【感想・ネタバレ】日本資本主義の精神 なぜ、一生懸命働くのかのレビュー

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Posted by ブクログ

マックス・ウェーバの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」に、対して、山本七平がぶつけてきた、「日本資本主義の精神」論。
日本の伝統と倫理に根づいた日本的特質を論じたものである。
そして、江戸時代の三人から描かれている。それは、鈴木正三、石田梅岩、そして、上杉鷹山である。

気になったのは以下です。

・では、いったい、日本資本主義の「見えざる原則」は何なのか。という疑問である。ここで忘れてはならない点は、その「見えざる原則」が外部にとっては確かに「見えざる」だが、内部においては当然自明の原則であり、それを少しも隠さずに、堂々とそれで動いているということである。商店の番頭は、「日本資本主義の精神」を経験により体得しているが、経済学、経営学などという学問は全然しらない。彼が体得しているのは、文字どおり「見えざる原則」なのである。
・ただ、その原則を、言葉にして客体化し、それをひっさげてアメリカ帰りの若い社長と討論する方法を彼はもっていないのである。したがって、討論すれば、「言い負かされる」にきまっていることを彼は知っている。
・だが、言い負かされても自分のほうが正しいことを彼は知っているから、「ではお手並み拝見」という態度にならざるを得ない。この態度の背後には、「言葉の論争では敗れても、現実の争いでは必ず自分が勝つ」という、実に強い自信がある。日本の会社が経済学、経営学とは無関係の「見えざる原則」で動いていることの、一つの証拠でもある。

■共同体の原則
・徳川時代の享保のころの年功序列の世界なのである。享保の頃も、商店には、丁稚、手代、番頭、大番頭、宿這入り、暖簾分けという序列があった。
・終身雇用や年功序列は、会社種族にだけ適用される共同体の原則だから、それ以外の者には適用されない。正規の新入社員は、血縁社会における新生児のように、会社種族になったとたんに、すべての基本的権利を認められる。
・会社には、下請けという小共同体を傘下にもっている。下請け会社を別の共同体として両者のあいだを取り引きという関係で結びながら、両者が同じような仕事をしている。
・日本社会は、正当、不当の二種類の解雇をはっきり区別している。したがって、実質的に解雇であっても、それは希望退職、すなわち本人が希望し、その自由意志で自ら共同体を去った、としなければならない。
・社員が不名誉なことをしでかしたとなれば、厳しい攻撃をうけるであろう。というのは、ここに二つの要素があるからである。一つはいうまでもなく、社の名誉すなわち共同体の名誉という意識があるはずであり、もう一つは、世間に対して相済まないという感情があるはずだという前提である。
・三年契約をしたからといって、三年で終わるという論理は日本では通用しない。それは、三年たったら、また、話し合いをしますということなのである。
・日本の契約書には、「双方誠意を以て云々」の文言がはいっている。契約書と同様に、日本の法律には、すべてこの要素が含まれている。
・外国人から、「中東は、問題はあるが理解できる。日本は、問題はないが理解できない」

■江戸の思想的巨人 鈴木正三と石田梅岩
・石門心学の祖、石田梅岩、当時の農村共同体内の相互規制が実に厳しいものであった。奉公先にどんな不備があったとしても、口外してはならない。また、梅岩は徹底的に理詰めで考えないと気が済まない人間であった。
・日本の思想家を扱う場合、最も困難を感ずるのは、その思想が体系化されていないことである。だが、不思議なことに、鈴木正三だけは、組織禅学と、それに対応している禅宗社会倫理とを抽出できるのである。この点からまさにユニークな思想家と言わなければならない。
・仏教の三毒を超えて善にはげめ。三毒とは、欲、怒り、そして無知である。正三の教えは、仏教の教えを士農工商の各層へ教えたことであった、特に、商には、欲をむさぼることはいけないが、正道として、商売の道を行っていった結果、利益がでることは善と説く。
・結果としての利潤については、決して否定していない。ここの倫理が、日本においても、ビジネスを開花されるのである。
・一方、日本のプラグマティズム:実用主義、は、心学の梅岩から始まる。人間は本心に素直でなければならない。倹約第一主義、浪費、贅沢は悪なり。つぎに、必要以外のものは身につけない。これはピューリタンの倫理にたいへんに似ているものである。
・すべての階級にとって、経済性と合理的の追求は、そのまま倫理になりえる。
・心学は、孫弟子の時代には、町人の知るところとなり、武士にも受け入れていった。

■資本の論理と、武士の論理 藩の資本主義
・江戸時代には、藩の経営自体がなりゆかなくなっていく。その中で、特筆すべき人物が現れる。それが上杉鷹山である。鷹山は倒産寸前の上杉家を率いて経営改善を行わなければならなかった。
・鷹山は決して、命令という形をとらずに、あくまでも、みなに相談をし、全員の総意という形にもっていっている。と同時にみずからが模範を示した。
・鷹山の手足となって動く近習は、辞任に追い込まれてる。彼の相談できる相手は侍医の藁科貞裕だけになってしまった。まったくどうにもならない状態に追い込まれたのであった。
・鷹山の方針は、まず多少なりとも藩政の黒字を回復し、それを基に、会社更生法にも似た藩更生法というべきものを発動して、旧債を一時的に棚上げし、新たに資本を導入し、武士をも生産的労働力として活用して、拡大再生産へもっていこうということであった。
・鷹山が行ったのは、経済政策だけでなく、社会福祉も教育施設も拡充した。それは、今日の大企業が、企業内教育施設と企業内福祉を充実させていくのに似ている。

・徳川時代とは、上は諸侯から下は庶民にまで、いや応なく経済を教え、「資本の論理」に従わない者は破滅することを、実地に教育した時代であった。と同時に、この「資本の論理」の上に、「資本の倫理」を樹立しなければ、その「資本の論理」自体が崩壊することを教えた時代であった。
・いわば、「資本の論理」を厳格に実施しつつも、本人は、無私・無欲であらねばならぬという、倫理である。これはおそらく、かつてのピューリタンが持っていた倫理とともに、人類史においてきわめてユニークなものである。

■日本資本主義の美点と欠点
・日本人は、「資本の論理」は否定せず、経済的合理性なきものは、評価しない。
・非倫理性への糾弾はもちろん当然であり、これを失えば日本の資本主義は崩壊する
・梅岩も私欲を禁じた。利益追求は、共同体のためにでなければならなかった。それは、共同体に属する人々の生活を保障するための行為であった。

目次

まえがき
第1章 日本の伝統と日本の資本主義
 1 日本のこれまでを支えたものは何だったのか
 2 血縁社会と地縁社会
 3 「契約」の社会と、「話し合い」の社会
第2章 昭和享保と江戸享保
 1 日本をつくった二人の思想家
 2 善とエコノミック・アニマル
 3 神学と心学
第3章 現代企業のなかの「藩」
 1 「資本の論理」と「武士の論理」
 2 日本資本主義の美点と欠点
 3 日本資本主義の伝統を失わないために

ISBN:9784569568164
出版社:PHP研究所
判型:文庫
ページ数:248ページ
定価:505円(本体)
発行年月日:1995年11月15日 第1版第1刷

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2023年07月29日

Posted by ブクログ

確か適菜収氏の本で紹介されていて著者のことを知り、今回はじめて読むことが出来た。著者紹介のページを読むと山本書店を立ち上げ店主として主に聖書関係の出版物を刊行する傍ら評論家としても活動を続ける。とあって驚いた。まさに本書で紹介されている石田梅岩とそっくりではないか。梅岩は商家で番頭をしながら私塾を開いて後進を育てていった。それに対して著者は出版を通じて明晰な評論を世間に広く知らしめている。そのどちらもいわゆる市井の人として生きながら知り得た知識や考え方を惜しげもなく社会に還元している。この庶民の意識の高さが仕事を精神的行為として捉える「モーレツ」社員を生み出すのだろう。もちろん長所は同時に短所でもあるという著者の冷静な指摘を見逃してはならないが。以下メモした箇所「自らが機能しようとすれば、まず、その共同体の一員となることが前提となる、それは他の共同体に属しつつ、機能集団では個人として機能するということは不可能である、ということでもある。」組織で活躍する為には絶対必要な観点。「だが、世の中でもっともむずかしいのは、実体を正しく見て、それに対応するあたりまえのことを実行に移すことなのである。」あたりまえのことをあたりまえに出来る=それがプロなんだと思う。や「事実を事実のまま見ることができれば、問題の大半は解決したに等しい。(中略)もちろん虚構を掲げる扇動家は、いずれの時代にもおり、それが一時的には人を動かすが、経済合理性の無視がどのような結果を生じたかは、ある意味で全日本人が学んでいた。」など。扇動家、煽動家は現代にもまさしく居て、その声の大きさや激しさに気圧されず煽られることなく冷静に言っている内容を吟味して判断することを心掛けたい。とても示唆に富む内容でよかった。また別の著書にも挑戦したい。

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2019年06月22日

Posted by ブクログ

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了雲は、その最後にあたって、梅岩に、自分が注を施した書をすべて与えよう、と言った。これは今でもたいへんに名誉なことであろうが、師からの伝授を何よりも重んじた徳川時代には、まさに絶対的で、いわば「了雲学派」の代表という位置を譲られることである。ところが、梅岩はきわめてそっけなく、いりませんと言った。了雲がなぜかと問うと梅岩は「われ事にあたらば新に述ぶるなり。」と答え、了雲もまた、この答えを喜んだと伝えられる。(…)最終的には、自ら考えて自らの思想を述べるのが、彼の目的であった。120
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カルヴァンにアメリカを見せて、この資本主義社会はあなたの精神が生み出したのですと言えば、この峻厳な思想家は驚いて口がきけまい。私は、これから、日本の資本主義をつくった人物として、鈴木正三をとりあげようとしている。それを知ったら、彼も、前記の人物たちと同じような反応を示すにちがいない。124
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いい社会をつくるためには、彼の基本的な世界観から見れば、まず、「心なる仏」が三毒に冒されないことが必要である。(…)「内なる仏どおりに生きる」ことなのである。そのためには、当然、修行すなわち仏行にはげまねばならぬ、ということになる。(…)「仏行にはげめ」などと言われても、農民にはそんな余暇は全くない、どうしたらよいでしょう、ということであろう。これに対する正三の答えは、実に明確で、「農業即仏行なり。」なのである。130
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商人蔑視はいずれの国にもあり、徳川時代の日本だけが特に強かったわけではない(…)われわれは、自由という言葉をさまざまに使うが、少なくともその基本的な「不自由でない」という状態は、流通によって支えられていることに、案外気づかない。(…)これを担当するものはまさに「国中の自由をなさしむ」べく、天道から命じられた役人なのである。したがって、正三には、「売買の作業」とそれに従事する商人への蔑視は皆無である。こういう人が十六世紀の日本の武士にいたというのは不思議であり、この点だけを取り上げても、まさに独創的な思想家であろう。135
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商が巡礼のごとく一心不乱に働けば、利潤を生ずる。これは農でも工でも同じであり(…)では、利潤を追求してよいのであろうか。もちろん否であり、それをすれば三毒の一つである「貪欲」に冒される。では、それを追求したのではないのに、結果において利潤が生じた場合はどうなのであろうか。正三は、この「結果としての利潤」は、否定していない。すなわち、「正直の旨を守て商せんには(…)天の福、相応して、万事、心に可叶。」なのである。ただ、この「福徳を得て悦べきにあらず」である。これは「有漏の善」であるから、それで満足していては堕落し「必悪に入なり」だから、この状態のままであってはならず、さらに「無漏善」となすべく願い、巡礼のごとくにあらねばならない、と説いている。140
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「世俗の行為は、それを修行とすることによって、宗教的行為になりうる。」といった考え方は、日本人に実に大きい影響を及ぼした。(…)たとえば、われわれの社会では「ブラブラしている」は非難の言葉である。働かないということは、仏行を行っていないことだから、非難されて当然である。(…)もちろん、経済的に充足すれば、われわれは仏行を他に求めるであろう。しかし、それを求めること自体は、将来も変わらないし、求めても見いだしえないことが、われわれにとって最大の苦痛であることも変わらないのである。(…)そして、これが前述のように、徳川時代という自前の体制を自らの手で築きあげたときの、日本人の独創的な思想であった。145
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2012年05月25日

Posted by ブクログ

西洋とは異なる日本の資本主義のなりたちを、鈴木正三や石田梅岩、上杉鷹山らの思想にまでさかのぼることで明らかにしようとする試みです。

著者は、小室直樹の発言などを引用しながら、神への絶対的な帰依の精神が存在しない日本社会において西洋的な契約の観念がいまだ十分に理解されていないと指摘します。さらに、疑似的な血縁関係にもとづく社会構造が日本社会のさまざまな局面で見られることを指摘し、石門心学を中心に、そうした精神的風土に根差した思想が江戸時代に生まれていたことを明らかにしています。

主として文化的要因によって日本的経営の特色を説明することには大きな問題が含まれていますが、そのことはさておき、『勤勉の哲学』や『日本人とは何か』(ともにPHP文庫)とともに、著者の日本文化論の中心的な主張を知ることができる本だと思います。

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2019年05月02日

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