平松洋子のレビュー一覧
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平松洋子『酔いどれ卵とワイン』文春文庫。
週刊文春連載の食と日常をテーマにした平松洋子のエッセイ。64編を収録。イラストレーターとのコラボが無くなり、少し寂しさを感じる。
京都大学准教授の藤原辰史との対話「戦争から『食』を考える」も収録。
小気味良い軽快なテンポの文章なので、リズム良くサクサクと読める。なるほどと共感したり、そんな方法があったのかと驚いたりと楽しく読めた。
パンにバターを塗る時のストレスフリーの方法は目から鱗。おにぎりの海苔は自分もしっとり派。紅白なますに干柿の身をほぐして食べるのは知っていたが、柿の白和えは知らなかった。サザエカレーはさぞや美味いことだろう。ピーマンを砂糖のツナ和えとは驚いた。かちゅーゆ、カキオコ、あくまき、と聞いたことも見たこともない料理も紹介される。
本体価格680円
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子育て中は目の前のことで必死で、このイバラを抜けたら自分の前に立ちはだかっているのは、自分自身だった。
っていう。著者の言葉。
こわっ。自分の前に立ちはだかる自分自身。
ただ、薄々感じてはいる。20代の頃のようにはいかない体と、写真に写れば写るほど老いる自分。笑
わかってはいるけどここまでか!!!!って思うのは毎年更新記録達成。笑笑
そんなふうに思いつつ読むと、あーなんかわかる時がきそうだし、すでにわかる気もするものも。
そして、この方の描き方がなんだかスッキリとしいて、困ったことや、立ち止まったこと、ちょっぴりだけ寂しくなったり、悲しかったことが、ラムネの瓶越しに見てるような、薄いブルーのスッキリとした景色で。
読んでて、くぁーってなる。飲んだ後のくぁー、ってきもちになる。笑
すごく上手く日常の些細なこと、こんなスッキリ語れるなんて、悪魔に魂売り渡した人だな。と。おもってしまいます。 -
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最近、平松さんのエッセイにはまっている。
週刊誌の連載だとのことで、一つ一つは短い。
そのため、取り上げる食材、料理、食文化の幅が広く、読み進めてもちっとも退屈しない。
京都の炒り番茶。
ほうじ茶とは違う。
独特の「煙臭い」お茶だとのこと。
山形の冷たい肉そば。
鶏肉が入った日本そばで、見た目は非常に地味。
でも美味。
名古屋めし、帯広の豚丼、中津川の栗おこげ、根室のさんま…各地のおいしいもの、気になる食材の話は、とにかく読んで楽しい。
まねして作ってみたいレシピもある。
肉団子。
合鴨と鶏肉の合挽は手に入らないけれど、トライしてみたい。
それから、トマト寒天。
もっとも、これは「あさイチ」のレシピだそうだけど。
生のトマトを煮たりするのかと思ったが、なんとトマトジュースを使用するとのこと。
他に味を入れないそうなので、ジュースの分量はどんなものなんだろう。
おいしいものって、高級な食材でなくても、凝ったレシピじゃなくてもいいらしい。
断食道場や、菜箸・フライパンのお手入れといった話も興味深い。
閉店したなじみのお店への哀惜を綴った文章は、しみじみした味わい。
食という一つのテーマをめぐり、こんなにも多彩に、世界がひろがっていくんだなあ、と、一冊読んで大満足。 -
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「サンドイッチは銀座で」のシリーズでも熊を食べに行く話があったので、そんなには愕きはしない。だけど、普段の軽妙さは影を潜め、文章にずっしりした重さがある。
羊、猪、鹿、鳩、鴨、牛、内臓、馬、すっぽん、鯨の10章。
ルポだけど、着飾った奇麗ごとの無い文章。育てて、その命をいただく生業への共感が身に迫ってくる。
だから、その後の文がより際立ってくる。
(引用)
気が逸るのを抑えながら、透明な黄金色の熱いスープをれんげに満たし、啜った。すーっと口のなかに滑り込む清澄な汁。醤油のひのかな香ばしさ。焼きねぎの甘み、つつましやかなふりをして、しかし、奥まったところから、あの﨟長たけたうまみが頭をもたげてくる。追いかけて、まろやかに花開く脂のこく。
そんなことは書いていないんだけど、人間の罪深さを考えてしまった。 -
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平松洋子『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』文春文庫。
『人はなぜ肉を食べるのか』をテーマに平松洋子が日本全国を巡り、10種類の肉と人との関わりを取材したルポルタージュ。
何時もは食の割合が多いが、本作では取り分け食肉の文化や歴史、食肉に関わる人の仕事が多く描かれている。
『第1章 羊』。北海道白糠町の羊牧場で羊の飼育、羊肉についての話。羊料理の代表格はジンギスカンで、勿論のことながら北海道が有名なのだが、東北地方、岩手県遠野市、福島県平田村など山間の地域でもよく食べられている。また、福島県ではアサヒビールの直営のジンギスカン店もあり、手軽にジンギスカンが楽しめる。遠野市では美味しいジンギスカン店が幾つもあるが、ジンギスカンバケツなるブリキやアルミのバケツを使ったジンギスカンが各家庭で楽しまれている。ジンギスカンバケツは遠野市内のホームセンターに大量に並べられている。平田村でジンギスカンが流行したのは、大昔の飢饉の際にこの村の出身者が羊を何百頭か寄附したことが切っ掛けらしい。個人的なジンギスカンの思い出と言えば、幼い頃、父親と行った小さなスキー場の食堂で食べたジンギスカンが最高に美味かった。スキーで腹が減った所で食べたせいもあるのだろうか。
『第2章 猪』。島根県美郷町で始まった猪で町起こしの活動の話。害獣の猪を食肉として販売ルートに乗せる取り組みが紹介される。なかなか面白い取り組みで、地元の猟師たちを納得させ、僅か5年で軌道に乗せたとは驚きだ。猪の肉は大昔に食べた記憶があるが、味は余り覚えていない。確かぼたん鍋で食べたと思う。
『第3章 鹿』。サバイバル登山家の服部文祥と奥秩父の山中に鹿狩りにいく話。鹿肉はあっさりしていて美味い。狩猟を趣味にしている方の家に招待され、焼肉でご馳走になったが、本当に美味しかった。特別天然記念物であるため、食べることは出来ないが、話によるとニホンカモシカの方が格段に美味いらしい。ニホンカモシカはウシ科なので、牛肉に近い味のようだが。
『第4章 鳩』。既に閉店した東京の『パッソ・ア・パッソ』でジビエ料理を堪能する話。雀は食べたことがあるが、鳩は食べたことがない。基本的に焼鳥は好きなので興味はあるが、地鶏とか軍鶏に近い味なのだろうか。
『第5章 鴨』。石川県で江戸時代から続く板網猟で鴨を狩猟する話。合鴨は何度か食べたことがあるが、野生の鴨肉は食べたことがない。
『第6章 牛』。北海道の襟裳岬の短角牛の話。ルーツは岩手県の南部藩で飼われていた南部牛のようだ。岩手県の短角牛と言えば山形村が有名だ。この歳になると、霜降りの前沢牛よりも赤身の短角牛の方が良い。
『第7章 内蔵』。東京の品川で牛や豚の内蔵ばかりを扱う業者の話。東京の下町辺りではホルモンを提供する店が多い。ホルモンは串焼きやもつ煮、焼肉などで食べるがたまらない。
『第8章 馬』。熊本県の独自の馬肉文化の話。馬肉は福島県の会津地方も有名だ。刺身に辛味噌を付けて食べるのは独特だ。以前、馬刺しの赤身とタテガミを食べたことがあるが、タテガミはとろけるような癖になる美味さだ。
『第9章 すっぽん』。静岡県舞阪のすっぽんの露地養殖の話。すっぽん鍋は有名だが、焼きすっぽん、唐揚げでも食べるのか。すっぽんは何度か食べたことがあるが、最近では3年前のコロナが流行する前に中国で食べたすっぽん鍋が記憶に新しい。中国のすっぽん鍋は、基本骨付きで、すっぽんがザクザクと入り、食べ応えがあった。
『第10章 鯨』。千葉県和田浦のツチ鯨漁の話。昔ながらの鯨の解体、食文化、捕鯨を巡る情勢などが紹介される。鯨は賢いので食べるのは残酷だと、牛や豚を平気で食べ、油を採るためだけに捕鯨を行っていた欧米人から批難を受け、長らく捕鯨は制限されていた。そんな中で2019年の国際捕鯨委員会からの脱退は大英断だった。日本が昔からの食文化を取り戻したのだ。
本体価格760円
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「サンドウィッチは銀座で」など、これを食べにあそこへ、というタイトルでずっときたシリーズ。新刊は「いわしバターを自分で」。このタイトルだけで、コロナ禍の日々のことだ、と気付く。
あのなんとも息苦しかった日々、毎日怯えたように、萎縮して暮らすしかなかった期間。
2020年5月半ばだったろうか、スーパーでカゴを持ったまま、売り場に立ち尽くしたことがあった。なんにも思い浮かばない。何を食べたいのかわからない。何を作ればいいのか、何を買えばいいのか、皆目見当がつかない。外食がほぼ不可能で、ちょっとした息抜きもできないから心に余裕が生まれない。
あの絶望感は忘れられない。
平松さんも同じように迫り来る閉塞感を味わっていた。店から消えるマスク。閉まってゆく飲食店。破綻していくあれやこれや。負けじと見つける細々した楽しみ。
読みながら「そうそう」とうなずきまくった。
蘇、作った作った。応援したくてテイクアウトもたくさんした。
八百屋のおにいさんの声のところで、「素晴らしい、こういう人はちゃんといたんだ」と涙が出た。そしてそれをちゃんとキャッチする平松さんもやはり素晴らしい。
あの日々が遠くなりつつある今、生活者の視線と確かな筆力で淡々と綴った(しかも「生きる」ことに直結する食にまつわる)エッセイは、もはや現代史に遺るであろうあの日々のことを後世に伝える歴史書だ。生活のことは歴史に残りにくい。けれどあの右往左往と、そこををくぐりぬけたことは確かに記録されねばならぬ、と思う。
灰色のような日々だからこそひとしおに嬉しく感じる、旬の野菜や到来物のまぶしさと共に。 -
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この人の文章力や取材力に魅せられて、最近時々読んでいる。
本書はコロナ禍の、特に最初の緊急事態宣言の頃に書かれた文章を多く載せる。
鰯バターや、パセリカレーのレシピも魅力的だが。
きゅうりが干せるということも目からうろこだが。
やはりあの頃の閉塞感がよみがえって、ちょっとつらくなった。
いや、自分など、失職の心配もなく、今思えばのんきな身分だったと思う。
本書で取り上げられている生産者や町の食堂の経営者をはじめとする食に関わる職業の人たちが、その間どんな苦労をしていたか、どんな知恵を巡らせていたか。
そのことに思い至って、改めてため息が出た。
本書で紹介されている枝元なほみさんの「夜のパン屋さん」の試みは、最近新聞記事でも見かけた。
協力してくれるベーカリーから閉店間際で売れ残った商品を集め、夜の街頭で売るという試みだ。
売るのは、ビックイシューを売っていた人たち。
ということは、コロナ前後から、このプロジェクトはずっと継続していたということだ。
なんというパワフルな人だろう。
自分の場所でできることを探して、着実に前に進んでいる人がいる。
世の中にはすごい人がいるものだなあ、と思う次第だ。 -
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先にレビューした『サンドウィッチは銀座で』と同時購入した一冊。
前著と同じ、『オール読物』の連載で、谷口ジローさんの漫画が入るのも同じ。
この巻では、まず豚丼から始まる。
鹿児島の黒豚尽くしの会席、弘前の「藩士のコーヒー」にイカメンチ。
東向島の「駄敏丁カットステーキ」はグラス・フェッド(草で肥育した)で、「ごくごく」のどに入ってくる肉だという。
沖縄の大衆食堂。
餃子の王将の支店による個性の違い。
根室のさんま祭りに津軽のアンコウ、岩手久慈駅の「ウニ弁」、東京駅のエキナカグルメ…。
この人の本を読むと、食の世界って広いなあ、と感じる。
私自身は食には関心はあるけれど、それほどの執着はない。
私はきっと、一生スーパーで買った特売品を食べる人生だろうと思っている。
では、この本は不快かというと、そんなことはない。
こんな世界があるということを知るだけで楽しい。
まあ、正直、読んでいるこちらの胃がもたれてしまう気がしなくもないけれど。
土地の雰囲気、メニューが開発されるまでの歴史、店の人の思いなどによりそいながら、一つのメニューが丁寧に紹介されていく。
平松さんの目配りの細やかさのおかげで、退屈しない。
食のエッセイとして、私の中では第一の作品のような気がする。