あらすじ
泉鏡花文学賞に輝く鮮やかな言語魔術。精緻な構想による幻想の宇宙体――ゴシック風の豪奢な洋館のサロンで開かれる賀宴の出席者は、10人の客とサロンの女主人、そして令嬢・柚香。そこで語られるのは、現実と非現実をあざなう奇譚の数々。ことばの錬金術師として当代随一の著者が、鮮やかな言語魔術と精緻な構想を駆使、幻想の宇宙体を作る、連作とらんぷ譚2。泉鏡花文学賞受賞作。
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Posted by ブクログ
昭和48年。「夢魔の館」にいるという失踪した青年からの便りを緒に、令嬢柚香(ゆのか)の犯罪記録と瑠璃夫人の時間旅行体験が明らかになる。2人によって24年前の戦後へ送りこまれ精神病院に閉じ込められた木原直人は、地上の半身を呼びよせ戦後から脱出する。
残酷な仕方でしか男を愛せない柚香の存在感が際立ち、主人公木原を含め、男たちは影のように現実と非現実をさまよう。彼女がどのように罰せられるかに期待したが、肩すかしをくらった。
木原の時間旅行後、現実と非現実は反転を繰り返し、いくつものパラレルワールドに分身が存在するような、更にはここにいる自分が借物でしかないような存在の不安に読者も巻き込まれる。夢野久作『ドグラ・マグラ』の堂々巡りの感覚を思い出す。
ただ、とらんぷ譚の真骨頂は現実にひそかに息づく非現実の奇怪さだと思うのだが、そのトリックに時間旅行という実現不可能な手段をつかうのは禁じ手という気もする。
とらんぷ譚1~3のなかでは、3『人外境通信』が好み。本作の薔薇と精神病院というモティーフは『人外境通信』へとつながってゆく。
<好き>
・「大星蝕の夜」…繊細な少年詩人
・「ヨカナーンの夜」…生首幻想の残虐な美しさ
<著者の好きな作家>
江戸川乱歩、小栗虫太郎、夢野久作、メリメ、ドストエフスキー、バルザック、ポー、リラダン、谷崎潤一郎、川端康成、◎梶井基次郎、◎小川未明、村上知義、小林多喜二
Posted by ブクログ
思ってもいない方向に話が進む、良い意味でつかみどころのない一冊だった。気づけば知らない道を歩いている気がして、何度も後ろを振り返るような読み方をした。
一番お気に入りなのは『薔薇の獄 もしくは鳥の匂いのする少年』だった。薔薇園で夢見心地の時間が過ぎ、この不思議で不気味な少年の正体が分かったとき、不可解な現象も認めざるを得なくなる。悲しく甘美な短編だった。
幻想と耽美の世界だと思って読んでいたら、いつの間にか時間旅行に惑わされている。昭和の戦後の風景が今そこで見てきたように生々しく、生き生きとした生命力も感じられて、突然そこに放り込まれた時間旅行者と同じ体験ができているのではないかと思った。
これを仕掛けた母娘は、真の意味では誰にも崇拝されていなくてひどく虚しい後味が残る。