あらすじ
泉鏡花文学賞に輝く鮮やかな言語魔術。精緻な構想による幻想の宇宙体――ゴシック風の豪奢な洋館のサロンで開かれる賀宴の出席者は、10人の客とサロンの女主人、そして令嬢・柚香。そこで語られるのは、現実と非現実をあざなう奇譚の数々。ことばの錬金術師として当代随一の著者が、鮮やかな言語魔術と精緻な構想を駆使、幻想の宇宙体を作る、連作とらんぷ譚2。泉鏡花文学賞受賞作。
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短編集だが続き物。
藍澤家の美しい母娘のもとに、失踪した青年から手紙が届く……というミステリタッチだが、
思いも寄らない方向へ動いていく。
中井英夫が「時間」に執拗にこだわるのは、やはり戦争体験と絡めて語られるべきものなのだろうか。
そうではなくてもっと美学的な見地からまとめられたらいいのに、と思うが……。
ともあれ傑作。
とらんぷ譚は創元文庫で読んだのを講談社文庫で再読しているのだが、一番記憶に残っていたのが、この悪夢の骨牌だった。
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4部作の二作目にして鏡花賞受賞作。幻想文学というととっつきにくいイメージですが、平易でかつ美しい文章と建石修志の謎めいたイラストが幻想世界へといざないます。
謎の美しい母子の洋館に集められた青年達。
失踪した青年の謎から話は思わぬ方向に転がっていきます。
耽美とも言えるしSFとも言えるかもしれません。
解決できない謎を楽しむ一冊。
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失踪した友人を探す内容かと思ったら、異次元のような不思議な時間旅行のお話し。短編によって主人公が変わるので最初読みにくかったりもしますが、内容は面白かった。
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幻想博物館と比べたら、個人的にちょっと読みにくかった気が。話が難しかった、が当たっているかな。登場人物が沢山出てきてしまったら頭の中で整理できなくなるの、どうにかしたいです……ドッペルゲンガー、時間旅行等、モチーフはやっぱり素敵。
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『とらんぷ譚』シリーズ第2巻の連作長編。
泉鏡花賞受賞作。
『虚無への供物』や『幻想博物館』のような稠密な完成度ではなく、むしろ中井英夫らしい、幻想の「柔らかい連なり」による長編。
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再読。
とらんぷ譚の第2集にあたるこの本では、「幻想博物館」の反世界的な耽美的作風を引き継ぐように始まります。全体を通したテーマは「時間」。しかし、徐々に当初の予定から変節し、中井英夫本人の戦後に対する複雑な心境が徐々に前面に出てくるようになっています。
言って見れば幻想小説からはじまった連作短編集がいつの間にか私小説に近づいているかのような印象で、ある意味では短編集としては破綻しています。
しかし、この本の面白さはまさに著者の思考に引きずられて物語が方向性を失っていくその危うさであって、破綻しているがゆえに価値がある小説とも言えると思います。
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昭和48年。「夢魔の館」にいるという失踪した青年からの便りを緒に、令嬢柚香(ゆのか)の犯罪記録と瑠璃夫人の時間旅行体験が明らかになる。2人によって24年前の戦後へ送りこまれ精神病院に閉じ込められた木原直人は、地上の半身を呼びよせ戦後から脱出する。
残酷な仕方でしか男を愛せない柚香の存在感が際立ち、主人公木原を含め、男たちは影のように現実と非現実をさまよう。彼女がどのように罰せられるかに期待したが、肩すかしをくらった。
木原の時間旅行後、現実と非現実は反転を繰り返し、いくつものパラレルワールドに分身が存在するような、更にはここにいる自分が借物でしかないような存在の不安に読者も巻き込まれる。夢野久作『ドグラ・マグラ』の堂々巡りの感覚を思い出す。
ただ、とらんぷ譚の真骨頂は現実にひそかに息づく非現実の奇怪さだと思うのだが、そのトリックに時間旅行という実現不可能な手段をつかうのは禁じ手という気もする。
とらんぷ譚1~3のなかでは、3『人外境通信』が好み。本作の薔薇と精神病院というモティーフは『人外境通信』へとつながってゆく。
<好き>
・「大星蝕の夜」…繊細な少年詩人
・「ヨカナーンの夜」…生首幻想の残虐な美しさ
<著者の好きな作家>
江戸川乱歩、小栗虫太郎、夢野久作、メリメ、ドストエフスキー、バルザック、ポー、リラダン、谷崎潤一郎、川端康成、◎梶井基次郎、◎小川未明、村上知義、小林多喜二
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幻想的、という一言だけでは済まされないほど
いろいろな多層世界を行き来する物語。
短編の物語をめぐって物語りは終了するのですが
特に「大星蝕の夜」 と「薔薇の獄」が好きですね。
ネタバレになりますが
終盤から、戦後の生々しい光景が出てきて
そこが幻想譚から、一気にリアルへ終息する感じがしました。
作者さん本人の戦争に対するトラウマが書かせるに
至ったのだろうな、と思いましたがソレを入れたのは
本当に正解だったのか 難しいところです。
幻想的かはともかく、中井さんの書く本は
個人的にはこの作品が一番好きですが。
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中井英夫文学忌、黒鳥忌
タイトルに「黒鳥の〜」があったと思うけど
ご本人さんがご自宅を「黒鳥館」と呼んでいたかららしい
1974年第二回泉鏡花賞
骨牌譚Ⅱスペードを
「虚無への供物」を読むには まだ早いかなと
雑誌「太陽」連載作品
目次にある月は 発行月ですね
トランプのように13話
向田邦子さんの「思い出トランプ」が、似たような構成でおしゃれだなと思っていたけど
もしかしたらこちらの方が数年古そう
ゴシック調の洋館で開かれるサロン
令嬢の妖しい誘い
十人の客
二人の失踪
反現実から ふと現実へ戻るのかと思っても
再び異空間へ
わかりません
耽美が好きとか言ってごめんなさい
わかるのではなく感じれば良いのかという事で
最後の作者インタビューも もう少し中井作品を読まないとわからないし
ただ、この方もっとクールな計算高い人かと思っていたけど それは少し間違っていたかも
影山修司を発掘し
三島由紀夫の原稿を取りに行き
太宰治とも交流を持ち
芥川龍之介とはご近所だった
という その時代の文学と関わった方
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思ってもいない方向に話が進む、良い意味でつかみどころのない一冊だった。気づけば知らない道を歩いている気がして、何度も後ろを振り返るような読み方をした。
一番お気に入りなのは『薔薇の獄 もしくは鳥の匂いのする少年』だった。薔薇園で夢見心地の時間が過ぎ、この不思議で不気味な少年の正体が分かったとき、不可解な現象も認めざるを得なくなる。悲しく甘美な短編だった。
幻想と耽美の世界だと思って読んでいたら、いつの間にか時間旅行に惑わされている。昭和の戦後の風景が今そこで見てきたように生々しく、生き生きとした生命力も感じられて、突然そこに放り込まれた時間旅行者と同じ体験ができているのではないかと思った。
これを仕掛けた母娘は、真の意味では誰にも崇拝されていなくてひどく虚しい後味が残る。
Posted by ブクログ
前作のとらんぷ譚からはまた変わった趣。各編もあまり独立したものではない。一ヶ月ごとサロンに届けられる手紙の話から魔性の少女の話を経て緩やかに時間旅行へと飛ばされる。前半では一青年の疎外感が色濃く表れた「暖い墓」、『お姉様』の誘惑を綴る「大星蝕の夜」が白眉。後半の作中人物を通して著者自身がぼんやり戦後を振り返るような展開は評価が分かれそう。それにしても(特殊な意味での)発展、という言葉をこの人の本で読むとは思いも寄らなかった。