山本七平のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
●感想要約:
日本社会を支配する「空気」という無言の圧力を分析し、理性よりも場の雰囲気に流される危うさを指摘する.著者の洞察は現代にも通じ,思考停止を戒める鋭い警鐘として心に響いた.「水を差す」行為が重要ではないかと感じた.
●科学博士の書評指数:
楽しみ度:★★★☆☆
共感度 :★★★★☆
学び度 :★★★★★
話題度 :★★☆☆☆
お薦め度:★★★★★
●本の概要:
日本社会を支配する無言の同調圧力「空気」という概念を分析した評論である.著者は,理性や論理ではなく「空気」によって意思決定が行われる日本の特徴を,太平洋戦争の戦時体制などの具体例を通して明らかにする.個人の判断よりも場の雰 -
Posted by ブクログ
「空気」が醸成される原理原則は、対象の臨在感的把握である。そして臨在感的把握の原則は、対象への一方的な感情移入による自己と対象との一体化であり、対象への分析を拒否する心的態度である。
兵庫県知事への「空気」が気になり本書を通読。人が自死している事実が、臨在感的把握で絶対視され、自死させた知事が悪いという感情移入、対象との一体化が、冷静な疑問を呈するコメンテーターを一掃する「空気」をつくったとみると判り易い。森友問題で自殺者が出た時も同様の「空気」ができたが、なぜか鎮静化できたのは、冷や水を差す行為があったか、その「空気」を上回る別の「空気」が官邸とマスコミとにあったのか?ジャニーズ問題も同様 -
Posted by ブクログ
「失敗の本質」と同様に、第二次大戦での日本の敗因を論じた刺激的なタイトルの本書は、雑誌「野性時代」への連載(1975〜76年)が2004年に書籍化されたものです。
山本七平氏の著作を読むのは「空気の研究」以来ですが、とても読み応えがありました。
本書は、ガソリンの代用としてブタノールを製造する技術者としてフィリピンに派遣された、つまり軍人ではないが戦争に参加した小松真一氏の「虜人日記」をもとに、そこで氏が掲げた敗因21カ条について分析が加えられています。
その主なものを見ただけでも、精兵主義の軍隊なのに精兵はいなかったが米軍は未訓練兵でもできる作戦をやってきた、日本の不合理性と米国の合理性、 -
Posted by ブクログ
虜人日記を下敷きにした冷静な歴史の検証。
時制の峻別。その時代の目撃者の証言か後代の記録か。
我々はまだ「自由な思考」「自由な談話」ができないでいるのか。
戦時中の愚かしさと、それが今なお変わらぬことに、二重に戦慄する。
・予定稿を押し付ける記者となれ合う取材者、世論。これに侵されていない記録としての虜人日記。
◯人びとは危機を叫ぶ声を小耳にはさみつつ、有形無形の組織内の組織に要請された日常業務に忙しい。そしてこの無反応を知ったとき、危機を叫ぶ者はますますその声を大にする。しかし声を大きくすればするほど(略)人びとは耳を傾けなくなる。(略)だがそのとき、だれかが、危機を脱する道はこれしか -
Posted by ブクログ
鎌倉幕府、三代執権北条泰時を中心とした、日本的革命論
公家から武家への階級闘争は、鎌倉幕府の成立ではなく、承久の乱の過程で生じたと論ずる。
東国を支配していた鎌倉幕府は、それまで、西国については、支配することはできていない。天皇および上皇・院が西国を支配していたからだ。
しかし、乱以降は、京都に六波羅探題を置き、以後明治に至るまで、武家が全国統一して日本を支配することになるのである。
北条泰時の偉業は以下のとおりである。
・ゆるやかな武士の連合である、鎌倉幕府が、京都の天皇連合軍を破り、源頼朝でさえ成し遂げられなかった武家の全国統一を成し遂げた。
・三上皇を地方に流して、鎌倉幕府に都合の -
Posted by ブクログ
マックス・ウェーバの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」に、対して、山本七平がぶつけてきた、「日本資本主義の精神」論。
日本の伝統と倫理に根づいた日本的特質を論じたものである。
そして、江戸時代の三人から描かれている。それは、鈴木正三、石田梅岩、そして、上杉鷹山である。
気になったのは以下です。
・では、いったい、日本資本主義の「見えざる原則」は何なのか。という疑問である。ここで忘れてはならない点は、その「見えざる原則」が外部にとっては確かに「見えざる」だが、内部においては当然自明の原則であり、それを少しも隠さずに、堂々とそれで動いているということである。商店の番頭は、「日本資本 -
Posted by ブクログ
大蔵省出身で、陸軍専任嘱託となってフィリピンにわたり、そこで敗戦を迎えた、小松真一が残した「虜人日記」をテキストに日本軍の敗因21ヶ条を1つ1つ検証する労作。その内容は衝撃そのものでありました。
「虜人日記」とは、戦後の民主主義の洗礼をうけておらず、戦後の現実に中立の立場で書かれたものであるとしている。
大東亜戦争の日本軍と、西南戦争の敗軍とは驚くほど類似している。そして、西南戦争の教訓を、活かしきれないかったとありました。
衝撃を少し紹介すると、以下のような内容です。
■暴力と秩序
・組織の確立している間はまだしも、一度組織が崩れたら収拾がつかなくなるのは当然だ。兵隊たちは寄るとさわると -
Posted by ブクログ
「思考すること」と「自分の軸」の大切さ。
生きていく上で、「空気を読む」ことは重要ではあるものの、同時に嫌気がさすこともある。職場では特に、空気を読む機会が多く、その空気に屈する機会も多々ある。言いたい意見も空気を読んで発言しないとか、そもそも自由に言えるような空気じゃないとか、そんな空気を何度も味わった。そもそも空気ってなんだろうと思い、この本を読んでみた。
空気とは
・感情移入の絶対感
・こうあるべきであるという絶対感
によって生まれる。
感情移入の絶対感とは、例えば上司が「俺がいいと思うからお前らもそう思うよな」とか「こんなのできて当たり前だよな」といった個人の感覚によるものを出して -
Posted by ブクログ
「空気」の研究
タイトル通り,「空気」について解いた本.
「空気」に翻弄される人と,それに「はてな?」と手厳しく詰める筆者のやりとりには痛快さを感じる.
「空気」は支配力を持った「判断の基準」であり,その内容が表現されることは避けられ,破った場合はその人を村八分に追いやる.そしてその力は理論的検討,資料,データをも覆す超能力的で,宗教性を帯びた概念であると説明される.
”人間は理論的判断基準と空気的判断基準というダブルスタンダードの中で生きている”ことを胸に刻んでおけば,理屈で話が通らない場面があっても「ああこの人は空気的判断基準モードなんだな」と割り切れてストレスが減らせそう.
“も -
Posted by ブクログ
ネタバレ日本人がつよく拘束されている「空気」を論じた1977年発刊の名著。
「空気」へと決定打をあびせた本書の論考をもってしても、現在において「空気」という現象はしぶとくつよく僕らのあいだに根付いてしまっています。でも、ちょっと難しいながらも、本書の内容をある程度咀嚼できる人が増えたならば、「空気」を覆すチャンスも増えていくし、本書が読まれ続けることで、「空気」に抵抗するためのファイティングポーズは継承されていく、つまり覆すチャンスが潰えずつないでいけるのだと思うのです。
本書は、具体例を多く引きながらだけれど、でも中心は本格の抽象的論考で進めていく形ですから、言外でイメージするところでけっこう苦 -
Posted by ブクログ
ネタバレ戦後の一番の問題は、なぜこのような規範に従っているか考えないこと。
日本人が知らずうちに強く信じ込んでいる”日本教”を構造神学から読み解く。日本教には教義(組織神学)が存在しない。古来より天変地異が多かった日本では、歴史感覚に乏しくつねに「今」だけで、その瞬間ごとに生まれる「空気」が教義となる。情緒における美的感覚が即規範化し、「空気」を通してみた事実である”実情”に対して
行動することが正直であるとされる。事実を事実として言うのは嘘つき、事実に対して行動すれば不正直。情緒規範であるため論理は通用せず、人の外面だけでなく内面の規範まで求められることになる。事実に対応する「実体語」を機能させる -
Posted by ブクログ
よい意味で「看板に偽りあり」。すらすら読める、どころではない、一個の研究書として読める。
冤罪を回避するためにユダヤの律法が設けた二重三重のフェイルセーフはこんにちの裁判制度に比肩、いや、ある意味 上だろう。選ばれし民、と自負するのもむべなるかな。
驚いたのが、二次大戦中にドイツの収容所で十字架への磔刑を人体実験したという記事。
これまで漠然と、イエスは出血多量で死んだものと思っていた。大間違い。まさか酸欠死だったとは。
救世主を美化し、讃えるべき福音書でも、明らかにイエスが処刑を怖れている様子がうかがえる。後で復活すると確信があったところで、あれは怖いだろう。
信仰の無い私だが、 -
Posted by ブクログ
日本は不思議な国で、
学校教育に宗教を教えることは、あまりしない。
一種タブー化している。
また、宗教に対して、複雑な感情を持っている。
学校教育に、戦前国家神道を組み込んで、
結果失敗したと思っているからだ。
ただ、宗教と教育というのは、
切っても切り離せないモノだということを、
学んでいない。というか、意図的にやっている。
ここら辺が、現在の日本の教育の
「根本的なちぐはぐさ」を生んでいるかもしれない。
宗教なんて、よくわからない。
宗教なんて、恐ろしい。
それが「普通」だと思っている。
宗教は個人に規範と道徳を与えるが、
多くの日本人にはそんなものはない。
小室氏は、それをアノミ