宮﨑真紀のレビュー一覧
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貧困と社会不安から湧き上がってくるホラーを、ドライで簡素でありながらマジカルな筆致で描きだした短篇集。
評判はかねがね聞いていたのでどんなものかと探る気持ちで読み始めた。「展望塔」辺りまでは語り口がスタイリッシュな今風のホラーだなくらいに思っていたら、「どこにあるの、心臓」以降キレ味鋭い作品がズラッと並んでいてすっかり参った。
あけすけな語り口で身も蓋もないことがサクッと言葉にされているので、一瞬気づかず通り過ぎたあと二度見してギョッとする、みたいな文章が持ち味なのだが、エンリケスはジャーナリスト出身だそうでとても納得した。その身も蓋もなさには、どこかルシア・ベルリンのような味わいもある。 -
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ネタバレこんなに長い本読んだのは久しぶり。
最近の小説が値上がりしてるなか、この分量でこの値段!安い!かなり良心的、買う時絶対4000円超えると思ったのに。
章ごとに視点と年代が変わるし、物語のジャンルみたいなのも変わってて楽しい。解説の杉江さんが書かれてるようにわたしもコーマック・マッカーシーとスティーブン・キングが頭に浮かんでたからびっくり!
ガスパルのパートはITとかストレンジャーシングスを連想しながらだった。
こんなに長いのにそこ?って言われそうだけど、上下巻通して第5部が1番面白かった。
ここだけ雰囲気が全く違うし、ここ以外は教団に関わりがあって、ほとんど身内だけの視点だったのにいきなり外 -
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ネタバレタイトルとカバー写真見てこれはもう買うしかないと、そして中身はぎっしりです。
上から下までぎっしり文字が!隙間がないページがほとんどで活字中毒のための本かもしれない。
儀式、怪しい組織、魔術のようなものを使える主人公、血と肉と狂気が詰まった儀式シーンは圧巻ですね。
後半から息子のガスパル視点になり、フアンが一つも説明してくれないことに読んでるこっちも不安になってくる。見て覚えろ、やってみろ精神なのか口下手なのか。
闇を神と崇めている組織があり、それを出現させるための霊媒がフアンであり、その力を息子ガスパルも引き継いでいるので組織に狙われているようですね。
章ごとに視点が変わるので下巻では誰に -
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1973年ブエノスアイレスで生まれたアルゼンチン女性作家。
ジャンルはホラー短篇なのですが、背景にはアルゼンチンの社会情勢、貧富や人種の格差、児童売買、女性への暴力などがあり、そして呪術や悪霊の存在が混じって、土着的な物語となっています。
時代背景として、アルゼンチンでは1976年から83年の軍事政権時代に、警察や軍による市民弾圧がおこなわれ、3万人もの人々が姿を消した、ということがあります。
グロテスクな描写、短篇の中では解決していない、弱者は酷い目にあう、などやりきれない展開ではありますが、そんな死んだ人、表面的にはきれいにされてもそこにある悲しみや苦しみ、霊となって戻ってきた者たちへを再 -
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同発行元の「救出の距離」でスパニッシュホラーを知り、次に手に取った本書。本書も、むしろ本書が増して面白い。古くからある恐ろしいものが違和感なく現代に現れる短編集で、バナディス、フリエタと出てくる人名は馴染みがないものの、じわっとくる気味悪さはどこか親和性を感じ読みやすかった。
○ちっちゃな天使を掘り起こす
雨の日に祖母が聞いていた泣き声。その元凶が突然ベッド脇に現れる。腐りかけのそれは主人公を終始追いかけるが、PC作業中に横で座っていたりと少し可愛く見えてしまった。
○湧水地の聖母
ブスのくせに!というねっとりした嫉妬、正体不明の噂話、湧水の清らかさが美しく組み合わさった人怖。
○井戸
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ネタバレすんごーい!
最高に面白いけどまたもや翻訳作品の悲しさで、3部作の第1作。以降の翻訳予定なし…omg
猟奇殺人大好きレイヤーとしてまず、頭に穴を開けられて蛆を詰められて殺される、しかも姉も数年前に全く同じ方法で殺され、犯人は収監中。果たして冤罪か模倣犯か?
……これだけでもう、跳ね起きる準備はできていた。「お坊さんも飛び跳ねて食べるほどおいしい」と名の付いた中華料理があったと思うけど、もうそんな感じ。気持ちわかる!このアイデア思いついたら時点でこの作品が面白くないわけないよね?
間に挟まる少年のエピソードもすごい。
エピソードそのものもすごいんだけど、その構成の妙がたまらない。物語は実は -
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瀕死の女性がそこに至るまでの出来事を朦朧としながら話す形で進む本書。構成の新しさと、明確に書かれないままなのに引き込み続ける文章に驚きました。
作中何度も登場する「救出の距離」という言葉はかなり女性的な感覚かもしれず、根拠はないが当たっている「ピンときた」の表現の最高峰だと思います。いい意味で女性的な感覚に溢れている一方、読み終わってから冷静に考えてみれば、イラつく態度を取っていた夫たちにも正しさがあるな、と思えるところもまた面白さがあります。説明が難しいので、とりあえず読んで!となってしまう本です。
あとがきがかなり理解を進めてくれますので、意味がわからず閉じそうになった際にはぜひあとがきを -
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ネタバレ土地に根ざした恐怖は、その国の文化や社会情勢や歴史と分かち難く結びついていて、そこから逃げることはできない。私はこれをフィクションとして怖がることができるし、物語である以上それは正しいんだろうけれど、呪いや幽霊や異常な現象の背後にある現実が身近にある人たちが読んだ時の恐怖は私では想像も及ばないものがあるのだろう。その隣り合わせの恐怖をほんの端っこだけでも理解するのに、この物語たちはうってつけだと思う。
・ちっちゃな天使を掘り返す
アンへリータ、ビジュアルが悪夢的なのにどこか愛らしい。主人公のやれやれ感も合わさってどこか楽しささえ感じる。ところで、別に幼少期のことだけが原因ではないよね、主人公 -
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ネタバレサマンタ・シュウェブリンの邦訳三作目。国書刊行会のスパニッシュ・ホラー文芸シリーズとしても三作目。
病院のベッドで横たわる女性と、少年との会話劇。どうやら少年は、女性に過去を思い出させ、何かのターニングポイントを見つけたいようで…
中編程度の長さで、サクッと読める。
全編に漂う不安感とむず痒さは、まるで虫が体を這うよう。そして地の文がなく二人の会話だけで話が進むため、熱にうなされるような、奇妙な酩酊感を味わうことができる。
題の「救出の距離」とは、母親が自分の子供の危機に対して、すぐに駆けつけることができる距離。このことの説明と、子供が遊ぶ描写が繰り返されることにより、子供の身に何か起こ -
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読んでよかった。そして、どこかで見かけた本のような気がするが……思い出せない。ネットだったろうか。新聞の書評だったろうか。どちらで見かけていてもおかしくはないが、思い出せない。
『女性の発言がどれだけ公の場から排除されてきたか』という事が書かれている。
講演の内容を本にしてあるので、読みやすい。ただ、知らない物語(神話)について知っている前提で書かれているところもあるのでそれについては、自力で調べるしかない。
それらを抜いても、伝えたい事はわかる。繰り返し「女性の発言がどう排除されてきたか』『女性の発言はどう受け止められてきたか』『女性はどのような時にだけ発言が認められたか』が書かれて -
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ネタバレマリアーナ・エンリケスのデビュー作。
国書刊行会のスパニッシュ・ホラーシリーズ第2弾。
幻想味が強いエルビラ・ナバロと違い、純粋ホラーな作風。人間の怖さというより、呪術やゾンビ、幽霊などの怖さを描いた作品が多い。
わかりやすくホラーな分、読みやすかった。そしてエゲツない表現は共通。ある意味リアルなのだろうか。。。
(本体が高いこともあり)高級チョコのような味わい方で楽しませてもらった。第3弾が待ちきれない。
○ちっちゃな天使を掘り返す
ちっちゃな天使の正体がエグい。そして描写もグロい。だけどユーモアあふれるゴーストストーリーなのが不思議。
○湧水池の聖母
気に食わない先輩と狙っていた男 -
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ネタバレエルビラ・ナバロの短編集。スパニッシュ・ホラーと銘打ってあるが、どちらかというと幻想文学?
日常の何気ないことが、非常にむず痒く気持ち悪く描写されることが多く。嗅覚、触覚を使い読書をする感覚。良かった。
○ヘラルドの手紙
付き合っている男性との別れを決意した女性の心理を描いた短編。現実なのか、この女性の妄想なのか。凄く曖昧な、真ん中はハッキリしてるけど、周辺がボヤけているような。なんとも言えない読後感。シャワー室の虫の描写が気持ち悪い。女性の心理を表しているのか、むず痒くなる。
○ストリキニーネ ★おすすめ
最後の一行怖い。耳たぶから肢が生えてくる時点で怖いけど。だんだん、自分の身体が乗っ -
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★5 弱者の現実と奈落の底からの叫び声が聞こえる… アルゼンチン作家のホラー短編集 #寝煙草の危険
■きっと読みたくなるレビュー
アルゼンチンの作家、掌編・短編からなるホラー作品集。良い作品なので、しっかりと読みましょう。
テイストとしては文芸作品ですが、痛烈で狂気な描写が多く、アルゼンチンの歴史や現実も克明に記された内容。正直、治安と経済状況がいい日本に生まれたことを安堵してしまいました。
本作はあからさまな表現で豊富で、めっちゃメッセージ性が強い。そして気がついたら読み切ってしまうほど、熱中度が半端ないです。読めば読むほど味わい深く、すっかりエンリケスの沼にはまってしまいました。
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幻覚剤(サイケディリクス)についての概念が一変する内容。
LSD,サイロシビン、MDMA、ペヨーテなどがその範疇に入る。
幻覚剤には乱用に至るとか依存性が強くあるなどと我々は認識しているが、それは無いのである。
幻覚剤を活用することで「うつ病」や「依存病=アルコール依存など」の治療そしてがんの末期患者の恐怖を取り除くなど「精神疾患」全般の治療に役立つとの認識が世界では高まってきている(日本は希薄)ということが詳しく説かれている。
ヒトの脳の構造を解き明かすルートとしも幻覚剤の研究は大きな糸口を得ることにつながる可能性が強いなど。
この本は、有益で極めておもしろい。