な山を盛り込んで、縦走から登攀までを愉しめる贅沢な展開や、山に関するリアリティ溢れる描写なんだと思います。
久しぶりに山に行きたくなりましたね。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」のノンフィクション作品でNHKでドラマ化もされた『芙蓉の人』を読みました。
「新田次郎」作品は、2年前に読んだ『アルプスの谷 アルプスの村』以来ですね。
-----story-------------
時は明治28年である。
正確な天気予報をするためには、どうしても富士山頂に恒久的な気象観測所を設けなければならない。
そのために「野中到」は命を賭けて、冬の富士山に登り、観測小屋に篭った。
一人での観測は無理だという判断と夫への愛情から、妻「千代子」は後を追って富士山頂に登る。
明治女性の感動的な物語がここにある。
-----------------------
明治25年(1892年)、日本の気象予報を正確に把握するために、富士山の山頂に観測所を設置しようと、「野中到(いたる)」は富士山に登頂し、冬の寒さに耐えながら気象観測に力を尽くす… 「到」と命がけで夫と行を共にした妻「千代子」との夫婦愛と、気象観測に情熱を注いだ人生を描いたノンフィクションです。
日々の暮らしに欠かせない天気予報… この予測をより正確なものにするべく、命を懸けた「野中到・千代子夫妻」、、、
「到」は私財を投じて富士山頂に気象観測所をたて、中央気象台からの「委託」という形で観測機器を借り受けて、前人未到の冬期観測を実施… たった一人、眠る時間も削っての2時間おきの計測を続ける「到」、、、
一人での観測は無理だと考えた妻「千代子」は、夫を支えるため、周囲の反対を押し切り、娘「園子」を実家に預け、夫の後を追って山頂に登る―― 暴風、雪、低温… 想像を超える自然環境下に置かれた観測所では、室内で終日ストーブを燃やし続けても寒さが増し、壁面は凍りその厚みが増してゆく。
さらに高所での生活で高山病を発症… 食欲は失せ、食料あれど食べたいものが底をつき、何より寒さと低気圧によって当時の計測機器がことごとく使いものにならなくなっていく。
献身的な愛情と勇気をもった明治女性の姿を描いたこの傑作でしたね… 夫妻の奮闘、暮らしぶりもさることながら、衰弱し自力で立つことも這うこともできない二人の救出に向かい、凍結した頂上から二人を背負って連れ帰った人たちの心意気にも心を打たれました、、、
狂ったような暴風と、目も凍傷を受けるほどの極寒… 当時の装備で厳冬の富士山に登るなんて、本当に命懸けですもんね。
それにしても、「千代子」の精神的な強さには敬服しました… 見習いたいですね。 -
Posted by ブクログ
石巻に生まれアラスカの地で一生を終えた安田恭輔という男の数奇な人生を描く。アラスカの極寒での生活に順応し、その人柄と努力と能力を現地人に認められるようになる。遂にはエスキモーのリーダーとして、白人の環境開発に脅かされる少数民族の問題に取り組んでいく。
・安田恭輔の日本男児たる精神性と生き様
・エスキモーの民族性や慣習、その繁栄と衰退
・狩猟が主体の生活様式に産業を取り入れていく過程
・白人、エスキモー、インディアン、日本人間の人種差別
が見どころ。
上司に勧められて久しぶりに小説を読んだ。日本人としては、やはり安田恭輔の精神性に崇高さを感じる。(海外では奇特に映ることもあるだろう。)
総じて面白かった! -
Posted by ブクログ
小口もページの中までも黄色くなって、調べたら昭和55年の文庫初版、40数年ぶりの再読です。
主人公はアラスカで活躍した明治元年生まれの安田恭輔(フランク安田)。
巻末の30ページにわたる取材紀行文を読めば分かる通り、如何にも新田さんらしい綿密な取材を経て書かれた作品で、現地で感じた自然、景色はもちろんのこと温度や臭いまでも、新田さんは物語のバックグラウンドとして随所に上手く取り入れています。
ちょっと吉村昭さんの記録文学を思い出させる詳細さでなかなか前に進みませんが、エスキモーのみならず、白人、インディアン達からも厚い信頼を得てアラスカのモーゼと呼ばれたフランク安田の一生を見事に描いた重厚な伝記文学でした。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」が昭和36年(1961年)に訪れたアルプスの3ヵ月の旅を描いた紀行『アルプスの谷 アルプスの村』を読みました。
『アイガー北壁・気象遭難』、『強力伝・孤島』、『孤高の人』、『劒岳 〈点の記〉』に続き「新田次郎」作品です。
-----story-------------
チューリッヒを出発した汽車は、いよいよ憧れのアイガー、マッターホルンへ……ヨーロッパの自然の美しさを爽やかに綴る紀行文。
チューリッヒを出発した汽車は牧草地をぬけるとアルプスの山塊を登っていく。
いきなり車窓に飛びこんできた巨大な岩壁のアイガー、朝日に全容を示した坐せる孤峰のマッターホルンをはじめ、人なつこい宿の主人「シュトイリ」氏、チナールの谷で逢った愛らしいベルギーの少女たちなど、憧れの土地で接した自然の風物と人情の機微を清々しい筆で捉えた紀行文。
「佐貫亦男」氏の写真多数収録。
-----------------------
山岳雑誌『山と渓谷』に20回にわたり連載された作品、、、
スイス、フランス、イタリアの3か国からアルプスを訪ねた感想が率直に描かれており、愉しく読めましたね。
■1.白銀の峰々
■2.老ガイドの宿
■3.ユングフラウヨッホに立つ
■4.樅の森に雨が降る
■5.滑らかな草原ツェルマットへ
■6.山岳博物館と遭難者墓地
■7.石の巨人―マッターホルン
■8.郵便バスに乗って
■9.プティムンテの小屋
■10.白銀のガウン
■11.メールドグラースの大氷河
■12.山岳兵のいる街
■13.窓に花のない村
■14.死んだ山
■15.エタンソンの谷
■16.アラレの降る国境
■17.一点の光明
■18.真夏の雪
■19.谷間で会った少年
■20.さよならアルプス
■あとがき
■もう一度行きたい 新田次郎
■旅程と写真 佐貫亦男
先日読んだ、短篇集『アイガー北壁・気象遭難』に収録されていた、『ホテル氷河にて』、『オデットという女』、『魂の窓』は、この旅で得た経験から着想された作品だったことが、よくわかりましたね、、、
アルプスの雄大な景色、そして、キレイで明るいだけではない暗い部分、醜い部分や、風土や気候、地形と密接に結びついた風習や習慣、生活等、現地に行ってみないとわからない雰囲気が伝わってきました… でも、読んで感じたことって、現地で感じたことの、ほんの数パーセントに過ぎないんでしょうね。
実際に訪れて、バスや電車に乗り、現地の人々や登山者たちと触れ合い、同じ空気を吸って、同じ料理を食べ、同じワインを飲まないと、わからないことが多いんだと思います… 行ってみたいなぁ、、、
55年も前のことなので、現在は変わってしまった部分も多いんでしょうけどね… 現地へ行って、その雰囲気を肌で感じてみたいです。
本格派山好きの方からすると邪道かもしれませんが… ケーブルカーやロープウェイ等で山頂まで行ける山が多いのも魅力ですね、、、
雄大な景色を、この眼で見てみたいなぁ… 実現するまでは、山の本を読んでガマンです。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」の長篇山岳小説『劒岳 〈点の記〉』を読みました。
『アイガー北壁・気象遭難』、『強力伝・孤島』、『孤高の人』に続き「新田次郎」作品です。
-----story-------------
山岳小説の頂点といわれる名作!
日露戦争直後、北アルプス立山連峰の劒岳山頂に三角点埋設の命を受けた測量官「柴崎芳太郎」たちの困難を極めた記録を描く山岳小説。
日露戦争直後、前人未踏といわれ、また、決して登ってはいけない山と恐れられた北アルプス、劒岳山頂に三角点埋設の至上命令を受けた測量官「柴崎芳太郎」。
器材の運搬、悪天候、地元の反感など様々な困難と闘いながら「柴崎」の一行は山頂を目ざして進んでゆく。
そして、設立間もない日本山岳会隊の影が。
山岳小説の白眉といえる。
-----------------------
明治時代末期、陸軍参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)によって実際に飛騨山脈(北アルプス)の立山連峰で行われた山岳測量プロジェクトを扱った物語、、、
日本地図を完成させるために信念と勇気をもって困難な山岳測量に取り組んだ男たちが描かれています。
■第一章 未踏の霊峰
■第二章 地形偵察
■第三章 測量旗
■第四章 日暈
■越中劔岳を見詰めながら
■参考文献
1906年(明治39年)、参謀本部陸地測量部の測量官「柴崎芳太郎」に未踏峰とされてきた剱岳への登頂と測量の命令が下った… それは日本地図最後の空白地帯を埋めるという重要かつ困難を極める任務であった、、、
山麓の山案内人「宇治長次郎」等とともに測量に挑んだ男たちは山岳信仰から剱岳を畏怖する地元住民の反発、ガレ場だらけの切り立った尾根と悪天候・雪崩などの厳しい自然環境、日本山岳会との登頂争い、未発達な測量技術と登山装備など様々な困難と戦いながら測量を行う… そして、「行者」から与えられた「雪を背負って登り、雪を背負って降りよ」という謎めいた言葉からヒントを得て、東側の雪渓から劔岳のピークへ挑む。
苦難の末、剱岳にピークに到達するが… そこには奈良時代のものと思われる錫杖と剣が残されていた、、、
陸軍の威信にかけて測量部による剱岳初登頂という至上命令を下したにも関わらず、その結果を知った軍上層部は初登頂で無ければ意味が無いと公表を渋り、「柴崎」等の成果を正当に評価しない… 彼等を評価したのは、現場のことを知る「柴崎」の上官で三角科班長の「玉井工兵大尉」や、初登頂を競った日本山岳会の「小島烏水」等だった。
面子にこだわる軍上層部の古き体質が描かれていました… これって、現代のビジネスマンの仕事にも通じるところがある感じがしますね、、、
今でこそルートが開かれ、登山者であれば登ることのできる劔岳ですが、当時の貧弱な装備やウェアで、登るだけではなく測量をするという目的を持った登山は大変だったでしょうね… 登攀するのが精一杯で、四等三角点という公的な記録に残らない結果だったようですが、その苦難が伝わってきて、思いっ切り感情移入しながら読める作品でした。
そして、劔岳の美しさや自然の情景が巧く描かれており、劔岳に行ってみたい!という気持ちになるような… そんな素敵な描写が愉しめる作品でもありましたね、、、
若き測量官「柴崎芳太郎」をはじめ、測量の補助を担う測夫である「木山竹吉」と「生田信」、案内人の「宇治長次郎」と「岩木鶴次郎」、そして彼らを支えた荷揚げ人夫たち… 彼らの命懸けの挑戦に胸を打たれました。
本作品は平成21年(2009年)に映画化されているんですよね、、、
ヒューマンドラマとしての評価も高いようですが、劔岳の素晴らしい眺望を愉しめる作品に仕上がっているらしい… 今度、観てみたいですね。
以下、主な登場人物です。
《測量隊》
「柴崎芳太郎(しばざき よしたろう)」
参謀本部陸地測量部測量手。
山形県大石田町出身で、日本山岳会に勝ちたいと焦りを見せる生田をたしなめる際に山形弁を披露している。
測量士として厳しい教育を受け、剱岳測量を命じられる。
「宇治長次郎(うじ ちょうじろう)」
近代登山の黎明期に活躍した山案内人。
現在も「長次郎谷」として剱岳にその名を残す。
小さい時から山仕事に励み、山に通じている。
「生田信(いくた のぶ)」
測夫。静岡県千頭(現在の榛原郡川根本町)出身。
最初は若気の至りで剱岳の初登頂を日本山岳会に奪われまいと柴崎や長次郎をせかしていたが、
様々な苦難に出合う中で自然の厳しさや仲間の大切さ・謙虚さの必要性を学んでいく。
「木山竹吉(きやま たけきち)」
測夫。鳥取県東伯郡市勢村浦安出身。
経験豊かなベテランの測夫で、測量隊の精神的な支えとなる。
「宮本金作(みやもと きんさく)」
人夫。山登りの名人。現在も薬師岳東面の金作谷カールにその名が残る。
「岩本鶴次郎(いわもと つるじろう)」
人夫。剱沢一帯の地理に詳しく、長次郎の懇願で測量隊に加わる。
「山口久右衛門(やまぐち きゅううえもん)」
人夫。最初は剱岳登頂に乗り気ではないが、
測量隊と苦難を共にするうちに誰も欠けてはならないという意識を持つようになる。
《日本山岳会》
「小島烏水(こじま うすい)」
日本山岳会を率いてヨーロッパ製の登山装備と合理的な姿勢で剱岳登頂を目指す。
当初は柴崎たちに対して挑発的な態度を取っていたが、純粋に任務を全うしようとする測量隊の姿に触れ、
最後は測量隊の功績を誰よりも理解し、最大級の敬意と賛辞を表する。
《陸地測量部》
「大久保徳明(おおくぼ のりあき)」
陸地測量部長(陸軍少将)。
陸軍の威信にかけて測量部による剱岳初登頂という至上命令を下す。
「樋口誠三郎(ひぐち せいさぶろう)」
三角科長(工兵大佐)。
「玉井要人(たまい かねと)」
三角科班長(工兵大尉)。柴崎直属の上官。
「水本輝(みずもと あきら)」
古参の測量手。経験豊富で上官からの信頼も厚い。剱岳登頂に柴崎を推薦した。
《その他》
「柴崎葉津よ(しばざき はつよ)」
柴崎の妻。測量という過酷な任務に向かう夫を尊敬し、穏やかに見守る。
「岡田佐吉(おかだ さきち)」
立山温泉の宿の主人。
「牛山明(うしやま あきら)」
富山日報記者。
「佐伯永丸(さえき ながまる)」
立山山麓に位置する集落・芦峅寺の総代。曼荼羅図を使って巡礼者に立山修験道を説く。
「行者」
過酷な修行を続け山と共に生きており、地元の人々の尊敬を集める。
剱岳山頂への登り口を探す柴崎たちに「雪を背負って登り、雪を背負って降りよ」と謎めいた言葉を与え、
柴崎ら測量隊の剱岳登頂を心待ちにしながらこの世を去る。
「古田盛作(ふるた せいさく)」
元陸地測量部測量手。
柴崎の先輩で、かつて剱岳の登頂を試みたが断念した経験を持つ。柴崎に助言し、山案内に長次郎を推薦する。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」の短篇集『強力伝・孤島』を読みました。
『アイガー北壁・気象遭難』に続き「新田次郎」作品です。
-----story-------------
それは人の域を超えた業だった。
名峰・白馬岳の山頂まで50貫(約187キロ)もの大岩を背負い上げた男の物語。
【著者の処女作にして直木賞受賞作(昭和30年下期)】
五十貫もの巨石を背負って白馬岳山頂に挑む山男を描いた処女作『強力伝』。
富士山頂観測所の建設に生涯を捧げた一技師の物語『凍傷』。
太平洋上の離島で孤独に耐えながら気象観測に励む人びとを描く『孤島』。
明治35年1月、青森歩兵第五連隊の210名の兵が遭難した悲劇的雪中行軍を描く『八甲田山』。
ほかに『おとし穴』 『山犬物語』。
“山”を知り“雪”を“風”を知っている著者の傑作短編集。
-----------------------
「新田次郎」の処女作を含め、昭和26年(1951年)から昭和30年(1955年)に発表された初期の作品を収録した短篇集です。
■強力伝
■八甲田山
■凍傷
■おとし穴
■山犬物語
■孤島
■解説 小松伸六
『強力伝(ごうりきでん)』は、「新田次郎」の処女作で昭和30年(1955年)第34回直木賞受賞作品… 著者が昭和7年(1932年)から昭和12年(1937年)まで富士山頂観測所に勤務していたときの体験を題材とした物語、、、
当時、富士山頂への荷揚げは馬と人に頼らざる得ず、強力(ごうりき)と呼ばれる荷揚げをする人たちがいた… その一人で三十貫(約112キロ)のエンジンを担ぎ上げた、御殿場口の「小宮山正」をモデルした作品… 強力の「小宮正作」は自らを「金時(きんとき)さん」の再現だと信じる素朴な男だが、新聞に掲載されることを尊いものだと信じており、新聞社に名前が出ることに誘惑され、五十貫(約187キロ)もの花崗岩の風景指示板を背負って白馬山頂に向かうことになる。
同業者である白馬の強力「鹿野」は、当初、よそ者の「正作」に敵愾心を持つが、徐々にその人柄に惹かれアイゼンや背負子を貸す等して応援、、、
道中の岩雪崩等のトラブルから大きなケガを負った「正作」だが、「鹿野」の協力もあり、なんとか風景指示板を担ぎ上げる… この風景指示板って、実際に白馬岳山頂に現存するそうです。
『八甲田山』は、明治35年(1902年)1月、青森歩兵5聯隊の八甲田山中での悲劇的な雪中行軍を描き、後の傑作長篇『八甲田山死の彷徨』を生むことになった物語、、、
『八甲田山死の彷徨』を読んでいるので、少し物足りない感じはありましたが… その悲劇が端的に描かれ、『八甲田山死の彷徨』のエッセンスは既に織り込まれており、短篇ながらも読み応えがありました。
『凍傷』は、昭和7年(1932年)に富士山頂観測所設立に成功する「佐藤順一技師」の富士山頂への観測所設立に向けた執念(妄執)を描いた物語、、、
このプロジェクトを推し進めるため、冬季富士山頂滞在の実績を何としてでも作りたかった「佐藤」は、昭和5年(1930年)に強力「梶房吉」、「長田輝雄」等の協力により、荒天の富士山に登り、1カ月の滞頂後、無事に下山する… 「佐藤」は、道中で遭難しそうになり、足に凍傷を負い右足の指を失ったものの、この成功で安全性が証明されたことにより、これまで三十年来予算化が妨げられていた予算案が遂に成立し、昭和7年(1932年)に富士山頂観測所が設立される。
富士山頂観測所設立に憑かれた人物の執念を描いた作品ですね… 宗教的なまでの執着でした。
『おとし穴』は、山犬(ニホンオオカミ)用のおとし穴に落ちた金貸しの「万作」が、おとし穴の中で遭遇した山犬との一夜の攻防を描いた物語、、、
狭いおとし穴の中で「万作」と山犬が駆け引きをしながら対峙するスリリングな展開と、生死に関わる極限の状況の中で愛する妻子のことを考えながら、妻の不貞について疑心暗鬼を生ずるという複雑な精神状況の生々しさに引き込まれる作品… 死を覚悟した「万作」は、自分しか知らない土蔵の白壁の中に隠した五十両の小判のことを、遺言としておとし穴の土壁に"くら かべ かね"と書き残しますが、そのことが原因となって悲惨な結末を迎えます。
これが無ければ助かっていたのに と思わせる、金銭欲に絡んだ意外なクライマックスが印象的でした… もちろん、そこに至るまでの一人と一匹の息詰まるような対決の生々しい描写が素晴らしいので、クライマックスが生きてくるんだと思います、、、
なかなか見事な展開をみせる傑作… 冒険小説的な作品ですが、一方で風刺的な意味を持った作品でもありましたね。面白かった!
『山犬物語』は、山犬(ニホンオオカミ)によって愛娘を失った「太郎八」、「おしん」夫婦の復讐の物語、、、
山犬様を殺すと村に祟りがあると信じている村人からの反対にあいながら、「太郎八」は復讐のために山犬を殺す… しかし、その後、病犬(狂犬病にかかった山犬)に噛まれて「おしん」が命を落とし、村人の先頭に立ち病犬を駆除していた「太郎八」も病犬に噛まれ半年後に発症して命を落とすのであった。
地方色豊かな伝記、昔話… ですかね。
『孤島』は、「笹山所長」を中心に鳥島の測候所員たちの生活をリアルに描いた物語、、、
離島という極限状態の中で半年も1年も所員の男たちだけで過ごし、本土との通信手段もないという異様な状況の中で、当時絶滅寸前だったアホウドリや島に住む山猫の話、台風襲来に伴う自然との闘い… 地味な作品ですが、鳥島での生活がリアルに感じられる作品でした。
個性のある6作品を愉しめましたが、、、
最も印象に残ったのは『おとし穴』ですね… スリリングな展開と絶妙な心理描写が秀逸でした。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」の山岳小説短篇集『アイガー北壁・気象遭難』を読みました。
ここのところ、山岳関係の読書が続いていますが、「新田次郎」作品は一昨年の10月に読んだ『雪のチングルマ』以来なので久しぶりですね。
-----story-------------
取りつき点から頂上まで1800メートルの巨大な垂直の壁に挑んだ2人の日本人登山家の実名小説『アイガー北壁』。
2人のパーティーが白馬岳主稜で吹雪にあい、岩稜から姿を消す『気象遭難』。
冬期の富士山で、不吉な予測が事実に変って主人公の観測所員が滑落死する『殉職』。
他にヨーロッパ・アルプスを舞台にした『オデットという女』『ホテル氷河にて』など、山岳短編の傑作全14編を収録する。
-----------------------
昭和33年(1958年)から昭和45年(1970年)に発表された山岳小説ばかりを集めた作品で、以下の14篇で構成されています。
■殉職
■山の鐘
■白い壁
■気象遭難
■ホテル氷河にて
■山雲の底が動く
■万太郎谷遭難
■仏壇の風
■氷雨
■アイガー北壁
■オデットという女
■魂の窓
■涸沢山荘にて
■凍った霧の夜に
■解説 近藤信行
『殉職』は、40年以上も富士山の山案内人を努め、誰からも一目置かれた存在である「永島辰夫(59歳)」が、富士山測候所交替勤務のための登山中に感じた不吉な予想が現実となる物語、、、
これまで7年~8年の周期で7合8勺の地点で所員が事故を起こし遭難するという不思議な因縁があり、今年はちょうど8年の周期にあたる昭和33年… 「永島」は、一緒に富士山頂へ向かう5名のうちのひとり「柿沼好之」の行動に過去の遭難者と似た兆候を見て不安を感じながら、最後尾に位置して富士山を登って行く。
昭和33年(1958年)2月26日に富士山測候所の交代勤務のため登山中に富士山御殿場口7合目において遭難した「長田照雄」氏をモデルにして書かれた作品とのこと… いやぁ、意外な結末、、、
まさか、不吉な予想をした本人が因縁の人物になるとは… 誰も想像しなかったでしょうね。
『山の鐘』は、山岳会のリーダークラスの「土井徳郎」が同じ山岳会の女性「鶴島美津子」と「松永ユキ」の二人から冬山登山をせがまれて、三人で11月の北アルプスに行くことになるが、天候の急変により遭難しかけ山中を彷徨うことになる物語、、、
生死の境を彷徨う中で、女性達は、もし死んだとしても美しくありたいと、化粧品や香水まで持ち歩いていた… 女性達の寝袋まで背負わされていた「土井」は怒りが爆発し、香水の瓶を割り、化粧袋を投げ捨てる。
そして、二人を憎悪した「土井」は、一人で進んで行く… 結局、三人とも救出されるのですが、女の強かさを感じさせる作品でした、、、
他の作品でも感じましたが、「新田次郎」って山ガール(女性登山家)のことを好ましく思っていなかったような… そんな印象を受ける作品でした。
『白い壁』は、冬山を訪れていた大学山岳部の五人のうち、先輩の二人(チーフリーダー「菊池弥太郎」、副リーダー「栗原辰三」)がルート偵察に行っている間に残りの三人の大学一年生(「佐々木晴夫」、「杉浦龍作」、「若林俊平」)が雪崩に巻き込まれる物語、、、
「若林俊平」は雪崩の中から奇跡的に脱出して単独で脱出… 「佐々木晴夫」は雪崩に押し流されず、先輩二人と合流することができ、山中を彷徨いながらも10日後に帰還するが、残る一人の「杉浦龍作」は行方知れずとなる。
捜索活動をしていた山岳部の部長等は二重遭難を恐れて引き上げようとするが、助かった4名は「杉浦龍作」を探し出すまでは下山しないと主張する… ここで物語は終わるので、ちょっと中途半端な感じはしますが、『殉職』、『山の鐘』に続き、冬山の恐ろしさに警笛を鳴らす作品になっていると思います。
『気象遭難』は、二人の男性が冬の白馬岳主稜を目指すが天候が急変し、猛吹雪の中で遭難してしまう物語、、、
旧知の山岳会のメンバーが1日遅れで彼らのルートを追っていたが、山岳会内部でのトラブルによる感情の縺れから、二人は先を急いだため雪塊に押し流され滑落死してしまう… 天候を読み誤ったことと、仲間の力を借りることを避けたことが運命を決定づけてしまいましたね。
『ホテル氷河にて』は、著者のアルプス旅行(フランス ドーフィネ山群中の雄峰ラ・メイジュの南壁を見るために訪れたラ・ベラルドという寒村のホテル・デ・グラシェに宿泊)の経験をもとに描かれた物語、、、
アルプスでも観光地化していない寒村のホテル「氷河」に宿泊した「芳村公平」が、そこで出会ったユニークな人々(四人の宿泊客や従業員等)と過ごした夏の十日間が淡々と描かれています… 紀行エッセイっぽい作品でしたね。
『山雲の底が動く』は、山岳会の山行に会員のひとりで新婚の「塩沢」が登山には全くの素人である新妻を同行することになったことから、会長「佐々村」が不安を募らせ、その不安が的中する物語、、、
かつて「佐々村」は、山岳会の山行に新婚の「河原夫婦」が加わり失敗した経験があった… 妻は挫折して途中で下山したものの、夫は自分の荷物だけでなく、妻の荷物(下山後のためにハイヒールやハンドバックを含む)を背負い、さらに夫は妻に下山する時刻を約束していたために悪天候の中で行程を焦り転倒して頭を打ち、命を落としていた。
「佐々村」の嫌な予感が当たる、、、
妻との約束を果たすために「塩沢」は悪天候の中、登山の鉄則を破り夜間に無理な下山をして、あわや遭難という体験をする… 安全を優先するのか、妻との約束を優先するのか、キチンと判断できなくなることは、本当に危険ですね。
『万太郎谷遭難』は、女性登山家の「羽村美津子」が単独で谷川岳に登るが、女性の単独登山を奇異の目で見られたくないという気持ちから、人の少ない尾根をコースに選んで進むが、道に迷ったうえに捻挫をして動けなくなってしまう物語、、、
遭難死か… と思わせるような展開でしたが、目立つように木の枝にマフラーを結わえ、体力を消耗しないように、じっと救助を待ち続けて、偶然、通りかかったパーティーに助けられるという展開でした。
軽率な単独行動でしたが、冷静に救助を待った判断や沈着な行動には学ぶものがありましたね… 「新田次郎」作品には珍しく、女性登山家の良い点が描かれた作品でした。
『仏壇の風』は、息子「君雄」を山で失った母親が、山岳会のメンバー等、息子を山に誘った人たちに憎しみを抱くが、息子が山を目指した真の理由を知り、自分の過ちに気付く物語、、、
初七日、四十九日と山岳会のメンバーは「君雄」の遺影の前に集まる… そのたびに母親の「まさ子」は憎しみを募らせて行く。
百カ日の日にも、山岳会のメンバーが集まるが、山岳会のメンバーに電話連絡があり、彼らは慌ただしく行動を始める… 「まさ子」の次男「敬二」が富士山で遭難し、山岳会のメンバーは、その救助に向かったのだ、、、
「まさ子」は次男「敬二」に対し、登山は固く禁じていたので、何が起こったのか直ぐに理解できなかった… 「敬二」は兄「君雄」と同じく、子どもの気持ちをわかってくれない親から逃れるために、自ら山に去って行こうとしていたのだった。
その時、初めて「まさ子」は子ども達の気持ちに気付くのだった… うーん、この兄弟の気持ちもわかるような気がしますが、親の立場としては複雑だなぁ。
『氷雨』は、山男の「阿木野」からプロポーズされた「美根子」が、「阿木野」が山男であるがゆえに躊躇する物語、、、
「美根子」は「阿木野」に対し、山をやめることを条件に結婚を承諾… 「阿木野」は山をやめる前に穂高岳の滝谷には登りたいと言い、最後の山として滝谷に挑むが遭難して救助され、「美根子」は「阿木野」が、山に心を奪われる人物だということに気付いて結婚を諦める。
山男にゃ惚れるなよ… を物語にした作品かな。
『アイガー北壁』は、昭和40年(1965年)に実際に起こったアイガー北壁での遭難を描いたノンフィクション、、、
アイガー北壁に挑んだ「渡辺恒明」と「高田光政」の行動を、アイガー北壁登攀の1週間前に「渡辺」とともにマッターホルン北壁の登攀に成功し、その際に右足を痛めたことからアイガー北壁登攀ではパートナーを「高田」に譲った「芳野満彦」の視点から描かれています。
3回に亘るアクシデントにより、「高田」は肋骨を骨折、「渡辺」は墜落により重症… 「高田」は負傷を負いつつも、頂上に出て西壁を降りて救助を要請するが、ザイルで確保されていたはずの「渡辺」は頂上直下300メートルの地点で命を落としていた、、、
真実はわからないままですが、終盤は「芳野」の無念さが伝わってくる展開でしたね。
『オデットという女』は、著者がアルプス旅行で訪れたイタリアとオーストリアの国境にあるドライチンネ近郊を背景にして描かれた物語、、、
「弓削信也」は、イタリアのドロミテで「オデット」という女性と出会う… 二人はザイルを組んで岩壁を登り、そこから第一次世界大戦中のドロミテ山岳戦線で戦闘の場となった岩窟に入っていく。
「オデット」の祖父は、イタリー軍の山岳突撃兵として従軍し、この岩窟で戦死しており、壁に残したという遺書を探していたのだ… その遺書は「オデット」の母を娘として認める内容で、母の出生の疑念を晴らす証拠になるものであった、、、
「弓削」と「オデット」は、無事に遺書を発見… その後、「弓削」は「オデット」と別れるが、地中海の空の色を見て「オデット」の眼の色を思い出すのであった。
『魂の窓』は、著者がアルプス旅行で訪れたデュアン峠での経験をもとに描かれた物語、、、
文明社会から隔絶され、中世的な雰囲気を漂わせた山村を舞台に、村で出会った「アネリー」と名乗る狂少女や、山小屋で出会った老人との交流、そして老人の死が描かれています… ちょっと神秘的な雰囲気を醸し出す作品でしたね。
『涸沢山荘にて』は、五月の連休に穂高に向かった「根元春雄」が道中で出会った軽装でテニスラケットを持った軽薄なカップルが涸沢で巻き起こす騒動を描いた物語、、、
涸沢(カラサワ)を軽井沢(カルイサワ)と思い込み、皇太子夫婦と同じようにテニスを楽しもうとお気楽に涸沢に向かう「ジョージ」と「チーコ」のカップルは、好天が幸いしたこともあり、無事に雪の残る涸沢山荘までたどり着く… 山荘では、携帯ラジオで音楽をかけてゴーゴーを踊ったり、「根元」が独りで泊まる予定だった部屋に入り込み、いちゃついたりと常識外れの行動を続ける。
「根元」の心配(不吉な予感)をよそに、彼等の行動を周囲は面白がり、登山靴を貸して雪の上でテニスをさせて報道陣の振りをして有名人のような扱いをして二人を喜ばせる… 調子に乗った二人は北穂沢を登り始めるが、、、
山を全く知らない二人は雪渓を横一文字に横断して、とんでもない事に… 二人が歩いた横一文字のルートが上下の雪のつながりを切断し、それが雪崩を誘因する。
奇跡的に雪崩の中から救出された二人だったが、埋まっていた場所の目印になったのは皮肉にもテニスラケットだった… 幸い、他の被害者もなく、事なきを得るが、、、
「根元」の不吉な予感が当たるという、『殉職』や『山の鐘』、『気象遭難』、『山雲の底が動く』と同じテーマ(虫の知らせ)を扱った作品でしたね。
でも、予感があるってことは、何らかの経験に基づく予兆があるんですよね… そういう意味では、遭難は起こるべくして起こるということなんでしょうね。
『凍った霧の夜に』は、無理をして知らないコースに入り込み、危うく遭難しそうになったスキーヤー「井村伸夫」が生還するまでを描いた物語、、、
コースを知らず、対抗心だけで自然のコースを滑るのは危険ですよねぇ… 「井村」は、自らの軽率な行動により、深雪地帯で雪に埋もれ、遭難しかけますが、その後の生き残るための冷静な判断や行動、根性は、なかなかものでした。
そして、凍てつく闇夜の中、辿り着いた小さな小屋は、なぜか床に穴があり… ここの描写ですぐに便所って、ことには気付きましたね、、、
その後、外に出て肥溜めに落ちるのですが、そこが暖かかったことが幸いして命をとりとめます… まぁ、全てが凍る冬ですから、汚いことはなかったんでしょうね。
「新田次郎」の山岳小説って、相変わらずですが、山岳遭難がテーマとなっている作品が多かったですね、、、
それと、女性がトラブルの原因となる場合が多い感じがしますね… 30ページ程度の短篇ばかりで、読みやすい作品集でした。 -
Posted by ブクログ
「新田次郎」の山岳小説短篇集『先導者・赤い雪崩』を読みました。
『八甲田山死の彷徨』に続き「新田次郎」作品です。
-----story-------------
自然の魔と人間の魔があった。
山岳小説の傑作・全八篇。
上越国境を縦走する女性4人と男性リーダーのパーティーが遭難死に至る経緯をとらえ、極限状況における女性の虚栄心、嫉妬心などを克明に心理描写した『先導者』。
南アルプスを背景に女性をめぐる二人の若者の争いを描く『赤い雪崩』。
ヨーロッパ・アルプスの悲運のガイドを描く『嘆きの氷河』など、山でおこる人間ドラマと自然の厳しさを雄渾な文体で綴る全8編を収録する。
-----------------------
山岳小説ばかりを集めた以下の八篇で構成された作品です。
■先導者
■登りつめた岩壁
■蛾の山
■嘆きの氷河
■谷川岳幽の沢
■白い砂地
■赤い雪崩
■まぼろしの雷鳥
■解説 小松伸六
『先導者』は、無責任な友人「宮地」に裏切られ、経験不足の女性4人を連れて上州と越後の国境縦走に挑むことになった主人公の「茂倉」が、4人の女性とともに遭難死してしまう物語、、、
山の恐ろしさと、極限状態に置かれても虚栄心や嫉妬、エゴを捨てきれない女性たちの心理が巧みに描かれていました。
自然と対峙するには、知識や装備だけでなく、計画性やリーダーの判断が大切だなぁ… ということを改めて感じました。
(『八甲田山死の彷徨』にも通じるテーマですかね)
現代の山ブームにも通じる作品かもしれませんね。
『登りつめた岩壁』は、「松本清張」の黒いシリーズを連想するようなミステリー作品、、、
主人公「中村友治」の暗い(黒い?)過去が徐々に明示され、「中村」に遭難死させられた姉の復讐を計画している弟「喜見田」の殺意が読み取れる展開… その二人がザイルを結び幕岩を登攀するシーンは緊張感たっぷりでしたね。
そして、どんでん返しの結末… でも、スッキリするエンディングでしたね。
『蛾の山』も、「松本清張」の黒いシリーズっぽさを感じさせる作品、、、
教師に犯されその教師を殺害した過去を持つ女性「洋野まみ」が、その後も性的に結ばれた相手を殺してしまう物語。
登山中での事故死(転落死)に見せかけられ、兄を殺された女性「玲子」が、復讐を計画する… 争う女性を赤と青の蛾に例えて嫌悪感を感じさせるところが巧いですね。
「山ではゆび一本で人を簡単に殺せる場所がいくらでもある」という言葉が印象に残りました。
『先導者』や本作品を読むと、「新田次郎」って女性登山家が嫌いだったのかなぁ… と思っちゃいますね。
『嘆きの氷河』は、ヨーロッパアルプスを舞台に30年前に起きた登山ガイド「ゼップ」の墜落事故の謎を巡る物語、、、
スイス辺境にある魔王の剣に登るためにやってきた日本人と、「ゼップ」墜落事故以来、村八分となっている登山ガイド「ペーター」は、氷河から「ゼップ」の遺体を探し出し、墜落事故の真相(「ペーター」の潔癖)を証明しようとする。
真実の追及か、今を生きる人の救済か… 悩ましい展開でしたが、善意が感じられ、好感が持てる作品でしたね。
『谷川岳幽の沢』は、幽の沢登攀路から離れた場所で発見された下着一枚の変死体を巡る物語、、、
全く無関係と思われる三人の人物が自分の身内ではないかと名乗ってくるが、事実が明らかになるにつれて、三人の関係性が判明する。
女性との関係を清算しようとする男、たまたま居合わせた狂女、、、
それらが、最後にはひとつに… 巧く計算された作品でしたね。
『白い砂地』は、チューリッヒから帰国した男性「芳村」が、遭難死したペンフレンド「田久沢昇」の墓を訪ねる物語、、、
「芳村」は、生前の「田久沢」と交わした約束を守るために義姉の自宅や、交際していた女性、遺骨を間違えて持ち帰った女性を訪ねるが約束を果たすことができない。
荼毘に付した上高地を訪ね、ようやく目的を果たす… 竹藪の葉が風に吹かれる音が効果的に使われていて、日本の自然の良さが感じられる作品に仕上がっていましたね。
『赤い雪崩』は、男二人女一人の登山での雪崩事故を巡る物語、、、
雪崩に巻き込まれ遭難死したと思われた男性「笠田」が死の淵から生還… 「笠田」が死んだと思い山中に残して下山した男性「舟塚」と女性「多津子」と「笠田」が異なる証言をしたことと、三人が三角関係であったことが判明したことから、雪崩を装った事件ではないかという疑惑が浮上する。
「舟塚」が嫉妬から「笠田」を殺害しようとしたのか… ミステリー仕立ての面白い作品でした。
『まぼろしの雷鳥』は、南アルプスでは絶滅したと言われている雷鳥を八ヶ岳で見たという写真が茅野市役所に送られてきたことから、観光課の職員「関沢慎一」が、その真偽を確認する物語、、、
この写真が真実であれば、これまでの学説を覆すことになることから、「関沢」は撮影者から直接状況を聞き取るために東京を訪ねるが、なかなか会うことができない… 「関沢」の懸命さに、ついつい感情移入してしまいますね。
専門的になり過ぎず、雷鳥の生態や分布がわかりやすく解説されているので読みやすかったのですが、、、
悲劇的なエンディングでした。
ドキュメンタリー風かつ純文学風の作品を想像していたのですが、ミステリー要素を含んだ作品が多く、予想以上に愉しめました。