千葉茂樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
SL 2022.2.24-2022.2.27
発達障害を持つ主人公の視点から語られる、ひと夏の大きな成長の話。
父親はマルセロに「わたしを信頼できなかったのか」と聞いたが、父親がマルセロを信じていなかった。マルセロがまさかこんなことを見つけて、正確に状況を把握するとは思っていなかったんだと思う。その後のマルセロの行動の前に、マルセロが起こっていることを理解するとは思いもしなかったのではないだろうか。
この作品を親の視点で読んでしまうことに気がついて、ひそかに愕然とする。
マルセロが、自分のことをアスペルガーだというと本当にその症状を持つ人たちに迷惑をかけると感じているというくだり。素晴らしいと思った。
昨今、何でもかんでも発達障害で片付けて、本当にその症状で苦しんでいる人のことをもっと真剣に考えたら、とよく思っていたから。 -
Posted by ブクログ
痛々しい話だった。デセンバーの心の傷の深さが突き刺さる。
「私は鳥になって飛び立つ」だから背中の傷は羽根が生えるためにあると思うことで、現実の辛さから目を背け生きている。そうでなければ生きていけないのだろう。
鳥になり、樹の上から飛び立ち(飛び降り)何度も怪我をするデセンバー。
現実からの逃避が痛々しい。
里親の元を転々としてきたデセンバーは、信じたいと思える里親エリナー出会っても、裏切られる怖さから自分から離れようとする。なんて痛々しく、かたくなな心だろう。
けれど、新しい学校でシェリルリンとの出会いや、傷ついたノスリが自力で飛ぶ訓練を手伝うこともデセンバーの心に変化があらわれる。
鳥にはなれない、現実には飛べないけれど複雑な人間を受け入れ自らも人間として生きていくと決意をしたデセンバー。
未来に向けて羽ばたいていくラストに救われた。 -
Posted by ブクログ
さまざまな里親のもとを転々としてきた11歳の少女デセンバーの物語。
つらい境遇で心にも体にもトラウマを負った彼女が望むのは、いつの日か鳥になってひとり自由に飛び立つこと。だから新しい里親のエリナーが親切にしてくれても、信頼したりいついたりすることはできない……。
すごいのは、デセンバーが、いつかほんとうに翼が生えると信じていて、高い木の上から飛び降りるという行為を繰り返してしまうこと。この彼女の思い込みに心を寄せられるかどうかで物語への親和性が変わってきそう。わたしは、うーん、ちょっと極端に思えて一歩引いてしまった。心理的な問題を中心に据えた物語、嫌いではないのだが。 -
Posted by ブクログ
二つ目のスタンプブックス。質がよくて素晴らしい。
かつての福武のベストチョイスに思春期感を足したようなシリーズだ。
こちらは発達凹凸の高校生(微妙な年齢です)の成長譚。
マルセロは音楽と宗教が好きで真面目な発達凹凸青年。
教科書通り、くらいの発達さんで、adhd色は弱め。
普段は支援学校というか養護学校に通っていた。ここがもう素晴らしい学校なので、まずはそれが羨ましくてたまらない。日本にもここまでの学校があれば。。。
作中でマルセロの父親が彼を認知障害だというけど、本人はそれは違うと思う、と。
たしかにマルセロの言う通り、彼は周囲の人の表情や動きからかなりの情報を読み取れている。
反応はうまくできないのかもしれないけど、ここまで相手を読めているのはかなり高度なことだ。
マルセロは、他人からはパッと見て、変わった喋りかたをする子、くらいの印象だと思う。自己分析も非常に優秀だ。
裸一貫からサクセスストーリーになった弁護士の父が、リアルな世界を見せようと、自分の事務所での雑用を夏休みの間だけやれ、という。
ジャスミンという女性のもと、少しずつ仕事をして信頼関係を作っていく。
ウェンデルというクズ野郎のために、ジャスミンとの関係が悪くなるんでは、と心配したけど、マルセロは頑張りました。偉い。
相談できる大人が彼にはたくさんいる。なおかつ、母親との関係が付かず離れずでいいのも、マルセロがキッパリとウェンデルを断ることができた一因にも見える。
マルセロは事務所である少女の写真を見てしまったことから、父の仕事の裏を見てしまうし、大きな迷いを抱える。
ジャスミンはそれに真摯に応えて、自分の故郷でストレートな感情のまま第一次産業で生きる世界を見せる。
この旅行がこの作品の大きな転換点。夜の湖のシーンはとても素敵だった。マルセロにも読者にも、ジャスミンは大きなものを見せてくれる。
写真の少女に会いに行くシーンが中心にならないところが、この小説のすごいところ。
人間みんなに醜い部分があるんだ、というメッセージにも愛と力強さを感じる。
マルセロと父親の和解までには、写真の少女の問題以上にジャスミンとの関係ですごくビックリさせられたのだけど、、、日本の小説では残念ながらここまでの描写はまず無さそう。
ジャスミンとマルセロの母親のあいだの空気まで、ちらっと言及されているのが凄い。
でもさあ、ジャスミンからしたら、あんな雇用者が自分の息子を職場でバイトで自分の下に持ってきたら、嫌だよねー。
ベリンダじゃなくて、という点ではなく、あの人の子供なんて、それを自分に頼んでくるなんて、すごく嫌だろうね。ジャスミンは偉いなあ。
当初、ジャスミンの様子から、優秀だったというベリンダになにか事情があったのか、と深読みしていたけど、普通に最後に登場していて驚いた。
後半は読みながらずっと涙目になってしまった。
構成には一分の隙もなく、日本のYA小説はまだまだ甘いな、と思わされた。こんな良作に会えて嬉しい。 -
Posted by ブクログ
アスペルガー症候群(に近い)17歳のマルセロのひと夏の成長を描いた小説。
生き馬の目を抜くアメリカの弁護士の世界で、メキシコ系ながら高い能力でのし上がって来たマルセロの父は、マルセロには「お前は障害者ではない」、もっと勉強し、社会で成功出来るようになれと言っているが、職場では「息子には認知障害がある」と言っており、職場の人はそれを「知恵おくれ」だと受け取っている。この辺をマルセロ自身が気づくところが、読んでいて辛い。
昔知能検査というのがあった。一定時間内に次々と問題(計算、図形、記憶力を試すものなど)を解いていくものだった。たくさん解けて、正解ばかりなら知能が高く、そうでなければ低いという結果が出るのだが、つくづく、人の能力を測るのに不適切な検査だったと思う。例えばこのマルセロのような少年なら、やれと言われたことをさっさと、次々とやる、ということはできないだろう。だから昔は自閉症(スペクトラム、という言葉も認識もなかった)は、「知恵おくれ」と判断された。しかし、マルセロは認知障害と言われてこう返す。
「『認知障害』は、マルセロの頭のなかで起こっている現象を、正確にはとらえていません。『認知の際の過度な反応』というほうが近いです」
こう返せる人が、知恵おくれ?
さらに「それって病気なの?」と訊かれて、「それによって、正常な人間が社会のなかではたすべきと考えられる役割をこなせないとき、社会はそれを病気と呼びます」(P68~69)と答えている。ここまで自己と社会を客観視できる人を知恵おくれと呼ぶなら、呼んでる人はどれだけ知恵があるのか?
また、マルセロは、仕事を猛スピードでこなすことはできないが、「自分の最適スピードで」なら集中してこなし、間違わない。最初猛スピードでこなしてだんだん処理が遅くなり、ミスが発生する所謂普通の人より、ずっと良くないか?
これを読んでると、自分を普通、あるいは健常と認識している人間の愚かさと奢りが、痛々しいとすら思える。
自分がマルセロの気持ちになって、「健常者」の理不尽に付き合わされる苦悩を感じた。そんなふうに書ける作者の力に脱帽。
ハーバード大学生で、(親が)金持ちで、エリートコース間違いなしで、かつ人間としてクズ中のクズであるウェンデルのような人間が世の中を牛耳っていることが、この本で言えばフロントガラスの事故で顔の半分を奪われた少女のような人たちを苦しめているようなことは、日本でもある。
マルセロがウェンデルに利用されていることに気づかず、利用されるシーンではムカムカした。
マルセロを一人の人間として対等に扱うジャスミンも、弁護士事務所では、単純作業しか任せられない、ルックス以外は取るに足りない女の子だと思われている。
本当はウェンデルになりそうな若者に読んで欲しい本。自分は間違ってる、と気づいて欲しい。
キース・ジャレットもグレン・グールドも好きなので、ジャスミンとマルセロのことをますます応援したくなった。インプロビゼーションに重きを置くジャスミンと、バッハの対位法の旋律をきちんと表現するグールドが好きなマルセロ、というのも、二人の性格を表しているようで面白い。
爽やかで、前を向く気持ちになれる、いい青春小説だった。 -
Posted by ブクログ
19世紀のアメリカ、人情味にあふれているが、そこには人種差別や犯罪や暴力が当たり前のようにあった。
そんな古き良き、そして残酷でもあった時代が、ミシシッピ川の豊かな情景と共に少年の目線で生々しく、時に子供らしいユーモアも交えながら描かれている。
それにしてもハック・フィンはなんてたくましいことか!
様々な知恵(時に悪知恵)を絞って、何としても生き抜こうとするその生命力の強さは今時の子供達にはないものだろう。
そんなハックだけれど、切羽詰まった場面だとやはり子供らしさが垣間見えるところがある。
特に、気まずいところを大人に見られたときに必死で言い訳を考えだして相手を騙そうとするところは、彼の冷や汗がこちらにも伝わってきそうな感じ。こんな無理やりな言い訳、どう見てもすぐバレそうな嘘をついているのに、それでも大人達はコロッとだまされてしまうし(笑)単純な人が多かったのね。。。
千葉氏の翻訳はとても読みやすい。子供向けなので差別的な用語も抑えられている。ハックの一人称で語られる文章にしては若干お上品な感じかなぁとは思うものの、初めて読む子供達にはちょうどいい感じかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレマルセロが大好き。きっと実際に一緒にいると、イライラしたり、傷つけたり、傷つけられたりすることが多い人なのはわかるけど、でも好き。訳者のあとがきにあるとおり、「さまざまな彩りを放つ」虹のようなスペクトルを眩しく思います。
大きく自閉症スペクトラムとしてくくられる子と接する機会は多い方だと思うんですが、彼らは、少し理解できたかも!と思っても次の瞬間裏切られ、驚かされる。いい意味でも悪い意味でも。
ただ、この特性を持った大人と一緒に働くと、どうしてもイライラの方が多くなってしまって後で反省することがよくあります。ジャスミンのようでありたいと、切実に思う。
あくまで本なので、マルセロの思いや考えを理解した上で、彼の言動を追いかけることができるのは面白く、同時に歯痒い。
マルセロスペクトル並みにカラフルで強烈なキャラクターたちそれぞれが魅力的だし、喧騒、競争、私利私欲が溢れる法律事務所と、星や風や湖や動物たちの音に溢れ、「独立した旋律を演奏する場所」になり得るバーモントの対比も素敵です。
表紙に惹かれて手に取った本ですが、読み終わって改めて見ると、なるほどと思うデザインです。
ストーリーとしてはイステルの一件が大きなポイントなのだと思いますが、マルセロが表現するように、あくまでそれは火をつけるためのマッチに過ぎません。
殻を破り成長してゆくマルセロの通過点。ある意味では出発地点。
ジャスミンに手を引かれてツリーハウスを降りたマルセロは、リアルな世界で生きてゆくために1度はその手を離すんだろうけど、きっとまたあの星空の下で、離れた手は繋がるんだろうと期待します。 -
Posted by ブクログ
認知障害をもつマルセロが、夏休みの間だけ父親の弁護士事務所で働くことを通じて、「リアルな世界」で生きることを学んでいくお話。
「リアルな世界」では当たり前にみんなが使う、表情や、皮肉や、暗黙のルール。マルセロはそう言ったことを理解することができません。なので、1つ1つを「なぜ?」と問うていく、その様子にはっと気づかされることが多い。
なぜ心が正しいと思うことをしてはいけないのか?自分の家族や立場を守るためなら、正しいことを無視してもいいのか?
リアルな世界に生きる身としては、何かを守るために正義を曲げることだってあるという言い分に、共感することは容易です。それでも、マルセロの「なぜ?」という問いかけは、忘れてはいけないもののように感じました。
自分が生きる「リアルな世界」を客観的に見るおもしろさ、そしてマルセロの成長を見守る面白さがつまった1冊。