酒井信のレビュー一覧
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Noteで知ることとなった酒井信さんの松本清張に関する本。
実は、松本清張さんの本は「昭和史発掘」しか読んでいませんでした。
芥川龍之介のことを褒めず、谷崎潤一郎を褒めていたことを思い出しました。
でも、松本清張は芥川のことが好きだったとこの本を読んで初めて知りました。
本人は、尋常高等小学校卒で、辛い思いをされてようですが、学歴だけが全てではないことを清張さんの生き様が示しています。
人との出会い、運を活かせる能力、すばらしい人生でした。
自分の親爺が松本清張さんと同年代で、親爺も清張さんの本をよく読んでいたことを思い出しました。
昭和という時代を上手に生きられた作家だと思いました。
私の尊敬する司馬遼太郎さんとも少しは接点があったようです。
半藤一利さんのこともちょくちょく出てきて、懐かしく読めました(笑)。 -
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ものすごい読みごたえ。清張さんの人生とともに、明治末から昭和までの時代を振り返ることができた。
1909年(明治42)生まれの清張さんは、私の祖父母とほぼ同世代。祖父母の人生の困難も想像しながらの、充実した読書となった。
清張さんは幼少期を壇ノ浦の海にはみ出した家で暮らしたという。家が崖崩れに襲われたことも。
小倉に移住してからも、なめくじが這うような住まいだったと。15歳から働き必死に生きた、小倉の町や史跡をこの目で見たくてたまらなくなった。壇ノ浦も。
この本で清張さんへの敬愛の思いがますます深まった。
まだ読んでない作品がたくさんある。一冊でも多く、読んでいきたい。 -
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松本清張さんの生い立ちから、長きにわたってベストセラー作家になるまでを綴った新書。生い立ちは非常に貧しい。苦労人。印刷工として腕を磨き、朝日新聞に入り、
やがて筆で身を立てる。この辺りの苦労は非常に読みごたえがある。
そしてベストセラー、点と線、ゼロの焦点、砂の器、、、
はて、私はこの小説、映画、読んだんだろうか、観たんだろうか?
自信がない、、、でもよく知ってる気もして。「張り込み」も観ただろうか。。
そんな心もとなさがありながら、この新書は非常に楽しく読めた。
なんだか不思議だ。
第一章 運命をひらく
行商の旅で鍛えた「作家の足腰」/米兵の死体処理のアルバイト/人生の起爆剤となったデビュー/だまされた経験を「復讐劇」に/お色気小説も書いたデビュー前/「誤解」がもたらした芥川賞受賞 ほか
第二章 出生をめぐる謎
「マイナス観光地」での幼少期/崖崩れで生き埋め寸前に/戸籍上は「私生児」だった理由/生後まもなくは「松本清治」だった/出生地と生年月日の謎解き/残飯の魚の骨の汁をすする生活 ほか
第三章 文学の光
励ましてくれた教師/大正時代から戦後の学歴事情/12歳、詩人としてデビュー/現実逃避できた読書/解雇と芥川の自殺/見習いの印刷画工に/初めて小説を執筆/特高による拷問と留置場経験 ほか
第四章 結婚と戦争
「ハーレー事件」と親友の戦死/「往復三時間」の恋愛と失恋/「印刷所の米櫃」の結婚/「巻紙に毛筆」で採用を求めた手紙/つかみ取った「正社員」/三〇代半ばで召集されたことへの怒り ほか
第五章 国民作家の誕生
清張の将来を予見した坂口安吾/『点と線』の大ヒットと「清張待ち」/江戸川乱歩の後継者に/『ゼロの焦点』と社会派推理小説ブーム/絶世の美女と消えた清張/寂聴が本気で怒った悪女 ほか
第六章 文豪の晩年
驚異的な仕事量と発行部数/「ゴーストライター疑惑」の真相/「戦後日本の闇」に斬り込む/『砂の器』に込めた父への思い/長者番付で見る絶頂期/未完の遺作『神々の乱心』/国民作家の最期 ほか -
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松本清張はテレビドラマの原作者としての印象が強く、また亡くなられた1992年当時はまだ幼かったことから小説もきちんと読んだことがなかった。ただ社会の暗部を的確に切り抜いたような独特な暗さのある描写は彼の特徴として強く心に残っている。
きっかけは覚えてないが松本清張の小説を読んでみたくてその予習として彼の評伝であるこの本を手に取った。彼の貧困にあえぐ生い立ち、文壇デビューまでの苦労はちょっと想像を絶する。そこでの経験が彼の作品に漂う社会の暗さの原点なのだと納得する。
戦中戦後を知る方々の多くが亡くなられて、「戦前の雰囲気」なんてちょっと大雑把すぎる時代へのラベリングがされてしまう。政治家も批評家もちょっと時代認識が粗すぎるのではないかと思う。昭和だけでなく、いつの時代も松本清張が見たような社会の暗部があるし、そこに生活もある。また松本清張のようにときに差別を受けながらも力強く立ち上がろうとする人もいる。時代を論じる人にはそこをみてほしい。 -
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・書名:松本清張の昭和
・著者:酒井信
・出版社:講談社現代新書
・内容:昭和という時代を背景に、松本清張の作品世界とその社会的文脈を読み解く評論。ミステリー作家としての顔にとどまらず、ジャーナリスティックな視点や時代批評性に焦点を当て、清張文学の核心に迫る一冊。
「昭和」という言葉には、どこか曖昧で、しかし濃密な響きがある。本書はその輪郭を、松本清張という巨大な作家の背中を通してなぞっていく。
私が初めて読んだ清張作品は、砂の器だった。読み終えたとき、思わず鳥肌が立ったのを今でも覚えている。あの静かで、しかし確実に追い詰めてくるような構成力。人間の暗部をえぐり出しながら、どこか哀しみを帯びた余韻を残す筆致。あれを「ミステリー」の一言で片付けるのは、いささか乱暴だろう。
本書が面白いのは、そうした「清張体験」を個人の感動で終わらせず、「なぜあのような作品が生まれたのか」という問いへと導いてくる点にある。昭和という時代の歪み、戦後の急激な社会変化、そして情報の非対称性。そうした要素が複雑に絡み合い、清張作品の土壌となっていたことが丁寧に解きほぐされていく。
また興味深かったのは、清張の出自に関する記述だ。一般には小倉出身とされているが、本人は広島だと語っていたという。このあたりの「自己の出発点」に対する揺らぎもまた、彼の作品に漂うアイデンティティの不安定さと無関係ではないのかもしれない。こうした細部に目を向ける著者の視線は、実に鋭い。
若い頃の苦労が作品ににじみ出る作家は多いが、清張の場合、それが単なる回想ではなく「構造」として作品に組み込まれている点が特異だ。さらに、本書でも触れられている通り、その執筆スピードの速さは驚異的である。量と質の両立など通常は難しいが、清張はそれをやってのけた。ここに、作家としての異様なエネルギーを見る。
ただし、本書にはやや気になる点もある。清張を「昭和の象徴」として位置づけるあまり、他の同時代作家との比較や相対化がやや弱い印象を受けた。たとえば同じく社会派の要素を持つ作家との違いをもう少し掘り下げていれば、清張の特異性がさらに際立ったのではないか。この点は、読者によってはやや物足りなさを感じるかもしれない。
とはいえ、本書は単なる作家論にとどまらず、「昭和とは何だったのか」という問いを静かに投げかけてくる。読み終えたあと、ふと新聞の社会面を見返したくなるような、そんな後味が残る。
もしかすると、もう二度と現れないのかもしれない。あれほどの才能と、あれほどの執筆意欲を併せ持った作家は。そう思わせるだけの説得力が、清張という存在にはある。 -
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松本清張(1909-1992)は、昭和を代表する作家であり、本書は、その松本清張の評伝である。私自身は、若い頃に、「点と線」など何冊かを読んだだけであるが、書評に本書が取り上げられていて、面白そうだと思い手にとってみた。
松本清張は、貧困の中で育ち、学歴を持たず、見習のような仕事を続ける中で、それでも前向きに頑張り、40歳を過ぎてから作家としてデビュー、芥川賞を受賞。その後、推理小説や歴史小説で多作の作家人生を長年過ごし、昭和時代の「国民的作家」と呼ばれるようになった人である。その紆余曲折の人生は面白く、また、努力すれば・頑張れば何とかなるかもしれないと思わせてくれる内容で、興味深く読んだ。
ただ、やはり私はもともと松本清張の作品を多くは読んでいないために、深いところでは分からない部分も多かった。松本清張ファンが読めば、とても楽しめる内容の評伝だと思う。 -
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■はじめに
数年前、松本清張の『実感的人生論』(中公文庫)を読んだ。
あれほど巧みなストーリーテリングで、読者をぐいぐい引っ張る小説を書く作家が、人生論を語ると、なぜこんなにも筆が鈍るのか。期待していただけに、正直、肩透かしを食らった印象が残った。
もちろん、文豪をつかまえて「随筆が不得手だった」と断じるつもりはない。あくまで私的な読後感。
確かに、人生論という主題を選んだ瞬間、人は否応なく自身の半生と向き合わざるを得ない。貧困、差別、無学、容貌―清張自身に降りかかった過酷な人生は、「語るには痛すぎる領域」だったのではないか。
……そう考えたほうが、僕には腑に落ちる。
そんな読書体験を経て、本書を手に取った。
■内容
本書は、従来の清張論ではほとんど触れられてこなかった幼少期のエピソードや恋愛関係を含め、松本清張の生涯を、周到な取材と資料に基づいて描き出した人物評伝。
数多の証言、清張自身の小説やエッセイに点在する半生の痕跡、小倉市の松本清張記念館の資料、さらには新たに発見された12歳当時の詩までを丹念に織り込みながら、一般に知られていない事実を提示していく。
41歳という遅い作家デビューから、怒涛の執筆活動へ。本格推理、社会派ミステリー、ノンフィクション、歴史小説、古代史、現代史―その守備範囲を支えた知的関心の広さは、まさに「昭和の知の巨人」と呼ぶにふさわしい。
本書後半では業績にも触れるが、著者の眼差しはあくまで「なぜ松本清張は、これほど多様なテーマで、あれだけの作品を書いたのか」に向けられている。
■感想
著者が説く「清張的思考と創作の構造」を〈骨〉〈肉〉〈血〉の三層に分けてみると、本書が優れた評伝として成立している理由が、はっきりと見えてくる。
【骨】
清張は、自身の痛切な過去を直接語ることを選ばなかった作家。恨みや嘆きを一人称で吐露する代わりに、それらを社会の問題へと変換し、大衆小説という器に移し替えてみせた。
【肉】
著者は、その“変換以前”の過酷な人生―幼少期の貧困や屈折―を暴露的にもセンセーショナルにも消費せず、また感傷的にも回収せず、静かに照らし出し、清張の創作姿勢へとつなげてみせる。
そこに書き手の功名心や裁断の気配は一切なく、終始リスペクトが底流している。
【血】
その結果、読者に起きる変化は明確。この一冊で「清張を理解した」と思わせるのではなく、なるほど…「もう一度、清張を読み返したい」と思わせる。評伝として、実に優れた一冊だと思う。
■おわりに
読み了えて強く感じたのは、松本清張という作家の倫理について。
自らの不遇や怒りを、恨みつらみとして語ることを拒み、それらをそのまま投げつけるのではなく物語へと希釈し、社会へと差し出した。
そう、「恨みを物語に変換した」作家だと言える。その冷静さと忍耐こそが松本清張の凄味であり、多くの作品が今日まで読み継がれ、映像化されてきた理由なんだと思う。
著者はそれを伝えるために、清張の人生を「ここまで書く」必要があった―と、僕は読んだ。
おそらく誰よりも、清張自身が、この書き方なら…と、静かに肯いているに違いない。