野沢佳織のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
11歳の白人少年マシューが寄宿学校から自宅の農場へ戻ってくると、家のまわりの柵が以前の2倍の高さになっていた。このところ、白人に〈マウマウ〉と呼ばれる、白人移住者から土地を奪還しようとするキクユ族の武装集団が活動を激化させ、白人の経営する農場に侵入して破壊行為をしたり、農場で働くキクユ族に宣誓を強いて〈マウマウ〉に加入させたりしていたせいだ。兄弟同様に育った黒人ムゴは、台所で下働きをしている。ムゴは、マシューに頼みこまれて嘘をつき、結果自分が叱られるという目に合うこともあった。そんなふたりが住む地域にも、マウマウが訪れ、密かに黒人たちを支配下におさめ始める。同じころ、寄宿学校に転入してきた父親が警察官のランスは、キクユ族は全員がマウマウで信用ならないとマシューに吹き込む。
第二次大戦後、植民地支配を受けていたアフリカでも独立の気運が上がる。そのうちの一つであるケニアの独立のきっかけとなった、苦い事件がマウマウ団の乱だ。独立を目指す人々の中でも、いわゆる急進派にあたり、各地の白人農場、警察署、政府軍用地、親植民地派のケニア人を襲撃した。ケニア人を分断したことは、彼ら自身の咎ではない。しかし、白人にとっては、表向き敵味方の区別がつかない。ならば見た目=部族で一緒くたに部族で排除してしまえ、という乱暴な理論がまかり通り、従順だったムゴたち家族や、マシューの家の料理人たちも排除の対象になる。ゲリラからの隔離政策で環境劣悪な収容所に送られて死亡したキクユ族は2万人程度に上る。
支配者側の息子として、今まで自分の我儘に対して無自覚だったマシューと、主人の息子との距離の取り方に常に気を配るムゴの視点、交互で物語は描かれる。ムゴの事を友人のように思っていたマシューだが、父親の意見を信じるランスの同調圧力に逆らえず、結果的に彼を裏切り、家族を窮地に陥れる。ランスもまた、ケニア人を信頼しない父親の影響をおおいに受けている素直な子供に過ぎない。結果、大人の思惑によって子供たちの友情が引き裂かれる。善意は悪意に勝てない、という皮肉なオープンエンドで、ムゴがこの先どんな未来を選びとるのかは曖昧にされている。幼き読者に考えてほしい、ということだろうか。
南アフリカで育ったカーネギー賞受賞作家の作品。 -
Posted by ブクログ
故郷を守る代償に、故郷を失ったワシリーサ(ワーシャ)。冬の王から与えられた馬(ソロヴェイ=小夜鳴鳥)と共に旅に出る。男装したワーシャはふとした偶然から次兄アレクサンドル(サーシャ)と再会する。サーシャは母方のいとこドミトリーと行動を共にしていた…。
第2巻のモチーフは"火の鳥"です。そしてワーシャたちの亡き母が"イワン1世の娘だった"という筋立が物語に奥行きを与えて行きます。モスクワへ嫁に行った姉オリガとその娘マーシャも重要な役割を果たします。
ワーシャがぶつかる難題の数々は余りにも過酷で目を背けたくなる所が多々あるのですが、張り巡らされた伏線が少しずつ少しずつ解けていくのが見事です。はたしてワーシャの運命が好転するチャンスは残されているのか?最終巻へと続きます。 -
Posted by ブクログ
私好み!大当たり。全3巻でおよそ1600ページの歴史ファンタジー。しかも舞台は1370年頃のロシア(モスクワ大公国)イワン2世〜ドミトリー•ドンスコイの時代。日本では『全く』と言い切ってよいレベルで知られていない。従って人にはお薦めできない(笑)でも面白い!
著者はアメリカの女性作家。大学でロシア語を勉強し、ロシア留学もしている。そのため本書はロシアの歴史や風土はもちろん、昔話や伝承なども下敷きになっている。第1巻は"麗しのワシリーサ"や"森は生きている"などが隠し味のように織り込まれていて、その辺も私好み。好き!
主人公ワシリーサ(ワーシャ)は、亡き母から受け継いだ"人には見えない精霊を見る能力"をもつ少女だ。しかし父が再婚した継母は敬虔なキリスト教徒。新たにやって来た司祭も精霊の存在を認めないためワーシャは窮地に追い込まれて行くが…。
第1巻はワーシャの成長と旅立ちまでの物語。丁寧に読むと、様々な伏線が張り巡らされているのが分かります。面白い! -
Posted by ブクログ
恐ろしい。身の毛もよだつとはこのことか。
国家規模で行われた洗脳と支配。
孤立させ、暴力と恐怖でお互いを監視させて、疑心暗鬼にさせる。日本でも何件か事件(北九州や尼崎など)があったが、あれを国家規模で。
これは、主義や思想などでは決してなく、ただの犯罪だと思う。
戦時中の日本もこのような感じだったのだろうか?
そして、今現在の隣の国も。
これはノンフィクションではないが、それゆえか、主人公の心情がこちらに迫ってきて、苦しくなった。
最後が、きれいに終わってないところも作者の意図らしいが、この革命はまだ終わっていないと感じた。
平易な文で書かれているので、中学生にもすすめたい。(小学生には刺激が強いかもしれない。) -
Posted by ブクログ
ネタバレ熊と引き換えに父親が死んでワーシャは魔女として皆から追われ旅に出る。少年の格好をして愛馬ソロヴェイと共に困難を乗り越え成長していく。姉や兄との再会、盗賊からさらわれた娘たちの救出、魔術師との闘い、その影に寄り添うように冬の王が危機のたびに現れ助けてくれる。二人の間に何かが生まれ育っていくのが感じられる。だからこの巻の最後はショックでした。
冬の王などの伝説神話の世界がキリスト教の閉じられた世界に侵食されていく様子、ロシア黎明期のモスクワのハン一族との攻防など歴史物のような奥行きがあって面白い。また虐げられていた女性たちの在り方なども考えさせられる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレイギリス植民地時代のケニアが舞台。
現地のキクユ人の使用人を何人も雇っている
家に住む白人の息子マシューと、
その家の使用人のムゴ
それぞれの視点から語られる小説。
現地の人が収容所に入れられたり
拷問されたり、
特に罪がないのに拘束されたり死刑に
されたりしたケニアの歴史を初めて知った。
物語ではマシューとムゴは
一緒に遊んだりする仲で、マシューの親も
使用人に対して対等に接していた。
しかし世の中の、現地人に対する疑心暗鬼や
差別意識がじわじわと迫り、、、。
2人の視点が並行に進むことで、
考えていることや周りの状況、思考が
比較でき、差別意識はこうやってできていく
のかと怖くなった。
疑心暗鬼だらけなのも差別や内戦、
戦争に繋がると感じた。
あとがきにあった、
『ゆるす心をもとう.....過去の憎しみは忘れて.....復讐ではなく協調することで、ともに国を築こう』
という言葉を残したケニア初の大統領は
植民地時代、7年も監獄されていたらしい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ真夜中の国へマロースカを探しに行ったワーシャが、勝手に熊を解き放ったんだから責任をとってもらうという態度で、こいつこの恩知らずがと思いながら読んだが、記憶を失ったマロースカとのやりとりと、暑さで弱体化しながらもワーシャのそばを離れないマロースカがいじらしくて良かった。
作者は史実に基づいたタタール人との戦いをやりたかったようだが、それをやるために、メドベードとマロースカの確執が軽く流されていて残念。ワーシャに人生狂わされたコンスタンチンも、悪意なく混沌を招くメドベードも宿敵という感じがなく、かと言ってタタール人との戦いにワーシャが首を突っ込む必要性も感じられず、勝利できて良かったねと思えなかった。
強引なところもあったが、すべて丸く収った結末は良い。ワーシャの勇気の物語だったが、その勇気が身勝手に思えることが多く、けなげにワーシャに尽くし、オリガやサーシャにチクチク言われるマロースカさんに同情した。ソロヴェイの代わりに相棒になったパジャールが気難しくて可愛い。父と乳母のことは思い出さないのに、ソロヴェイのことはやたら引きずるなと思ったら、ラストにサプライズがあって良かった。
「あらすじ覚え書き」※ネタバレあり
コンスタンチンによって火炙りにされかけたワーシャは、祖母の妹でありオリガの侍女であるワルワーラにより真夜中の国へ逃がされる。マロースカはメドベードを解放し、ワーシャを助けることと引き換えに過去の時代に囚われ、真夜中の国でマロースカを見つけたワーシャは、彼を愛していることにようやく気づく。タタール人の軍勢がルーシにせまり、ワーシャはルーシすべての民が団結しなければならないと進言し、モスクワ大公と教会にチョルト達への信仰を咎めないと約束させる。メドベードをしもべにし、生と死、夏と冬をしたがえたワーシャはチョルト達とともに戦い、タタール人の軍勢に勝利する。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ中世時代のロシア、ルーシを舞台にしたファンタジー。2巻はモスクワが舞台となり、マースレニツァ祭や、モスクワ大公がらみの陰謀、男装した主人公が活躍する王道展開があり1巻よりも楽しめた。なじみのない極寒の世界やロシア文化が面白く、ルーシの人々が何かというと風呂小屋(サウナ)に入りたがるのが意外だった。
魅力的なキャラは多いものの、ワーシャの目的がはっきりせず、何をする物語なのかよくわからない。「海に沈む太陽を見る」ために村を出たはずなのに、たまたまサーシャと出会ったからモスクワに行き、悪いタタール人がいたから戦い、ドミトリーの人柄に惚れると家来になれたらと思う。魔女の血のルーツを探すとか、チョルト達のために何かするとか旅の目的があった方が良かったと思う。
あと、長い髪を切らなかったり、ソロヴェイを賭けの賞品にしたり、マロースカに世話になりっぱなしのくせに魔除けの石を持つことを拒否したり、身勝手すぎてモヤモヤした。ワーシャを解放するためにマロースカが石を取り上げ、ワーシャがマロースカを求めに行く流れの方がまだ納得できたと思う。ワーシャを好きになったばかりに、どんどん落ちぶれて行くコンスタンチン神父はとても良い。何の伏線もなく魔術師が出てきてびっくりしたが、不死身のコシチェイという元ネタがあるよう。
「あらすじ覚え書き」※ネタバレあり
謎の盗賊が村を焼き、子供達を連れ去る被害がルーシ各地で起きていた。故郷を出て旅をしていたワーシャは、盗賊退治に来ていた兄サーシャと再会し、モスクワ大公ドミトリー、骨の塔の領主カシヤンと出会う。カシヤンの正体は不死身の魔術師であり、ワーシャが青い宝石を身に着けているのを見ると死神の奴隷だとののしった。消えかけていたマロースカは、ワーシャの魔女の血によって生きのびていたが、利用されていたことに怒ったワーシャは宝石を手放してしまう。モスクワ大公の座を狙うカシヤンは、タタール人の盗賊達とともに宮殿を襲う。姉オリガの屋敷にいた幽霊がカシヤンの妻タマーラであり、カシヤンの命を持っていると気づいたワーシャはカシヤンの命を壊す。タマーラは、ワーシャの実の祖母でもあった。霜の魔物は生き続けることはできない。力を失ったマロースカはワーシャの前から姿を消す。