中井英夫のレビュー一覧
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こんな美文で彼岸に達してしまった人達を書かれたら参らないわけにはいかない。本人にその意思が無くても、最後の最後まできちんとまとまっている磐石の幻想短編集。根への偏愛を書く「火星植物園」(若干乱歩風味)、今では定番となってしまったバスの乗客それぞれの心情「大望ある乗客」、忌まわしき三つの贈物「黒闇天女」(個人的ベスト。毒々しいのに最後は格好良いと思ってしまった)、妖しき降霊会「地下街」(短編集中珍しく読後感が切ない)、書簡で過去の事件の真実をあぶる「蘇るオルフェウス」、毒に魅せられた子供「公園にて」と雰囲気は同じなのによくこれだけ味わいの異なる様々な作品を書けるなと驚嘆した。
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忘れもしない中学生だったある日。
教室にあった学級文庫(みんなで持ち寄った本を置いてある)の中、担任だった国語教師が置いていた本をたまたま手に取った。
それが今は絶版になっている角川文庫の「銃器店へ」という本だった。著者名は中井英夫。勿論、その人の名は全く知らず、どんな内容なのかも知らず、ただその表紙の漆黒に誘われて、私は貪るように読んだ。それが私と中井英夫の出会いだった。
中学生が読むには多分難解なのだと思う。けれど、その硬質な文章に潜む、濃密な色彩、情念、謎……が私を虜にした。
その後この人の作品を探し求め、代表作である推理小説「虚無への供物」をはじめ、手に入る本は片っぱしから読んでいった -
Posted by ブクログ
ネタバレ三大奇書の一角にしてアンチミステリーの代表作、という前情報は得ていたので途中から段々「あれ?もしかしてこれ全部ただの事故や自殺なのに探偵役らが勝手に殺人事件に思い込んでキャッキャしてるだけなのでは…?」とヒヤリとしましたがちゃんと犯人はいました。よかった(?)
アンチミステリーの所以たる一連の『他人の不幸をよってたかってエンタメにしてんじゃねーよバーカ!』の流れにはギクリとした方も多いことでしょう。ハイわたしです。
巻末には約20年後の短編が収まっておりなんだかんだで皆元気そうで何より。
…ところで玄次の事件ってただの自殺ってことになってますがあの不可解な状況や齟齬は結局なんだったんですかね -
Posted by ブクログ
「虚無への供物」を初めて読んだのは、確か中学生の頃で、母方の伯母が読みさしを譲ってくれた、蜜柑箱一杯の文庫本の中に、講談社文庫版が混じっていたのだ。とはいえ、一読、そのすごさ、おもしろさに驚倒して夜を徹し、と言うなら自慢もできるが、ミステリは横溝正史氏あたりを読み始めばかりの中学生のこと、途中までは面白かったが、最後は支離滅裂、なにが四大奇書だよ、てな感想しか抱けなかったのではどうにもならない。それ以来の再読だが、中学生の俺、レベル低かったなと正直に思う。そのくせ、お話のディテール、例えば、最初の推理合戦で久夫が的外れは推理を延々披露したあげく、藍ちゃんに一蹴される辺り、ほぼ完璧に覚えていたか
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Posted by ブクログ
幻想文学の金字塔的存在『とらんぷ譚』も、ダイヤにあたるこの『真珠母の匣』にて、名残惜しくもついに完結である! 著者中井英夫のキャリアで最も有名なのは長編アンチ・ミステリ『虚無への供物』であるけれども、『幻想博物館』に始まる『とらんぷ譚』という短編傑作も忘れてはならないだろう。事実、ジョーカーも含めた54の短編を読んでみて私が感じるのは、短編こそ中井英夫の文学の真骨頂であり、その世界観が凝縮された傑作ばかりであった(中井英夫本人も短編という形式が好きだと語っているし)。
さて、ダイヤの本書は、クラブにあたる『悪夢の骨牌』の構成同様、戦前と戦後の対比、その風景、「戦争とはついに何だったのか」を強