新田次郎のレビュー一覧
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新田次郎『山が見ていた』文春文庫。
15編を収録した新田次郎の初期のミステリー短編集。大昔に読んだ記憶があるが、新装版が刊行されたので再読。松本清張の短編にも似た風合いの短編が目立つが、ミステリーとしての切れ味は松本清張ほどではない。
新田次郎の小説は、ラジオドラマ『アラスカ物語』や映画『八甲田山』を観たのを契機に少しずつ読み始めた。その後は山岳小説の『強力伝』『孤高の人』なども読むようになった。本作もその流れで読んだことは覚えているが、細かい内容まで記憶していなかった。
『山靴』。趣味と家庭の両天秤に悩む婿。結末にはゾッとする。婿に入った夫が友人と二人で冬山登山を計画するが、夫を危険な -
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明治の男の気概と意志を感じる。
明治の女性の凛とした強さを感じる。
あの当時の科学技術の水準も低く、材料や機材も素朴な時代の中で、富士山頂に観測小屋を私財を投じて建立し、しかも冬季観察を企てようという誰も考えもしなかったことを祈願し、実行した野中到。
日本どころか世界的にも類例の無い壮挙であり、当時の民衆も熱狂したという。
野中到の物語は何度か小説化されたようだが、野中到の影に隠れていた妻の千代子に光を当てたのが新田次郎のこの名作である。
新田次郎自身がかって気象庁職員であり、富士山測候所に数百日勤務していた経験に裏付けされた冬の富士山の描写は凄みがあり、まるでその場にいるかのような気にさせる -
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ネタバレ下巻では山行記録よりも人間模様が更に浮き彫りにされていく。ちょっとびっくりする様な下宿のお隣さん界隈の繋がりが見えたりするけど、何より宮村健の豹変っぷりが恐ろしい。
加藤氏はと言うとまるで人が変わったかの様に良い方に向かう。良き配偶者に出会えたからこそ。
でも、加藤氏が幸せになればなるほど、不安が募るのは上巻での出だしがあるから。
園子が去って安心したかと思えば、もっと太刀の悪いのが宮村…。なぜ自殺願望がある人は、誰かを伴おうとするのだろう。その自殺願望に宮村自身気が付いていなかったかもしれないが、明らかに異常である。
ヒマラヤ貯金するも、きっとヒマラヤには行けずに終わるんだろうなと言う -
Posted by ブクログ
ネタバレ今や登山には色々な技術が駆使されたウェアやギアが揃っているが、昭和4年という時代の、限られた素材を創意工夫して雪山に臨んでいる加藤氏の姿はただただ尊敬に値する。
自分も山登りをするが、加藤氏の様に石を背負って通勤し、甘納豆とら揚げた小魚で長く動ける様に体を慣らし…と日々の鍛錬から怠らない、加藤氏と同じ努力は中々出来るものではない。
山は上流のもの…と言う時代背景も私には新しいが、そんな時代があったのかと変化後の今に感謝したくなる。
それにしても影村のようなヤツはどの時代にもいるんだな。
これだけ褒めてはいるけれど、やはり実際に加藤氏に会ったとしたら言葉少なに引きつった笑みを浮かべる姿に親近感