サバイバルゲーム試験が終わってすぐに始まる特別試験。今回の特徴は必ず退学者が生じる点と各グループがバラバラに行動させられた点か
必ず誰かを退学させられるなら、そこには策略が求められる。けれどバラバラに行動する中では密に連絡を取るのも全体を把握するのも難しい。また、それぞれが持つトークン数を厳密に管理できるわけでは無いからどうしても学年全体の動きを想定した上での策略は現実的とならない
だから龍園はやけっぱちのような策略に出るしかなく、堀北や一之瀬は策略を差し込まず自分達のグループを上位にする当たり障りの無い作戦に出るしかなかった
対して綾小路は本当に凄いね。全体の把握が不可能なら全体を自分のペースに巻き込んだ上で自分達のグループから退学者を出す。それは誰かを出し抜く為とか誰かを退学させたかったからとかではなく、損得を冷徹なまでに計算した上での行動。だからこそラストに描かれた損得を超えた又は損得に反する行動が際立ってしまう、そういう内容だったんだろうね
今回の特別試験、タイミングが予想外に満ちたものなら、グループ分けも予想外に満ちたものに
本作ってクラス対抗要素が強いから、同盟等を組まない限りは他クラスと協力する利点は薄い。でも、今回のトークン収集特別試験は他クラスメンバーとある程度の協力が必要になるし、同グループのメンバーを過度に邪魔すれば自分へのマイナスとして返ってきてしまう。だから他クラスに対して攻撃しようと思えばある程度は自分へのダメージを覚悟しなければならなかった
龍園が平田の目があり綾小路に注目されない場所での策略を当初は諦めていたのも結局はそうした背景によるもの
他クラスへの攻撃を狙わないなら、順当にグループを盛り上げて協力体制を築く方が健全
それだけに以前よりも人間的な成長を見せて綾小路への不満を当面は引っ込めた池と篠原に対して空気が冷えるレベルの塩対応を行った綾小路には驚かされたなぁ。彼だからそうした態度にも理由があると解釈できるけど、綾小路の本質を知らなかったら彼への嫌悪感が湧いてしまいそうだ
池と篠原は綾小路の本質を完全に把握・理解しきれていないからこそ、彼が作り出す不和空間へと巻き込まれてしまうわけだ
綾小路の人心掌握術は恐ろしいね
そんな彼が狙うのは所属グループから退学者を選出する事か
これ、難しいのは先述したように、自分のグループから最もトークン数の低い者を出そうにも学年全体の状況は把握出来ないし、グループメンバーのトークン数を無理に下げるなんて出来ないだけに、どうやって狙いを成就させるのかと疑問、というか策略が全く読めなかったのだけど、明かされてみれば単純でありながら彼らしい謀略を感じさせるものだったな
冷徹な損得計算、そして計算を実現する為の容赦ないロジック、自分の決断に対して他者がどう動くかを完全に想定した上での事前対応。全てが高レベルで行われているから、堀北が綾小路の狙いの一部を看破できたとしても邪魔できなかった
全ては綾小路の掌中にて行われたわけだ
だからこそ、綾小路が最後の最後に行った理屈に合わない行為が際立つ、というか異様に映る
綾小路が自己分析しているように恋心が不条理な行動を起こさせたように見える。けど、綾小路は軽井沢との交際を経ても手に入れられなかった本気の恋愛感情をずっと求めている、いわば恋に恋している状態と言えなくもない。だからひより相手に覚えた感情を実感する為に敢えて不条理な行動を採った…と見えなくも無い
勿論、彼が条理を超えてひよりに恋している可能性は充分にあるけど、結局は綾小路という人間らしからぬ人間を信用できない為にこのひより相手の恋愛劇も素直に「綾小路は変わりつつあるのだ」と信じられないんだよね……
果たして綾小路とひよりの関係はどうなる事やら…
綾小路が恋愛における一つのハードルを越えた他方で彼は何人かの少女達を翻弄しているね
須藤が堀北クラスに裏切者が居るなんて言うから誰かと思えば、まさかの長谷部か…。彼女は愛里の件で一時は綾小路と強く対立した。けれど、文化祭での和解や綾小路移籍後の会話により以前よりも近しい雰囲気を放つようになっていた
そんな彼女がまさかなぁ…。篭絡した事で得られた堀北クラスにおける一種の虫。これは長谷部の今後に大きく響きそうな気がしますよ……
櫛田も大きな転機を迎えた形だね
彼女は長谷部より激しい形で綾小路を嫌悪、敵対していた筈の人物だった。それが冬の修学旅行前から少しずつ変わり始め、最近は綾小路への感情を認めないままに彼への対応に揺らぎが見えるようになっていた
だから彼女に変化が訪れるとすれば綾小路関連だと勝手に思っていたのだけど、まさか篠原からの度重なる嫌がらせが彼女を覚醒させるとは
彼女はどんな事をしてもAクラスで卒業するつもり。その意地のような感情が外面の維持よりも勝ったわけだ
次第に櫛田の変貌は学年中に知れ渡っていくのだろうけど、これまでに築いた加点がある以上はそれによって櫛田の評価が暴落する事は無いと考えれば、今後の櫛田は様々な面で堀北クラスにおいて武器となり得る人物となりそうだ
そして、何よりも言及したくなるのは一之瀬だね
彼女は2年末に綾小路を呑み込む程の凄みを見せて綾小路の共犯者となった。それは軽井沢がどれだけ願っても完全には手に入らなかった特別な椅子
特別な立場を手にした一之瀬は完全に変貌して見せた。それが彼女の新たな魅力となり、また本気を発揮し始めた綾小路の隣に相応しい人物と見せた
でも、考え方を変えると綾小路自身はその椅子へ積極的に一之瀬を座らせるつもりはなかったともいえる。勿論、一之瀬クラスとの同盟を考えた際の枢要として欲した部分はあるけれど、一之瀬でなければ駄目だったという程では無かった
だとしたら、綾小路が自らの勝利もポイントも捨て、形振り構わず迎えに行ったひよりという存在は一之瀬が欲しつつも手にする見込みが全くなかった立場をあっさり手にした人物と言えるのかもしれない。だからってああも闇堕ちするとは…という驚きはあるが
今になって前巻の表紙を見ると、とんでもない組み合わせだと思わせられるね
綾小路は一つの恋心に辿り着いた。けれど、その行為は一之瀬を闇堕ちさせ、龍園に綾小路の弱点を握らせる判断となった。また、今回の独断行動は綾小路クラスの面々にとって望ましくないものであるのは間違いなく
今回の特別試験、表面上は綾小路が全てを支配した形だけど、一方で彼の転落が始まりかねない分水嶺となり得てしまう気がするよ……