★ 感想
数年に一度,隕石が落ちるという謎の島、「星読島」。その島ではインターネット上のフォーラムを通じて,隕石が落ちる時期に人が集められる。そして,参加者の一人に隕石が譲られる。
そのフォーラムに参加する,ボストン在住の医師,加藤盤。加藤は,事故で妻子を失っていた。
星読島の所有者である天文学者のサラ。サラのもとに集められた7人の人物。加藤のほかには,隕石回収業者,NASAの職員,スミソニアン博物館の職員,ニート,謎の女性,18歳の学生博士の女性といった面々。この中で,隕石回収業者のマッカーシーが死亡する。
殺人事件は実質1件。あと,サレナという謎の女性が死亡するが,この人物がマッカーシー殺害の実行犯であることは分かる。ポイントとなるのは,黒幕的な人物がいたという点。黒幕がサラ。このフォーラム,集いそのものがマッカーシー殺害のためのものだった。
星読島の秘密。それは,隕石回収業者のマッカーシーが相場より高い金額で隕石を売るために作っていた幻想。二度隕石が落ちたという奇跡を金儲けに利用した。それに非協力的だった,サラの父を事故に見せかけて殺害。サラも下半身が不自由となる。これはサラの復讐劇だった。
隕石についての若干の雑学的教養は得られるが,基本的にはシンプルなミステリ。骨格部分は,サラによるプロバビリティの殺人。サラが殺人を犯す可能性があるような危うい人格者を集め,殺人の機会をうかがうというもの
たった1つの殺人の真相のために,丁寧な推理,捜査が描かれている。登場人物の描写も,ややステレオタイプではあるが,分かりやすい。分かりやすく,シンプルな本格ミステリとなっている。
復讐のためとはいえ,サレナ,美宙まで殺そうとしたサラの行動を黙認する主人公加藤の行動や,加藤と美宙の間のロマンスといった部分については,若干の違和感がある。これらの部分をもうちょっとリアルな人物描写で描けば,心に残るイヤミスとして仕上げることができ,サプライズ感もあがったように思う。
この作品の仕上げは,加藤と美宙のロマンスを思わせる終わり方で,ここだけ見れば読後感はそれほど悪くないが,加藤の妻と子が事故死している点や,殺人を計画し,サレナを通じて実行し,さらにサレナと美宙まで殺そうとしたサラがハワイで平穏に暮らすように思わせる描写をどうとるか。御都合主義的なハッピーエンドとも取れて,微妙な印象でもある。
シンプルかつソリッドな本格ミステリとしてみれば,それなりに面白い。何より分かりやすい。★3としたい。
★ 登場人物等
● セントグレース島
ボストン港からわずか20マイルほどの太平洋沖に浮かんでいる島。数年に一度,隕石が落ちてくるという噂がある。星読島とも呼ばれる。
30年前に初めて隕石が落ち,それが100万ドルを超える値打ちがついた。その3年後にも隕石が落ち,その資金をもとに星読館という天体観測所が作られた。
● 加藤盤
アメリカ合衆国のレイラタウンという町で,家庭訪問医をしている。パンケーキが好物。サラ・ディライト・ローウェルから,セントグレース島での集いへの招待を受ける。
● サラ・ディライト・ローウェル
かつては,ハワイの大学で准教授をしていた。現在は車いす生活をしている。セントグレース島への集いでは,参加者を面談し,誰に落ちてきた隕石を譲るかを決める。面談では,「地球最後の日になったら何をするか。」を尋ねている。
10年前の飛行機事故で父を失い,車いす生活となる。
● エリス・バーナード
NASAの職員。かつてのサラの教え子。
● 美宙・S・シュライナー(篠崎美宙)
情報工学を専攻している。プリンストン大学に16歳で入学し,博士号を取得したコンピューターサイエンスの天才
● コール・マッカーシー
隕石回収業者
● デイビット・グロウ
ロサンゼルス在住のニート。星読島の謎を解くために,セグウェイをもって島に来た。
● アレクサンダー・ジョン・ウィルキンス・クレイトン
スミソニアン博物館勤務の男性
● サレナ・カーペンタリナ
離婚調停中の女性
● ヨランダ・スワン
盤の患者。70歳を超えた高齢。毒舌だが,妻と子を失った盤のことを心配している。
● ディラン
ヨランダ・スワンの長男。盤の患者
● マーク・ローウェル
サラの父。天文学者。
★ 事件
隕石落下騒動があった翌日,マッカーシーと隕石が行方不明に。通信機器もつながらなくなる。加藤と美宙は,海に浮くマッカーシーの死体を見つける。
★ 疑問
● なぜ,犯人はこのタイミングで隕石を盗んだ?
● マッカーシーはなぜ船着き場にいた?
● 遺体の処理が杜撰すぎる。
→死体は海に流されたが,海流により戻ってきた。プラスチックボトルによる実験で裏付けが取れた。
★ 事件2
睡眠導入剤を盛られる。美宙が海に浮いているが,すんでのところで加藤に助けられる。サレナの死体が発見される。
サレナが隕石を盗もうとして,それを止めようとしたマッカーシーを殺害。隠ぺいに失敗した。これが真相かと思われたが,プラスチックボトルを利用した実験により,サレナにマッカーシーは流せなかったとなって,謎が深まる。共犯者がいる?
★ 隕石の発見
隕石が星読館の周囲で見つかる。隕石を見て,加藤は真相に気付く。
★ 真相 ダミーの真相
犯人は死体の隠ぺいに失敗した。マッカーシーは別の場所で殺された。プラスチックボトルを利用した実験により,サレナがマッカーシーを運べない位置からでないと,隠ぺいには失敗しない。サレナ一人では犯行が不可能と思われた。しかし,そうではなく,マッカーシー自身が殺害現場に行っていたという推理
真相の手掛かりは,隕石が2つに割れていたという事実。割れた隕石の残りを探しにいったマッカーシーを付ける。殺害現場でもめて殺害
★ 真相
加藤は,サラに会う。そして,サラに,なぜ隕石が割れている可能性があることを皆に告げなかったのかと尋ねる。なぜ,マッカーシーも,サラが指摘しないことに言及しなかったのか。加藤が推理する真相。隕石は,サラとマッカーシーがあらかじめ用意したものだった。
島の隕石はコレクターに高く売れる。最初と2番目の隕石の落下は真実だったが,3度目以降はマッカーシーがよそで見つけた隕石を使っていた。なぜ,星読館のような建物を作ったのか。全ては,あの島に隕石が落ちてくるという幻想を周囲に信じさせるためのトリックだった。
マッカーシーは,隕石の落下のトリックとなるスピーカー等の回収に出ていた。サラはサレナに隕石が割れている可能性を告げた。サレナはマッカーシーの後をつけ,殺害に至ってしまう。これがサラの目的だった。マッカーシーの遺体の隠ぺいに失敗したことはサラにも誤算だった。サラはサレナを排除した。サラは,いざとなれば殺人に踏み切るような,危うい人格の人物を集いに招待し,マッカーシーの殺害を計画していた。いわば,プロバビリティの殺人。それがこの事件のトリック。
隕石が2度落ちてきたところまでは真実。これでも十分な奇跡的な出来事である。
動機は復讐。10年前の事故はマッカーシーが仕組んだものだった。「わたしは,地球最後の日には,父を殺した人を殺します。」
加藤は,サラから一緒にハワイに来ませんかと問われるが断る。「…俺の地球最後の日は,どうやらまだ先のことみたいです。あの島で,俺はそれに気づくことができました。ですからもう少しだけ,なんとかここでやっていこうと思います。」。
サラは隕石を加藤に譲る。加藤は,隕石を相場でエリスかアレクに譲る。その代金は,マッカーシーとサレナの遺族に渡すように依頼する。
この小説は,サラから加藤への「地球最後の日に何をしますか。」という再度の質問への答えで終わる。「地球最後の日が来たら,俺は会いたいやつに会いに行く。」。
★ その他
● 隕石は年間2万4000個ほど地球に落ちてくる。
● 隕石の取引の相場は,1グラム当たり2ドル程度
● 星読島にある天体望遠鏡の名称は「ラニ」
● 火星と木星の間に,惑星になり損ねた無数の小惑星の集団がある。地球に落ちる隕石はほぼ全て,この小惑星帯からやってくる。
● マッカーシーが,いくつかの石畳を選んで,それ以外の石畳を決して踏まないようにする老紳士の話をする。「答えはこうだ。実はだな,なんとその老紳士は…」
加藤盤のセリフ「妻と娘が死んだときから,もう俺には何一つやり残したことなどありはしない。俺はあのときからずっと,地球最後の日を生きてきたのか。」
●コンドリュール「石質隕石に含まれていることがある球形の粒子」