あらすじ
シャーリイ・ジャクスン賞中長篇部門受賞作にして国際ブッカー賞最終候補作!
Netflixで映画化もされた「まったく新らしい幻想譚」が本邦初上陸!!!
アルゼンチンの片田舎の診察室で死にかけている女アマンダ、その横にたたずむ謎の少年ダビ。
彼女はなぜ死にかけているのか、ふたりは対話を通してその記憶を探っていく。
すべては熱に浮かされているアマンダの妄想なのか、ダビはそこにいるのかいないのか、そして愛する娘はどこに行ってしまったのか……
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉を牽引する作家による、めくるめく愛の悪夢がいまここに。
「虫が体に入り込む」
【2017年度国際ブッカー賞最終候補作】
【2017年度シャーリイ・ジャクスン賞中長篇部門受賞作】
【2015年度ティグレ・フアン賞受賞作】
【Netflix映画『悪夢は苛む』(クラウディア・リョサ監督、2021年)原作】
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉とは
マリアーナ・エンリケス、エルビラ・ナバロ、ピラール・キンタナ、フェルナンダ・メルチョール、モニカ・オヘーダ――今、スペイン語圏の女性作家が目覚ましい躍進を遂げている。作家によっては三十か国以上で翻訳され、世界中で好評を博すなど、現代文芸シーンにおける一大ブームとなっている。中でも、社会的なテーマを織り込みながら、現実と非現実の境界を揺るがす不安や恐怖を描いた作品群である〈スパニッシュ・ホラー文芸〉は、特に高く評価され、全米図書賞などの著名な賞の候補にも作品が上がるなど、今、最も注目すべき熱い文芸ジャンルの一つである。本書の著者サマンタ・シュウェブリンは、発表した作品の多くが国内外で高く評価され、現代スペイン語圏文学を牽引する作家である。
Distancia de rescate, Samanta Schweblin, 2014
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
瀕死の女性がそこに至るまでの出来事を朦朧としながら話す形で進む本書。構成の新しさと、明確に書かれないままなのに引き込み続ける文章に驚きました。
作中何度も登場する「救出の距離」という言葉はかなり女性的な感覚かもしれず、根拠はないが当たっている「ピンときた」の表現の最高峰だと思います。いい意味で女性的な感覚に溢れている一方、読み終わってから冷静に考えてみれば、イラつく態度を取っていた夫たちにも正しさがあるな、と思えるところもまた面白さがあります。説明が難しいので、とりあえず読んで!となってしまう本です。
あとがきがかなり理解を進めてくれますので、意味がわからず閉じそうになった際にはぜひあとがきを。
Posted by ブクログ
サマンタ・シュウェブリンの邦訳三作目。国書刊行会のスパニッシュ・ホラー文芸シリーズとしても三作目。
病院のベッドで横たわる女性と、少年との会話劇。どうやら少年は、女性に過去を思い出させ、何かのターニングポイントを見つけたいようで…
中編程度の長さで、サクッと読める。
全編に漂う不安感とむず痒さは、まるで虫が体を這うよう。そして地の文がなく二人の会話だけで話が進むため、熱にうなされるような、奇妙な酩酊感を味わうことができる。
題の「救出の距離」とは、母親が自分の子供の危機に対して、すぐに駆けつけることができる距離。このことの説明と、子供が遊ぶ描写が繰り返されることにより、子供の身に何か起こるのではないかという不安感が拭えないまま読み進めることになる。そこからのラストを是非、堪能して欲しい。
ページの割に強気な価格設定だが、相変わらず見惚れるほどの装丁で。次作も予告されているので、楽しみにしている。
Posted by ブクログ
不穏さと曖昧さが漂う不条理ホラー。真相に近づくラストにもはっきりとした描写はなく、どこに怖さを感じるかは読者に委ねられる。分かりづらい展開なのだがあっという間に読み進めていた。新しいホラーの形ともいえるだろう。
#日本怪奇幻想読者クラブ
Posted by ブクログ
わが子を愛おしく想う母性と社会問題への警告と呪い… アルゼンチンのサスペンスホラー #救出の距離
■きっと読みたくなるレビュー
アルゼンチンのサスペンスホラー、芸術性の高い文芸作品ですね。母娘の絆がメインのお話なんですが、なにやら忌まわしい雰囲気たっぷりで、さらには社会問題への怖い警告も含まれています。
本作の導入、いきなり意識があるのかないのか、何が起こっているのかさっぱりわからないところから始まる。得体のしれない恐ろしさに包まれながら、ひたすら少年の声との会話を下敷きにしながらストーリーが進行するんです。この二人の語り口調がまるで魔術や呪文のようで、非日常の世界に引きずりこまれていくことになります。
その後、母と娘とのやり取りや想いが描かれていくのですが、アマンダは常にニナに危険が及ばないか気を付けている。タイトルとおり母が子を思う距離感が丁寧に描かれていくのですが、弱々しくて危なっかしい、いまにも糸が途切れそうなんです。精神的に追い込まれるかきっぷりが生々しくて、ほんと息苦しくて胸に詰まってくる。
そして近所に住む母カルラと息子ダビ。この家族に襲った不幸も、もう忌々しい土地や街を恨むしかないのでしょうか。もし自分に降りかかったとしたら、どういった選択をするだろうかと気が狂うような思いです。
物語が後半にはいってくると、何が原因で彼女たちを追いつめているのか徐々に見えてくる。原因も結果も恐ろしく、なにより本来救ってあげる立場のはずの男どもがまるで頼りない。いつの時代も世界中のどこであっても、男性は仕事やお金を最優先に考える。こんな価値観は未来には持ち込まないでほしい。
しかし…、私も自分の子どもを守るためだったら、どんなことでもやってしまうだろうな。子どもたちを犠牲にすることは何よりも罪ですよ。これからの地球は、未来世代のためにあるのですから。
■映画版もあります Netflix『悪夢は苛む』
原作は芸術性が高く難解な部分も多いんですが、映像ではかなりエンタメ寄りで物語を追いやすく作られています。ストーリーも要素も雰囲気もかなり原作に忠実で、むしろこちらのほうがオススメしやすいですね。
映像だとリアルに怖いしマジ苦しいっす… 心理的に追いこまれ、人間が壊れていく様子があまりにも凄まじいよ。ラストシーンのダビの行動、彼の演技は必見ですね。怖すぎて夢に出る。