宮地尚子のレビュー一覧
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著者はボストンで活動した精神科医とのこと、ボストンという地は絶妙。表題はちょっとひねりすぎかなと思うし今流行りのナラティブという言葉も頻出するがあまりそぐわない気もする。それよりはルポエッセイという感じ。移住者とその心に起きたことにフォーカスを当てているということだけで十分に興味深い。
PTSDという語句が日本で定着したのが阪神淡路大震災というのも、そういえばそうだったかもしれない。
P64 移住に伴うもっとも大きなストレス要因
1社会的経済的地位の低下 2移住した国の言葉が話せないこと 3家族離散もしくは別離 4受け入れ国の友好的態度の欠如 5同じ文化圏の人々に接触できないこと 6移住に先立つ心傷体験もしくは持続したストレス 7老齢期と思春期世代
裏返してみれば 1日本で社会的経済的地位が低く抑えられていた人 2家族そのものがストレス要因である時 4日本社会の友好的態度の欠如 5同じ文化圏(サブカルチャー)の人々に接触できること などは移住の適応のための好条件ともいえる。移住者が一時滞在者に留まるか、移民(永住者)になっていくかの境界はそれほどはっきりしたものではない。【中略】移住者の選択を見ていると、日本が見えてくる。移住者のメンタルヘルスを考える際には、出身国についての視点がもっと必要なように思う。
P79 リンボー。行きも帰りもできない宙ぶらりんの状態。移住といいながら、アメリカに根をしっかり降ろしているわけでもない日本人にわたしはたくさん会ってきた。
P104 (PTSDは)ストーリーを作りやすいことも、問題を外在化しやすいことも、他の精神疾患より「正常性」(異常な体験への正常な反応という説明)を主張しやすいことも、時に回復を促し、時に回復を妨げる。回復のイメージさえ政治性を帯びてしまう。
P149 日本に来ている外国人が精神障害に陥った時も、大使館・領事館の対応は国によってさまざまだ。親身になって本国と連絡を取り合い、帰国や家族の訪問の手はずを整えてくれるところもあれば、一切関わろうとしないところもある。親切度は、総じてそれぞれの国力と比例しているようである。
P161 ハードルをうまく超えて先に進んだ友達に二度と追い付けない気がして、自分の居場所さえなくなったような気がする。それでも、海外に脱出するだけのエネルギーを持てた若者は、健康的なのだとも言えるかもしれない。たとえ親がかりであるにせよ、住み慣れた場所から離れ、言葉や習慣の違う国で過ごすことはそれほど簡単なことではない【中略】いきがってみるのもよし、しらけてみるのもよし、お祭り騒ぎもよし、孤独に浸るのもよし、じたばた苦しむのも、涙で枕を濡らすのも、無茶食いするのも、決して無駄にはならない。
P200 異国の地にあることと、誰かの死に向き合うことの間には、深くて複雑なつながりがある。
P215 別れを告げる「グッド・バイ」は、感謝を伝える「サンキュー」の同義語でもありうること。
P218 人生は選択の連続である。そして選ぶということは捨てるということの裏返しにある。たとえその「選択」が不本意なものであったり、逆らいがたい運命として襲ってきたものであっても、ひとは常に何かに別れを告げ、何かを選び取り、新しい出会いに心うち震わせるほかはないのだと思う。 -
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SNSで話題で気になってた本。
トラウマ研究を専門とする精神科医であり医学博士、臨床でカウンセリングも行う著者。専門家だからって、傷つかないわけではない。ストレスを感じないわけではない。落ち込んだり、無力感や罪悪感に苛まれることもある。
“専門家”というフィルターを通すと、私たちはどうしてもその事実を忘れてしまいがちであることに気づいた。プロであっても一人の人間。そんな反応が起こることは当然のはずなのに。
傷を負った人に対して、できないこともある。解決できない問題もある。けれど、ただ見守るという形で寄り添うことはできる。その辛さを、問題を、一緒に見つめる。それだけで癒しになることもある。こう書けばありきたりだけど、本音や本心を見せられる相手がいる、受け止めてくれる人がいることは、弱さを抱えた人々にとって大きな救いになるはず。
“傷として名づけること。手当てされた風景を残すこと。それでも「何にもならないこと」もあるという事実を認め、その「証」を残すこと。”(222頁) -
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精神科医の著者のエッセイ。
静かにぽつぽつと語っているような文が、
読んでいて落ち着いた気持ちにさせてくれる。
命綱やガードレールの役割の話が面白かった。
これらは物理的効力を発揮するというよりは、
そこにそういうものがあるから大丈夫だと安心し、
平常心を保つためにこそ役立っている。
同じことが、予言や約束にも言える。予言が当たったり、
約束が果たされる確証はない。
けれどもいま、そう願うから、未来に言葉を投げかける。
不幸の淵にいる人に
「幸せ」という言葉を投げかけることで、
淵の手前にガードレールがあるということ、
あなたが転落しないように守っているよ、
命綱を投げて助けようとする人はいるんだよ、
ということを思い出してもらう。
助けたいという気持ちを伝えることは、
とても力があることなんだと納得できた。
そして精神科医として働く著者自身も、
「専門家だって傷付くよ、
傷に慣れることなんてないんだよ、
自分の傷なんて被害者に比べたら大したことない、
なんて思わなくていいんだよ。
専門家だって、包帯を巻いてもらっていいんだよ」
と心の弱さをさらけ出している。
傷を愛したり、無理に活かそうとしなくてもいい。
誰もがその強さを持てはしない。
でも、無かったことにはしないでいたい。
傷とともにその後を生き続けることが、
その人の人生をその人だけのものにできるんだな、
と勇気付けられた。 -
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筆者の別の著書「傷を愛せるか」が個人的に響き、今作も迷いなく読んだ。傷を〜よりはエッセイ成分薄め。
著者の原点とも言えるアンケート、フィールドワークを通じて書かれた文章はやや学術的に映るものの(目的が目的なので当たり前だけど)、生まれ育った地とは異なる文化で生きる人々の悩みやその背景が丁寧に記されていた。
書かれてから40年近く経つにも関わらず、人間の悩みの本質というのはそう変わらないんだろうなと読みながら思ったりする。
昔も今も、日本はメンタルヘルスのあらゆる面で欧米諸国に遅れをとってきたと感じていたけれど、PTSDの章では精神医学がその国の情勢、文化とも大きく関わるという示唆にハッとさせられた。
平たい言葉になるので野暮だけれど、人間の心と社会の関わりがいかに複雑で重要なものなのか考えさせられる1冊。 -
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ネタバレ育児にまつわる内容でも、読んでいて説教くさくなく、読者に寄り添うやさしい文章で、するする読めた。こうでなければならないといった型にはまった考え方でなく、柔軟にとらえることの大切さをしみじみ感じた。
完璧でない者がこどもを育て、育てられる。こどもであったとしても、一人の人間として慈しみ、尊厳を大切にすることを大切にしなければと思う。そう思っていても、少しでもより良い道を歩ませたいと願う親心が時に過干渉へ繋がるのだから、あんばいは難しい。ただ、同じ空間にいても別のことをして、時おり同じ時間を共有する。それくらい気楽に生きてもいいのだと思った。
自分の失敗談が子どもたちにウケるというのは面白かった。自分の失敗というものは、渦中にある時は向き合いづらく、カッコ悪くて話題にしづらい。受け止める努力と人に話せるようにまとめるのは普段から意識しようと思った。
何かが起きてからではなく、起きそうな段階で助けを求めることは大事だと実感する。それは子育てだけではなく、人生において大切だ。 -
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ネタバレトラウマに関するトピックが網羅されており、読ませるための構成も洗練されている。最初の一冊として最適。当事者、当事者を支援する人にはここから先に進むことが必要。
<メモ>
・DSMは統計的なエビデンスを出すためだが、時間経過や潜在的な病理が見逃されがちという意味で浅い、という批判もある。P30
・家庭に責任を押しつけ、うまくいかないときだけ批判するという社会の風潮は百害あって一利なし。かえって孤立をもたらし、虐待がはびこってしまう。P64
・アダルトチルドレンという呼称は言い得て妙な部分がある。P67
・PTSDを持つ人に薬物依存が多い。P68
・リストカットの心への鎮痛効果は高い。P70
・恐怖を感じると抵抗するより凍り付く場合が多い。
・性加害をした男性はDV家庭で育っていることが多く、本人の性被害の有無はそれほど関係しない。P128
・自宅での被害は回復が遅れる。P133
・疑似恐怖と恐怖を混同してはいけない。P143
・体は自動で反応することを忘れてはいけない。P144
・性的虐待に際して司法面接、チームアプローチが神奈川で導入。P149
・男性は過覚醒を起こしやすい。P153
・女性の対処法として「いたわって仲間になる」というものがある。P154
・ブルデュー:女らしさ・男らしさというのはこの世の中でどれだけ空間を占めていいかという構え。P161
・トラウマに慣れることはない。P176
・『戦争における「人殺し」の心理学』。人は本来、殺人に心理的抵抗をもつ。P190
・共感:女性、公正:男性。P193
・トラウマに限らず、多くの身体、精神疾患が事例化することなく、処理される。P204
・沖縄。医者は医者ごと。ユタはユタごと。P207 -
Posted by ブクログ
臨床の精神科医を経験後に、文化人類学の研究に入った著者のデビュー作。『傷を愛せるか』に比べたら確かにやや若い感じの文章。
もともとボストン在住の日本人からの聞き取り調査を元にしたハンドブックを作成したが、書籍化するまでに時間が経過して新しく書き加えたものらしい。内容としてはエッセイとエスノグラフィーの間くらいの感じ。
海外赴任、アメリカンドリーム、逃避、受験落伍者の留学など、それぞれの事情を抱えて外国に暮らす日本人の心情をよく聞き取っており、共感できたり、息苦しくなったりする。2000年ころまでの調査だけど不思議と時代を感じさせず、人の心は変わらないというあとがきに妙に納得した。 -
Posted by ブクログ
1.読みたくなったキッカケ
読書会の課題本になったため購入。
これまでこういった内容の本には触れてこなかったため、新しいジャンルの本を読むきっかけとしてもいい機会だと思った。
2.著者の紹介
一橋大学大学院教授。精神科医の医師として臨床を行いつつ、トラウマやジェンダーの研究を行っている。
3.本の構成と読みやすさ
「2時間で読める教養の入り口」とあるように、非常に読みやすい内容。
かといって、内容がスカスカとかいうわけでもなく、著者の考えがコンパクトにまとめられているように感じだ。
構成としては、序盤で傷つくとはどういうことかをまとめ、終盤で、その癒し方をまとめている。
4.本の序章のまとめ
過去と比べて、現在では傷つく際の環境が変化している。具体的にはSNS等の普及により、コミュニケーションのあり方が変化したため。
常時スマホを手元に置いておくため、気持ちは常に緊張している。
このような、心のあり方を巡る環境に変化が起こっているため、気持ちの余裕がなくなってきている。
5.暮らしに役立つ内容
「セルフ・コンパッション」について。
コンパッションとは、思いやりや慈しみという意味。つまり、自分を責めないことや、自分を褒めること。
例として、子どもが独立した女性。夫と二人暮らし。息子たちからは好きなことをしていいと言われているが、これまで家族の世話しかしてこなかったため、これといった趣味もない。息子や孫たちを気にかけるたびにうっとおしがられている気がする。
このような事例でも、セルフ・コンパッションにより、これまで家族の面倒を見てきて、子どもたちをちゃんと育て上げた自分を褒めてあげる。
自分にご褒美をあげることは自分を甘やかすことである、というネガティブな感情は持たない。
自分に適切にご褒美をあげることはとても大事なこと。
ショックを受けたり、傷ついたりした時には、ちょっと美味しいものを食べにいくといったご褒美を自分に与えてあげる。
6.最も大切な内容
傷(トラウマ等)を抱えた人たちは、自分の心が狭いから、自分の心が弱いからと、自分を責めてしまいがち。
なので、自分だけでなく、人間が普遍的に経験することだと理解することが回復の大きな手助けとなる。
傷ついている人たちには、「その状況に置かれたら、自分でも同じように感じると思う」など、共感を持った言葉で寄り添うことが大切。
7.おすすめの理由
課題解決に重きを置いている人にとって、特におすすめできる本。
大なり小なり傷ついている人は自分の身の周りにもいる。そのような人たちに対して、自身の考え方を変えないといけないなと感じたのは、その傷ついている原因を取り除いてあげようとしか考えてこなかったことだ。
そうじゃなく、共感して寄り添ってあげることが大切だと、読んでいて感じた。
確かに、何か相談事に対して、その原因を探ろうとしたことにより相手と衝突してしまったことが思い出される。
多分、そういうことじゃないんだろう。
これまで、自分の生き方として、何か問題が発生した際には、まず課題を探り出し、その解決に向けてどうすればいいか考えることを優先にしてきた。
それは自分が傷ついた際にも同じで、どうして傷ついたのか、この傷つきを解消するためのベストな方法は何か、ということを考えるようにしてきた。
ただ、自分がそうだからといって、他人もそうだとは限らない。
共感するという考えを自分の中に入れておくことにより、明日からの自分の考え方が多少なりとも変わるかもしれない。
傷ついている人に共感し、寄り添ってあげるだけでなく、自分自身の傷つきも周りに伝え、一緒に共感してもらうということも必要なのかもしれない。