テーマに沿った書下ろしのアンソロジーを刊行する女性作家の集まり『アミの会(仮)』
今回のテーマは「ラスト・メッセージ」
一冊で多様な作風を楽しめるのがアンソロジーの楽しみ。同じテーマなのに、驚くほどテイストは違う。
「もうひとつある 鷹宮家四訓」 大崎梢
地元の大企業を経営する旧家『鷹宮家』に伝わる四つの 家訓。後から加えられた五つ目の存在を調べる先輩を連れ、末端の分家の娘『絵茉』は本家を訪れる。
謙虚・礼儀・努力・和、しごく基本的でまっとうな家訓に加えられた意外なものとは、「女・子どもにはあとを継がせるべからず」という差別的(現代ではアウトか)なもので、絵茉も憤るのだが…。実は妹を好きな人と結婚させるために考えられたもので。
1作目を飾るにふさわしい、明るく優しい話。
「孤独の谷」近藤史恵
大学講師で風土病を研究している『白柳』のもとに、思いつめた様子の女子学生が現れる。彼女の出身の村では、誰かが謎の死をとげると家族もバラバラになり別の土地で暮らすのだと言う。しかも言葉の通じない異国だと聞き気になった白柳は、ある予測に辿り着く。
言語コミュニケーションにより死ぬ家系。理解できない言語圏に身を置くしかない絶対的な孤独。
「扉を開けて」篠田真由美
寄り付いたものや人の願いを叶える不思議な骨董屋『銀猫堂』。
『銭天堂』を思い出すようなお話。どうせ残すなら、良い思い出にこしたことはない。
「猫への遺言」柴田よしき
コロナで突然亡くなった夫が残した、読ませる気のなかった妻への手紙と猫への遺言。
知らない方が良かったのか悪かったのか。どちらにしても深い愛が伝わってくるちょっぴり切ない話。
「キノコ煙突と港の絵」長嶋恵美
十五年前にロシアから届いた、曾祖母宛の手紙。「預かりもの」とは何なのか。
戦時下の樺太で心を通わせていた二人の日本人少女。戻るのも残るのも命がけ。計り知れない苦労はあったのだろうが、晩年は穏やかに暮らせたようなのが良かったなと思った。
「十年日記」新津きよみ
母が日記に残した心残りと、落とし物の指輪が繋ぐ縁。
そんな都合のいい話がと思うかもしれないが、実際に落とし主と拾い主が結婚した知人がいるので、結構あることなのかも。優しい世界でほっこりする話。
「そのハッカーの名は」福田和代
権力者の不正を暴く凄腕ハッカーと、それを追う女刑事。
テンポが良く気楽に読めるミステリー。実は一緒に追っている部下が当のハッカーで…気づいているのに知らんぷりをするラストがちょっとカッコいいかも。
「みきにはえりぬ」松尾由美
『菩提樹』の歌詞に秘められた娘への伝言。
暗号物は苦手だけれど、十代のころ、何にでも運命を見つけてしまうような初々しさよく表れていた。
「青い封筒」松村比呂美
めっきり会話の減った高三の息子が気がかりな『真穂子』。倹約家の夫は止めろと言うが、週三回息子が連れてきた友人二人に夕飯を食べさせていた。
課題の礼状を息子が誰に宛てるのか、期待はするつもりがなくても母親としては気になるところだろう。だが以外にも不仲だと思っていた父親へ礼状を書いた息子。そして嫌われているのかと思っていた友人が自分宛てに感謝を綴ってくれた。心を温める食事同様に暖かい話。
「黄昏飛行 時の魔法編」光原百合
コミュニティFMで「黄昏飛行」のパーソナリティーを務める『麻尋』と冷静な上司で局長の会話。
言えなかった言葉…そりゃあ人間生きていれば逆に言わなきゃよかったも色々あるんじゃないかな。わかるようなわからないような話だったけど、メイン二人のキャラがいい具合に個性的で楽しく読めた。
「たからのちず」矢崎在美
可愛がってくれた祖母が自分に宛てて残した箱から出てきた家計簿。そこに挟まっていた「たからのちず」と書かれた地図の絵を見た瞬間に蘇る記憶。
たからのちずといちご水、謎を調べながら祖母との思い出を辿る。酸っぱみが勝るラズベリーのジュースは、亡き人との思い出のよう。